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AMD,次世代GPUの一部スペックと,新たなマルチディスプレイ技術「Eyefinity」を発表
その内容の多くは守秘義務契約の下で開示されたため,現時点では次世代GPUの詳細をお伝えできないが,新しいマルチディスプレイ技術「ATI Eyefinity」(以下,Eyefinity)と,一部予告情報は即時公開が許可されたので,本稿では,その2点に絞ってお届けしたい。
この日はAMDが貸し切りでカンファレンスを開催した |
甲板上に展示されていたさまざまな艦載機 |
ミリタリーマニア以外にも有名な「F14“Tomcat”」実機 |
Hornetの撃墜表。日本軍機の撃墜数がマークされている |
何を隠そう,あの戦艦大和を打ち破ったのはHornetだった! |
プレスカンファレンスの会場は甲板下の格納デッキだった |
次期ATI Radeonのスペック,ちょっとだけ予告される
具体的には以下のとおりだ。
- 次世代ATI ATI Radeonは,1基で2.5TFLOPS以上のパフォーマンスを提供する
〜「これは少なめに見積もったときの値で,実際にはもっと高い」 - 総トランジスタ数は20億に達する
〜ATI Radeon HD 4800シリーズは9億5000万+α程度だったので,規模にして,2倍近いチップになったことを意味する
シェーダプロセッサ数,動作クロック,採用するグラフィックスメモリなど,主要なスペックは,もう少し経ってから発表される予定だ。まずは,二つのヒントで,コミュニティを盛り上げたいということなのだろう。
1基のGPUで最大6画面出力を可能にするATI Eyefinity
これは,次世代GPUによって提供される技術で,一言でまとめるなら,「1基のGPUで3画面出力を可能にするもの」だ。
さらに,最大16384×16384ドットの“1ビッグデスクトップ”を構成し,これを複数のディスプレイに分割して表示するモードも備えているという。このとき,GPUは2億6843万(268M)ピクセルものデスクトップを管理することになるわけだ。
ちなみに,16384×16384とは何の数字かというと,答えは簡単。DirectX 11の最大テクスチャ解像度に相当している。268Mピクセルで24bitカラーのデスクトップ画面を構築すると,グラフィックスメモリを768MB占有するので,あまり現実的ではないが,少なくとも,DirectX 11環境下では,この解像度のデスクトップを定義できるのだ。
Eyefinityの実機デモが多数公開に
会場となったHornetの格納デッキには,所狭しとEyefinityの実機デモが展示されており,Eyefinityのアナウンス後は自由にこれらのデモに触れることができた。
数あるデモのうち,ホットトピックと思われたものを紹介していこう。
(1)1GPUによる6画面環境
会場で最も目を引く位置に置いてあり,さらにEyefinityの発表中にスポットライトを当てられて取り上げられたのが,極薄ベゼル仕様のSamsung製23インチ液晶ディスプレイ,解像度1920×1080ドットの製品を,3×2のアレイ状に並べた状態のデモである。動作していたのは,速報でもお伝えしている「Colin McRae: DiRT 2」。1枚の次世代ATI Radeonから6本のディスプレイケーブルが伸びており,それらが6台のディスプレイに接続されていた。
次世代ATI Radeonのグラフィックスインタフェース部分は,本日の時点ではお伝えできないが,6枚のディスプレイが,すべてDisplay Portケーブルで接続されていたことは強調しておきたい。
Samsung製ディスプレイと次世代ATI Radeon(のスペシャルエディション)はすべてDisplay Portケーブルで接続されていた。ということは……!? |
こちらはゲームのオプションメニュー。解像度は5760×2160ドット。システムからは,5760×2160ドットの大きなデスクトップが1面だけと認識されている |
(2)4GPUによる24画面環境。しかもLinuxベース!
次世代ATI Radeon搭載グラフィックスカード4枚を使って,6画面出力×4枚=24画面出力を実現したATI Eyefinityのデモ。
ディスプレイはDell製の24インチモデルで,解像度は1920×1200ドットだ。ここでも接続はすべてDisplay Portになっていた。横6画面×縦4画面でトータル,11520×4800ドット,約5500万ピクセルという,広大なデスクトップとなる。
ここで,動作しているフライトシミュレータはLinux版の「X-Plane」だった。そう,意外にも,このデモはLinuxベースなのだ。要するにこのデモは,「Linux環境でもATI Eyefinityがサポートされる」ことを意味している。
一般的な多画面環境において作り出される映像は,表示する各ディスプレイが持つ額縁の存在を考慮していない。そのため,実際に複数のディスプレイを1枚のデスクトップとして扱うと,隣り合うディスプレイの表示は,額縁部分を飛び越すような感じになる。映像全体としては,各画面単位に分離して見えてしまうのだ。
ベゼルコレクションとは,「隣り合う各ディスプレイの額縁(=ベゼル)に画素が存在している」と仮定して映像を生成する手法だ。映像全体として見たときに,1枚の映像がきちんと一体化して,隣り合うディスプレイの表示は,額縁を通り過ぎてスムーズにつながっているように見える。
ベゼルコレクションがあるので,額縁の下にも映像が描かれているように見える。翼の輪郭や機体の曲線がなめらかにつながって見えている点に注目! |
Windowsにおける例。ベゼルコレクションがないため,ここでは,各ディスプレイの額縁で,車のボディが分断されているように見えてしまっている |
AMDによると,現状,このベゼルコレクションはLinux版ドライバのみの機能だが,最終的にはWindows版にも搭載されるという。
(3)3画面Eyefinity対応の稼働筐体「APEX SC830」は255万円ナリ
会場には,レースゲーム中における車体の挙動を実際にフィードバックできるという,シミュレータタイプの筐体システムが展示されていたが,なんとこれは驚いたことに民生向けの製品。
開発・販売元はSimCraftという企業で,製品名は「APEX SC830」とのことだ。
動作の制御は,ゲームを動作させているPCでまかなえるそうで,稼働する仕組みは油圧式ではなく電磁モーター式。モーターが回転することでネジ式のピストンを駆動伸縮させる方式だ。この方式は,スピードの速いモーションに対応するのが難しそうだが,家庭用110V電源で利用できてしまう特徴がある。
価格は,筐体フレームとEyefinity対応3画面ディスプレイ,3ペダルシステム,レカロシートが付いて2万8000ドル(約255万円)。現実にクルマが買えてしまう値段だが,さまざまなクルマの乗り味をリアルにいろいろ楽しめる点に魅力を感じるならアリ……かもしれない。
(4)見た目は1画面・1100万ドットの175インチリアプロ
画面サイズは175インチ,画素数にして1100万画素を1ディスプレイで表示できるのが最大の特徴。これだけの高解像度・多画面システムであっても,次世代ATI RadeonのEyefinityならば,GPU 1基だけで実現できてしまうわけである。
プロジェクタの映像は同じ機種でも微妙に色合いや輝度が違う。また,多少はオーバーラップして投射しなければ映像と映像の間に隙間ができてしまうし,かといって若干重ねて投射すれば,それぞれの映像同士が重なった部分は明るくなってしまう。これを半自動で調整できる仕組みこそがmersiveの独自技術なのだ。
価格は2×2の4プロジェクタシステムで9万ドル(約820万円)とかなり高価。3×2の6プロジェクタシステムだと10万ドル(約910万円)と,とても個人が購入できる金額ではないが,額縁の存在が許せない人で,超高解像度の1画面が欲しいなら,もうこれしかない。
ついに発表間近となった次世代ATI Radeon
AMDもだんだんと情報開示の間口を広げてきているようで,今回は2.5TFLOPSという演算性能と20億トランジスタ数というスペックまでが判明した。さらにはEyefinityという多画面機能の存在までが明らかとなった。
「いい加減,じらすのはよしてくれ」と思う読者もいるだろうが,実のところ,この「情報小出し戦略」には意味があるというのが筆者の見解である。「DirectX 11対応の新型GPU」として,ぽん,と発表してしまうことで,DirectX 11のフィーチャーばかりが取りざたされてしまうことを避けるためだろう。先に,ATI Radeonならではの特徴を小出しにすることで,期待感を高めつつ,その特徴を知ってもらうことができる。なかなか賢いやり方だ。
とはいえ,機はもう充分に熟した。“X-DAY”はもうすぐに違いない。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 5800
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