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新たなプレイヤー層の開拓を目指す,Si-phonの「空母決戦」について,デザイナーの石川淳一氏に話を聞く
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印刷2009/01/21 12:15

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新たなプレイヤー層の開拓を目指す,Si-phonの「空母決戦」について,デザイナーの石川淳一氏に話を聞く

長崎で設立された新たなPCゲームメーカー
Si-phon(サイフォン)とは


 日本はすっかり冬だが,PCゲームも「冬の時代」といわれて久しい。そんな中,九州は長崎に新たなゲーム会社が誕生した。それが「空母決戦」をPC向けにリリースする予定のSi-phon(サイフォン)だ(関連記事)

画像集#008のサムネイル/新たなプレイヤー層の開拓を目指す,Si-phonの「空母決戦」について,デザイナーの石川淳一氏に話を聞く

 空母決戦は,太平洋戦争を背景にしたシミュレーションゲームで,開発を担当しているのは福岡に本拠を置くエレメンツだ。取締役社長を務める石川淳一氏は,PCゲーム黎明期から大戦略シリーズのゲームデザイナーとして活躍してきた人物で,その名前を知っているという古参ゲーマーも多いと思う。システムソフト(現 システムソフト・アルファー)から独立後,コーエーの「凱歌の号砲 エアランドフォース」などを制作し,現在も各社のタイトルに,プランニング,デザイン,データの提供という形で携わっている。そんなベテラン中のベテランである石川氏が久々に挑む新作が空母決戦というわけだ。

 大手メーカーが膨大なリソースを投入した,高度なグラフィックスと複雑なゲームシステムを持ったマルチプラットフォーム向けタイトルが市場を賑わす今日この頃,地方の小さなメーカーが,コンシューマ機を含まないPCゲームマーケットに向けてどういう挑戦をしていくのか? Si-phonの代表取締役 谷村勝一郎氏と石川淳一氏を取材した。

画像集#004のサムネイル/新たなプレイヤー層の開拓を目指す,Si-phonの「空母決戦」について,デザイナーの石川淳一氏に話を聞く
エレメンツ取締役社長 石川淳一氏
画像集#006のサムネイル/新たなプレイヤー層の開拓を目指す,Si-phonの「空母決戦」について,デザイナーの石川淳一氏に話を聞く
Si-phonの代表取締役 谷村勝一郎氏

新たなプレイヤー層の掘り起こしで
PCゲームの復権を狙う


 もともと空母決戦のプロジェクトはSi-phon側から提案されたものだ。Si-phonの母体である「大星」の本業は実は建築関係なのだが,谷村氏がゲームを作りたい一心でソフトウェア事業部を立ち上げたのである。子供の頃,父親のおさがりの8/16ビットパソコンで「大戦略」をはじめとしたゲームを熱心にプレイしてきたが,社会に出て働き出すにつれ,次第にゲームから間遠くなってきた谷村氏。もちろん,仕事を持つことで時間がなくなり,続編が出るにつれて複雑化していくゲームシステムについていけなくなってきたことが最大の理由だ。
 このように,かつてパソコンでゲームを遊んでいたが,今はやっていないという人は多いのではないか。そういう層を掘り起こせば,元気がないといわれるPCゲーム市場でもそれなりの実績が期待できるのではないかというのが起業の趣旨の一つだった。ターゲットは30〜50代ぐらいの男性で,ハイスペックではないもののPCを所有しており,自由になる時間のあまりない人ということになるだろう。

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 なぜコンシューマ機ではなくPCなのかといえば,上に書いた潜在市場の大きさに加えて谷村氏の個人的な経験もある。コンシューマ機にはテレビが必要だが,仕事を終えて帰ってくるとテレビは家族に占領されており,お父さんがゲームを始めるわけにはいかないのだ。その点,PCならばパーソナルに使える。夕食後,「寝るまでにちょっと遊ぶか」というニーズを満たすゲームを作れば,なにより谷村氏自身が嬉しいというわけだ。
 だが,開発はうまくいかない。ノウハウのまったくないところからのスタートなのだから,当然といえば当然なのだが,谷村氏が開発を依頼したシステム関係の会社もゲームの経験はなく,「仕様書どおりのものを作って納品する」以上のことはできなかった。
 そうして,困った谷村氏が頼ったのが石川氏だった。

画像集#002のサムネイル/新たなプレイヤー層の開拓を目指す,Si-phonの「空母決戦」について,デザイナーの石川淳一氏に話を聞く
 「最初は言いたい放題言いましたよ。そんなの話にならない。そんなゲーム売れないみたいな」と石川氏は笑う。ダメもとでエレメンツにいきなり電話をかけ,都合よく電話口に出てくれた石川氏に企画を説明した谷村氏だったが,谷村氏の持っていた企画はかなりバッサリ否定されてしまったとのこと。
 石川氏の記憶によれば,谷村氏のゲームのアイデアはまるっきりボードゲームのようで,だったらボードゲームをやればいいじゃないかという雰囲気だったそうだ。とはいえ,谷村氏の依頼を承諾した石川氏は,それ以降,二人で長い時間をかけてゲームの内容を練り上げていくことになる。

 ちなみに,谷村氏が石川氏を選んだのは,もちろん大戦略シリーズの“顔”として有名だったからであるが,やはりエレメンツが本拠を置く福岡が地理的に近いという理由も大きい。システムソフトアルファーやレベルファイブなど,福岡にはコンテンツ関連のメーカーが多く,また業界団体である「GFF」も九州大学や行政と共に活発に活動しているとのことで,こんなこというと「何を今さら」と怒られてしまいそうだが,福岡は東京に並ぶゲーム開発の中心地を目指しているのだそうだ。

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プレイしやすくシンプルに
だが,カジュアルゲームというわけではない


画像集#005のサムネイル/新たなプレイヤー層の開拓を目指す,Si-phonの「空母決戦」について,デザイナーの石川淳一氏に話を聞く
 話を戻すと,プレイヤー層を絞り込むべきだというのが石川氏の意見だった。大手メーカーのような資本力がない以上,あれもこれもと盛り込んだ総花的なタイトルにするべきではなく,販売本数はそれほど見込めないとしても,特定の人がつい買ってみたくなるような内容にしようというわけである。

 シミュレーションゲームを作るというコンセンサスはすでにできていたが,話し合いの末,太平洋戦争における「空母」をテーマとしたタイトルにすることが決まった。歴史を扱ったシミュレーションはいろいろあるが,空母をメインとした作品は意外と少ないというのが理由。“空母”という言葉の響きにグッとくるシミュレーション好きは,数は少ないにせよ絶対にいるはずだと考えたのだ。
 もっとも,「空母モノ」ゲームとしては,ジェネラル・サポートの空母戦記シリーズがほぼ唯一無二の存在としてよく知られている。史実と資料をリサーチして再現された硬派な作品でファンも多く,したがってSi-phonの空母決戦は空母戦記とは異なる方向性を持たなくてはならない。
 自身がボードゲームファンでもある石川氏は,これもボードゲームのアナロジーで説明してくれた。世の中には,多くのプレイヤーが集まって時間をかけてじっくりプレイするボードゲームが存在する半面,「今日は時間がないから」とか「重いのはどうも……」というとき,少人数でちょっとプレイできるゲームもある。つまり,ヘビーなところは空母戦記に任せて,空母決戦は後者のニーズを満たす軽いタイトルとして訴求していくということである。

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 「ただし,軽いからといって,空母戦記の劣化したコピーになってダメです」と石川氏。「簡単さと軽さは違います。データを省略すればいいわけではなく,まずはプレイヤーが納得するような面白さを持っていなくては話になりません」。
 そこで,石川氏達がゲームの中心に据えたのは,空母艦隊司令官同士の探り合いだ。偵察衛星も早期警戒管制機も存在しない太平洋戦争において,艦隊司令官は断片的な情報を総合して「次の一手」を素早く繰り出さなくてはならない。敵の動きや意図を的確に予想できれば勝利を収められるが,一瞬の判断ミスが敗北を招くのだ。
 ゲームデザインとして,それ以外の要素は削っていくことになった。企画の当初は,ついアレもできる,コレもできるに走りがちだったが,それらの要素を「本当に面白いの? ただ面倒になっているだけじゃないの?」という見地から吟味して,結局,次々に削っていったと石川氏は語る。
索敵方法
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 例えば,当初はプレイヤーによって細かく設定できるようなっていた偵察機の索敵ルートも,煩雑すぎるという理由でカットされ「偵察機をこっちの方向へ飛ばす」ぐらいになったとのこと。索敵ルートの設定などは現場指揮官の判断に任せればよく,司令官の仕事ではないということだ。

 シミュレーションゲーム好きの谷村氏としては,こういうルールはどうかと提案するものの,「面白くない」という理由で次々に却下されていったという二人の話を聞いていると,どちらがデベロッパでパブリッシャなのかよく分からなくなる。開発があれこれしたいと言うところ,マネジメントがそれを抑えるという図式が普通だろうが,今回は逆っぽく,このあたりはベテランゲームデザイナーならではの味かもしれない。

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 簡便な操作性に加えて,短時間で決着がつくことも,想定されるプレイヤー層を考えれば重要だ。ゲームは長くても1時間前後で決着がつき,勝っても負けても「さあ,次だ」という気分になれることを目指している。

結果はあくまで未知数だが
できることをやっていく


 空母決戦の開発については,大枠の部分は終わり,現在はシステムの調整とデバッグの段階とのこと。今のところ,スケジュールに遅れはなく,詳しい日付はまだ発表できないが,2009年3月の発売は間違いないようだ。

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 空母戦記は,重厚長大化とマルチプラットフォーム化が進むPCゲーム市場に,地方からの一石を投じようという試みだ。しかし,ある程度の実績を出しているカジュアルオンラインゲームではなく,シングルプレイ専用のパッケージとして新たなプレイヤー層が開拓できるかどうかは,正直なところ分からない。「100%勝算があるわけではない。やってみて,結果を見たい」と谷村氏も石川氏も口をそろえて言う。
 販売価格も考え抜いた結果であり,また,そもそも潜在的なプレイヤー達(定期的にゲームショップに行くようなタイプではないはず)に認知してもらう広告宣伝費も十分にあるわけではないが,そういったところも知恵を出し合って対処していきたいとのことだった。

 空母決戦の詳細については,発売までの間にさまざまな情報が出てくる予定になっており,我々もできるかぎりフォローしていく予定だ。個人的な話で恐縮だが,筆者もまたかつて熱烈にパソコンゲームを遊んだものの,今は仕事に追われて時間もままならない現状だ。まあ,仕事といっても4Gamerだし,Si-phonの想定するプレイヤー層の年齢と比べるとやや(かなり?)上ということで実例にはならないものの,谷村氏と石川氏の目指すところは実感としてよく分かる。
 閉塞感なきにしもあらずといったゲーム業界に,新しい波を起こしてくれることを期待したい。

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  • 関連タイトル:

    空母決戦Ver2.0〜日本機動部隊の戦い〜

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