連載
ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第5回:「ドイツ」という国で無理なく勝利してみる(後編)
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
ポーランドを併合した直後。「イタリアや日本が仲間になりたそうにこちらを見ている! 仲間にしてあげますか?(はい/いいえ)」的な状態。戦線の補強をしてくれるんならいいんだけど,墺伊を入れても伊軍こっちに来ないのよね
我がドイツの工作によるポーランド制裁戦争は,1937年6月に終結(前回参照)。当然ながらこれはオードブルなので,動員は解除しない。ベルリン司令部には「防御」の指示を出し,旧ポーランド・ソビエト国境にドイツ軍を整列させる。
しかるに1937年7月31日,ドイツは「対共産十字軍」を宣言,ソビエト帝国に攻撃を開始する。当然,ベルリンの総司令部は攻撃目標をモスクワにセットしての「電撃戦」指示である。いまだ軍備の整っていないソビエト軍は,全戦線において大敗を繰り返し,前線は見る間に後退していった。
ことに凄まじかったのは中央軍集団で,その勢いは赤軍の戦線を完全に引き裂き,無人の野を爆走していく。どう見ても,これは勝ちモードである。史実に比べて1か月以上遅い開戦で,冬の到来が怖いといえば怖いが,今回ドイツ軍は史実よりもずっとモスクワに近いラインをスタート地点としている――ポーランド全体が,ドイツのものなのだから。
……ところが。完全に押せ押せで進む南方戦線と比較し,北方では戦線が停滞し始めた。原因は降雪ではなく,赤軍の防衛ラインが数的にも質的にも充足したことにある。赤軍は戦線が縮小しており,かつ増援が到着しているのだから,これは当然のことだ。それにひきかえ,ドイツが攻勢を維持すべき戦線はどんどん拡大していっており,結果としてモスクワを目の前にして,ドイツ軍の質とソビエト軍の数が,均衡してしまった。
1937年11月にはモスクワまであと2プロヴィンスと迫ったドイツ軍だったが,そこからじりじりと戦線を下げ,本格的な冬の到来にあわせてベルリン総司令部は電撃戦を撤回,攻撃目標モスクワも断念し,主に防衛的な布陣へと切り替えた。
明けて1938年5月,泥濘も収まったころ,ドイツ軍は攻勢を再開するが,冬の間に戦線を安定させたソビエトに対し,このときドイツの人的資源はゼロ。増援は一切出せない状況に追い込まれていた。
ドイツの攻勢は部分的には成功し,再びモスクワ近郊にまで迫るも,要塞線と河川,森林によって攻撃を阻まれ,またモスクワ正面で赤軍の反攻が始まったこともあり,7月には攻勢を断念。機動防御で戦線の整理に務めるも,もはやこの先に何が待っているかは誰の目にも明らかだった。
くっそう。もうちょっと! 本当に,もうちょっとだったのに! なんだこの無駄にリアルな展開は!
反省点は,いろいろある。なかでも最大の反省は,「思ったよりパルチザンが発生しない」ことだ。
筆者がHoI3でドイツをプレイするのは素晴らしく久しぶりなのだが,かつてプレイした頃のバージョンだと,ドイツ占領地では雲霞のようにパルチザンが湧いたものだから,それに対応するためにと思って守備隊を大量生産しておいたのだ。守備隊指揮ツリーの最高司令官に,ヒムラーを登用してまで。
ところが,蓋をあけてみればパルチザンはほとんど発生せず,守備隊は「弱い歩兵」として戦線の穴にねじ込まれていった。「うわあ史実っぽい,そういや普通のおまわりさんを徴兵して作ったSS警察装甲擲弾兵師団とかあったなあ」とか思ったが,史実を再現すれば,史実のように負けるのは当然である。
もっとも,守備隊は作らなくていい,というわけでもない。
AIに指揮を任せた場合,AIはVPがあるプロヴィンスに必ず1個師団は残そうとする。結果,貴重な歩兵師団が後方で都市の警備にあたってしまったりすることがある。これを避けるため,ベルリン司令部の隷下にない部隊として最小編成の守備隊を編成,VP都市防備に充てることは,人的資源の有効利用という点で大いに意味がある。
もう一つ,これはケアレスミスなのだが,今回のドイツ軍の機甲打撃軍主力は「軽戦車」であったという衝撃の事実がある。実はドイツはゲーム開始時に「中戦車」の技術を持っておらず,初期型の中戦車が投入できるのは,独ソ戦が始まってからになってしまうのだ。にもかかわらず,必死で中戦車の技術改良を進め,軽戦車技術を放置していたのは,決定的とまではいかなくても大きなマイナス要因といえるだろう。
あと,ソビエト空軍の爆撃機が思ったより煩いので,迎撃機はある程度揃えておいたほうがよかった,というのも反省点だ。ただでさえ厳しい人的資源を爆撃で削られていては話にならない。
人的資源に関して言えば,農業や医療技術を研究するのは大前提として,機甲の比率をもっと上げて,戦闘での人的損害を減らす努力も欠かせない。もっとも,じゃあ軽戦車を大量に作るのか,ということになると微妙だし,ある程度は歩兵がいないと都市戦が地獄なので,このあたりの兼ね合いは難しい。ともあれ戦争が始まったら,原則として人的資源はゼロだと考えたほうがいい。
以上の反省をもとに,別の切り口も考えてみた。1937年ではなく,1938年まで軍備拡張をしてから開戦するという方針である。これなら中戦車が主力になるし,超高レベルの指揮官もどんどん出現するから,質的優位を維持したまま赤軍を壊滅させられるのでは,という予測だ。
しかしこのプランは,1938年に入ってからの宣戦では連合軍の対ドイツ宣戦を招く,という現実の前に,撤回を余儀なくされた。フランスの正面には誰もいないっての。
つまり,今あるもので,なんとかするしかないのだ。機種名でいえば,II号戦車あたりの,相当にヤバイ戦車を主軸として。
……なんとかなるんだろうか?
手は,ある。要するに,ドイツだけで戦おうとするから無理があるのだ。ソビエトにとっての戦線正面を広げてやれば,赤軍は崩壊するしかない。
というわけで,外交的にドイツに接近していた日本を,枢軸陣営に誘うこととする。これまでは「あんなアメリカホイホイを陣営に入れてたまるか」という潜在的な意識が働いていたのだが,HoI3の日本はあまりアメリカと喧嘩しないので(というか,できる体力が1941年頃には残っていないので),ここは一つシベリアの不毛の荒野に赤軍を釣る餌になっていただく,もとい極東戦線を日本軍にお任せしようではないか。
方針が決まったので,日本を枢軸に加えてから,ソビエトに対して全面戦争を宣言。中国戦線で右往左往していた日本軍は,突如北からの脅威にも晒されて,さらに右往左往しているが,じきに北からの脅威はなくなるから頑張ってくれたまえ。
肝心の東部戦線はといえば,極東にもう一つ戦線ができているせいで,赤軍の南方戦線は文字通り無人となった。日本軍,実に素晴らしい。卿らはこの戦争における,影のMVPだ。
こうなってしまえば,この先は戦争などといった上品なものではなく,ただの「殲滅」である。そもそも赤軍は数的優位でもってドイツ軍を押さえ込んでいたのだから,その数が戦線正面において半減すれば何が起こるか。
1937年10月16日にはモスクワが陥落。同年11月末ごろにはスターリングラードが事実上の無血開城。厳冬のレニングラードでは史実さながらの悲惨な包囲戦が繰り広げられたが,38年1月1日をもって陥落。ソビエトはアルハンゲリスクに首都を移し抗戦の姿勢をみせるも,同年3月,ついにドイツに降伏を申し出た。戦争期間8か月の,まさに電撃戦である。これによってソビエトはウラル山脈以東に後退,ヨーロッパから共産主義国家は完全に取り除かれたのである。
さて,ここから先もゲームを続けていいのだけれど,いくつか問題がある。
(1)共産勢力は,ソビエトとの停戦は成ったものの,中国共産党とかが残っている。ドイツで,そこまで行くとか無理。でも彼らを駆逐しないと戦争は終わらない。日本に遠征軍を出せば,あるいは……でも望みは薄い。
(2)外交的にギリギリのところを渡ってきたので,もう1回戦争すれば次は絶対に世界大戦になる。しかも,チェコスロバキアとか,バルト三国とか,フィンランドとか,ルーマニアとか,トルコとか,そのあたりの「連合国ではない隣国」も一斉にドイツに攻めてくるだろう。そんな長い戦線は維持できない――でも戦争さえしなければ問題ないので,だったらもう戦争しないのが最善手だ。
(3)人的資源はゼロになっているが,1941年くらいまでかければ小国を叩き潰しつつ,フランスと戦える軍隊も作れるだろう。でもそうなったらそうなったで,フランスが瓦解するのは自明だし,あとは伸びきった兵站に苦しみながらダラダラ戦争する以上のことは起きない。
(4)降伏したソビエト領内に取り残された,「弾薬切れ・補給切れ」の機甲師団が,どうやっても回収できない。このままだと解散して再生産しかない。
(1)〜(3)だけでも結構もう満腹気味なんですが,(4)がトドメを刺しました。そりゃあ軽戦車がほとんどだから,むしろ解体して中戦車師団に切り替えたかったってのはあるけど,それにしたってあなた。
初期の目的は果たしたことだし,今回のプレイはここで終了とさせていただきたい。ソビエトロシア全域を占領したドイツが,人的資源の問題を克服するのは時間の問題でしかないし,時間を味方につけてしまった強国なんて,チュートリアルでもなければやる意味はない。
とても広くなったドイツ。東欧に細かい中立国家が大量にあって,彼らはそれぞれ,いつでも対独戦する気マンマンってのが最大の問題か。ここから連合国と喧嘩するにしても,最低2年くらいは準備が必要そう……てかVP的に連合国と戦争する必要ないし
というわけで,連載5回を使うことになったが,アメリカでゲームの概略および技術開発,ソビエトで陸軍指揮系統の編成方法,ドイツで外交と諜報と,HoI3の持っているギミックを一通り紹介してみた。この他にも,戦略爆撃による国民意識の低下,戦闘消耗による厭戦機運の上昇といった要素はあるのだけれど,大国だと,あまりそのあたりは問題にはならない。
これでようやくゲームのシステム紹介をあらかた終えたというところで,次回は戦場を大きく変えて「日本」をプレイしてみたいと思う。アメリカとどう戦うか的な議論をする以前の段階として,この連載の間ずっと中国軍に大陸から追い出され続けているAI日本だが,その真相やいかに。
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ハーツ オブ アイアンIII【完全日本語版】
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