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稲船敬二氏は,何を思い,何を考え,何を目指してカプコンを辞めていくのか。渦中の氏に直撃インタビュー
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印刷2010/10/29 19:05

インタビュー

稲船敬二氏は,何を思い,何を考え,何を目指してカプコンを辞めていくのか。渦中の氏に直撃インタビュー

クリエイターとプロデューサーは全然違うもの――0から1か,1から10か


4Gamer:
 稲船さん,そろそろお時間ですよねきっと。

稲船氏:
 ホントだ。もう3時間近く話してますね。

4Gamer:
 当初の予定とは全然違ったインタビューになってしまいましたが,ちょっとセンセーショナルな内容だったので,最後に4Gamerの読者に向けて,何か伝えておきたいメッセージをいただけますか。

画像集#021のサムネイル/稲船敬二氏は,何を思い,何を考え,何を目指してカプコンを辞めていくのか。渦中の氏に直撃インタビュー
稲船氏:
 (しばし考えて)急に言われると結構難しいですね……。
 4Gamerを読んでくれてる人は,きっとすごくゲームが好きな人が多いと思うんです。なので,やっぱりもっと,ゲームのことというか,ゲームの作り方とか,ゲーム業界のこととか,もっと深く知ってもらえる機会が増えてほしいです。もちろん4Gamerを通じてね(笑)。

4Gamer:
 がんばります。


稲船氏:
 今はやっぱり,新作の情報とかばかりになってしまって――もちろんそれはすごく大事なことですしね――すごく良いところや悪いところ,隠されているところなどが出てこないですよね。パブリッシャ側が出してる情報に過ぎませんから。でも,もっともっとクリエイターが前に出ていくことで,いい面も悪い面も出て,その両方を知ったうえで,応援するのか,叩くのか,そういう判断をしてほしいんです。
 カプコンという会社もそうだけど,ただそのブランドだけを見るんじゃなくて,どういう人が作って,どういう気持ちで作って……っていう部分に関してまで,読み取ってもらえるようになるといいと思うし,例えば4Gamerみたいな媒体が,そこまで踏み込めるようになるといいなぁ,と思います。そうすれば,業界は変わっていけるんじゃないでしょうか。今までよくあったことだし,今でもいっぱいあることですけど,建前でしか受けられない取材って多いんですよね。

4Gamer:
 たまにありますね。わざわざ直接話して聞くまでもないことばかり聞かされたり,大本営発表みたいな声明を聞かされたり。

稲船氏:
 ですよね。でもそれって,読者のみなさんだって別に読みたいと思っていないと思うんですよね。形はプロデューサーが語っているんだけど,結局広報担当が語っているのとほとんど同じことしか言わなかったり。
 本当は読者のみなさんが聞きたいことって,そのプロデューサーの本音であったり,隠された深いメッセージだったり,苦労したところだったり,もっともっと深い部分を聞きたいと思うんですよね。違うのかな。

4Gamer:
 いえ,そのとおりだと思います。

稲船氏:
 僕はそれをプレイヤーのみなさんに伝えたいんです。上手に伝えられれば一番いいんだけど,どうしてもそういうことが下手くそなので,結果的に気を悪くさせてしまったりということも多いんですけど,できる限りストレートに伝えたいんです。
 それで,プレイヤーのみなさんはそれを読み取って,その情報を理解したうえで応援する,しないを決める,そういうことを望んでいます。
 あとついでなので言ってしまいますが,クリエイターというのは,0から1を作り出す人です。世の中の多くの「クリエイター」とか「プロデューサー」は,1から10までを作る人です。両者は,全然違うものです。4Gamer読者のみなさんは,どうかそれを理解しておいてください。そして,クリエイターはクリエイターとして評価してほしいんです。

4Gamer:
 しかしその見極めは,現実的にプレイヤーさんには無理ですよ。

稲船氏:
 4Gamerさんのようなメディアに載ってるインタビュー記事で大体分かりませんかね。

4Gamer:
 確かに「クリエイター」じゃない人はゲームコンセプトや裏の意図などは説明できませんね。ゲームシステムとか新しいルールとかキャラクターの話とか販売目標本数とかの話ばかりで。まぁ裏の意図とか本音を語ってくれることもあるんですが。ただ,パブリッシャがキレイさっぱり原稿チェックで切り落としちゃいますので(笑)。

稲船氏:
 あぁ,なるほど(笑)。でもそういうところが一番分かりやすいと思いますよ。それで,僕がたくさんのタイトルを持てるのは,その「0から1」の部分だけを完璧にやって,あとのことはやらないからです。

4Gamer:
 ……なるほど。なんかいろいろなことがいまようやく理解できました。どうやって30本も動かしてるんだろう,と考えてたんですけど。

稲船氏:
 基本コンセプトがキチンとしていてそれが共有されていれば,服の色とか背景色とかUIのデザインとか,そんな部分は正直たいした問題ではありません。で,なぜか大体の人は「0から1」以外のそういうところに口を出したがるんです。口を出すばかりか,それもやりたいっていう人も大勢いるんです。それじゃあ複数タイトルを進められませんよ。

4Gamer:
 まぁ1から10の作業も楽しそうではありますから,気持ちはちょっと分かります。

稲船氏:
 そうですね,分かります。でもそれは結局誰のためにもならないですよ。何より,その人本人のためにも。大作ゲーム1本で3年かかるとして,3年もそれにかかり切りになるなんて。業界に20年いても7本しか作れないんですよ。コンセプトをきっちりとまとめて優秀な制作者にそれをまかせて,自分は次のものをやる。それが美しい構図ですよ。

4Gamer:
 そしてその「優秀な制作者」の部分はどこでもいいわけですね。国内であれ海外であれ。
……しかしその0から1を作る人にあたる「地位」とか「名称」は,ゲーム業界にはないですね。

稲船氏:
 プロデューサーでもディレクターでもないので「コンセプター」と呼んでください。名称がちゃんとないのは,胸を張って「俺がコンセプトを作ったんだ」って言える人がそんなに数多くないからじゃないですかね。
 むろん,コンセプターだけが偉いわけではありません。0から1までを作るコンセプターがいないとゲームは作れませんし,1から10を作る制作者がいなくても,ゲームは作れません。そこは理解しなくてはいけません。両者は,全然違う役割なんです。4Gamer読者のみなさんであれば,そこはご理解いただけるでしょうし,ぜひそういうことを知っておいてほしいんです。
 そして,できればちゃんとした記事をいっぱい読んで,いろいろな情報を知って,そのうえで作品の善し悪しなどの判断をしてほしいです。

4Gamer:
 長い時間,ありがとうございました。次にお会いするときは,きっと新会社の稲船さんですね。がんばってください。

画像集#017のサムネイル/稲船敬二氏は,何を思い,何を考え,何を目指してカプコンを辞めていくのか。渦中の氏に直撃インタビュー

――2010年10月18日収録


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