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[GDC 2010]FF13はなぜ“一本道”なのか。ディレクターの鳥山氏自らそのゲームデザインについて語った「The Crystal Myth and FFXIII」をレポート
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印刷2010/03/13 23:50

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[GDC 2010]FF13はなぜ“一本道”なのか。ディレクターの鳥山氏自らそのゲームデザインについて語った「The Crystal Myth and FFXIII」をレポート

画像集#001のサムネイル/[GDC 2010]FF13はなぜ“一本道”なのか。ディレクターの鳥山氏自らそのゲームデザインについて語った「The Crystal Myth and FFXIII」をレポート
 今や世界的なビッグブランドといっても過言ではない「ファイナルファンタジー」シリーズだが,その最新作「ファイナルファンタジーXIII」(以下,FF13)でディレクターを務めた鳥山求氏が,GDC 2010にて講演を行った。
 講演の題目は,「The Crystal Myth and FFXIII」(クリスタル神話とFF13)というもの。いわゆるストーリー設計やシナリオライティングにフォーカスした内容かと思いきや,大規模化した開発体制がゲームのシナリオ制作に与えた影響や,ブランド力を生かしたコンピレーション展開(※)。そして,自ら「ストーリードリブン」だと語るFF13のゲームデザインのメリットとデメリットなど,話題が多岐にわたる興味深い内容となっていた。

※ここでは,一つのテーマに基づいて複数の商品を製作する意味を表す

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 ちなみに鳥山氏は,FF13でディレクターを務めると同時に,シナリオも担当しているなど,スクウェア・エニックスを代表するクリエイターの一人だ。スーパーファミコン時代に「ファイナルファンタジーVI」「バハムートラグーン」といったタイトルに携わっているほか,プレイステーション発売以降では「ファイナルファンタジーVII」「ファイナルファンタジーX」などの制作に参加。シナリオライターやイベントプランナーを経て「ファイナルファンタジーX-2」ではディレクターに抜擢された,比較的若いうちから頭角を現してきた人物である。

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 講演が開始されると,鳥山氏は,まず自身の経歴に簡単に触れていきながら,「スーパーファミコン時代は職種の垣根なく,みんなで(シナリオの)アイデアを出しあって,それをシナリオライターがまとめて形にするというやり方が主流でした」と語り始めた。
 開発チームが小規模だった時代は,お互いに顔が見えた。意見交換する場もあったし,シナリオの練り直しや方向転換も(大変とはいえ)可能だったので,多少厳しくても「後は努力と根性でカバーする」というスタイルで,なんとかなっていたのだという。
 しかし,3Dグラフィックスの導入などをキッカケに開発チームは急速に大規模化していく。ファイナルファンタジーVIIの時点で,すでに200人規模の人員体制になっていたそうで,プログラマーやグラフィッカーなどは専門性が高まっていき,分業化も加速。さらにファイナルファンタジーXで,モーションキャプチャやキャラクターボイスが導入されるにあたり,「シナリオの途中変更がとても難しくなった」そうだ。

 というのも,例えばシナリオが変更になれば,当然キャラクターのしゃべるセリフは変わるし,ゲーム中の演技(モーション)も変更しなければならない。場面に使うサウンドも,もちろん付け直しとなる。つまり,シナリオ変更によって発生する作業量が,以前とは比べ物にならないくらい膨大になってしまったのだ。
 「このような制作環境/制作フローの変化に伴って,ゲームシナリオもまた,高度な専門性が求められる要素になっていきます。なぜなら,制作のやり直しを発生させないように,開発初期の段階に高いレベルでFixさせなければならなくなったからです」と,鳥山氏は言う。

 こうした制作環境の変化に対して,スクウェア・エニックスは,シナリオライターを組織化(チーム化)することで対応したようだ。このチームが会社の各タイトルのシナリオを集中して担当することで,物語のクオリティ水準の引き上げ,開発のロスを最小限にする意図があったという。主にファイナルファンタジーシリーズについての話だとは思うが,スクウェア・エニックスにおいては,シナリオ制作が「開発の上流工程」として位置づけられているようだ。

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「クリスタル神話」を軸にした新しいシリーズ展開を模索したFF13


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 鳥山氏がディレクションを行ったFF13は,技術的,ゲームシステム的な挑戦のみならず,新しいシリーズ展開の手法についても大きな挑戦をしているタイトルである。
 プレイした読者はご存じかもしれないが,FF13のストーリー背景には,「FABULA NOVA CRYSTALLIS(ファブラ ノヴァ クリスタリス)」という,壮大な世界設定が存在している。これは,ゲーム単体の枠を超えた背景設定という位置づけであり,このFABULA NOVA CRYSTALLIS=「新しいクリスタル神話」をベースに,「FINAL FANTASY VersusXIII」 「FINAL FANTASY AgitoXIII」などといった別タイトルが並行して展開されていく,スクウェア・エニックスの立ち上げたプロジェクトの名前にもなっている設定である。

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 人気のIPをフランチャイズ展開していくこと自体は,正直なところ別に珍しい話ではない。しかし鳥山氏は,「従来の弊社でやってきたコンピレーション作品は,あくまでもオリジナルの作品のゲームシステムや世界観をベースとし,その人気にあやかったタイトルが主流でした」「しかしその手法では,既存のファンを意識した作品作りや,オリジナルに似せた内容になりがち。これでは,クリエイターの自由な発想を奪ってしまいます」と,その違いを説明する。
 つまりFABULA NOVA CRYSTALLISの関連タイトルとは,ゲームの物語設定よりもさらに奥の物語――ここでは神話と表現しているが――を共通項とするのみで,各タイトルのゲームシステムやキャラ設定,シナリオなどは,かなり自由度が与えられたものになっているのだという。ゲーム単体の世界観のさらに上位に位置するもの……という意味でも,鳥山氏は“神話”という表現を使っているのだろう。

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 まぁ話だけ聞くと,ぱっとは理解しづらい概念ではあるのだが,そもそもファイナルファンタジーというのは,「何をもってファイナルファンタジーというのか」がいまいち分からないという,冷静に考えるととても不思議なブランドである(変な意味ではない)。
 世界観に明確な共通点はないし,キャラクターやシナリオはもちろん,ゲームシステムも毎回大幅に変更される(これは,普通のミリオンセラータイトルでは考えられない)。一般的に「共通項」といわれる“クリスタル”にしても,出てこないナンバリングタイトルがあるくらいだ。ファイナルファンタジーが一大ブランドなのは確かなのだが,人は何をもって「ファイナルファンタジー」だと認識するのだろうか? 個人的には,「最先端の技術を詰め込んだゲームであること」「超大作であること」などというような,漠然とした期待感こそが,ファイナルファンタジーというブランドの正体だと思えることすらある。

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 FABULA NOVA CRYSTALLISの真意がなんのなのか。それは,もちろん鳥山氏ら制作スタッフ陣に直接聞いてみるしかないわけだが,話を聞いていくうちに,もしかしたらこれは「ファイナルファンタジーのファイナルファンタジーたる所以」を構築する試みなのかも……と少し思った次第だ。


「ストーリー・ドリブン」であることの功罪。FF13が一本道であることの是非


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 鳥山氏の講演の中で面白かったのは,よくいわれるFF13への批判……例えば,序盤における「一本道なゲーム構造」や「自由度のなさ」について,真正面からその理由を説明していたところだ。
 そこで鳥山氏は,制作過程において後戻りできない状況などがあり,取捨選択を迫られた結果の判断であること,あるいはそのシステムのメリット/デメリットを天秤にかけた結果,メリットを優先したこと(そのシステムを採用した)などを素直に語り,「反省点として捉えている」としていたのが印象的であった。
 具体的いうと,例えば,「チャプターごとにキャラクターが入れ替わるゲーム構成」については

 ○戦闘システムを段階的にプレイヤーに習熟させられる
 ○いろんなバリエーションの戦闘を満遍なく楽しめる
 ○各キャラクターについて深く掘り下げられる
 ×自由度が失われ,ハードコアなゲーマーからは不評を得た
 ×召喚獣の入手プロセスに問題があり,手に入れた召喚獣を
  次の戦闘で使えないといった問題が起きた


などだ。とくに欠点について鳥山氏は,「ある程度は,制作の途中で気づいていたものもある」としながら,制作プロセスの複雑さからやり直しがきかないところもあり,「私の判断で,製品の発売を優先しました」という。

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 まぁ,これをもって「妥協だ!」といってしまえばそれまでなのだが,大規模な開発体制で進むFF13クラスになると,その発売の延期は,シンプルに膨大な金額のコスト増を発生させる。ゲーム制作があくまでビジネス活動である以上,無制限にお金を掛けるわけにはいかないので,何を切り捨てて何を重視するのかは,繊細なバランス感覚が求められるものである。
 いずれにせよ,クリエイター自身が公の場でこのような率直な発言をするのは非常に珍しいので,筆者としては,むしろその率直さに驚いたのが正直なところ。まさに開発者が集うGDCならでは……と言える一場面だろう。

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ファイナルファンタジーの定義=究極を目指すこと


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 鳥山氏は,最後に「JRPGと欧米RPGとの違い」「ファイナルファンタジーの定義」についても言及。前者については,「ゲーム中でのキャラクターへの感情移入の捉え方」に差異があるのでは,と指摘。欧米が一人称視点的な手法をもってキャラクター=自分という捉え方をするが,JRPGでは,アニメや映画を見ているような,三人称的な捉え方が好まれるとの指摘だ。

 もちろん,これはどちらが良いという話ではなく,どこまでゲーム性や自由度を盛り込むかは,さじ加減次第でしかないのだが,鳥山氏は「欧米でも,ドラマや映画などの受動的なコンテンツは人気ですし,ファイナルファンタジーは,今後もストーリーを重視していきます」と明言。欧米産RPGとの差別化の意味も込めての方針なのだろうが,安易に今のスタイルを崩す気がないという姿勢を見せた。

 ただ一方では,Game of the Yearを受賞した「Uncharted 2」を引き合いに出し,「ゲームプレイとカットシーンの融合が今後のメインストリームになっていくのは確かだと思う」「次回作では,我々もいろいろな挑戦をしていくつもりだ」と発言するなど,変えるべきところは貪欲に変えていく意思も顕にしていたのが印象的であった。

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 「ファイナルファンタジーの定義」については,「私の意見がスクウェア・エニックス全体の意見というわけではないのですが……」と前置きしながらも,変わっていく部分として,「最新のハードウェアで,技術面/バトルシステムを含めたゲームデザイン面の両方で究極を目指す」こと,逆に変わらない部分として「普遍的かつグローバルで,壮大なストーリー」を挙げ,さらなる進化を目指していきたいとして講演を締めくくった。

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 さて。ここまで長々と講演の内容について追ってみたわけだが,なかでも筆者がとくに興味を抱いたのは,鳥山氏がFF13のゲームデザインやレベルデザイン(マップデザイン)について,「シューターのような方向性を志向していた」といっていた部分だったりする。なんでも「たとえ一本道でも,いろいろなイベントや演出がある,アトラクション的な楽しさを目指していた」というのだ。

 話はゲームから少し離れるのだが,つい最近見た映画の「アバター」に,筆者は,ゲームというものの将来(の一つ)を垣間見た気がしていた。公開前から話題になっていた「3D」というギミックもそうなのだが,映像の演出全般が,とても「アトラクション的」……言ってしまえば,まるでFPSを遊んでいるかのような映像(つまり,一人称を意識したカット)が多かったからである。

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 ハリウッド映画に限らず,ある程度の予算規模の大作になると,どうしてもマスに向けた作品作りが求められる。掛けたお金は回収しなければならないし,お金を回収するにはメガヒットが求められるからである。

 では,マス向けとはなんだろうか。端的に言えば,それはゲームでいえば「ゲームをしない人」をどう巻き込むかという視点である。アバターは,シナリオや世界観こそややマニアックではあるが,そのアトラクション的な明瞭な楽しさで,世界中で記録的な大ヒットとなった。どちらかといえば,映画通が好むような作品ではなく,その前評判は必ずしも芳しいものばかりではなかったと記憶している。これは,ゲーム業界にも当てはめられる,示唆的な出来事だったのではないか。

 翻ってファイナルファンタジーもまた,「メガヒットの使命」を背負ったタイトルである。そうした中で,ファイナルファンタジーという作品が,どういった方向に舵を切っていくのか。同じゲーム業界の片隅にいる身としては,その行方がとても興味深い。
 ひとまずは,これから発売される「FINAL FANTASY VersusXIII」 「FINAL FANTASY AgitoXIII」に期待しつつ,今後出てくるであろう「XV」の発表を待ちたいところだ。

 
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