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ハーツ オブ アイアンIII 連載 / 第3回:「ソビエト」の陸軍でドイツ機甲師団に挑んでみる
この連載は,第二次世界大戦およびその前後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団,個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。
……ということで,ソビエトなのである。のっけから繰り返しネタですみません。
今回のテーマは,「難易度:普通で,陸戦最強国家と戦って負けない陸軍を作る」ことだ。もちろん陸戦最強国家とはドイツのことに他ならない。この条件だけを考えるなら,「オランダ」「デンマーク」「ルクセンブルク」といった素晴らしい候補の数々が脳裏をよぎるが,今回は欧州戦線の主役の片割れ,ソビエトでいってみたい。本連載は「まずは勝ってみよう」が(いまのところ)目標なのである。
ソビエトは,最強の陸軍を誇るドイツと正面きって戦う,陸続きの国家のなかでは最大の国力を有しており,またその天然資源,人的資源の豊富さは世界有数のレベルに達している。前者はアメリカに及ばず,後者は中国に及ばないが,弱点らしい弱点がない国家と言っていいだろう。あえて弱点を挙げよと言われれば,HoI2に引き続き,工業力にペナルティを与えてくださるアレであるが,それを言うと大変なことが起きそうなので黙っていることにする。
さて,まずは全体としての戦略プランから。
- (1)ドイツに負けない
- (2)できればドイツに勝つ
- (3)日本のことは運次第
(1)と(2)は,似ているようで異なる。(1)は,マジノ線みたいな非常識な要塞線を引いて,ひきこもってしまえば簡単に達成できる。一方で(2)は,そこから出てドイツ軍を撃破しなくてはならない。勝つためには,陣地など構築していては手が遅くなりすぎる。今回は(2)を狙いつつも,あくまで基本は(1)という方針でいってみたい。
なお,(3)はちょっと曖昧な目標だが,要するにこれは「無視」ということである。運が良ければ彼らは自滅するだろうし,運が悪くてもシベリアという広大な大地がソビエトロシアを守ってくれる。HoI3のシベリアは壮絶な不毛の土地であり,補給物資がマップ上を実際に移動するという補給ルールの改訂とあいまって(補給物資を輸送するためにも補給物資が使われる。シベリアの未開の大地を補給物資が移動するとなれば……),普通は突破できない。
これらを鑑み,具体的なプランを練ってみよう。
・地上戦力は戦車を主体に
ソビエトというと歩兵(マニアの方なら砲兵)というイメージがあるかもしれないが,ドイツ軍の主力は機甲師団であり,戦車に対抗するには戦車が一番だ。またHoI3では,足が速く打撃力/持久力のある部隊を火消しや増援として使うというのが定番の戦術なので,攻防に柔軟な機甲を優先したい。
・空軍は迎撃機主体,爆撃機は戦況が落ち着いてから
独ソ戦序盤は,ソビエトが受け手にまわるのはほぼ確定だ。防御戦闘においても爆撃機の使い勝手はよいのだが,それ以上に迎撃機でルフトバッフェを押さえ込んだほうがいい。完全に膠着してからが,爆撃機の時間だ。
・海軍は粛清
海ってなんですか。
最初にやるべき作業は,司令部を除いた既存の軍隊をすべて解散させることだ。
フィンランドとの「冬戦争」で最初の実戦に突入するまで,ソビエトの工業力には一定のペナルティが架せられる。この間,限定的な生産能力を,第一次大戦式の装備そのままな歩兵だの,馬に乗った騎兵だのを「近代化」するために使うだなんて,とんでもない話だ。兵士諸君らはウクライナで畑でも耕していたまえ。なぜか知らないけど,小麦畑が大量に空いているから。
その裏側で,歩兵/機甲の研究を開始,同時に少量の生産ラインを作っておく。ここらはアメリカのときと同じ考え方である。
問題は,ここからである。
自分で直接生産指定した師団を「自動」で配置させると,アメリカですら前回の記事で見たような結果(人的資源枯渇)が待っている。それでも勝ててしまうのがアメリカの恐ろしいところだが,ソビエトの場合おそらくそうはいかない。
HoI3では,「師団」は「司令部」の指揮下に入り,「司令部」は合計で五つまでの「師団」を管理できる。きわめて乱暴に言えば,5個師団ごとに1個の司令部が必要だということだ。
この「師団」を直接率いる「司令部」は,さらに上層の司令部を持つことができる。こうして下級司令部を統率する上級司令部を作り,その上級司令部をさらに統率する上級司令部を作り……ということを繰り返すことで,全軍が効率よく作戦行動を行えるようになる。
慣れてくると,このツリーを自分で作ってしまったほうが楽なのだが,インタフェースがやや特殊なので,積極的にはお勧めできない。今回,全部隊を解体していくにあたって司令部だけを残したのは,指揮系統だけは既存のものを利用するという腹である。これならば,一番下級の司令部に部隊を割り当てていくだけで,自動的にツリー状の指揮系統を持った軍隊が完成する。
この「割り当てていくだけ」も,はじめは億劫な気がするのだが,「ユニットを地図上に配置」→「そのユニットを選択」→「指揮下に組み込むボタンをクリック」→「司令部を選択」という手順を踏むと,意外と楽にできる。司令部に直接割り当てることもできるのだが,「その司令部はどこにいるんだっけ?」という問題を克服するのが非常に難しい(HoI3ではプロヴィンス数が飛躍的に増大しているせいで,「それってどこよ」的な地名が猛烈に増えていることをお忘れなく)。クリック回数は増えるが,地図に直接配置してから指揮系統に組み込む方式を推奨したい。
組み込むべき司令部を選ぶ際の目安になるのは「その司令部までの距離」と,「司令部ユニットの上についているXの数」だ。
司令部までの距離は意外と便利な指標で,同一プロヴィンスにいる司令部は「距離0km」と表示されるので,これを頼りに一発で指定できる。プロヴィンス名や司令部名を覚えるよりもずっと楽だ。
司令部ユニットの上についているXの数は,その司令部の階級を示す。基本的に前線司令部は「XXX」なので,組み込み先で悩んだら,とりあえず「XXX」の司令部の下につけておけばいいだろう。「XXXX」は「XXX」の司令部を統括する司令部であり,できればその直下に戦闘師団を配置したくはない(したほうがいいパッチのバージョンもあるのだが,とりあえず現行ではしないほうがいい)。
なお,司令部を新設する場合は,司令部に所属していない地上ユニット(地図に直接配置したばかりのユニットか,司令部の隷下から切り離したユニット)を指定し,そのユニットのパネルにある「+XXX」(新しい軍団を編成し、この師団をそこに配備します)というボタンを選択する。
新設された司令部は,既存の司令部の下に入れることもできるし,その司令部を指定して「さらに上位の司令部」を作ることも可能だ。ただしイメージに反し,司令部ツリーをトップダウンで作ることはできないので,注意してほしい。
なんだかとてつもなく面倒そうなのだが,生産ラインが安定し,次々に歩兵や機甲師団が完成しはじめると,「さあてどうアレンジにしたものかな」と,なかなかに楽しい。筆者は経験ないが,盆栽を育てたりするのは,こういう楽しさなのかもしれない。
HoI3のいいところは,こうやって手塩にかけて育てた軍隊で,実際に敵軍をぶちのめせる(あるいはぶちのめされる)ことだろう。さて,我が軍の精強さや,いかに……?
ソビエトが最初に遭遇する実戦は,前述のとおり「冬戦争」である。このフィンランドとの戦争は,史実においては大粛清後のソビエト軍の脆弱さを世界に知らしめる戦いとなった。
HoI3では,大粛清を実行した程度では,ソビエト軍の強さは揺るがない。というかゲームのシステム的に,フィンランドは冬戦争をまともに戦えない。プロヴィンス数の増えたHoI3では,人的資源に乏しいフィンランドがちゃんとした防衛戦を引くのは数学的に不可能だし,HoI2よりHoI3のほうが「数の差」が露骨に響く戦闘システムを持っていることも大きい。
かくして冬戦争は,2週間ほどで終結。赤軍強しを世界に見せ付ける結果となった。プレイヤーとしても,ほっと一息である。ここまで頑張って組織してきた軍隊が「張り子の虎でした」では,さすがに報われないことおびただしい。
ちなみに冬戦争において最も重要なのは,徴兵法を「変動徴兵制」に切り替えておくことだ。これは戦争中しか採用できない法律なので,この期を逃すと次は独ソ戦までチャンスがない――が,この法律は予備役での徴兵や将校の補充速度など,戦争能力にストレートに影響を与えるものなので,切り替えられるならば一刻も早く切り替えておきたい法律なのだ。
冬戦争が終わって,ソビエトはフィンランドを属国化した。史実のようにレニングラード正面に敵国の国境線を持つようになるなどまっぴらだし,味方の少ない共産陣営にとって友邦は1国でも多いほうがいい。
かくして,いよいよ独ソ戦である。
ところが,運命の6月22日が来ても,ドイツはソビエトに宣戦してこない。HoI3ではよくあることなのだが,微妙に肩透かしを食った気になるのは,マニアの宿命というところだろうか。
もしかすると,このままずっと宣戦されないかもしれんなあと思っていると,12月5日,冬の盛りにドイツからの宣戦! 独ソ戦はドイツの冬季攻勢によって幕を開けることになる。しかもハンガリーとルーマニアはドイツに同調せず。なんて孤独な戦争。
さて,孤独とはいってもドイツ軍は非常に精強で,かつ数も多い。こちらも相当数を揃えていたのだが,戦線のあちこちで微妙に不利な戦場が現れ始める。
こうなった時に,活躍するのが機甲だ。彼らは危険な兆候を見せ始めた戦場に急行し,その場の趨勢をひっくり返す力を持っている。もちろんドイツ軍も増援として機甲を投入してくるので,しばしば「ちょっとした接触」のはずが「その地域における総力戦」に化けたりもするが,この我慢比べはHoI3における戦争の醍醐味の一つだと思う(マニュアルで操作しているときは)。
ドイツ軍の攻勢はだいたい2か所くらいで同時に発生し,下手に突破を許すと猛烈な勢いで戦線の裏側になだれ込んでくる。ソビエト軍が無事に守れている大きな理由となっているのが塹壕効果なので,できればここで機動防御モードには入りたくない。手動でプレイしていると,機動防御は死ぬほど面倒でもある。関連司令部を適度に後退させ,かつ部隊をサイクルさせて,といった操作は,たぶん完全手動では不可能ではないだろうか。そんなわけで,突破は戦線全体の崩壊につながる危険性を常に秘めているのだ。
この緊張感の下で,損耗の激しい師団は戦場から個別に撤退させ,後方で指揮統制の回復を待ち,薄くなった戦線には増援を投入し,必要に応じて後方に下げた部隊を戦線に再投入といったマネージメントを施すことは,なかなかに楽しい。ゲーム全体から見ると,あまりにもマイクロマネージメントではあるが,予備や再編成を考え,戦線全体の戦力バランスを眺めながら,ギリギリのところで防御ラインを維持し続ける感覚は,ほかのゲームにはあまりなかったものだ。というか,個人的には第二次大戦のストラテジーでは,こういう遊びをしたいんですけどね。
とはいえ,1941年冬から1944年くらいまで,このマネージメントを手動で繰り返し,その結果3プロヴィンスほど譲ったが戦線を維持し続けたあたりで,集中力の限界を感じたので,そっと要塞線の構築に入ることにした。いやあ,膠着させるだけなら,それでいいんだもんね。うん。
ただ,北部戦域だけは要塞線を構築せずにおく。爆撃機モードに入って,人的資源のすり減らしあいが明確になったところで,北部を攻勢主軸として使うという自分的な決意である。「ドイツに勝つ」という目標からはちょっと距離が開いたが,まだまだゲームは終わっちゃいないんだよ! 的なものだ。
けれどこの手の決意は,実に簡単に覆ることになる。
北方での攻勢を先に仕掛けたのは,ドイツ軍だった。それも,思い描いていたよりも,ずっと北で。
ノルウェーがドイツ軍の手に落ちるまでは,想像の範疇であった。それを前提とした守備部隊が,数個の機甲つきでムルマンスクに待機していたくらいである。が,ドイツ軍は中立を叫ぶスウェーデンを容赦なく踏みつぶし,フィンランド北部全域での攻勢を開始したのだ。
これには,虚を突かれた。可能性の一つではあったし,第三帝国がフランスに対して行った戦略の焼き直しに過ぎないと言ってしまえばその通りなのだが,焼き直しとはいえ,まるで違う角度で仕掛けられると,咄嗟には対応できない――というか,これはかなり危険だ。
簡単な解決策としては,フィンランドを放棄し,レニングラード正面まで戦線を戻すという手がある。空間で時間を稼ぎ,その隙に防御戦力を捻出するというのは,ソビエトが独ソ戦で行ったことそのものだ。
だが,半島の地形を見ると分かるのだが,フィンランドは根元で大きく膨れるような形になっている。「レニングラード前で防衛」と言うは容易いが,実は防御正面が広いのだ。
それよりは,もうちょっと北の,半島がややくびれたあたりで機動防御を行い,降雪を味方につけるほうがいいのではないだろうか? 十分な時間を稼げば,必要な援軍を抽出することもできるのだから。
このアイデアをもとに,10個師団に満たない赤軍が5プロヴィンスほどの地峡に淡い戦線を引いた。同時に,独ソ戦正面から機甲や歩兵を薄く薄く引っ張り出し,列車に載せて北へと輸送を開始する。
北極圏での死闘は実に厳しいものだったが,重戦車を含めた機甲師団2個を用意しておいたのが決定打となった。ドイツ軍の波状攻撃を,最新鋭の重戦車部隊は右に左に捌き続け,ついに援軍の到着まで防衛ラインを守りきったのだ。一度だけ物凄く危険な突破を許したが,突破直後のドイツ軍がどうやら弾薬切れだったらしく九死に一生を得たというのは,同志書記長には内緒である。
防衛ラインが安定してしまえば,あとはこっちのものだ。正面から引き抜いてきた部隊の管轄司令部を入れ替え,あるいは必要に応じて司令部を新設/再編成(これを面倒と思う神経は,この頃には死滅している。むしろ脳内は萌色一色)し,機甲と山岳歩兵を中心として新規に編成された攻勢チームを続々と送り込む。
やがて,遅れていた戦術爆撃機,近接航空支援機が続々と投入され,あちこちでドイツ軍を血祭りにあげていった。北辺の戦いは最大の危機を脱し,いまや第三帝国崩壊への序曲となったのである。
赤軍はフィンランド北部を再解放,コラ半島およびムルマンスクの奪還にも成功した。その余勢をかって,スウェーデン,ノルウェーへと逆侵攻を開始する。
スカンジナビア半島を制圧してしまえば,その先に(ちょっとだけ海を越えて)待っているのはドイツ第三帝国の脆弱な脇腹である。この攻勢を凌ぎきれるだけの人的資源は,もうドイツには残されていない。その一方,ソビエトには1000以上の人的資源が残されていて,いまだ増大傾向にある。
かくして,欧州の戦争は終わった。主に北極圏で。
HoI3の戦闘は,ミクロな部分を触っていても,かなり楽しい。ただしすべてをマニュアル操作すると戦線が膠着しやすい傾向があるので,もっと動的な(激しい)戦線を構築していくためには,今回のように指揮系統を確立したうえで,AIに部隊コントロールを任せてしまうのがいいだろう。まあ,手動でやるより緊張感は削がれてしまうが。
陸戦に限って言えば,AIの指揮はかなり良質だ。しかしながらAIコントロールの常として,「途中から切り替えると,切り替えた隙があまりにも大きい」という弱点がある。筆者は何度か途中で切り替えようとして,そのたびに戦線が全面的に崩壊するハメになった。だいぶ土地を譲ったあたりで再度膠着させることに成功していたが,いささか脱力感が強すぎる。「やるなら最初から」が,AI委任のコツといえるだろう。
とりあえず,ソビエトは陸戦の基本を学ぶには非常に良い国家であると思う。ドイツも陸戦国家ではあるが,あの国はいろいろな国を併合したり宣戦したりと,なにかと手間がかかる。ただ宣戦を待てばいいだけのソビエトのほうが,やることが少ないぶん楽だといえるだろう。
ちなみに,往々にして誤解されていることだが,史実のソビエト軍は決して「非合理的な軍隊」ではなかった。大粛清前,および1943年ごろからのソビエト軍は,世界に冠たる陸軍を備えていたといっていいだろう。
例えば,のちにAK47を開発することになるカラシニコフ氏は,戦車の整備兵を務めていた頃,ポポフ中将に「T-34に改善点はあるか?」と聞かれ,即座に「いくつもあります」と返答している。通俗的な「ソビエト軍」のイメージであれば,救国の戦車であるT-34を一介の整備兵が批判するなど,即前線送りになるべき回答だ。しかしカラシニコフ氏はその能力を認められ,歩兵用の次期主力小銃の開発を行うことになった――その合理性を,当時のソビエト軍は備えていたのだ。勝てる軍隊には,それだけの理由がある。
この点,HoI3のソビエトは史実をよく反映しているように思う。確かに,無茶はする。人的資源も湯水のように消費することになる。だがそれは,それによって勝てるから実行するというだけのことだ。「無駄に人を殺した」という批判は成り立つかもしれないが,それは「そもそも戦争が……」という,また別の議論だろう。
……もっとも,ソビエトは第二次世界大戦に勝利したとはいえ,そこで被った人的なダメージから立ち直れなかったという事実もある。なんとも,戦争とは難しい。
さて,次回はいよいよドイツでいってみよう。今度こそ景気よく突破と包囲を繰り返したいものだが,果たしてどうなることやら。
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ハーツ オブ アイアンIII【完全日本語版】
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