レビュー
499ドルの“史上最速シングルカード”がもたらす価値を考察する
ZOTAC GeForce GTX 295
MSI N295GTX-M2D1792
» 昨年末にペーパーローンチされていた,NVIDIAのウルトラハイエンド向けデュアルGPUソリューション「GeForce GTX 295」。世界最速を謳う“シングルカード”の店頭発売を目前に控えたこのタイミングで,宮崎真一氏によるレビュー記事をお届けしたい。最速を求めるゲーマー諸兄諸姉はぜひご一読のほどを。
2009年1月8日23:00に販売解禁を迎えたことで,明けて9日朝からは店頭に並ぶものと思われるが,NVIDIA製品では「GeForce 9800 GX2」(以下,9800 GX2)以来となる“2GPU搭載のシングルカード”は,「ATI Radeon HD 4870 X2」(以下,HD 4870 X2)に奪われた,“シングルカード最速”の座を奪い返すことができるのか。
今回4Gamerでは,ZOTAC Internationalの販売代理店であるアスク,そしてMSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから,搭載製品「ZOTAC GeForce GTX 295」(型番:ZT-295E3MA-FSP),「N295GTX-M2D1792」の貸し出しを受けられたので,さっそく,その特徴とパフォーマンスをチェックしてみたいと思う。
ZOTAC GeForce GTX 295 メーカー:ZOTAC International 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 予想実売価格:6万円前後(2009年1月8日現在) |
GeForce 9800 GX2を踏襲した2階建てデザイン
洗練は進むも“グラフィックスボックス”に変わりなし
GTX 295の主な仕様は2008年12月18日の記事でお伝えしているが,あらためて確認しておこう。GTX 295と,本稿で比較する「GeForce GTX 280」(以下,GTX 280),9800 GX2,HD 4870 X2の主なスペックは表1のとおりだが,早い話,「Streaming Processor数を240基に増強した『GeForce GTX 260』を組み合わせた製品」がGTX 295である。
今回用意したZOTAC GeForce GTX 295とN295GTX-M2D1792は,いずれもNVIDIAのリファレンスカードと共通のデザインを採用しており,カードベンダーごとのシールを除くと,カードの外観はまったく同じ。そこで,今回はZOTAC GeForce GTX 295とリファレンスカードを用いて,カードの構造を見てみることにしたい。
カード裏面のカバーが省略されているのもトピックといえ,全体として,ゴツゴツした印象が和らいでいるが,NVIDIAによると,9800 GX2のGPUクーラーと比べ,GTX 295のそれは冷却能力が46%向上したとのことなので,コストダウンというよりは,冷却周りを最適化した結果なのだろう。
なお,外部インタフェース部にはLEDが搭載されているが,これはNVIDIA SLI(以下,SLI)構成時に,どちらのGTX 295カードがプライマリになっているかを示すもの。通常動作時は緑に光るのだが,SLI構成時はプライマリ側のみ青色LEDも点灯する。SLIブリッジコネクタは1系統分のみ搭載し,シングルカードでの2-way SLIか,2枚差し時のQuad SLI,いずれかがサポートされる点も含め,このあたりは9800 GX2から変わっていない。
PCI Express x16コネクタを持つカード(以下,「メインカード」)と持たないカード(以下「サブカード」)側,それぞれに1基ずつ搭載されたGPU間は,メインカード側に用意されたPCI Expressブリッジチップ「nForce 200」と,“ボックス”内部を走る2系統のリボンケーブルで接続される仕様。メインカード側にはこれに加えて,GeForce GTX 200シリーズでグラフィックス出力周りを制御する「NVIO2」を搭載しており,密度は相当高い。
ただし,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.3.1)では,プロセスルールこそ55nmと表示されるものの,リビジョンはB1と返されており,情報を正しく取得できていない。
Quad SLIテストのためWindows Vista環境を用意
GTX 280の3/2-way SLIとも比較
また,上で挙げたGTX 295とGTX 280のうち,シングルカードでのテストに用いたのはZOTAC GeForce GTX 295とリファレンスカード2枚中の1枚。残るカードは,SLI構成時に用いている。
ELSA GLADIAC GTX 280 1GB 定番GTX 280カードの1枚 メーカー:エルザジャパン 問い合わせ先:エルザジャパン サポートセンター TEL 03-5765-7615 実勢価格:6万4000円前後(2009年1月8日現在) |
EAH4870X2/HTDI/2G リファレンス仕様のHD 4870 X2カード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:6万7000円前後(2009年1月8日現在) |
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠。GTX 295のSLI構成はQuad SLIとなるので,以下本稿では「GTX 295[Quad SLI]」と表記。同様に,GTX 280の3/2-way SLIも,「GTX 280[3-way SLI]」「GTX 280[2-way SLI]」と,GPU名の後ろに[]書きで構成内容を付記する。
スコアはややバラつくものの
GTX 280からの上積みはかなりある
まずは「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)から見ていこう。グラフ1,2を見ると分かるように,描画負荷の低い「標準設定」だとそれほど大きな差にならないものの,このクラスのGPUを購入してゲームをプレイするなら当然適用することになるだろう4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを行った「高負荷設定」だと,GTX 295とGTX 280の差は最大で約41%にも達する。
GTX 295がGTX 280[2-way SLI]に届かないのは,スペックからするとまったく妥当。GTX 295[Quad SLI]とGTX 280[3-way SLI]ではほぼ互角で,Quad SLIは3DMark06を前に,そのポテンシャルを持て余し気味だ。一方,3DMark06では,HD 4870 X2の強さも光っている。
実際のゲームではどうか。2009年1月時点において,最も描画負荷の高いタイトルの一つであるFPS,「Crysis Warhead」のスコアを見てみると,50fps付近でCPUボトルネックが生じており,頭打ちが見られる(グラフ3,4)。
そのため,高解像度を見ていくことにするが,標準設定,高負荷設定とも,GTX 295はGTX 280から大きくスコアを伸ばし,HD 4870 X2も置き去りにしている。Crysis Warheadは,マルチGPU構成のメリットが得にくいタイトルとして知られてきたが,Release 181で,GeForce Driverの最適化がかなり進んだようだ。
ただし,GTX 295[Quad SLI]は,GTX 280[2-way SLI]といい勝負を演じてしまっており,まだまだ最適化の余地があるのも窺える。
GTX 295が圧巻のスコアを示した一つの例が,グラフ5,6に示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果である。
Call of Duty 4は,比較的素直にマルチGPUの効果,そしてシェーダプロセッサ数の違いがスコアに反映されやすいタイトルだが,240基×2という構成のGTX 295はHD 4870 X2と互角以上に立ち回り,さらにGTX 280に対しては83〜91%という,圧倒的な差を示す。GTX 295[Quad SLI]がGTX 280[3-way SLI]を大きく上回っている点にも注目したい。
同じく,マルチGPUに最適化されている「デビル メイ クライ 4」の結果がグラフ7,8となる。“シングルグラフィックスカード”製品として,GTX 295のパフォーマンスはズバ抜けて高い。一方,GTX 295[Quad SLI]はGTX 280[3-way SLI]の後塵を拝することのほうが多く,わずかながら逆転するのは高負荷設定の1920×1200ドットのみである。
続いて取り上げる「Company of Heroes」もマルチGPUの恩恵を受けやすいタイトルだが,さすがにウルトラハイエンドクラスのマルチGPU構成を前にすると“軽すぎる”ようで,300fps前後でCPUのボトルネックによる頭打ちが発生している(グラフ9,10)。
ただ,そんななかでもGTX 295は安定して高いスコアを示しており,とくにHD 4870 X2に対するアドバンテージが明確だ。
一方,GTX 295[Quad SLI]のスコアは,標準設定においてシングルカード時よりも低く落ち込んでいる。あまりにも描画負荷が低いと,4基のGPUで同期を取ることが足枷(あしかせ)になってしまっているのではなかろうか。
パフォーマンス検証の最後,グラフ11,12に示すのは,レースタイトル「Race Driver: GRID」(以下,GRID)のテスト結果だが,ここではGTX 295[Quad SLI]に問題が発生した。というのも,標準設定の1920×1200ドット,そして高負荷設定で,テスト中にゲーム自体が強制終了してしまうか,フリーズしてしまうのである。
NVIDIAは,北米時間2009年1月2日付けでレビュワーに配布したGeForce Driver 181.20では,「Far Cry 2」「Fallout 3」「Need for Speed: Undercover」「Left 4 Dead」におけるパフォーマンス向上と合わせて,「GRIDの実行時にBSOD(※ブルースクリーン)を迎える問題を解決し,高解像度とアンチエイリアシング適用時のパフォーマンスを向上させた」と説明されているが,Quad SLIについてはまだまだ練り込みが足りなかったようだ。今後のドライバアップデートに期待しつつ,今回はN/Aとする。
というわけで,スコアを取得できた部分について見ていくと,GTX 295はもちろん,9800 GX2やHD 4870 X2といったデュアルGPUソリューションが比較的高いスコアを出している。一方,GTX 280[3-way SLI]のメリットはまったくなく,3-wayやQuad SLIは,(3DMark06のとき同じく)パフォーマンスを持て余している印象だ。
消費電力はGTX 280から60Wほど増加
Quad SLIでは55nmの恩恵も垣間見える
パフォーマンスでは良好な値を示したGTX 295だが,気になるのはその消費電力である。いくら55nmにプロセスルールを微細化したとはいえ,GPUを2基搭載し,最大消費電力は300W弱。GTX 280と比べて電源ユニットに対する要求がシビアになっていることは想像に難くない。
そこで,いつものようにログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用してシステム全体の消費電力を測定することした。レギュレーション準拠で,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時としている。
その結果をまとめたのがグラフ13。値を入れるとグラフが大きくなりすぎるため,値は別途表3に示しつつ,グラフはダイジェスト版とした。画像をクリックすると完全版を別ウインドウで表示するので,興味のある人は併せて参照してほしい。
さて,GeForce GTX 200シリーズのGPUはアイドル時における消費電力の低さに定評があるが,果たしてGTX 295も,HD 4870 X2を下回っており,悪くないレベルだ。アプリケーション実行時の消費電力は(ややバラつくが)400W前後で,GTX 280搭載システムが340W前後だから,ほぼスペックどおりの差が表れているといっていいだろう。また,GTX 295[Quad SLI]がGTX 280[3-way SLI]より総じて100W前後低い点にも注目しておきたい。
さらに,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」としてGPUの温度を測定したものがグラフ14である。測定に用いたソフトウェアは,前出のGPU-Z。室温は21℃で,システムはケースに組み込まない,いわゆるバラック状態だ。
取得できたGTX 295のGPU温度は79℃。GTX 280からわずかに高くなっているものの,ハイエンドGPUとしては気になるレベルでない。その構造上,対応するサードパーティ製のGPUクーラーが登場するとは考えにくいが,筆者の主観になることを断ったうえで述べるなら,耳障りな風切り音もなく,静音性は申し分ない。
なお,GTX 295[Quad SLI]やGTX 280[3-way SLI]のほうがシングルGPU構成よりも温度が低いのは,負荷が分散され,1GPU当たりの発熱量が下がっているためだと考えられる。
フラグシップが499ドルはお買い得
シングルカード最速を望むなら大いにアリ
しかし,GTX 295を取り巻く環境,とくにドライバ周りの環境は,9800 GX2時代とは異なる。対応ドライバとなるRelease 180世代のGeForce Driverでは,2008年10月22日の記事でお伝えしたとおり,SLIとマルチディスプレイの共存など,利用できて然るべきだった機能が実装され,使い勝手は格段に向上しているのだ。
また,肝心要の3D性能も,こと,ウルトラハイエンドGPUで求められる高解像度,高レベルのアンチエイリアシング適用環境においては,GeForce GTX 200シリーズの従来製品を圧倒し,競合に対しても十二分に優位。しかも,499ドルという価格設定は大いに魅力的だ(※“初値”は6万円を超えてきそうだが……)。フラグシップモデルとしては抜群のコストパフォーマンスを誇る製品といえ,499ドルというNVIDIAの想定売価に近いところまで下がってくれば,シングルカード最速を狙うハイエンドゲーマーにとって,大いに検討に値する存在となるだろう。
しかし同時に,1枚で十分ともいえる。Quad SLIの信頼性はGTX 295(=2-way SLI)と比べて低く,さらに,メリットのある局面は超高解像度環境に限られるからだ。ハイエンド志向のゲーマーにとっても,ほとんどの場合においてオーバースペックなQuad SLIは,9800 GX2が登場したときと同様,今回も「微妙」とまとめざるを得まい。
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