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すべてが噛み合った! 「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII イン・ノミネ」の意義を中心にレビュー
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印刷2008/10/20 13:12

レビュー

新世代パラドゲーエンジンのネームシップ,ついに竣工

ヨーロッパ・ユニバーサリスIII
イン・ノミネ【完全日本語版】

Text by 徳岡正肇

»  Paradox Interactiveの歴史モチーフ作品全般に通じた,アトリエサード 徳岡正肇氏が「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII イン・ノミネ」で加えられた画期的なルール/システム変更と,バランシングについて評価する。やはりEU3は「イン・ノミネ」まで一気買いが正解のようだ。


パラドを知る人に「イン・ノミネ」の真価を語ろう


 ヨーロッパで近世に当たる時代の,全世界を扱ったストラテジーゲーム「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」(以下,EU3)。その拡張パック第2弾が「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII イン・ノミネ」(以下,イン・ノミネ)である。プレイにはEU3のみならず,拡張パック第1弾「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII ナポレオンの野望」(以下,EU3NA)も必要だ。サイバーフロントからはセットになった「ヨーロッパ・ユニバーサリスIIIコンプリートパック版【完全日本語版】」も発売されているので「初代EU3なら持っている」という人には,なかなかややこしい選択になるが,とにかく3本全部持っている必要があると,憶えておこう。

タイトル画面にはジャンヌ・ダルクが登場。チュートリアルは3.1パッチで導入予定のようだ
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 イン・ノミネの登場によって,EU3というゲームは大きく変わった。プレイ開始時期が1399年になった(前に53年間延長)とか,選択できる国が30以上増えたとか,国策(5種追加)や宮廷顧問(23種追加)が増えたとか,そういった目先の変更は決して,イン・ノミネの本質ではない。

歴史セッティングを選ばなくても,プレイ開始直後はけっこう史実どおり。ベネディクト・アーノルドの評価にニヤニヤしてしまう
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 インタフェースの改良とデータ拡充がメインだったEU3NAと異なり,イン・ノミネにおける変更は,ゲーム性そのものを変える内容であり,かつ広範囲にわたる。そしてそれは,全体に好ましいものといえる。歴史ストラテジーゲームとして,さまざまな部分が改善されたのだ。

 以下,イン・ノミネによってEU3がどのように変貌したかを解説していきたい。もともとのEU3やEU3NAをプレイした人であれば,その変化は一層鮮やかに読み取れるだろう。逆にまだEU3に触れたことがないという人は,先にプレイレポートに目を通すことをおすすめする。

相変わらず非ヨーロッパの再現度は微妙


1399年からのスタートが可能。時間が長いぶん無茶もしやすいかと思いきや,さにあらず
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 変貌したといっても,もちろんプレイ目標やゲームの大枠は変わってはいない。プレイヤーは中世末から近世における国家の絶対的な指導者となり,自分の担当国を運営していく。Paradox Interactive作品の常として,ゲームの目的は基本的にプレイヤーが決めるものだが,世界征服のように大それた野望はまず達成不能だし,国によっては存続すら難しい。本作は基本的に,歴史の雰囲気を楽しむ作品なのだ。
 プレイは1399年(イギリスにおけるランカスター朝の成立≒中世の終わり,近世の開幕)に始まり,1820年(ナポレオン体制の完全な終焉≒近代黎明期の終了)までの期間が設定されており,プレイヤーはその期間のうち,好きな年月日から開始できる。

 この期間に存在した国あるいは集団を広汎に選べるのも,いつものParadox Interactiveスタイルで,その数は優に100を超える。マップは全世界をカバーしているため,作品名に逆らってインカ帝国で南米を“不沈空母”にしたり,中国でロシアと大戦争したりも可能だ。
 とはいえ,基本的には作品名が示すとおり,ヨーロッパ諸国がプレイの中心になるだろう。アジア/アフリカ/アメリカでのプレイは,史実再現の粗さも含めて「そういうこともできる」程度に捉えておいたほうがよい。

必要な箇所すべてにヘルプが


マウスオーバーでの情報表示。とりあえずオブジェクトの上にポインタを置けば,だいたいの疑問は解決する
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 具体的なポイントを紹介していくに当たって最初に強調すべきは,イン・ノミネで実現したインタフェースだ。
 従来Paradox Interactiveの作品は,着想やモデル化技法において世界中で高い評価を受ける一方,情報の閲覧性や操作性は,お世辞にも評判が良いとはいえなかった。初代EU3ではその点について大胆な改良が行われ,EU3NAでさらに改善されたが,本作ではそれをさらに進展させた長足の進歩が見られる。

 まず,ほとんどの項目に対してマウスオーバーによる簡易ヘルプ表示が用意された。この手法自体は同社従来作品でも部分的に用いられていたものの,本作での徹底ぶりは素晴らしい。
 単に簡易ヘルプが表示されるというだけではなく,その記述内容も必要十分なのだ。ストラテジーゲームのそれだけに,あくまでプレイを助ける存在であって,これがあればマニュアルまで不要になるというわけにはいかないが,簡にして要を得たヘルプで,プレイは格段に楽になった。

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ボタンがグレーになっている場合,何が理由でグレーなのかも表示してくれる。これがけっこう徹底されていて好印象
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年間の純収入も表示されるようになった。だが,激しい商人の送り込み合いが起こっているときには,まるであてにならない

 マウスオーバー・ヘルプに表示される可変情報部分も秀逸で,本作ではついに「年間どれくらいの予算を使えるか」が表示されるようになった! EUシリーズでは長らく,その年の1月1日に1年分の税収が入り,それを翌年までの間,自分で計算しながら使っていく(当然ながら月々の財政収支は基本赤字)というシステムだったのだが,イン・ノミネは一味違う。

 例えば収入予測が200ダカットで,月々の収入が−10ダカットという状況なら,きちんと「今年は80ダカットが利用可能」と表示されるようになったのだ。

 「何をそんなことで喜んでいるんだ?」と言われそうな話であるが,これは前述のとおり,シリーズを通じて改善されてこなかった要素なのである。確かに陣取りゲームの性質上,収入が非常に不安定で,指標としてあまり有用でないという側面はある。とはいえ,これがあるとないとではプレイしやすさが格段に違う。
 ある意味本作に対するParadox Interactiveの決意のほどが汲み取れると言っても過言ではない。同様な「操作性と情報閲覧性に関する積年の課題」は,あちこちで改善されている。

 もちろん,まだまだ単純な改善の余地は随所に残っている。また,ゲーム全体の見通しのよさを確保するため,パラメータとして小数を用いることすら拒否したシヴィライゼーションシリーズと比較してどうかと言われれば,そんな高度な水準ではない。しかし,トータルで見れば飛躍的進歩であるし,もはや格別難しいゲームではなくなったといえよう。いや,プレイバランスはまた別として。

近世ヨーロッパ的「造反有理」


「これでもEU3か?」とため息をつきたくなるような反乱祭り。そして反乱軍それぞれが強い。実につらい
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 プレイ内容面における改善/変更も重要だ。変更点があまりにも多すぎて,どうまとめたものか困るくらいである。とはいえ,最初に受ける印象は,おそらく「反乱が危険すぎる」ではないだろうか。

 本作において,反乱の持つゲーム内的な機能は大幅に拡充された。反乱軍には,反乱の動機(主体)が与えられるほか,動機如何によって,その規模や性質が変化する。
 単に税金が高くてイヤだというだけであれば,話は簡単,軍隊を送って叩き潰せば,たいがい片付いてしまう。しかし,これが国家独立を目指す民族闘争だったり,宗教的情熱に基づいた蜂起だったり,貴族階級を主体とした権力闘争だったりすると,話は変わってくる。
 彼らは指揮官を有し,また戦闘に敗北してもいったん退却して,なおも戦い続けるのだ。中小国の軍隊並みか,あるいはそれ以上の戦闘力があると思ってよい。
 こうした反乱が発生する理由は10種類用意されており,時代や環境,地域に応じて異なる傾向の反乱が起きる。

地方の反乱を抑えるための施政方針も多い。地方税は減少するが,反乱抑制費用と思えば安いもの
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 ちなみに,反乱軍とは交渉も可能だ。現状では交渉といっても相手に妥協する以外できない(お金を貢いだり,プロヴィンスの独立を認めたり)が,討伐以外の道が開かれた意義は大きい。反乱勢力についても厭戦感情や国威などが計算されているようなので,ディテールアップする余地は十分にありそうだ。

 反乱については,いざ発生したとき怖いというだけでなく,発生率そのものが底上げされた。異なる文化や宗教の土地に進出する場合の“反乱祭り”の恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。海を隔てたところで拡大すれば本国まで累が及ぶことはないにしても,純粋に収支だけで見れば,文化や宗教の適合しない地域への軍事的拡張は素晴らしくマイナスである。

 アフリカ南端の喜望峰や,新大陸への足がかりなど,どうしても譲れない地政学的アドバンテージがあるならともかく,そうでないならば無闇な征服活動は避けたほうが無難だろう。征服そのものは可能であったとしても,その後の維持で文字どおり「血を見る」のだ。このバランシングには実に,Paradoxらしさが感じられる。

プレイの方向付けに重要な「施政方針」と「ミッション」


 反乱と同様に,システム変更で強い印象を受けるのは,「施政方針」と「ミッション」だろうか。
 施政方針は,国家/宗教/プロヴィンスという,三つの領域にそれぞれ存在する,いわば具体的な政策そのものである。「スペインの成立」「ナントの勅令」といった,かつてはイベントであったものから,「議会解散法を可決」「海賊対策法を可決」といった戦略的チョイス,さらには「年に一度の地方祭」のように,プロヴィンス単位のローカルな施政まで,その内訳は多様だ。

特定国家専用の施政方針。国ごとの個性が分かる場面が増えた
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 施政方針は,一定の条件を満たすことで実施可能となり,その条件はマウスオーバーヘルプで明示される。もっとも,議論の余地なく有益なものはごく稀で,たいていはメリットとデメリットの抱き合わせだ。
 このため,どうあっても施政方針を核にプレイを進めざるを得ないということはなく,むしろ「十分に有利な国が,多少のデメリットを覚悟でさらに頭一つ抜け出る」「普通にやっていてはどうにもならない国が,デメリットは見なかったことにして,メリットを武器に戦う」など,一歩進んだプレイ向けともいえよう。
 いずれにしても,深く楽しもうとすれば存分に利用できるし,最初の頃はわけが分からなくても大丈夫,というシステムである。ゲーム全体を細かく,かつ明確にコントロールできるというメリットもさることながら,それがいたずらにゲームの間口を狭めてはいない点を,高く評価したい。

ミッション。まあ,その,あれだ,だいぶ難しそうな雰囲気
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 一方ミッションは,EU2でも見られた「達成するとボーナスが得られる,国家単位でのクエスト」のようなものだ。ミッションには「一定の財産を築け」「あるプロヴィンスを征服しろ」といった分かりやすいものもあるが,「ある国と友好関係を保て」といった,長期にわたる外交方針や,「イタリアを統一しろ」といった無理難題など,バラエティに富んでいる。

 本作において,ミッションの果たす役割は大きい。最も重要なのは,ミッションがAI担当国にもあり,AIはそれを積極的に達成しようとすることだ。EU2のミッションと異なり,本作のミッションはランダムで一つだけが選ばれるため,AI国家のミッション=その国家の方針と思ってよい。
 また,ミッションによって得られる国威や,ミッションに付随して生ずる外交関係もまた,プレイに重大な影響を与える。これについては,別途詳しく解説しよう。

この手のヒストリカルイベントも用意されている。MODとして自作し,増やすことも簡単
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 施政方針にもミッションにも,その国固有のものが存在する。当たり前だが「スペインの成立」という施政方針はカスティーリャやアラゴンにしか存在しないし,あるいはロシアには厭戦感情を減衰させる「ロシア総主教」があったりする。
 これらによって国々はより個性的な存在となったし,国別ミッションという形で,ナショナルAI(国別の固有AI)が復活したともいえよう。ただしかつてのナショナルAIと異なり,ミッションはプレイヤーが確認できる情報であるため,情報の見通しのよさはずっと上だ。

 なお,Paradox Interactive作品としてはいつものように,これらの設定はプレーンなテキストで書かれている。MOD制作者にとって,非常に作りがいのあるパートではないだろうか?

「宿敵」「脅威」ルールで,ままならない外交を再現


 外交部分にも面白い変更が加わっている。まず目につくのは,国家に「宿敵」と「脅威」が設定されたことだ。自国と目標を同じくし競合している国家は自動的に宿敵とされる。一方脅威は,自国のことを潜在的に危険とみなしている国である。
 従来,外交は平たくいって「友好度」と「大義名分」がすべてだったといってよい。婚姻などのルールはあるし,大義名分を得ると一口に言っても,その手管はいくつも存在したが,つきつめると,友好度と大義名分にだけ気を配っていればよかったわけだ。

宿敵,脅威といった概念が新たに加わった。外交の方針も,それぞれの影響を受けることになる
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 ところが本作のプレイには,友好度と大義名分以外に宿敵/脅威という判断基準が関与する。この結果,例えば「友好度は高く,また国際情勢を鑑みれば明らかにプレイヤー担当国と手を組むべき状態にある」という,これまでのEU3であれば二つ返事で同盟を受諾してくれていたような国が,「宿敵なので無理」といった反応を返すようになったのだ。これは中央集権的な専制国家を表現するに当たって,なかなか面白い手法といえるだろう。「クルセイダーキングス」の“人間関係”ルールをソフトに敷延したものともいえるが。

 また,外交や国家運営に関わるAI自体も,格段にチューニングされている。とくに,国家がその国家なりの戦略方針を決定し,それに応じた選択をしていくというギミックは,それがどのような影響を与えているか分かりづらいとはいえ,野心的な挑戦といえるだろう。

和平交渉の成否から確率が消えた。しかも,AIはかなり強気に押してくるので,戦争を始めるときには熟慮が必須
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 なかでも,和平交渉のAIはとても強化されている。これまでのような,価値の低いプロヴィンスや余剰資金を渡して戦争を終わらせるといった「お車代外交」は,ほとんど不可能と思ってよい。戦争が長引けば厭戦感情そのほかの悪影響があるので,さすがにどこかで妥協はしてくれるが,妥協までの道のりはずっと険しいものになった。

 ちなみに和平交渉においては,成功率という概念が撤廃され,成功か失敗の二択になった。ちなみに,成功するか否かは条件を提示した段階で明示される。このため,成功率は低くてもよいから無理そうな条件でひたすら和平コマンドを連発するという,あまりにもゲーム的なプレイ姿勢は阻止されている。

継続の手間が省かれた,宣教と植民


 ギミックの追加や細部の変更以外に,ルールがほぼ丸ごと変わった例も見受けられる。なかでも印象が強いのは,宣教師だろうか。
 宣教師による改宗のルールに関して,以前は「高い資金を投入し,数年後に成功か失敗かが決まる」という形式だった。成功率は,低いときで2割付近,高くて6〜7割といったところ。いってみれば高額のギャンブル(見返りは微妙)という設定である。これは,EU2から連綿と引き継がれるルールだった。

植民は半自動的に進行する。手動での操作は,どこに植民するかを決めることと,植民を加速したい場合のみだ
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 本作ではこのシステムにメスが入れられている。まず,改宗したいプロヴィンスを指定,そこに宣教師を送り込む。ここまでは同じだ。だが,宣教師はプロヴィンスの改宗に成功するまで無期限で活動し,1か月に1回,改宗が成功したかどうかのチェックがなされるようになった。成功率は低く設定(数%)されているが,宣教師を派遣するコストもまた下がっている。もっとも,宣教を続けるために維持費が要求されるので,本当にコストが下がっているわけではないが。

王室の婚姻外交は,EU2からほぼ同じ形で引き継がれている,数少ないギミックの一つ
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 また,宣教による改宗という結果にしても,これまでとは比較にならないメリットをもたらす。
 従来のEU3では,正直なところ宣教による改宗は,“趣味の領域”にすぎない印象があった。確かに改宗による効率上昇は見過ごせないとはいえ,経費は高いし,なにも宣教しなくたって,宗教に対する寛容度スライダーを調整すれば,最低限の問題は解決できていたのだ。

 ところが本作では,改宗に重要なメリットが生じた。というのも,宗教の寛容度スライダーが事実上固定になったためだ。反乱を抑止するために,改宗は重要な方策と化した。それと軌を一にして操作の手間が縮減している。先述のとおり一度,宣教師を派遣したら,あとは自動で事態が進行するのだから。このあたりの手際は,従来のParadox製品に見られなかったものだ。

 ちなみに自動化という点では,植民の手順も同様である。植民したい土地を選んで,植民者を送り出すところまでは同じだが,一度植民し始めてしまえば,あとは勝手に進む。単純に楽でよい。

シーパワーこそが植民地経営のカギに


国威はこんなところにも影響を及ぼす。最低でもゼロまでを維持したいところなのだが
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プレイバランスにも変化が見られる。といっても,当然ながらあらゆる国家に等しく世界征服の可能性が与えられたといった話ではなく,ゲームのパラメータやギミック間のバランス改善である。

 大きな調整の一つは,国威に関するものだ。従来,国威はゲームの進行にそこまで大きな影響を及ぼすものではなかった。もちろん高いに越したことはないが,低いからといって国が立ち行かなくなったりは,まずしないという,「ちょっとしたフレーバー的」パラメータだった。このため,同盟の義務違反による国威ペナルティなど,プレイ方針次第では,鼻で笑っていられるものだった。

 ところが本作では,国威の意味が重くなった。さまざまなアクションの成功率に国威が影響するだけでなく,低すぎると反乱軍との交渉ができなくなるなど,行動そのものが制限されるようになった。一応「国威なんて知ったことか」というプレイも不可能ではないが,国威を軽んじることによるペナルティは,かなり大きい。このため,ミッション達成による国威ボーナスは,それが+5.0程度であっても,すごく助かる。また国威にボーナスを与えてくれる宮廷顧問の“地位”は,確実に上昇した。

植民地は租税でなく関税をもたらすようになった。そして関税の規模が艦隊の規模に比例するというルールは,絶妙のアイデア
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 同様なバランス調整は,海軍関係にも見て取れる。従来の海軍は,割と微妙な存在だった。支配したいのが主として陸地である以上,戦争の帰趨はなんだかんだで陸戦が決める。一度大規模な陸軍を上陸させてしまえば,そこで事実上のお役ご免になることも,珍しくなかったのである。
 だが本作ではシーパワーの優越如何が,かなりクリティカルな影響を及ぼす。
 まず単純に,「海賊」が呆れるくらい凶悪になった。従来はあらゆる意味でカモでしかなかった海賊だが,本作によって驚異の戦闘力を保持するようになったのだ(これは密偵による工作にも影響を与える)。

 だがもっと重大なのは,植民地が租税を上納しなくなり,その代わりに関税収入をもたらすことである。そしてその関税収入は,国家が保有する戦闘艦の数に比例するのだ! 大植民帝国は,大海軍なしには成り立たないし,逆にいえば大海戦の結果一つで「日の沈まない帝国」が斜陽の時代に突入するかもしれない。これは素晴らしいアイデアだと思う。
 また,港の封鎖による効果と範囲が拡張されたことも効果的に機能している。とくに港湾の封鎖が戦勝点に影響を与えるところが大きい。陸軍では太刀打ちできなくても,制海権を保持することで戦況全体の“不利”判定を拒めるわけだ。

蹂躙攻撃と,焦土戦術が加わった戦闘


 戦争についても,面白い変更が随所に見られる。とりあえず陸戦のAIは賢くなっている様子。少なくとも以前と異なり,不思議な用兵はあまり見受けられない。またAI側が優勢なときは執拗な追跡を行う傾向があり,全体として「野戦軍の撃破か都市の攻略か」という,軍事上永遠の課題については,野戦軍の撃破を優先する傾向が強まったようだ。

戦闘の画面は相変わらずシンプル。むしろこうでなくては困る(?)
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 確かにこのゲームに関する限り,都市と野戦軍では復旧にかかるコストも時間も野戦軍のほうが大きいわけで,悪くない判断といえよう。
 また以前であれば,敵の足が速かった場合,追撃戦は不毛な追いかけっこになったところだが,本作では「戦闘開始5日以内に決着がついた場合,負けた側は2分の1の確率で全滅」というルールが追加されたため,緊迫感のある戦闘が展開される。

戦闘開始から5日以内に決着がつくと,50%の確率でこのとおり。以前であれば,ぞっとするような追いかけっこが起こったものだが,今回は殲滅機会がある。このため,人的資源の消耗度がこれまでとは比較にならない
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 このほか,焦土戦術がとれるようになったのも面白いところだ。いうまでもなくナポレオンのロシア遠征を意識したシステムではあるが,大規模な国家を扱うときなどには,いろいろと利用法がありそうだ。戦争に負けそうな状況で,割譲することがほぼ確定しているプロヴィンスが出始めたら,まあ,焦土になっても損はない。そもそもそういう性格のゲームだし。
 厭戦感情もかなり有効に機能するようになっており,安定度が高いほど厭戦感情も高くなるとか,戦闘に敗北すると厭戦感情が上昇するといったルールは,これら自体が興味深いばかりではなく,今後の発展形も大いに期待できる。

部隊の管理に関するボタンが新設された。いずれもなかなか便利に活用できる
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 なお,戦争関係でもインタフェースはかなりこなれてきている。とくに「傭兵部隊を分離」「攻囲軍を分離」のボタンは便利で,前者は部隊から傭兵だけを切り離して別部隊にしてくれるボタン(傭兵が不要になったときに2アクションで解雇できる),後者は都市の包囲に最低限必要な兵数だけ部隊を取り分けるボタンである。いずれも使い勝手はよい。
 それから,軍隊の移動ルートを変更する際,変更後も同じプロヴィンスを経由するのであれば,そのプロヴィンスまでの進軍がキャンセルされなくなった。以前のバージョンでも,Shiftキーを押して行き先を指定することでキャンセルを阻止できたが,どう考えても現仕様が真っ当である。……バグ修正に近いとはいえ,この「仕様」で苦い思いをすることは意外と多いので,改善は素直に喜べる。

どこを隠して“劇的な展開”を演出するか?


 このほかにも修正点は多い。ざっと列挙しよう。

■法王庁の御者
  • 教皇に対し,十字軍の宣言や特定国家指導者の破門宣言をお願いできるように
  • 枢機卿の買収に3か月のクールダウンタイムが必要となったので,御者の地位を維持し続けるのが難しくなった

■政体スライダー
  • 効果が修正された
  • 政体スライダーを動かしても安定度が減少しなくなった
  • 政体スライダーが一定期間で変更可能になるではなく,国家の規模に比例して再度変更可能になるまでの期間が長くなるように

■経済のモデル
  • 抜本的に見直されて物価がよりリアルな挙動を示すように
  • 需要と供給が時代や状況によって変動

■交易品
  • 植民地で何が交易品として産出されるかはランダムで決定
  • 植民が完了するまで,何が産出されるかは分からない

「書類を偽造」の効果は大幅に弱体化した。この手のリバランシングも随所に見られる
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 総合的にいって,ゲームとしての完成度は高い。従来のParadox Interactive作品であれば,この2倍くらい些末な要素が詰め込まれかねない気がする(つまりイン・ノミネは,パラドゲーにしては依然として少々薄味だ)が,「何を詰め込むべきか」という基本的な取捨選択は,本作で完了したと見てよいだろう。必要に応じてディテールを深めたりするのは,このエンジンを採用した作品それぞれを,どうデザインするかの問題だ。
 繰り返しになってしまうが,ゲームの見通しのよさ,インタフェースの良さは,完璧ではないにしても,ほとんど文句をつける余地を残さない。これまでパラドゲーといえば「面白いよ。でも△△△って部分は気をつけて」(△△△には「チュートリアルのポーランド軍があり得ないくらい強くてまず勝てない」「最初のプレイ国家としてイギリスを選ぶのだけはやめておいたほうがよい」など,作品によって実例がいろいろ)という言葉なしで,誰かに勧めるのは不可能だったが,イン・ノミネは,そういった前置きなしに勧められる作品になった。

 しいて本作に注文をつけるとすれば,「見通しがよすぎる」部分のバランス調整だろうか。
 マニュアルに「一番の目標はランダムな要素を減らし,きちんとした計算に基づいてゲームが進むようにする」とあるように,本作によってEU3はかつてないくらい見通しのよいゲームになった。国家の成立条件にしても,かつては別途用意したメモを見ながら,支配プロヴィンスを確認していたものだが,いまではゲーム内で簡単に確認できる。
 あるいは「この国のAIはこういうフラグを持っているから,ここで先にこのフラグを有効にしないとダメ」みたいにブラックボックスの奥底までこじ開けなくとも,ミッションや宿敵といった要素を見れば諸国が何をしようとしているのか,情勢を感じ取れる。

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パラドゲーの隠れた名物,「スカンジナビア」の建国。成立させるための条件が明示されるのは便利だ
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本作で増えた「リージョン」(いくつかのプロヴィンスがまとまった“地方”イベントなどの発生単位)で区切ったマップ。ちょっと見づらいのはご愛嬌

 だが,この見通しのよさゆえに,本作には「歴史の持つ,得体の知れない不条理」感覚が薄い。もちろん,不可解さとは確率論的事象であって,得体の知れない不条理などという修辞は文学的な感性にすぎないのかもしれない。でも,我々は歴史を確率論の集積として楽しみたいのではなくて,その文学的な感性の部分で遊びたいものなのだ。

 もっとも,ではこれが本当に致命的な問題かといわれれば,そんなことはないと思う。EU2ベースのエンジンでは,本作がもたらしたような見通しの良さを提供しようにも不可能だった。ここで筆者が問題にしているのは,「整理して見せられるものを,どれくらい隠すか」についてであり,「平たい確率論でなく,ところどころに異物としての100%や120%が存在すべき」という,趣味の領域でもある。技術的には,そこにはなんら困難はないのだ。

やろうと思えば,この手の不思議歴史を作ることだって可能。しかしマンハッタンで囲い込み運動……?
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 ……それはそうとして,ここまでしっかりゲーム本体を作り込んだのだから,マニュアルをもうちょっと分かりやすく作ればよいのに,とは思う。ストラテジーゲームという観念の遊びである以上,例えば「施政方針」のような新機能が書かれているページの冒頭には「施政方針とは何か」という概要説明がまずあるべきであって,決して「どこのボタンをどうクリックする」から,入るべきではないと思う。

 ともあれ,本作によってEU3はビザンチン帝国の復興を目指すことも可能であれば,中部ヨーロッパの魔女の大釜で,複雑極まりない外交に身を投じることでも十分ゲームを楽しめる作品に仕上がった。個人的にはプファルツで神聖ローマ帝国を打倒し,中欧に帝国を建設してみたいなあとか思うわけだが,読者の皆様はどんなプレイを思い描かれるだろうか。
 ……プファルツで統一ドイツとか絶対無理? 何をおっしゃいますか。「絶対無理」と思えるから,パラドゲーは楽しいのではないですか! イン・ノミネは,その楽しいパラドゲーの,新しいエンジンになり得るところまで到達した。それが偽らざる印象である。

ジェファーソン? ランドン? ランダム生成なのに,微妙に聞き覚えのある名前なのが笑える
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