連載
【西川善司】「PS VRのプロセッサーユニットでHDRパススルーできない問題」の打開策を考える
西川善司 / グラフィックス技術と大画面と赤い車を愛するジャーナリスト
(善)後不覚 |
今回は,「この問題,どうにかできないか」と悩んでアレコレ考えたあげく,ひょっとしたらこれなら解決できるかもという仮説を実際に試す,検証編をお贈りしたいと思います。
「PS VRのプロセッサーユニットがどうしたって?」という人は,前回の話を参照くださいませ。
【西川善司】PS VRとPS4 Proを購入するも,プロセッサーユニットの思わぬ問題で頭を悩ませる
HDMIセレクターを使って対策してみる
さて,一連の問題が「PS VRのプロセッサーユニットを経由してしまうとHDR映像をパススルーできない」ことに起因するのであれば,VR対応ではない,普通のPS4用ゲームをプレイするときには,PS VRのプロセッサーユニットを回避してしまえばいいわけです。
「であればHDMIセレクターを使い,PS VRでVRゲームを楽しみたいときには,PS4 ProやPlayStation 4(以下,PS4)からのHDMI信号をPS VRのプロセッサーユニットに入れるようにして,それ以外のときは,PS VRのプロセッサーユニットにHDMI信号を入れないようにして,直接HDR対応テレビに接続してしまえばいいのではないか」,そんな仮説を立てることができます。
というわけで,この仮説を実際に検証してみることにしました。
接続イメージは以下のような感じで,簡単に言えば,PS4 Pro(やPS4)からのHDMI出力を,4K&HDR対応テレビとPS VRのプロセッサユニットの2経路に分岐させる接続構成です。
ここで必要になる4K対応HDMIセレクターは「1入力,2出力」に対応したものなので,今回は,サンワサプライ製の「SW-UHD41H」と,Blupow製の「4Kx2K HDMI切替器 2入力1出力 1入力2出力 HDMIセレクター 3D HDTV Blu-Ray DVD DVR Xbox PS3 PS4対応 1080P HDMI2.0対応(ブラック)」(以下,4Kx2K HDMI切替器)をそれぞれメーカーから貸し出してもらいました。ちなみに後者は,前回の記事を掲載した後で,読者から「試してみてください」と勧めてもらったものになります。
HDMIは基本的に双方向通信なのでHDMIセレクターの入出力は相互逆転が可能だと思い,「4入力1出力」仕様であるSW-UHD41Hを取り寄せてみたのですが,逆方向の「1入力4出力」はまったくできませんでした。機器を貸してくれたサンワサプライさん,すみません。ぜひ,1入力4出力対応版のセレクターも開発してください!
一方,読者からのお勧めモデルである4Kx2K HDMI切替器のほうは,本体に「Bi-Directional」(双方向)と刻印されているだけあり,1入力2出力のセレクターとして使えました。
そう,「PS4 Proの映像出力を4KテレビかPS VRかの二者択一で選択する接続形態」を実現できたのです。
ただ,残念ながら完璧な解決策とはなりませんでした。
というのも,4Kx2K HDMI切替器は,10.2Gbpsまでの伝送にしか対応しておらず,PS4 Proで対応する4K/HDR出力の最上位フォーマット「4K/HDR/YUV422/12bit(36bit)/60fps」には対応できず,「フルHD/HDR/RGB/12bit(36bit)/60fps」が上限だったからです。
そうしないと,PS4 Proから18Gbps伝送の4K/HDR/YUV422/12bit(36bit)/60fpsが出力されて,4Kx2K HDMI切替器を通らず,テレビに何も表示されない状態になってしまうからです。
逆にPS4 Proではなく,PS4であれば,そもそも18Gbps伝送を使う4K/HDR/YUV422/12bit(36bit)/60fpsのような4K出力は行えないので,4Kx2K HDMI切替器は想定どおりの機能を果たしてくれます。
ということで,今回の問題の「ひとまずの解決策」にはなりそうです。
ただ,PS4 Proで完璧な解決策に至るためには「1入力2出力以上に対応したセレクターで,かつ18Gbpsをサポートするもの」の登場を待つ必要がありますね。
むしろ周辺機器メーカーは,この問題の解決に焦点をあてた製品開発をするとウケそうな気がします。「PS VRの4K&HDR問題を解決できるHDMIセレクター」みたいなキャッチコピーは,この問題に悩んでいるユーザーには強く響きそうな気がしますし。
いずれ,そういう機器が登場したときにはあらためて評価したいと思います。
HDMI分配機を使って対策してみる
この問題を解決することができるかもしれない,もう1つのアイデアは,HDMI分配器を利用するものです。
PS4 ProからのHDMI出力を4K&HDR対応テレビとPS VRの両方に,同時に出力してしまえば,PS4 Proで4K&HDRに対応したゲームをプレイするときには,PS VRのプロセッサーユニットを通さない状態の,4K&HDR対応テレビに直結したほうの映像を見ることができますからね。
接続イメージは以下のとおりで,PS4 ProからのHDMI出力をHDMI分配器側のHDMI入力に入れて,分配器のHDMI出力と,4K&HDR対応テレビ,そしてPS VRを接続する格好です。さっきとあまり変わっていない,とも言えますね。
ぶっちゃけた話,配線自体は,先ほどのセレクターと変わりません。ただ,1つ悩ましかったのは,AVS-18G104の「動作モード」設定です。
動作モードとは,ホストとなるHDMI機器――今回の場合はPS4 Proですが――に,このAVS-18G104をどういう映像機器として認識させるかを設定するものだと思っていいと思います。この動作モードはマイナスドライバーなどで回して設定するロータリースイッチとして提供されていて,その動作モードのバリエーションは以下のようになっています。
ここで,最大の「4K@60」に相当するモード1あるいは2を選んでしまうと,18Gbps伝送となり,PS VRのプロセッサーユニットがHDMI信号を受けられなくなってしまうのでダメです。かといって,10.2Gbps伝送となる「1080p@60」となるモード5〜9もしくはAにすると,今度は4K&HDR対応テレビ側で4K表示を行えなくなってしまいます。
試行錯誤の結果,最終的には,モードDの「接続された全てのディスプレイの中から最小の解像度のEDIDをコピー」が最適と判断しました。モードDは要するに,AVS-18G104のHDMI出力端子につながっているすべてのHDMI機器をチェックして,最大公約数的な映像フォーマットを自動選択してくれるモードです。
つまり,PS VRのプロセッサーユニットが有効なときは,PS VRのプロセッサーユニットで通すことができる最上位の映像フォーマットを,そうでないときは4K&HDR対応テレビの最上位映像フォーマットを選択してくれるわけです。
では,結果はどうだったかというと,「期待どおりの動作にはならず,かといってまったく改善策になっていないかと言えばそういうわけでもなく」という,微妙な結果となってしまいました。
PS VRを動かしたときには,とりあえず問題なしです。「PS VRの接続を間違えていませんか」という警告こそ出るものの,PS VR自体の実際の動作に支障はありません。
分配器経由でPS4 ProとPS VRを接続すると「正しい接続ではない」という警告が出てしまう。しかし,実際の動作には支障なかった |
PS VRが動作しているとき,AVS-18G104はPS VRのプロセッサーユニットが通すことができる最上位の映像フォーマットが選んでくれる |
問題は,PS VRを使わず,普通のPS4用ゲームを起動させたときの振る舞いです。
このときAVS-18G104を介して接続しているにもかかわらず,PS4 Proからの出力映像は,「4K/非HDR/YUV420/8bit(24bit)/60fps」になってしまうのです。10.2Gbps仕様ということですね。
ただこれは,よくよく考えれば当たり前のことなのです。PS VRのHMD側の電源が入っていなくても,PS VRのプロセッサーユニットにPS4 ProのHDMI信号がAVS-18G104経由で入力される時点で,PS VRのプロセッサーユニットは稼動してしまうのですから。
この状態だと,AVS-18G104は,モードD設定に基づき,HDMI出力端子につながっているすべてのHDMI機器をチェックして,最大公約数的な映像フォーマットを自動選択するため,結局,分配器を介しても,PS VRのプロセッサーユニットを介して接続しているのと変わらない状況になってしまうというわけです。
ちなみに,この「振る舞い」を断ち切るシンプルな方法があります。それは,PS VRとつながるプロセッサーユニットの電源を抜くことです(笑)。こうすればAVS-18G104は,4K&HDR対応テレビのみを認識するので,PS4 Proは,4K&HDR対応テレビ側に合わせた映像フォーマットを選択して出力できるようになります。実際に試してみたところ,PS4 Proから4K/HDR/YUV422/12bit(36bit)/60fpsの出力を行えました。
「PS VRのプロセッサーユニットのAC電源を抜き差しするって,結局,ソニー・インタラクティブエンタテインメントが推奨している,HDMIケーブルの抜き差しと手間は変わらないじゃん」と言われちゃいそうですが,そうですね,ごもっともです。
ただ,PS VR側プロセッサーユニットの電源ケーブル接続先を,通電のオン/オフが可能なマルチタップなどにしておいて,PS VRを使用しないときにはスイッチで通電をオフにするといった運用を行うなら,幾分かスマートにこの環境を利用できそうではあります。
ちなみに,前回のはみ出し雑談(?)のところでボクは「AVアンプ買うかも?」という発言をしていましたが,その後,ヤマハの「AVENTAGE RX-A3060B」(※リンク先はAmazonアソシエイト)を実際に購入しました。そこで試しに,AVENTAGE RX-A3060Bでも同様の実験を行ってみたのですが,結果はAVS-18G104を用いたときと同じ。逆に言えば,AVアンプを購入すれば,AVS-18G104的な運用はできるということですね。
AVアンプは,4K&HDRに対応した,安価なエントリークラスモデルも登場してきています。たとえばヤマハ製なら「RX-V381」(※リンク先はAmazonアソシエイト)が最廉価モデルで,なんと実勢価格は2万8000〜3万1000円程度。AV環境の増強がてら,こうした製品を導入してみるのも,アリかもしれません。
おわりに
最終的に,完璧な解決策には巡り会えませんでしたが「今後どういうものが登場すればいいのか」のような展望というか要望というか希望というか,そんな感じのものは見えてきた気がします。
結局のところ,有望かつ面倒が少なそうなのは,上でも触れたように,1入力複数出力仕様で,18Gbps伝送対応のHDMIセレクターでしょうね。そうした製品が出てくれるのを心から願っています。
前回でも触れましたが,最もシンプルに解決できるのは,PS VRのプロセッサーユニットが18Gbps伝送に対応してくれることですけれども,これを根本的に解決するにはPS VR側でプロセッサーユニットのインタフェースチップを刷新しなければならないはずです。PS VRのリビジョンチェンジで対応するにしても,初期リビジョンの生産が追い付いていない状況で,対策版となるマイナーチェンジモデルがすぐ出てくるというのは望み薄でしょう。
今後,映像機器は,4K&HDR対応が当たり前になっていく見通しです。PS4とPS4 Proのプラットフォームでも,続々とHDRコンテンツが揃ってくる予定ですから,ソニー・インタラクティブエンタテインメントとしても,「いずれは対応しなきゃ」くらいには考えていると思います。というか,お願いします!
■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。AVENTAGE RX-A3060Bを買ったとのことなので,前回言ってた4Kプロジェクタ側はどうなったのか尋ねたところ,「定価100万円の,ソニーの4Kプロジェクタ『VPL-VW535』を買おうかと思ったんですけど,まさかの18Gbps HDMI未対応なんですよねえ。なのでプロジェクタは当面フルHDになりそうです」とのこと。いやていうかどんだけ予算確保してたんですか……。 |
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