連載
【Jerry Chu】プレイヤーを貶める「Far Cry 4」
Jerry Chu / 香港出身,現在は日本の大学院で勉強中
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
4Gamer読者の皆様,はじめまして。ゲームプログラマーになるべく日本に留学してきた香港人のJerry Chuと申します。
暇を見つけては,好きなゲーム(主にコンシューマ向け)をあれこれ考察した記事を香港のメディアに寄稿しているのですが,それらを翻訳・加筆したものや新規に書き下ろした記事を日本のゲーマーの皆様にお届けしたいと思っています。
さっそくですが,第1回はUbisoftの「Far Cry 4」(PC / PlayStaiton 4 / PlayStaiton 3 / Xbox One / Xbox 360)を取り上げます。
プレイヤーを貶める「Far Cry 4」
さて,ここからは急に語調が変わって恐縮だが,「Far Cry」シリーズの最新作「Far Cry Primal」(PC / PlayStaiton 4 / Xbox One)は2016年4月7日に日本国内での発売が予定されている。同シリーズのテーマである「人間が狂気に陥る極限の状態」が,銃器や乗り物もない石器時代でどのように描かれるのか。個人的には楽しみが尽きないところだが,この機会に前作「Far Cry 4」を振り返ってみたい。
「Far Cry 4」は,ヒマラヤ山脈を舞台にしたファーストパーソン・シューティングゲームだ。一見しただけでは,オーソドックスなFPSのようだが,実はゲームにおけるストーリーへの諷刺に満ちた作品となっている。そのあたりを解説していくのだが,本稿では「Far Cry 4」のストーリーの核心に言及しているため,多少のネタバレ要素を含んでいる。その点にはご留意いただきたい。
「エイジェイ,私の息子。最後に1つだけお願いがあります。ラクシュマナに連れて帰って」
「Far Cry 4」の主人公エイジェイは,母親の遺灰を懐中にしまい,彼女の望みを叶えるべく故郷キラットに向かうこととなる。だが,キラットは軍閥によって支配されており,エイジェイは入国するや否や王立軍の襲撃に遭い,窮地に陥ってしまう。もはやこれまでと覚悟したところで,軍閥のリーダーたるパガン・ミンが登場。主人公を袋に入れ,宴の席に無理やり連れ込んでいく。
肝を冷やしながら宴席に出たエイジェイは,やがて脱出を試みる。屋敷がレジスタンスの攻撃を受けて,対応を強いられたパガン・ミンが席を離れた隙を突いて,レジスタンスと合流して逃げることに成功するのだ。
レジスタンスのリーダーによると,エイジェイが目指す「ラクシュマナ」はキラットの北部に位置する地域で,王立軍の支配下に置かれているという。母親の遺灰をラクシュマナに持ち込みたければ,レジスタンスに加勢してパガン・ミンを倒さなくてはならない。
そこで,プレイヤーにとって数十時間にわたる革命の戦争が幕を開けるというわけだ。
「で,どっちを殺した? アミータ? サバル? どっちでもいい」
たとえば,サバルにとって麻薬は倫理に反するものなので,王立軍の麻薬製造設施を破壊しようと主張する。だが,アミータは資金調達に役立つからと,麻薬製造設施を壊さずに占拠すべきだと言い張る。エイジェイがどちらに加担するかによって,2人の権力関係が変わっていく。
これがゲームの後半になると,サバルとアミータの軋轢は取り返しのつかないほどに悪化し,エイジェイは組織を安定させるためにどちらか一方を抹消しなくてはならなくなる。
サバルとアミータ,どちらの肩を持つか。ストーリーの行方を左右する重要な選択のように見えるだろうが,公邸に攻め込んだエイジェイに対して,パガン・ミンは次のように言い放つ。
「で,どっちを殺した? アミータ? サバル? どっちでもいい」
この発言はパガン・ミンが主人公エイジェイに向けているというより,クリエイターがプレイヤーに向けて発しているように聞こえる。プレイヤーは自分こそストーリーの主人公だと自負し,キラットの未来は自分の選択によって決まると思い込んでいただろう。
しかし,「Far Cry 4」は最後に,プレイヤーの存在とその選択はすべて「どうでもいい」ものだと告げるのだ。
パガン・ミンを倒せば,キラットには輝かしい未来が待っているのか。実際,プレイヤーが加担したのがサバルにせよ,アミータにせよ,キラットの未来に与える影響は微々たるもの。プレイヤーは母親の望みを遂げられたが,キラットを変えることはできなかったのである。
「頼む,ここで待っててくれ。クラブラングーンを食べて。どこも行くな。すぐに戻る。」
実は,そんなに苦労しなくても,母親の遺灰をラクシュマナに連れて行ける。
ゲームの冒頭,宴席のシーンに戻ろう。ここでは脱出以外にも別の選択肢がある。
それは,ただ待つのだ。大人しく待ち,15分くらい経つと,パガン・ミンは部屋に戻ってきて,エイジェイをヘリに乗せて北の公邸に連れて行く。そこでパガン・ミンは,ストーリーのタネをあっさりと明かしてくれる。
ラクシュマナとは地名ではなく人名であり,エイジェイとパガン・ミンにとって非常に関わりの深い人物のことを指す。その人物は王立軍と反乱軍との戦争で命を落としており,遺灰はパガン・ミンの公邸に安置されている。つまり,プレイヤーはパガン・ミンの案内に従い,母親の遺灰をラクシュマナの墓に弔えば,たった20分程度でゲームをクリアできるのだ。
ちなみに,この裏エンディングの存在については,「Far Cry 4」のディレクターであるAlex Hutchinson氏がTwitterで言及していたり,大手海外メディア「Forbes」で紹介されていたりするので,すでに多くのゲーマーが知るところだろう。
おそらくクリエイターは洒落っ気で裏エンディングを用意したのだろうが,筆者なりに解釈すると,ゲームにおけるプレイヤーの役割に対する皮肉が読み取れる。
かつて,「Far Cry 2」のディレクターを務めたClint Hocking氏はブログで「ゲームとストーリーの不調和(Ludonarrative Dissonance)」を指摘したことがある。端的にまとめるならば,ゲームにおいてストーリーは重要な役割を担ってきたと同時に,ストーリーとゲームプレイの内容に乖離が目立つようになってきたという趣旨である。
たとえば,「Grand Theft Auto IV」の主人公は「安定した生活を求めてアメリカに移住してきた」というストーリー上ではまともな人間だが,プレイヤーの操作する主人公は平然と人を車で轢くような殺人鬼になりえる。つまり,クリエイターが思い描いた「筋書き」と,プレイヤーの気ままな「プレイ」が噛み合わないという指摘だ。
Clint Hocking氏の指摘が物議を醸して以来,ゲームクリエイター達は勤しんでゲームとストーリーの不調和を無くし,両者を調和させることを図り,プレイヤーの選択に意味を持たせることに尽力してきた。「The Last of Us」は巧みなゲームデザインによって,ストーリーとゲームプレイを融合させることに成功した。「Dragon Age」シリーズをはじめとする大作RPGでは,プレイヤーの選択に主眼を置くことで,プレイヤーを物語に引き込んでいる。
そんな風潮の中,「Far Cry 4」はあえて真逆の方向に向かった。プレイヤーの選択を「どうでもいい」と蔑ろにしたばかりか,プレイヤーを「邪魔者」の立場に立たせた。主人公エイジェイが役目を果たすために最も効率がいい選択肢は,プレイヤーがゲームをプレイせずにパガン・ミンが戻るのを待つことだ。
むしろプレイヤーが存在しなければ,エイジェイがレジスタンスに騙されることもなく,血みどろの殺し合いに身を投じなくても母親の望みを叶えられる。プレイヤーの介在によって,エイジェイはとんだ無駄足をさせられている。
「Far Cry 4」は意図的にプレイヤーと主人公を対立させ,プレイヤーの存在価値を否定したといえるだろう。
「Far Cry 3」のライターであるJeffrey Yohalem氏は,海外メディアのインタビューに「『Far Cry 3』にはFPSでよく見られるデタラメなストーリーへの諷刺を込めている」と答えている。実際のゲームでは,プレイヤーを不思議の国に迷い込んだアリスに喩え,主人公はどんな窮地に落ちても必ず救われ,ゲームが進むにつれて徐々に狂気に染まっていく。
そんな前作に負けず劣らず,「Far Cry 4」も諷刺と皮肉に富んだ傑作だった。さて,最新作の「Far Cry Primal」では,一体どうやって我々の度肝を抜くのだろうか。今から待ち遠しい。
※この記事は「熱血時報 PassionTimes」に寄稿されたものを原著者によって翻訳・加筆したものです。
■■Jerry Chu■■ 香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。 |
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(C)2014 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Far Cry, Ubi.com, Uplay, the Uplay logo, Ubisoft, and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the US and/or other countries. Based on Crytek’s original Far Cry directed by Cevat Yerli. Powered by Crytek’s technology “CryEngine.”
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