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イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(後編)
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印刷2013/11/11 00:00

インタビュー

イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(後編)

イシイジロウ氏がチュンソフトに持ち込んだ企画書
画像集 No.071のサムネイル画像 / イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(後編)
 制作者達自身による濃密な“アドベンチャーゲーム語り”を特大ボリュームでお届けする本企画。アドベンチャーゲームの「過去からこれまで」について語られた前編に引き続き,後編となる本稿では,アドベンチャーゲームの未来へとつながるお話を中心に,アドベンチャーゲームの可能性や課題,そして“次の形”についての議論をお届けします。

 アドベンチャーゲームは今後どうなっていくのか。あるいは“どうあるべき”なのか? 作り手達の持つ悩みや希望,展望など,普段なかなか聞くことができない内容が盛りだくさんです。そもそも,彼らの創作活動の原点とはいったい何で,なぜ「ゲーム」というものを作り続けているのでしょうか?

 また今回は,イシイジロウ氏がチュンソフトに持ち込んだ幻の企画も,企画書と共に公開されているので,アドベンチャーゲームファンは必見。アドベンチャーゲームの歴史について語られた前編共々,ぜひ本稿をご一読ください。

イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)


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「ゲームとプレイヤーの距離間」という模索


イシイ氏:
 しかし,ゲームとプレイヤーの距離間って意味で言えば,「ととの。」は間違いなく最先端ですよね。あそこまでやりきった部分も含めて。例えば「ラブプラス」とかで「ととの。」的なことをやられたら,きっと“とんでもないこと”が起きるなとか,そういう感覚はあります(笑)。
 
一同:
 (笑)。

下倉バイオ(しもくらばいお):ニトロプラス所属の駄菓子屋(?)兼シナリオライター。「STEINS;GATE」にシナリオ補佐として参加しているほか,主にアダルト向けPCゲームのシナリオを手がける。「STEINS;GATE 線形拘束のフェノグラム」では,シナリオの一編を担当。ニトロプラス最新作となるアダルト向け恋愛アドベンチャー「君と彼女と彼女の恋。」では,企画・シナリオ・ディレクターを担当した
※写真はNGとのことだったので,イメージ画像を掲載
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下倉氏:
 僕が「ととの。」を作る時に考えていたことは,元々,「All You Need Is Kill」っていうライトノベル――今度,ハリウッド映画化される――があるんですけど,あの作品から“主人公を取っ払えないか”ってことだったんですよ。
 これはちょっとネタバレになってしまうんですが,あの作品もループ物で,主人公がループを繰り返すうちに世界とどんどんずれて孤立化していくわけですが,そこに同じくループしているヒロインが出てきて,「だから2人の関係性は世界の中で特別」であるという。そういう理屈で劇中の恋愛に説得力を持たせるって構造で。

4Gamer:
 古典っぽい気もするけど,なかなか面白そうですね。

下倉氏:
 はい。これは,ある種SFとしてはベタなものかもしれませんけど,僕があれを読んで考えたのは,ここで主人公を介さず,ヒロインとプレイヤーを直接一対一の関係にできないものだろうか?ということだったんですね。ゲームという媒体なら,それが出来るんじゃないかと思って。
 でも,後でイシイさんとか打越さんから「第四の壁を打ち破った! 挑戦した!」的なコメントを頂きましたけど,恥ずかしながら,僕は「第四の壁」って言葉を知らなくて。知らないままに「ととの。」みたいな作品を作っていたんです。だから,後で初めて,「ああ,そういうものがあるんだ」と知ったんですけど。

打越氏:
 あ,そうなんですか? 僕はもともと,下倉さんは最初からメタ物を作りたいと考えていて,結果「ととの。」みたいな形に行き着いたのかなと思っていましたけど,そういうわけでもなかったんですか?

下倉氏:
 うーん。例えばですけど,まずプレイヤーが「どれだけ正直にゲームに向き合えるだろう」って考えた時に,選択肢が出てきて,それを選ばせるっていうのは,僕からすると「物語を薄める」ように思えたんです。要するに,選択肢があって,そこから「分岐する構造」だけだと,その選択の“重み”が物語的には半分になっちゃうわけじゃないですか。

打越氏:
 まぁそうですね。

下倉氏:
 だから,その選択を「一つにするにはどうすればいいのか」という部分から考えていったら,結果としてああいう形になった……という表現が正しいと思います。あるいは,プレイヤーの選択にしたって,そもそも嘘をつく可能性だってあるし,そういう嘘をつく可能性って意味のある選択なのか?とか,悶々と考え続けた結果でしかなくて(苦笑)。

中澤氏:
 普通の美少女ゲームでは,「愛している」といっても,2週目では違う子に告白するわけですからね。

下倉氏:
 そうそうそう(笑)。その“愛しているという選択”さえも,プレイヤーの本心かどうかっていうね。
 そもそも僕は,普通の美少女ゲームとかで,「ルートを埋めるために好きって選ぶ」という行為に,ずっと違和感があったんですよ。だってそれって,プレイヤーさんは自分で思ってもない選択肢を選んでるってことですよね。プレイヤーとの一体感って視点で言えば,それは駄目なわけですよ。

イシイジロウ:レベルファイブ 第4制作統括部 ゼネラルマネージャー。映像制作会社などを経て,サウンドノベルを作りたいという思いからチュンソフトに入社。在籍時には,「428 〜封鎖された渋谷で〜」の総監督を務め,その思いを形にしている。レベルファイブ移籍後第1作,SFアドベンチャー「タイムトラベラーズ」ではディレクターを担当。実写に興味を持つきっかけとなった「時をかける少女」の監督・大林宣彦氏との対談経験もある
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イシイ氏:
 なるほど。「ととの。」は,まさにその辺に切り込んでいる作品ですよね。美少女ゲームというか,18禁美少女ゲームとしての“業”みたいな部分を突いている。通常の恋愛ゲームでは,あそこまでの業は描けないですよ。まぁちょっと,公の場では語りづらいけれど,やっぱりあれは,大人の関係をモチーフにしてるからこそですよね。

中澤氏:
 ええ。あれは18禁だからこそ綺麗に成立したんだと思います。

イシイ氏:
 「あなた,私を抱いたよね?」っていうね。そこに対するある種の後ろめたさや背徳感があって,初めて成立する構造ですよね。「ときめきメモリアル」だったら許せたかもしれないけど,「ととの。」では許されないよねという(笑)。

下倉氏:
 ああ(笑)。

イシイ氏:
 僕は,「ととの。」をプレイしていて,凄い“巻き込まれた感”を感じて。これは面白いなと思ったんです。こういう実験的な作品は,なかなかコンシューマゲームではできないから,そこは羨ましいなって思いました。

下倉氏:
 ありがとうございます。まぁでも,美少女ゲームってある種のフォーマットが出来上がっていて,そこに則れば低コストで作れるよね,みたいな有利さもあるジャンルだと思うんですけど,作り手としては,また違うフォーマットの模索だったり,アイデア次第でいろいろできるぞって部分も大事にしたい。18禁のゲームって,そういう“やんちゃ”ができる市場だとも思っているので,今回に関しては,ワガママを通させてもらったって感じですね。

「君と彼女と彼女の恋。」
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作者は悲劇を作りたくて作っているのか?


4Gamer:
 あの,お話を聞いていて気になったんですが,美少女ゲームの“業”って,具体的にどういうものを指しているんですか?

下倉氏:
 あくまで「僕の」という但し書き付きですけれど,僕が常々感じていたのは,ある意味「プレイヤーさんがヒロインを不幸にしている」っていうんですかね,プレイヤーさん自身が「悲劇と,そこからの救済って物語を求めている」みたいな部分ってあると思うんですよ。

イシイ氏:
 はいはい。

下倉氏:
 あの,もうゲームの話でもなんでもなくて恐縮なんですけど,昔「プリンセスチュチュ」って子供向けのアニメがありまして。バレエをモチーフにした,いわゆる魔法少女のお話で,「ドロッセルマイヤー」って語り手が魔法少女を生み出して,彼女らを悲劇にあわせる(悲劇の物語を生み出す)ことで,その世界が存続しているという,そういうお話なんですけど。

4Gamer:
 へえ?

下倉氏:
 あの作品を見ていた時にですね。僕はその「ドロッセルマイヤー」の方に感情移入しちゃったんですね。こいつ自身は,本当にこの悲劇を作りたくて作っているのか? いや,そうじゃないんじゃないかって(苦笑)。
 だって,悲劇の物語(劇場の=エンターテイメントとしての)って,結局は“お客さんが受け入れる”ことで,成り立つわけじゃないですか。つまり,お客さんが望むから,作り手は劇中のキャラクターを不幸にしなければならない。そう言う側面ってあるよなと感じていて。

中澤 工(なかざわたくみ):レジスタ所属。SFサスペンスアドベンチャー「ルートダブル -Before Crime * After Days-」の原案・ディレクター・プロデューサーを務める。KID在籍時には,「Never7 -the end of infinity-」「Ever17 -the out of infinity-」「Remember11 -the age of infinity-」のディレクター・シナリオ担当として,打越氏と共にinfinityシリーズに携わっていた
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中澤氏:
 今のお話をうかがって,僕的には少し共感を得たといいますか。ちょっとマイナーなゲームで申し訳ないんですけど,僕,以前に「キラークイーン」というPCの同人ゲームを,「シークレットゲーム -KILLER QUEEN-」とタイトル名を変えて家庭用にリメイクしたことがあって。その作品は完全に一本道のゲームだったんですけど,そこに一つだけインタラクティブな要素を入れたんですよね。
 何かというと,この作品は閉じ込められた男女が殺し合いをするという,バトルロワイヤル的な物語なんですけど,それを観客がどこからか見ていて,賭け事をしているって設定があったんですよ。

下倉氏:
 ふむふむ。

中澤氏:
 で,僕はその賭け事にプレイヤーが参加して,「誰が生き残るか,あなたも賭けることができますよ」ってシステムを導入してみたんですね。それによってストーリーは全然変わらないんですけど,うまく当たるとゲーム内コインがもらえるみたいな仕組みで。賭けに参加してもいいし,別にしなくてもいい。プレイヤーさんはお好きにどうぞっていう。
 で。基本的にはストーリーは変わらないんですけど,最後の最後だけ,プレイヤーが賭けに参加していた場合には,あきらかにプレイヤーとおぼしきキャラクターが捕らわれるってエンディングに強制的に行っちゃうようにしたんです。逆に,賭けにまったく参加しなかったプレイヤーには,トゥルーエンド的な,ハッピーエンドを見せたんですね。

4Gamer:
 プレイヤーの立ち位置を最後に提示したわけですね。

中澤氏:
 ええ。ただ,これは何がしたかったというと,別にメタフィクションがやりたかったわけではなくて。単に「不幸な物語を作るのは確かに作家なんだけど,その不幸を求めてるのはお客さんでもあって。殺し合いは悪いことなんだけど,それをエンターテイメントとして欲する誰かがいるから,こういう物語が生まれるんだ」みたいなことを伝えたかったんですね。

下倉氏:
 なるほど。ただ,さっきの“一体感”の話にもつながるんですけど,そういう仕組みだと,主人公=プレイヤーがどう思うかっていうプレイ体験ではなくて,「この物語を受け取ったあなたはどう感じますか?」って,ちょっと視点が一歩引いたプレイ体験にどうしてもなってしまいますよね。

中澤氏:
 そこはそうですね。

「NEWラブプラス」
画像集 No.049のサムネイル画像 / イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(後編)
下倉氏:
 僕はやっぱり,もう少し“自分の体験”と感じられるようなものがやりたくて。選択肢があったとしても,そこに劇中の主人公を挟んじゃうと,「これは自分の選択じゃないし」みたいな言い訳が成り立つのがイヤだったんですよね。
 例えば,「ラブプラス」にしても,プレイヤーはゲーム中に出てくる選択肢には嘘をつくんだけど,なでるだとか,画面をタッチする行為そのものには嘘っぽさってあまりないじゃないですか。画面の中のキャラクターに反応を求める操作自体には,プレイヤーはあまり嘘をつかないんですよね。最近,そこがちょっと面白いなって思っているんですけど。

中澤氏:
 主人公っていうフィルターを通さないと,突然こう,感じ方が変わりますよね。

イシイ氏:
 その意味で言うと,「ラブプラス」はなんかは,「ゲームを中古で売ったら,寧々さんが昔の彼氏(プレイヤー)のことを……」みたいな都市伝説があったじゃないですか。あれ,内田さん()が仕掛けてたら,歴史に名が残るクラスの天才だなって思って聞いてみたんですけど,「いや,ないです」って内田さんがさらっと言ってて,とてもがっかりした記憶があります(苦笑)。
 「ラブプラス」も,プレイヤーとヒロインを一対一でつなげるって意味で,顔認識とか入れたり,時間の概念があったり,いろいろと頑張っていますよね。あの作品には物語性はあまりないんですが,プレイヤーとゲームの新しい関係性っていうか,体験を切り拓いてくれるんじゃないかって意味で,僕的にはとても興味深いなと思って見ていました。

※内田明理(うちだあかり):コナミデジタルエンタテインメント所属。ラブプラスプロダクション・シニアプロデューサー。「ラブプラス」のプロデューサーで,シリーズのファンからは“お義父さん”と呼ばれる。代表作は「ときめきメモリアル Girl's Side」シリーズ,「とんがりボウシ」シリーズなど

4Gamer:
 なるほど。イシイさんが「ラブプラス」にやたら興味を抱かれていたのは,そういう視点からだったんですね……。なぜそこまで?と,実は少し不思議に思ってたんです(笑)。

イシイ氏:
 ええ?(笑)

画像集 No.050のサムネイル画像 / イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(後編)


ドラクエ派かFF派か


林氏:
 皆さんって,結構プレイヤーさんをいじる感じというか,プレイヤーさんに投げかける感じの作り方を重視されているんですか? 「シュタインズ・ゲート」では,意識的にその辺は一切触れずにいたんですけど。

イシイ氏:
 ああ,エンターテイメントに寄った作品であれば,そこは普通は触れない方向になるんじゃないですか? 「428」でも意図的に触れなかったですし。

林 直孝(はやしなおたか):MAGES. ゲーム事業部 シナリオライター。科学アドベンチャーシリーズ「STEINS;GATE」「CHAOS;HEAD NOAH」「ROBOTICS;NOTES」のシナリオを手がける。映画,アニメ,小説,舞台とさまざまなメディア展開をする「STEINS;GATE」では,シナリオ監修のほか特典として付属するショートストーリーなども担当。「BRAVELY DEFAULT」では,初めてRPGのシナリオに挑戦している
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林氏:
 なるほど。「シュタインズ・ゲート」の場合は,とにかくプレイヤーさんを物語に没頭させるのが目的でしたからね。そのための手法として,主人公とプレイヤーの情報量をできるだけ一緒にする。かつ,現実に存在する情報(キーワード)をゲームの中に落とし込むことで,より劇中のお話にリアリティを持たせるというか,感情移入しやすいように配慮しました。結果,かなりヘンテコな主人公だったんですけど,「共感した」って言ってくれる方が多くて,そこはうまくいったのかなって思っていますけど。

打越氏:
 「シュタインズ・ゲート」はそこも凄いですよね。個性的な主人公っていうのが,僕的にはとても斬新で(苦笑)。

イシイ氏:
 ああ,自分が昔,叩かれたから?(笑)。

打越氏:
 そうそう! 僕が最初に作った「メモリーズ・オフ」という作品では,主人公を個性的な奴にしたんですけど,それによって「感情移入できない!」って批判が殺到したんですよ。ホント,もの凄い叩かれて,めちゃくちゃ落ち込んだ。だから僕は,今も個性的な主人公っていうのが怖くてできないんです。
 だけど,「シュタインズ・ゲート」は,個性的なキャラクターで共感を得ることに成功している。それに「秋葉原」とか「ラジオ会館」とか「ドクターペッパー」とか,実在する固有名詞をたくさん出しているのも,美少女のゲームの文脈からすると異質ですよね。

林氏:
 まぁ,プレイヤーさんがより感情移入しやすいように,プレイヤー=主人公って構図に近づけやすいように,無個性な主人公が生み出されたと思うんですけど,みんながみんなそうだったから,結果的に似たような主人公ばかりになってしまっていたじゃないですか。そこはどうかなって思いはあったんです。
 それに,僕は逆に,個性的なキャラクターじゃないと“物語としては面白くならない”と思っていたので,そこはもう,最初から個性的な奴にしようとは決めていました。

打越鋼太郎(うちこしこうたろう):スパイク・チュンソフト 第二開発グループ プランニングセクション ディレクター。イシイジロウ氏に誘われチュンソフトに入社。アドベンチャー「極限脱出 9時間9人9の扉」や「極限脱出ADV 善人シボウデス」では,ディレクターとシナリオを担当している。KID所属時は,中澤 工氏と共にinfinityシリーズのシナリオに携わっていた
画像集 No.012のサムネイル画像 / イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(後編)
打越氏:
 アニメにせよドラマにせよ,物語のセオリーとして,主人公が個性的な方が絶対面白いわけですからね。美少女ゲームとしては異質な感じなんだけど,そこは理に適っているなぁと。僕自身は,凄いトラウマを背負っているので,ああいうのは作れないですけど(笑)。

イシイ氏:
 まぁただ,そこの議論っては,ドラクエ派かFF派かみたいな話の延長でもあるんだよね。

4Gamer:
 ああ,主人公がしゃべるかしゃべらないかみたいな。

イシイ氏:
 うん。その意味でいえば,僕自身は完全にドラクエ派だったので,だからこそチュンソフトという会社を選んだんです。ただ一方では,無個性(ドラクエ派)って“とてもテクニカルで難しいな”って感覚もあって。

林氏:
 そうですね。

イシイ氏:
 やっぱり,クラウドとかセフィロスみたいに,バァーンとキャラが立っていた方がプレイヤーさんには分かりやすいんですよ。だから,林さんの言う,主人公を立ててっていうやり方はとても正しい。逆にドラクエ的な方法論って,僕自身は大好きなんですけど,ビジネスだったり,より広く売らなければ――みたいなことを考えていくと,なかなかしんどいなって側面はありますよね。

下倉氏:
 そうですねぇ……。

中澤氏:
 僕はやっぱり,ゲームっていう媒体で物語を表現するからには,その必然性っていうか,なんであえてゲームでやってるの?ってところは,常に意識してないと気持ち悪い感じがするんですよね。
 だから,「ゲームならではの物語ってなんだろう」って常に考えながら企画を考えるんですけど,そうすると,当然,プレイヤーっていう概念が絡んでくるから,「じゃあ,プレイヤーってなんだろう」となる。このゲームにとってのプレイヤーの位置づけ,関わり方ってなんだろうかって部分に常に思考が向くんですよね。

イシイ氏:
 うん。でも,今はそういう方向で,そういう思想でアドベンチャーゲームを作るのがツライ時期なのかなとは思うんですよ。あるいは,どんどん難しくなっているのかなって印象はある。

4Gamer:
 それはどうしてですか?

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イシイ氏:
 やっぱり,「シュタインズ・ゲート」や「ダンガンロンパ」なんかもそうなんだけど,メディアミックスというスタイルがゲームで大きな成功を収めて。いまからビジネスとしてアドベンチャーゲームを作るうえで,その部分の可能性を無視した企画って通りづらくなっていると思うんですね。もちろん,アニメにしてヒットするパターンってのは絶対あるし,そのやり方自体は全然否定するものではないんですけれど……。

4Gamer:
 けど?

イシイ氏:
 あの。凄く理想論ではあるんですけれど,本来,僕らゲームクリエイターが作らなきゃいけないものっていうのは,“アニメや映画になったら面白くないもの”でなければいけないと思うんです。

林氏:
 分かります。

イシイ氏:
 例えば,「かまいたちの夜」なんかはその代表例だと思うんですけど,あれをそのままテレビとか映画にしても面白くならないんですよ。あれは,ゲーム特有のプレイ構造があって初めて面白くなる作品ですから。昔のゲームの映像化って,その辺の仕組みがまだあんまり理解されてないから失敗しているって側面もあって。

4Gamer:
 確かに「かまいたちの夜」はあんまり面白くなかったかも……。

イシイ氏:
 でしょう? 「Ever17」とかだって,アニメにしてもねえ?

打越氏:
 全然駄目だと思いますよ。成立しない。

イシイ氏:
 はあ?みたいな感じになるだけですよね(苦笑)。

打越氏:
 ええ。「極限脱出 9時間9人9の扉」も駄目だし,「善人シボウデス」も映像化は無理でしょうね。

「ダンガンロンパ1・2 Reload」
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4Gamer:
 でも,「ダンガンロンパ」で映像化が成立するのは何が違うんですか? あれもかなり特殊な作り方をしているゲームだとは思いますけれど。

打越氏:
 確かに尖った作り方はしていますけど,「ダンガンロンパ」はフローチャート型ではないですから。

下倉氏:
 一本道ですもんね。

4Gamer:
 あ,そうか。

イシイ氏:
 そうそう。結局,「ダンガンロンパ」の物語は一次元構造なんですね。だから,さっきの話と被るけど,「シュタインズ・ゲート」がうまいのは,本来は二次元構造なのに,それを一次元構造で成立させているところなんです。だからアニメ化もしやすい。あれを完全に二次元構造とか三次元構造とかでやってしまうと,アニメにした時に面白くなくなるんです。

中澤氏:
 よくあるのは,二次元に広がってるものを無理やりアニメ(一本道のお話)にすると,どこか“無理やり感”が出ちゃうみたいな。

イシイ氏:
 そうですね。「Fate/stay night」の初期のアニメ化はそんな感じだったかも。なんか「混ざっちゃった」みたいな感じになるんだよね。

中澤氏:
 原作ファンからすると,なんだこりゃ?っていう。

イシイ氏:
 難しいんですよ。ゲームのファンも,アニメからのファンも「んん?」みたいな感じになっちゃう。だから,そこのねじれを解消するって意味でも,縦に並べて成立させたっていうのは,やっぱり僕は発明だったと思うんですね。メディアミックスとかをうまくやれる,商品の構造としても凄くよい形なんですよ。作品のクオリティを落とさせずに,メディアミックスしやすいというね。大きくブレイクした理由の一端はここにもあると思います。

下倉氏:
 でも一方で,“体験は移植しづらい”んですよねぇ……。

イシイ氏:
 そこがね。あまりに「ゲームならでは」を追求しちゃうと,なかなか食っていけないって話につながっていくんです。我々ゲーム屋としては,どんどん実験をして,ゲームでしかできない表現っていうのをもっとやっていくべきなんだけども,そこを頑張ってやっちゃうと生きていけない(苦笑)。ここは本当に難しい問題です。

打越氏:
 そうですねぇ……。そこは本当に,僕も毎日のように考えているんですけどねぇ。
 
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