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これぞ新世代のパラドゲー。「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII イン・ノミネ」プレイレポート
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印刷2008/10/03 11:00

プレイレポート

2本めの拡張パックで,広く深い歴史ストラテジーに

ヨーロッパ・ユニバーサリスIII イン・ノミネ【完全日本語版】

Text by 徳岡正肇


ついに完成を見たEU3


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 「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII イン・ノミネ」(以下,イン・ノミネ)は,1399年(英ランカスター朝成立)から1820年(ナポレオン体制の完全な崩壊)までの全世界を舞台に,さまざまな国の統治者となって国家を経営していく歴史ストラテジーゲームだ。
 進行はリアルタイムであるものの,随時ポーズ可能であり,進行速度も自由に変更できる。いわゆるRTSとはまったく異なり,アクション性のない純然たるストラテジーゲームである。

 本作をもって,EU3エンジンのいわば“試行錯誤”はいったん完了し,これまでやや野放図な印象のあったEU3が,いたって当を得た仕組みにまとまった。

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当然,日本も選択できる。ただし,リサーチの正確さと活躍可能性については要注意
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そ,それは時代がだいぶ違いませんか……?


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マルチプレイも健在。マルチ専用のバランス調整やシステム変更も行われている
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ゲームの設定は実に細かく管理できる。ただ,「イン・ノミネ」の追加要素が,これでオン/オフできてもよかった気はする
 製品としては「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」の第2拡張パックに相当し,プレイには「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」(以下EU3)と「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII ナポレオンの野望」が必要になる。サイバーフロントからは,この3製品をセットにしたパッケージも発売されているので,初めて挑戦する人もぜひ,「イン・ノミネ」込みでプレイしたほうがよい。あとで個々に触れるが,「イン・ノミネ」における抜本的なシステム改良は,それほどに意義深いものなのだ。

 プレイヤーはヨーロッパの勢力と論理が世界全域に拡大していく時代を眺められると同時に,やや大げさにいえば,その時代の雰囲気をも楽しめる。
 そしてその過程で,勢力を拡大しなくてはならない恐怖と,拡大することによる恐怖の間で板ばさみになった専制君主達の,苦悩と決断を追体験することとなるだろう。この鋭くもシニカルなジレンマこそ,Paradox Interactiveの歴史ストラテジーファンが求めてきたものだ。

国家と時代の選択。開始タイミングは1日単位で変更可能。明らかに生存に適さないと思われる国も,普通に選べてしまうのは従来どおり
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ちなみに日本は神道一色の国。EU2では仏教と混在していたが,それが宗教対立になるのは何か違うと思ったものだ
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植民した先で何が採れるかは運次第。ゲーム展開の基本でありながら,ギャンブル要素が最も強い行動かもしれない
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史実に沿った,ミッションオリエンテッドなプレイ


国家の「施政方針」を決定。メリットとデメリットの抱き合わせだ
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 「イン・ノミネ」では,国家の具体的な政策を決定できる「施政方針」と,国家の目標としての「ミッション」がプレイ要素として追加された。前者では「ナントの勅令」や「スペインの成立」といった大きな歴史的事業から,酒税法や地方の統治に関する決定まで,詳細かつ具体的に統治を行える。後者としては例えば「イタリアの統一」といった国家の目標が指定され,達成すると国家の威信が向上したりする。

 ミッションそのものは,ちょっと違った形で「ヨーロッパ・ユニバーサリスII」にもあった要素なのだが,AIもまた,その国に設定されたミッションを達成しようとするのが「イン・ノミネ」の大きなポイントだ。他国のそれを参照することで今後の動向をある程度推測できるし,その国家特有の政策方針やミッションもあって,全体として各国の個性が強化されている。

新たにミッションが発生したところ。カスティーリャならではのミッションである
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宗教面での施政方針決定。これももちろん副作用付きだが,改宗成功率+8.0%は驚異的とすらいえる
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プロヴィンスに対する施政方針の決定。プロヴィンス単位といえども,大きな選択が可能な場合も
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宣教師の派遣。いったん派遣を決定すれば,自動で進行してくれるのはとても便利。大規模な改宗も,困難だが不可能ではない
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 「ヨーロッパ・ユニバーサリスII」から無批判に継承されてきた部分については徹底的に再検討されることで,より洗練され,かつ大胆なルール/システムに生まれ変わった。それが最も強く感じられるのは外交,植民,宣教などの分野であり,操作に関してもプレイヤーの手間を省くように工夫されている。戦争中で手が離せないのに重要なアクションの入力指示が割り込んでくるといった,操作上のストレスはかなり軽減された。

 反乱ルールの充実を筆頭に,国家の規模が大きくなることによるペナルティが厳しくなっているのも重要なポイントだ。大帝国が1回の海戦における敗北をきっかけとして,没落への道を歩み始めたりするといった“大国の興亡”も満喫できる。

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反乱発生。反乱軍が,きちんと目的を持った存在として生成されているのが分かる
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反乱軍には指揮官がいる場合も。同程度の兵力で攻撃すると,負けムードが漂うことも
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反乱勢力との交渉。普通こんな条件は飲めない。反乱の種類によって要求も変化する


きちんと固有の利益を追求するAI担当国


「新世界の探索」の前提として交易技術7レベルが要求されるように! 序盤の戦略を抜本的に変えねばならない国も多いと思われる
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 「イン・ノミネ」では,EU3以来軽視されていたパラメータの価値を引き上げることにより,“死文化”していたルール/システムを,きちんと機能させることに成功している。これまで,上陸戦闘が終わればほぼ用済みだった海軍が,海外植民地からの税収を左右する存在としてクローズアップされ,艦隊の規模が重要になったことなどが,その代表例だ。

 必然的に考えるべき事柄は増えるものの,ゲーム全体の見通しの良さが格段に向上していること,操作の煩雑さをできる限り抑える設計もあって,プレイヤーは国家経営にまつわる,より真に迫ったジレンマと正面から向き合えるようになった。

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海賊は大幅に強化されている。多重発生した海賊を退治するのは,ぽっと出の海軍国にはとても無理なくらいだ
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「哨戒」で海賊発生を抑止。なお陸地に接していて,海上補給の範囲内にある海域の艦隊には,損耗が発生しないようになった


ミッションは取り消し可能だが,国威の価値が上昇しているだけに,このペナルティは痛い
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 先ほどの「ミッション」の話ともつながるが,AIは全体的に強化された。これは単に軍隊の機動がうまくなったというレベルではなく,国家がきちんと戦略目標を持って,それを実現すべく行動するといったように,AIの有り様そのものを変革した大手術である。

 また外交,とくに和平交渉において,AIはタフな交渉相手となっている。楽観的に見切り発車した戦争が泥沼の消耗戦へと発展していくさまは,実にParadox Interactive作品らしい魅力的な光景だ。

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従来どおり,戦争を終わらせるには和平条約の締結が必須。軍事的に占領しただけで,領土の支配権が移ることは基本的にない
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以前に比べて敵国との和平はかなり辛くなっている。五分五分の状況で,こちらから提案する痛み分けが通る可能性は,ないと思ってよい


情報の把握と操作は快適に


宣戦布告によって敵国の同盟国が芋づる式に参戦してくるわけだが,そのつるがどれくらい長いかを,前もって確認できるようになった
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 情報の閲覧性強化や,マウスオーバーでの簡易ヘルプ表示など,ゲーム全体の操作性は格段に進歩している。その一方で,アニメーションのカットインやグラフィカルな演出効果などがいっさい存在しない質実剛健さは堅持された。派手な必殺技が飛び交うタクティカルRPGのファンやRTSファンの期待に応えるシロモノではないが,歴史好きには躊躇なく勧められるだけの操作性を獲得したといってよいだろう。

 選択できる国家の種類や,国家経営をサポートしてくれる宮廷顧問の職種が増えたり,国家の特徴を補強する国策の種類が追加されたりといった,拡張パックではお約束ともいえるデータ追加も,きちんと行われている。通りいっぺんの「拡張パック」であれば,これらこそが中心になるのだが,「イン・ノミネ」ではシステムの改善要素が断然大きい。データ追加はもちろん歓迎すべきであるものの,あくまで副次的なものに留まる印象だ。冒頭でも少し述べたとおり,なにより「EU3が完成した」ことのインパクトが,最も重要なのである。

条件が多く,別途まとめたメモを見ながらでもないと,とても無理だった「国家の建国」も,このとおり見通しのよいものに。便利だ
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戦闘画面は相変わらずシンプル。プレイヤーにできるのは撤退指示と援軍の投入程度だ
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一撃で敵軍を全滅させたところ。足の速い敵との不毛な追いかけっこは,だいぶ縮減された
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パラド新世代エンジンとしても期待大


寛容度はもはやイベントや国策を通じてしか変更できない。実に適切な変更であり,ゲームもこれによって面白くなっている
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 旧来のパラドゲーに慣れたプレイヤーには,これでもあっさりしたゲームに思えてしまうかもしれないが,それは一面,操作性と見通しの良さが大幅に向上した結果でもある。

 むしろ,この上にギミックをまだまだ積んでいけるだけのポテンシャルを持ったゲームエンジンとして,本作がいったんの完成を見たことは,PCストラテジーゲームファンにとって福音とすらいえるだろう。

宮廷顧問の職種は大幅に増えている。なかなか使い勝手のよい顧問も多く,戦略の幅は広がった。ただ,これに比例して,顧問の暗殺が与える影響も大きくなった
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政体スライダーの効果は全面的に見直されている。イベントでうかつに「地方分権化」に進む選択肢を取ってしまうこともなくなった
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国策にも調整の手が伸びている。これまで定番だった選択肢が否定されているあたり,市場調査とゲーム改善の熱心さが分かる
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国威が与える影響はこれほどまでに大きい。そのうえ,ここに表示されない部分で国威がこっそり関わっていることもある
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 従来の作品であれば「ラーニングカーブのきつさにめげず,遊んでみてほしい」と文章を締めくくらねばならぬところだが,本作は歴史モチーフの好きなゲーマーであれば(本作が扱う範囲の歴史が好きかどうかより,むしろ歴史を見ることそのものが好きかどうかが重要),普通に勧められる完成度に至った。

 少々値が張るのが泣きどころであるとはいえ,いままでParadox Interactiveの歴史ストラテジーを敬遠してきた人も,この機会にぜひプレイしてみてほしい。

こういうこともできますよ,という見本。当然だがこんなことをするくらいなら,東南アジアを傘下に収めたほうがマシだ。それはそれで素っ頓狂な選択ではあるが
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こういうフリーダムなことができるのも,このシリーズの魅力。そしてここまでやると,微妙に挙動がおかしくなるのも,残念ながら従来どおり。ゲームが止まるような致命的問題は,そうそう発生しないと思われるが
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