レビュー
“シングルGPU最速”カードは,ハイエンドゲーマーの琴線に触れるか
ELSA GLADIAC GTX 285 1GB
MSI N285GTX-T2D1G-OC
ZOTAC GeForce GTX 285
» デュアルGPUソリューション「GeForce GTX 295」の“シングルGPU仕様版”ともいえる「GeForce GTX 285」のレビューをお届けしたい。55nmプロセス技術で製造され,「GeForce GTX 280」より10%高速とされる新製品だが,果たしてそのパフォーマンスは,誰のためのものだろうか。
今回は,エルザジャパンから「ELSA GLADIAC GTX 285 1GB」,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから「N285GTX-T2D1G-OC」,そしてZOTAC Internationalの販売代理店であるアスクからは「ZOTAC GeForce GTX 285」(型番:ZT-285E3LA-FSP)を入手できたので,これらを用い,ハイエンド環境におけるGeForce GTX 285の立ち位置を明確にしてみたいと思う。
ZOTAC GeForce GTX 285 メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 予想実売価格:4万5000円前後(2009年1月15日現在) |
外観はGTX 280とほとんど同じだが
16枚のメモリチップは基板片面に集約
NVIDIAは「GTX 285のリファレンスクロックは存在しない」という立場を取っているため,GTX 285の動作クロックは,同社が「Standard Shipping Board」と呼ぶ標準スペックを“リファレンス相当”として掲載しているが,ご覧のとおり,「プロセスルールをGTX 280の65nmから55nmへ微細化することで消費電力の低減を図り,同時に動作クロックの引き上げを果たしたモデル」という理解が,GTX 285については正しい。
240基というStreaming Processor数や512bitのメモリインタフェースはGTX 280から変わっていないため,ざっくり「クロックアップモデル」と捉えても,差し支えはほとんどないだろう。
動作クロックはELSA GLADIAC GTX 285 1GBとZOTAC GeForce GTX 285が標準仕様どおりとなっており,N285GTX-T2D1G-OCのみ,コアクロックが680MHz,メモリクロックが2.5GHz相当へと,カードメーカーレベルで引き上げられている。
もっとも,3製品のうち,代表してELSA GLADIAC GTX 285 1GBのGPUクーラーを取り外してみると,ヒートシンクに,低コスト化とも軽量化とも取れるデザインの変更がなされている。
また,基板レベルでは,メモリチップの配置がGTX 280から大きく変わったのが目を引く。
GTX 280では,基板の両面に8枚ずつ,計16枚のメモリチップを搭載しており,GPUから見て背に配置されたメモリチップは,放熱板を兼ねたカバーによるパッシブクーリングになっていた。これに対してGTX 285では,GPUの周りに16枚のメモリチップをズラリと並べることで,GPUクーラーが搭載するファンによるアクティブクーリングが可能になっている。
GTX 285の電源周り |
搭載するメモリチップ |
なお,搭載するメモリチップはHynix Semiconductor製のGDDR3「H5RS5223CFR-N3C」(0.77ns品)で,定格クロックは1.3GHz。GTX 285の標準メモリクロックは2484MHz相当(実クロック1242MHz)とされているので,わずかだがマージンはある計算だ。
そのほか,グラフィックス周りを制御する専用チップ「NVIO2」を搭載するあたりはGTX 280と同じ。先ほど示したGPU-Zでは,コアリビジョンがB1と表示されているが,GPUパッケージ上の刻印は「G200-350-B3」「0847B3」で,B3リビジョンなのが分かる。
ドライバは公式最新版の181.20を利用
3/2-way SLIでのパフォーマンス検証も実施
テスト環境は表2に示したとおり。1週間前に掲載したGTX 295のレビュー記事と,ベースは完全に同一となる。用いたグラフィックスドライバ「GeForce Driver 181.20」は,GTX 285のみ,NVIDIA公式サイトで公開されたもの,それ以外はレビュワー向けに配布されたものとなるが,両者の違いは「GTX 285に対応しているかどうかだけ」(NVIDIA)だそうなので,今回は同じものとして扱う。
テストに当たって,
- テスト内容などによってCPUのクロックが変動するのを防ぐため,「Core i7-965 Extreme Edition 965/3.20GHz」でサポートされる自動オーバークロック機能「Intel Turbo Boost Technology」を無効化する
- 3-way以上のNVIDIA SLI(以下,SLI)構成をテストするため,OSには32bit板Windows Vista Ultimateを用いる
比較対象には今回,新たにHD 4870 X2の4-way ATI CrossFireXを加えつつ,残るスコアで流用できるものは積極的に先の記事から流用した。主役となるGTX 285は,シングルカードのテストをELSA GLADIAC GTX 285 1GBと,クロックアップモデルであるN285GTX-T2D1G-OCの2枚で行い,2-way SLIはこの2枚を組み合わせ,さらに3-way SLIではZOTAC GeForce GTX 285も用いる。2/3-way SLI動作時のプライマリはELSA GLADIAC GTX 285 1GBだ。
SLI構成を行うと,動作クロックは最も低い製品のそれで揃えられるので,N285GTX-T2D1G-OCがSLI構成に組み込まれることに問題はない。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠。また文中,グラフ中とも,2-way SLI,3-way SLIは[ ]入りで付記し,さらにGTX 295のSLI動作は「GTX 295[Quad SLI]」,HD 4870 X2の4-way ATI CrossFireX動作は「HD 4870 X2[4-way CFX]」と表記する。また,N285GTX-T2D1G-OCは「GTX 285[OC]」と記載し,GTX 285と区別することにしている。
予告どおり,GTX 280比で1割前後のスコア向上
3-way SLI動作の完成度はまだ高くない
今回は,見やすさを考えて,シングルカードとマルチGPUでグラフを分けることにするが,まず,グラフ1,2は,3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)を,「標準設定」で実行したテスト結果。シングルカードでは,デュアルGPUソリューションであるGTX 295やHD 4870 X2の強さが光る。同時に,GTX 285では,GTX 280からの上積みをはっきりと確認できよう。
このクラスのマルチGPU構成だと,もはや3DMark06の標準設定ではスコア差がほとんど開かないが,しかしGTX 285[3-way SLI]だけは,ドライバの不具合なのか,スコアを大きく落としている。
同じく3DMark06で,4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」のテスト結果をまとめたのがグラフ3,4で,一言でまとめるなら標準設定と同様の傾向を示している。GTX 285[3-way SLI]の,3DMark06に向けた最適化はまだ十分でない印象だ。
グラフ5,6は,標準設定における「Crysis Warhead」の平均フレームレートをまとめたものになる。シングルカードでは,GTX 295がほかを寄せ付けていない。一方GTX 285は,GTX 280と比べてクロック分はスコアが伸びている,といったところか。ただし,GTX 285[OC]のメリットはほとんどない。
マルチGPUでは,50fps付近でCPUボトルネックによる頭打ちが生じているが,1920×1200ドットでは,3-way SLIのメリットを確認できる。
高負荷設定におけるCrysis Warheadの結果がグラフ7,8。シングルカードの傾向はあまり変わらないが,マルチGPUではGTX 285[3-way SLI],GTX 285[2-way SLI]が,それぞれGTX 280の3/2-way SLIからしっかりとスコアを伸ばしている。3DMark06で見られたような,3-way SLI動作時の落ち込みもない。
シェーダプロセッサ数の違いがスコアに影響を及ぼしやすい「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)における標準設定のテスト結果がグラフ9,10だ。本タイトルにおいて,GTX 285はGTX 280に対して,スコアで10%弱の上積みがあるが,GTX 295(やHD 4870 X2)にはまったく歯が立たない。
また,3-wayと2-way,どちらのマルチGPU構成時においても,GTX 285のほうがGTX 280より確実にスコアが高い点にも注目しておきたいところだ。
高負荷設定の傾向も,基本的にはまったく同じといっていい(グラフ11,12)。
続いて「デビル メイ クライ 4」だが,標準設定のテスト結果をまとめたグラフ13,14において,GTX 285はGTX 280と比べてスコアは10%程度高いが,GTX 295には最大で46%という大差を付けられている。マルチGPU構成だと,GTX 285[3-way SLI]とGTX 280[3-way SLI]の間に違いはほとんどないものの,2-way SLIでは高解像度を中心に,そこそこの差がついた。
高負荷設定でもほとんど傾向は変わらず(グラフ15,16)。2-way SLIは1920×1200ドットで上位陣から多少置いて行かれるが,現実問題として,問題のあるスコアではない。
「Company of Heroes」の標準設定も,デビル メイ クライ 4とよく似た結果になっている(グラフ17,18)。300fps前後で生じているCPUボトルネックをさておくと,シングルカードでGTX 285のスコアはGTX 280と比べて最大で10%ほど高い。マルチGPUはCPUボトルネックでスコアが荒れ気味になっているので,いったん保留しよう。
というわけで高負荷設定の結果がグラフ19,20だが,興味深いのはマルチGPUで,3-way SLI,2-way SLIとも,GTX 285とGTX 280の間には明確なスコアの差がある。その差は最大で20%弱。ゲームタイトルによっては,GTX 285のマルチGPU構成にかなりの期待ができる場合もあるようだ。
最後は「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果だが,標準設定のスコアをまとめたグラフ21,22では,安定的にデュアルGPUソリューションのスコアが高く,GTX 285はやはりGTX 280より最大で10%ほど伸びているものの,“2強”には(HD 4870 X2でCPUボトルネックが生じている気配の1024×768ドットを除くと)届かない。
マルチGPUの結果はご覧のとおりで,3DMark06と同様に,GTX 285[3-way SLI]のスコアが不自然な落ち込みを見せている。
高負荷設定のスコアもまったく同じで,GTX 285[3-way SLI]の信頼性向上は,ドライバのアップデート待ちになりそうだ(グラフ23,24)。なお,GTX 295[Quad SLI]のスコアが,グラフ22,24で一部N/Aなのは,8日の記事でお伝えしたとおり,スコアを取得できなかったためである。
55nmプロセス技術の効果はてきめん
GTX 280から15〜20Wの消費電力の低減を実現
さて,冒頭でも述べたとおり,GTX 285では,製造プロセスが55nmへとシュリンクしたことで,公称消費電力がGTX 280の236Wから183Wへと,53Wも引き下げられた。この事実は,実際のゲームプレイにおける消費電力をどれだけ左右するのか。いつものように,消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用して,システム全体の消費電力を測定することにした。
テストにおいては,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
シングルカード構成におけるテスト結果をまとめたのがグラフ25になるが,GTX 280と比べて,アイドル時で15W程度,アプリケーション実行時に20〜30Wの低減を実現している。
この違いは,マルチGPUだとより顕著になる。グラフ26を見てみると,GTX 285[3-way SLI]は,GTX 280[3-way SLI]と比べて,アプリケーション実行時に60〜100W程度も低いのだ。
GTX 285[3-way SLI]よりもGTX 295[Quad SLI]のほうが消費電力が低いのは,グラフィックスカード3枚と2枚の差であろう。
さらに,3DMark06を30分連続実行した時点を「高負荷時」として,GPUの温度を測定した結果がグラフ27,28である。測定に用いたのは,前述のGPU-Z。システムは21℃の室内で,PCケースに組み込まない,いわゆるバラックの状態で検証している。
GPUクーラーが異なるため,横並びの比較に意味はあまりないが,それでも,GTX 285のGPU温度がGTX 280と同等以下のレベルにあるのは確認できる。プロセスシュリンクは,温度面にもいい影響を与えていると述べてよさそうだ。
シングルカードよりもマルチGPU構成時のほうがGPU温度で下回る例があるのは,後者でカード1枚1枚にかかる負荷が前者よりも低いためだと思われる。
コストパフォーマンスはGTX 295に軍配か
SLIを前提としないなら候補になるが,割高感は否めず
テスト結果はNVIDIAによる謳い文句を裏づけるもので,GTX 285は,GTX 280よりも最大で10%程度,ベンチマークスコアが高くなっている。
この「10%」という値を大きいと見るか小さいと判断するかは意見の分かれるところだろうが,GTX 295のスコアを見たあとだと,パンチの効いていない印象を拭えないのも確かだ。少なくとも,GTX 280を利用している人が,パフォーマンス向上を狙って買い換える対象にはならない。
ただ,問題は価格だ。GTX 295の実勢価格は5〜6万円程度。一方,GTX 285の予想実売価格は4〜5万円程度(※いずれも2009年1月15日現在)で,ベンチマークスコアの違いからすると,価格差が少ない。GTX 295のほうがコストパフォーマンスに優れるのは明らかだ。
確かに,GTX 295は,カード内部でSLI構成になっているため,非対応タイトルだとSLIの恩恵を受けられない,あるいは先ほど述べた電源周りの課題などといったマイナス点を抱えるものの,それを差し引いても,パフォーマンスの違いはいかんともしがたい。
以上を踏まえるに,ハイエンド指向のゲーマーにとってベターな選択肢は,純然たる性能はもちろん,コストパフォーマンスという観点からもGTX 295になる。電源ユニットなど,トータルコストを考えると,GTX 285も選択肢にはなり得るが,やはり”割高”という印象は拭えない。少なくとも搭載カードの平均店頭価格が4万円を下回らないことには,GTX 285の価値を見出すのは難しいのではないだろうか。
- 関連タイトル:
GeForce GTX 200
- この記事のURL:
キーワード
Copyright(C)2008 NVIDIA Corporation