レビュー
垂直120Hzパネル搭載のゲーマー向けノートPC新モデル,その実力を探る
R.O.G. G75VW(G75VW-91407H)
今回,ASUSから,そんなG75VW-91128Vの後継となる機種が,「G75VW-91407H」という型番で登場した。イマドキの製品らしく,OSに64bit版Windows 8を搭載しつつ,そのほかにもいくつか変更が加えられたのがポイントだが,新モデルで完成度はさらに増したのか。今回は,「2013年2月時点のゲーマー向けノートPC」としての妥当性をチェックしてみたい。
スペック&機能は細かくアップデートされたが
GPUはKeplerからFermiへと逆戻り
G75VW-91407Hにおける大きな変更点として見逃せないのが,GPUである。というのも,G75VW-91128VではKeplerアーキテクチャの「GeForce GTX 660M」(以下,GTX 660M)を搭載していたのが,G75VW-91407HではFermiアーキテクチャの「GeForce GTX 670M」(以下,GTX 670M)に変わっているのだ。
もちろん,テクスチャユニットはGTX 670Mのほうが多いとか,Fermiアーキテクチャで用意されるシェーダクロックにより,GTX 670Mのほうが動作クロックは高いとか,G75VW-91407Hではリファレンスクロックよりさらにクロックが高められているとか,メモリインタフェースがGTX 660Mの128bitからGTX 670Mでは192bitへと広がっているとか,ポジティブな面はある。だが,少なくとも「CUDA Core数が減り,しかもGPU消費電力は大幅な増大が予測できる」ようになってしまった点は押さえておく必要があるだろう。
なお,3D Vision 2に対応することもあって,G75VWではCPU側の統合型グラフィックス機能が無効化されている。3Dゲームのプレイ時でなくとも,常に画面の描画はGTX 670Mで行われる仕様である。
もっとも,4Gamer読者的には,垂直リフレッシュレート120Hzの液晶パネルを搭載するという事実のほうが重要だろう。適切にグラフィックス設定を行えば,一般的な液晶パネルでは味わえない,ヌルヌルとした描画を体験できるのは,ゲーマー向けノートPCとしてやはり魅力的といえる。
なお,パネルサイズは17.3インチワイドで,解像度は1920×1080ドット。3D Vision 2対応ということでTNパネルだが,正面から見る限り,発色は良好だ。
Windows 8の採用で起動が大幅に高速化
一方,サウンド周りの弱点は相変わらず
また,SSD+HDDというストレージ構成は変わらない一方,UEFIによる高速起動に対応しているため,Windows 8の起動時間が10秒程度にまで短くなっている点にも注目しておきたい。スタートメニューに慣れが必要である――というか,ゲーム用途ではスタートメニューを使う意味がほとんどない――問題は抱えるが,この高速起動はやはり魅力だ。
また,ASUS独自機能「Instant On」をOS上で有効化しておくと,「最速2秒」とされる速度でスリープから復帰できる。これも相当に速い。
本体底面のカバーは,ネジ2本を外すだけで開けられる |
ASUS Fan Filter Checker |
この状態から,2基ある冷却ファンの防塵フィルタを取り外し,製品ボックスに付属のものと交換できるようになっているのも面白いところだ。防塵フィルタをいつ交換すべきかは,動作時間に応じてメッセージを表示させる「ASUS Fan Filter Checker」が知らせてくれるので,ファンに埃が詰まって冷却能力が低下したり,PCが壊れたりという心配は(マメに掃除できるなら)無用だろう。
「4Gamer Keyboard Checker」(Version 1.0.0)で確認したところ,ロールオーバーは組み合わせによって3〜6キーだったので,その点では典型的なノートPC用キーボードといえるが,キーボードとしての基本性能は高い。
G75VW-91407HではVIA Technologies(以下,VIA)のHD Audio CODECを採用している関係で,サウンド関連のコントロールパネルもVIA製のものなのだが,ここにサブウーファのカットオフ周波数設定が用意されていないため,抜本的な対策が不可能なのは痛い。幸いにしてヘッドフォン出力の品質は良好な部類に入るので,気になる人はヘッドフォンを利用したほうがよさそうだ。
なお,VIAの技術により,本体内蔵のマイクを用いたマイク入力時には,周囲の雑音を低減する「VIAマイクロホンアレーを有効化」という機能が用意されている。Creative Technologyの「Sound Core3D」サウンドチップほどの実力は望むべくもないが,効果がまったくないというわけでもないので,本体内蔵マイクを使ってボイスチャットを行うときは,“おまじない”的に有効化しておくのが正解かもしれない。
Windows 7搭載のデスクトップPCと比較
GeForce Driverは310.90で統一
表2は,G75VW-91407Hの主なスペックをまとめたものだ。
本機の実力は,デスクトップPCと比較するのが最も分かりやすいだろう。というわけで今回は,表3に示したとおりの構成を用意した。比較対象マシンが64bit版Windows 7なのは,4Gamer読者の大多数が使っており,買い換えを前提とした場合にはWindows 7機と比較したほうが分かりやすいと判断したためである。
比較対象のGPUに「GeForce GTX 650 Ti」(以下,GTX 650 Ti)と「GeForce GTX 650」(以下,GTX 650)を用意したのは,まずGTX 650がGTX 670MとCUDA Core数が似通っているのと,そんなGTX 650の“上”が欲しかったという理由による。
グラフィックスドライバが(テストを開始した)2013年2月3日時点の公式最新版である「GeForce 310.90 Driver」で,最新β版のRelease 313世代でないのは,G75VW-91407HにRelease 313世代のβドライバを導入できなかったためだ。
G75VW-91407Hでは,ゲーム画面に対しても適用可能な画面表示カスタマイズツール「Splendid」が利用可能だが,テストにあたっては無効化している |
電力管理ツール,Power4Gear Hybrid |
なお,4GamerのGPUレビューではIntel Turbo Boost Technologyと「Enhanced Intel SpeedStep Technology」は無効化していることがほとんどだが,今回はG75VW-91407HというPC製品の検証となるので,両機能は有効化している。また,G75VW-91407Hには独自の電力管理ツール「Power4Gear Hybrid」が用意されているので,性能検証にあたっては,最も高い3D性能を期待できる「Performance mode」を選択した。
以下,文中とグラフ中ともに,比較用のデスクトップPCについては,「i7-3770T+GTX 650 Ti」「i7-3770T+GTX 650」といった具合に,CPU名+GPU名で表記することも,あらかじめお断りしておきたい。
Fermi世代のGPUを搭載しつつ,3D性能は向上
おおむねi7-3770T+GTX 650と同クラスか
順にテスト結果を見て行こう。グラフ1,2は,「3DMark 11」(Version 1.0.3)で,「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおける総合スコアとGraphicsスコアをまとめたものだ。G75VW-91407Hのスコアは,いずれのテスト条件においてもi7-3770T+GTX 650と同程度となっている。ドライバやOSが異なるのであくまでも参考程度だが,G75VW-91128Vはi7-3770Tが,「GeForce GTX 550 Ti」(以下,GTX 550 Ti)を組み合わせたデスクトップPCと比べて比で90%前後のスコアになっていたこと(関連記事),GTX 650とGTX 550 Tiでは前者のほうが3DMark 11スコアは10%強高くなることを踏まえると,G75VW-91407HはG75VW-91128Vと比べて確実に3D性能が上がっているといえるだろう。シェーダクロックが存在する効果といえるかもしれない。
次にグラフ3〜6は「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークツールの実行結果となる。
4つあるテストシークエンスから,最も描画負荷の低い「Day」のスコアを抽出したグラフ3,4だと,傾向自体は3DMark 11を踏襲するが,若干ながらG75VW-91407Hのほうがi7-3770T+GTX 650のスコアを上回った。
最も描画負荷の高い「SunShafts」のスコアを抜き出したグラフ5,6でも,全体的な傾向はDayと同じと述べていいだろう。
グラフ7,8は「Battlefield 3」(以下,BF3)のテスト結果だが,ここでは3DMark 11やSTALKER CoPとは異なり,G75VW-91407Hがi7-3770T+GTX 650の後塵を拝してしまった。ある意味,CUDA Core数どおりの結果に落ち着いているといったところか。
低負荷設定の1920×1080ドットで,レギュレーション12.2が合格点とする平均35fpsを上回っている点は評価できる。
BF3以上にG75VW-91407Hのスコアが芳しくなかったのが,グラフ9,10にスコアをまとめた「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。
Call of Duty 4はテクスチャ性能がスコアを左右するテストであるため,G75VW-91407Hはi7-3770T+GTX 650に大きなスコア差を付けて完勝していなければおかしいのだが,この原因はGeForce Driverにある。Windows 8向けのGeForce Driver Release 310〜313は,Call of Duty 4でスコアが伸びないという問題を抱えており,それがはっきり出てしまったというわけだ。原因はあくまでもドライバ側にあるので,NVIDIAの対策待ちだが,新世代OSで古い世代のゲームをプレイするときのリスクが出た格好とは言えるかもしれない。
Call of Duty 4と同じく,旧世代のDirectX 9ベースでありながら,ゲームエンジン自体は新しく,かつ,高解像度テクスチャパックの導入によってグラフィックスメモリ負荷を大きく高めている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)のテスト結果がグラフ11,12となる。
ここでG75VW-91407Hはi7-3770T+GTX 650に対して8〜23%程度も高いスコアを示しているのだが,グラフィックスメモリクロックが低く抑えられ,結果としてメモリバス帯域幅もデスクトップPC向けGPUよりかなり低いことを考えると,G75VW-91407H(のGTX 670M)が搭載する,容量3GBのグラフィックスメモリが効いたと見るべきだろう。高解像度テクスチャパックを利用するなら2GBでも十分とはいえないからだ。
そもそも,標準設定で1920×1080ドット,Ultra設定でも1600×900ドットで,レギュレーション12.2の合格ラインたる平均40fpsを超えているので,ほとんどの場合,快適にプレイできるレベルともいえる。
純粋な3D性能だけでなく,GPGPU性能も問われる「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)では,G75VW-91407Hのスコアがいまひとつ伸びない(グラフ13,14)。これは,汎用演算性能に優れるFermi世代のGPUをもってしてもこれなので,グラフィックスメモリ周りのあまり高くないスペックが足を引っ張っている可能性はありそうだ。
3D性能検証の最後はグラフ15,16の「DiRT 3」。ここでG75VW-91407Hはi7-3770T+GTX 650より若干高いレベルで,概ねSkyrimと似た傾向になった。もっとも,DiRT 3はそれほどグラフィックスメモリ容量を必要としないので,ここでスコアを左右しているのは,GTX 670Mのシェーダクロックではないかと思われるが。
消費電力はかなり増加
Fermi世代のデメリットが大きく顕れる
Kepler世代ではなくFermi世代のGTX 670Mを採用したことで,G75VW-91407Hにおいては消費電力の増大が懸念される。とくにノートPCでは消費電力の増大は大きなデメリットになるわけだが,実際はどうなのか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力の比較を行ってみた。
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。消費電力検証時は,バッテリーパックの影響を排除するため,バッテリーパックを外して,AC給電による動作を行っている点をあらかじめお断りしておきたい。
というわけでその結果はグラフ17のとおり。アイドル時の消費電力はG75VW-91407Hが55Wであるのに対してi7-3770T+GTX 650が62Wと,ノートPCらしいところを見せているのだが,アプリケーション実行時の消費電力は,3D性能検証でまったく歯が立たなかったi7-3770T+GTX 650 Tiと(悪い意味で)いい勝負になってしまっている。G75VW-91128Vが120W前後であったことを考えると,消費電力ではあまりいいところがない。
高負荷時のGPU温度をチェックすべく,システムに100%の負荷をかけ続けるストレスツール「OCCT」(Version 4.3.2)と,3DMark 11を同時に実行。3DMark 11が完走するまでの間に最も高い消費電力値を示した時点を「高負荷時」としてCPUとGPUの温度をそれぞれまとめたものがグラフ18,19となる。
室温は24℃で,比較対象のデスクトップPCは,PCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてある。
言うまでもないことだが,G75VW-91407Hと比較用のデスクトップPCではシステム構成が異なるので,横並びの比較にはあまり意味がない。ただ,OCCTによってCPU温度を高い状態で揃えた状態でも,高負荷時のGPU温度は63℃に収まっているので,Fermi世代のGPUを搭載する割にはかなりがんばっている印象だ。また,筆者の主観であること断ったうえで述べると,高負荷時でも冷却ファンの動作音はあまり耳障りに感じない。むしろかなり静かと言ってよく,この点は大いにプラス評価できそうである。
Powermarkでは,Webブラウジングやオフィスアプリケーションを交互に実行し続ける「Productivity」,3Dアプリケーションの実行とビデオ再生を交互に行い続ける「Entertainment」,両方を順に実行する「Balanced」と,3つのワークロードが用意されている。そのため,バッテリー駆動でゲームをプレイする状況というのは,Entertainmentワークロードが近い設定になるが,そのスコアは79分とかなり短い。輝度設定を最大にしていたG75VW-91128Vが125分だったので,GPU消費電力の増大によって,バッテリー駆動時間も確実に減少していると言ってよいだろう。
G75VW-91128Vがそうだったように,G75VW-91407Hも,持ち運ぶことはあまり想定されていないようだ。
総合的な完成度は相当に高いのだが
肝心のGPUで画竜点睛を欠く
もっとも,G75VW-91128Vからブラッシュアップが進んでいるのは間違いないので,“デスクトップPC換算”でGTX 650相当の3D性能に納得できるなら,購入して後悔することはないはずだ。そのとき,スピーカーの設定だけは忘れずに行っておこう。
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