レビュー
GTX 285相当のGPUを2基搭載。ASUSの気合いが詰まった“最強”仕様を試す
MARS/2DI/4GD3
» 通常版「GeForce GTX 295」の仕様を大きく上回るASUS独自の製品として,COMPUTEX TAIPEI 2009で公開された限定版グラフィックスカード。1000枚という数量限定で市場投入された新製品を入手できたので,さっそく宮崎真一氏が検証する。そのインパクトは,果たしてどれほどのものだろうか?
今回4Gamerでは,シリアルナンバー「68」の個体をASUSから借り,短期間ながらテストすることができたので,その結果をお知らせしたいと思う。
メモリ2GB版GeForce GTX 285×2を
2階建てソリューションに詰め込んだMARS
両製品と,「GeForce GTX 285」(以下,GTX 285)のスペックをまとめたのが表1だが,ご覧のとおり,MARSは,“GTX 295を拡張した製品”というよりも,「デュアルGPUソリューションとしての基本設計はGTX 295をベースにしつつ,そこに,グラフィックスメモリ2GB版のGTX 285を2基詰め込んだもの」という認識のほうが,おそらく正解に近い。
出荷数量と価格を考えると,世界中で何人が利用することになるのかは分からないが,Quad NVIDIA SLIを実現するためのブリッジコネクタは1系統搭載。外部電源は8ピン×2という仕様になっている。TDP 183WのGTX 285を2基搭載するので,消費電力が跳ね上がっていることは想像に難くないが,GTX 295は8ピン+6ピンだったことを考えると,世界初の8ピン2系統入力は,なかなか感慨深い。
ところで,先ほど「基本設計はGTX 295」と述べたため,想像がついた人は多いと思うが,カードを分解してみると「2枚の基板がGPUクーラーを挟むという構造そのもの」が,初期GTX 295の仕様を踏襲していることがよく分かる。搭載するメモリチップの量が,GTX 295の1基版当たり14枚から,MARSでは同16枚になり,それにともなって基板サイズが拡張されたことや,クーラーユニットの厚みが初期GTX 295のそれと比べて増していることも確認できよう。
先ほど基板1枚当たり16個と述べたメモリチップは,Hynix Semiconductor製のGDDR3「H5RS1H23MFR-N3C」(0.77ns品)。1Gbitチップ16枚で,容量2GB(※単純な足し算で計4GB)を実現しているわけだ。
なお,TechPowerUp製のGPU情報表示ツールである「GPU-Z」(Version 0.3.4)を実行してみると,GPUコアとシェーダクロックはGTX 285と同じで,メモリだけちょっと低い値が返ってきた。GPU-ZとGeForce Driverがいずれも,MARSを“GTX 295カード”として認識していたことは付記しておきたい。
また,GPU-Zの「Sensors」タブを見る限り,アイドル時はコアクロック300MHz,メモリクロック200MHz相当(実クロック100MHz)まで低下するようだ。
GTX 295との違いを検証
高解像度&高負荷に絞ってテストを実施
今回のテスト環境は表2のとおり。今回はスケジュールの都合で,比較対象にはGTX 295カードのみを用意した。
具体的にいうと,「Left 4 Dead」は,16x AAの設定がないため,高負荷設定と8x AA&16x AF,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)は8x/16x AA設定がないので高負荷設定のみだ。「ラスト レムナント」にはそもそもAA設定がないので,標準設定のみとなる。もう一つ「バイオハザード5」は,16x AA設定が可能なのだが,筆者のポカミスで高負荷設定のテストを行えていないので,この点はお詫びしたい。
GTX 295を突き放す3D性能を発揮するMARS
しかし,一部タイトルで落ち込む場面も
テスト結果を見ていこう。
グラフ1は,「3DMark06」(Build 1.1.0,以下 3DMark06)の総合スコアを比較したものになるが,ここではおおむね10%前後のスコア差が見て取れる。コアクロックで12.5%,シェーダクロックで18.8%,メモリクロックで15.3%の差があるので,「クロックの差がそのまま出ている」わけではないが,相応の違いが出ているとはいえる。
続いては,非常に描画負荷の高いFPS,「Crysis Warhead」だが,ここでは1920×1200ドットでこそクロック差程度の違いしか出ていないのだが,16x AA&16x AFで,大きな差がついている点には注目しておきたい(グラフ2)。ROPの違いによる影響もゼロではないと思われるが,Crysis Warheadがグラフィックスメモリ容量を大量に要求するアプリケーションであることを踏まえるに,GPU 1基あたりのグラフィックスメモリ容量が倍になったことが,この超高解像度&高3D描画負荷設定で出たと見るべきだろう。
一方,グラフ3に示したLeft 4 Deadでは,高負荷設定の1920×1200ドットを除いて,MARSがGTX 295の後塵を拝した。本タイトルでは,何度かスコアを取り直したのだが,傾向はまったく変わらなかったので,おかしいとしか言いようがない。
その原因は,推測の域を出ないが,あくまでGTX 295用として用意されているSLIプロファイルが,MARSで十全に機能していない可能性は考えられそうだ。
続いて,Call of Duty 4とバイオハザード5を一気に見てみるが,ここでは,3DMark06と同じような傾向にまとまった(グラフ4,5)。MARSのスコアは,そのスペックから期待されるだけの差を,GTX 295に対して付けている。
Left 4 Deadと同様の問題が生じたのが,グラフ6のラスト レムナントである。
本タイトルは標準設定でのテストとなるため,1920×1200ドットでは差が出ていないのはある意味で織り込み済みとなるものの,2560×1920ドットでMARSが10fps以上低い理由は分からない。ここでもスコアは何度か取り直したので,こういう傾向なのはほぼ間違いないのだが,負荷の低いタイトルの一部で,SLIの調停がうまくいかない不具合でもあるのだろうか?
パフォーマンス検証の最後は「Race Driver: GRID」(以下,GRID)で,その結果をまとめたのがグラフ7だ。本タイトルでは,正常なスコアが出ているというか,MARSは,比較的安定的に,GTX 295に一定の差を付けた。
強烈な消費電力で,そして何より熱い!
取り扱いには要注意
史上初のPCI Express補助電源8ピン×2という時点で,GTX 295を相当に上回る消費電力なのは明白だが,実際にはどれくらいの違いがあるのか。今回も,ログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用して,システム全体の消費電力を測定することにした。
テストに当たっては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
結果はグラフ8のとおりだ。
アイドル時はGTX 295とそれほど変わらない値に収まっているMARSだが,アプリケーション実行時には,ゲームによって違いはあれど,120W〜150Wという,相当に大きなギャップが認められる。とくに,Left 4 Dead実行時の600W超えという数字は,CPUが「Core i7-965 Extreme Edition/3.20GHz」であることを差し引いても相当に強烈。電源ユニットに対するMARSの要求は,相当にシビアだと言わざるを得ない。
続いて,3DMark06の30分連続実行時を「高負荷時」としつつ,アイドル時ともどもGPU温度を比較した結果がグラフ9だ。温度測定に用いたのは1GPUの温度測定に対応したGPU-Zなので,スコアは片方のGPUのものになることと,室温は24℃で,テスト用システムはPCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態にあることをお断りしつつ述べるが,MARSは熱いの一言。内蔵するファンだけでは追いつかないほどの熱が発生しているようで,アプリケーション実行中にうっかりカードを触ろうものなら,火傷してしまいそうなほどだ。実際の運用に当たっては,補助ファンなどによる送風が必須だろう。
「お湯が沸く」とは熱いGPUに対してよく揶揄される表現だが,MARSの場合はそれが本当になりそうである。
ちなみに,このクーラーが静音に対する配慮がほとんどないというか,端的に述べて非常にうるさい。まず交換できない以上,この点には覚悟が必要だ。
ベンチマーカー専用のコレクターズアイテムだが
これを製品化してきた意欲は認めたい
しかし,さすがに時期が悪い点は否めないだろう。(発売されるかどうか明らかになっていないとはいえ)AMDがDirectX 11対応の次世代GPUを9月中に発表することを表明しているこのタイミングというのは,やはり厳しい印象だ。また,PCケースに搭載することを拒否するかのような発熱,そしてなんといっても14万円という価格はハードルが高く,「ベンチマーカー向けコレクターズアイテム」の域は,どうやっても出そうにない。
ただ,COMPUTEX TAIPEI 2009での発表後,発売延期になった――当初は6月下旬量産開始,7月発売の予定だった――時点で,正直,このまま立ち消えになるのではないかとさえ思われたほどの超ニッチ製品を,こうして最終的に市場へ投入してきたASUSの“意地”は,認めるほかないだろう。自作派PCユーザー,PCゲーマーのためにも,ASUSには今後も,こういった“非正統派”な製品の,継続的な開発に期待したい。
- 関連タイトル:
GeForce GTX 200
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Republic of Gamers
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