レビュー
戦場の采配に特化したヒストリカルシミュレーション「エンパイア:トータル ウォー 日本語版」のレビューを4Gamerに掲載
RTSとターン制シミュレーションが融合
今度の舞台は18世紀の大航海時代だ
「エンパイア:トータル ウォー 日本語版」は,2009年12月25日にズーから発売された,ヒストリカルシミュレーションの最新作である。これまでさまざまな時代/地域をフィーチャーしてきた本シリーズだが,今回プレイヤーは,18世紀におけるヨーロッパ諸国などの指揮官となり,領土と名誉をかけて戦い抜くことになる。
ゲーム展開が二つに大別されているのが本作の主な特徴で,それぞれを簡単に説明すると,ターン制シミュレーションの「キャンペーンモード」と,リアルタイムシミュレーションの「戦術モード」だ。つまりプレイヤーは“戦略”と“戦術”の二つのレイヤーを通じて,自軍に関わることが可能だ。なお,ゲームモードによって,ストラテジーモードのみ,戦闘モードのみ,あるいはその両方,といった遊び方がチョイスできる。
ヒストリカルシミュレーションは数多くあれど,第一作「Shogun:Total War」(2000年)以来,本シリーズが徹底してこだわり続けているのは,戦闘モードにおけるリアリティである。この部分は世間のPCスペックの進化と共に,着実に進化を遂げてきたわけだが,本作ではついにフルHD(解像度1920×1080ドット)での描画が可能となった。最先端のグラフィックス・テクノロジーに裏付けされたユニットの緻密な書き込みは,実際に目にする人の多くが驚かされるだろう。
局地戦RTSとして定評のあるシリーズ。海外での評価は高く,原稿執筆時点ではMetacriticのスコアで90点をマークしている |
通常のプレイは俯瞰視点のバードビュー。指揮官たるプレイヤーは数百〜数千体のユニットを操ることになる |
プレイしていて最初に驚かされたのは,ユニットを拡大すると,部隊に所属する兵士一人一人の装備品や顔にいくつかのパターンがあること。しかもモーションのタイミングが微妙にズレており,待機状態の部隊を眺めていても,それぞれの兵士がまるで生きているかのような印象を受ける。そういった部隊同士が白兵戦を行うと,まさに文字どおりの“乱戦”が繰り広げられ,ユニット同士の境界線すら判別がつかなくなるほどだ。一糸乱れぬ整然さ(=不自然さ)ではなく,指揮官たる自分が操っているのが“群集=人の集まり”であることが,強く実感できるのだ。
カメラアングルを寄せると,兵士一人一人が“生きている”ことに驚く。これらの動きは見ていて飽きない |
これだけの兵士が激戦を繰り広げるのだから,土埃や地響きなどもかなりリアル。戦場にいる臨場感がたっぷりと味わえる |
グラフィックスのほかには,「戦術」すなわちプレイヤーの采配に委ねられる部分が大きいのも,本シリーズの大きな特徴である。本作の戦闘モードでは,RTSでいうところの“生産要素”が一切なく,局地戦に特化したゲームデザインとなっている。
登場するユニットは,歩兵や騎兵といった近接攻撃系や,ライフル兵や迫撃砲などの遠距離攻撃系,そのほか周囲の部隊に支援効果を与える将軍やエージェントなどさまざま。今回はそれらに加え,18世紀すなわち大航海時代真っ只中ということで,船舶ユニットも登場。シリーズ初となる“海戦”をフィーチャーし,戦術面のボリュームが大きく増しているのだ。
ターン制シミュレーションとしての側面も持ち合わせている。戦術/戦略のどちらでもプレイ可能だ |
長く続くシリーズだが,意外なことに海戦が行えるのは今回が初めて。船舶を動かす水兵の士気に気を配る必要がある |
大迫力の戦闘をお手軽に楽しめる「戦術モード」
それでは各モードのゲーム内容を紹介していこう。全体としては相当なボリュームがあるタイトルだが,最初は「戦闘をプレイ」という,戦術モード(RTS)だけを楽しめるゲームモードから見ていくと分かりやすいだろう。これはほかのタイトルでいうところのクイックバトルに相当するもので,プレイヤーは局地戦のみに専念できる。本来戦争とは,戦う前から始まっているものだが,そういった(ややこしい)準備段階は飛ばして,一番分かりやすい戦闘部分だけを抜き出しているというわけだ。
ゲーム開始前に,どういったシチュエーションでの戦場でプレイするのかを,細かく設定できる。「陸上戦」や「海上戦」といったオーソドックスなもののほか,すでに大軍が城を取り囲んだ状態から始められる「包囲戦」や,史実における戦いを再現した「シナリオ」が用意されている。勢力の規模は1対1から4対4までカバーされており,AIも含められる。小競り合いから数千人規模での大規模戦まで,好きなシチュエーションでの戦闘を即座に味わえるのが魅力だ。
ゲームを開始すると,いきなり敵味方の軍隊が対峙したところからスタート。部隊を配置してOKボタンを押したら,それだけで戦闘開始だ。ゲーム開始から数分後には,早くも映画のクライマックスさながらの激戦が眼前に広がることになる。
この迫力のある戦闘を好きな視点で見れるように,カメラアングル関連に多くのキーが割り当てられている。W/A/S/Dキーが前後左右,Z/Xキーが高低,そしてQ/Eキーが左右回転に対応しているほか,マウス操作での視点変更も可能だ。カーソルキーで視点変更できないためは最初は戸惑ったが,ゲームに慣れると,この操作方法のほうが臨場感を満喫するという意味では優れていると感じられた。
ユニットの向きが重要だ。ユニットごとに攻撃範囲や,敵から攻撃を受けると有利/不利な方向などが設定されている |
船舶は陸上ユニットと比べると,攻撃範囲がかなり独特。移動も緩慢で,使いこなすのに慣れを要する |
本作では自軍が圧倒的に敵の兵数を上回っているのでもない限り,ユニットを真正面から突撃させるだけで勝利を収めることは難しい。ユニットごとに異なる機動力や攻撃力,攻撃範囲などの性能を持っているのはもちろんのこと,本作はユニットに“向き”の概念があり,それにより攻撃や防御の得意/不得意がある。しかも現実の部隊と同様,ユニットは向きを瞬時に変えることができないのだ。
シリーズ初登場となる“軍艦”を例に説明しよう。軍艦の大砲で攻撃するためには,船体を敵に対して横に向ける必要がある。それを踏まえたうえで,お互いの動きを先読みし,敵よりも早く大砲の射程範囲内に相手を捕捉できれば,有利な展開となるだろう。逆に,敵艦に船尾に付けられてしまうと,そこから挽回することは非常に難しくなる。船舶の動きは決して機敏ではないため,最初にどのように位置取りを行うかが何より重要となる。
包囲戦のゲームモードを始めて間もない段階でのショット。どうやって攻め落すのかを考えるプロセスが面白い |
兵士の数に圧倒されてしまうが,数十〜数百体が1ユニットとして管理されている。操作自体は実はそれほど難しくはない |
文章で説明するのは簡単なものの,実際のプレイ中は,そのほかにもさまざまなユニットが登場し,地形などを含めた状況は刻一刻と変化していく。また,軍隊とはいっても所詮は人間の集まり。例えば士気が落ちた軍隊は形勢不利と見るや,いとも簡単に敗走してしまう。戦場には数多の情報が飛び交っており,指揮官たるプレイヤーはそれらの状況を見極めねば勝利することは難しい。
逆に考えれば,敵よりも少ない勢力で相手を打ち破ることも決して不可能ではない。これは本作をプレイしていて最も心躍る瞬間である。史実の戦争を振り返ると,劣勢を逆転したケースなどいくらでもあるわけだが,本作の戦闘モードではまさしく,その醍醐味を味わえるというわけだ。
さまざまなシチュエーションの戦術だけに専念できる。陸上戦ではAIを含めた最大4対4,海上では2対2までのバトルが可能だ |
士気が落ちると逃げてしまう兵士達だが,経験を積むと強力になる。部隊から将軍へと昇格させると,周囲に支援効果を与えられる |
戦略を繰り広げる「キャンペーン」は2種類
戦術モードが“戦術”を満喫できるのに対し,続いて紹介する「キャンペーン」は“戦略”を満喫できるゲームモードだ。キャンペーンでは内政や外交などを含めた,局地戦よりも一回り大きな視点で,自国を発展させ領土拡大を行っていく。このキャンペーンは基本的に,ターン制のゲーム展開となっている。
キャンペーンの過程で他勢力との武力衝突が発生したら,一時的に戦術モード(RTS)へと切り替わる。ただし,戦術モードに登場する敵味方のユニット環境などが,キャンペーン状況に左右される部分は,上で説明した「戦闘をプレイ」と異なる。もちろん戦術モードにおける采配も大切だが,それ以前の問題といして,いかに有利な状況で戦闘を起こすかが重要となるのだ。
プレイヤーは農場や漁場などを建築し,徴兵を行い,交易や研究開発なども駆使して,経済と軍事の両面で自国を発展させていく。当然ながら,この段階から戦略は始まっているのだ。
ちなみに,キャンペーンモードの戦略に専念したいという人や,どうしてもRTSの操作が難しいという人には,戦術パートをスキップ(自動戦闘)させることも可能である。本作のキャンペーンは大きく分けて2種類が用意されているので,それぞれの内容を見ていこう。
敵国へ宣戦布告を行うと戦術モードへ。もちろん,逆に他国から攻められることもある |
建物の建築や技術開発など,戦術モードと比べるとより大きな視点でのプレイが求められる |
◎「グランドキャンペーン」
18世紀に登場した,ヨーロッパやアメリカ,インドなど12の勢力から一つを選び,領土拡大を目指していくゲームモード。12勢力それぞれが異なる目的を持ったキャンペーンとなっており,最も短いショートキャンペーンでも15〜25か所の地域の制圧,長いものだと世界制覇が目的となる。各ターンでは全勢力の行動が表示され,それらをじっくり見ながら次の一手を考えるのが醍醐味だが,必然的にプレイ時間はかなり長くなってしまう。最初は,“独立への道”からプレイするのがよいだろう。
◎「独立への道」
アメリカ合衆国の建国/独立にスポットを当てたキャンペーンモード。プレイヤーは,1607年にイギリスからアメリカ大陸(ヴァージニア州)へ渡った入植者を指揮し,ゆくゆくは世界最強の国家となるアメリカの礎を築き上げていく。キャンペーン全体が四つのシナリオに分けられており,最後のシナリオでは合衆国を率いて,上述したグランドキャンペーンへと挑むような形になる。
当時のアメリカ大陸には“インディアン”と呼ばれることになる先住民族が大勢おり,彼らにとって入植者は侵略者そのもの。プレイヤーは彼らとの激しい攻防を続けることになるだろう。
やはりトータルウォーの目玉は「戦術モード」しかない
戦術と戦略を好きな配分で楽しめる本作だが,プレイ後とくに印象に残ったのは,やはり戦術モードのリアリティである。地平の果てまで続く数千の兵士が,地響きを立てながら戦闘を繰り広げる様は,ただそれだけでも心躍るものがある。すでにさまざまなタイトルが乱立するRTSジャンルにおいても,本作の戦術モードは一見の価値があるだろう。
もう一方のキャンペーンモードについては,「Civilization」などのシミュレーションに特化したタイトルと比べると,内政面がかなり簡略化されており,突出した部分は多くないように思えた。最大のウリとなるのは,「RTSとターン制シミュレーションの両方を楽しめる」ことだが,同じ方向性としてはすでにエンパイア・アースなどが存在しており,インパクトはそれほど強くない。個人的にはRTS+αのタイトルという感想である。
日本国内では,RTSというジャンルはあまりメジャーとはいえない。しかも本作はチュートリアル内容が簡素で,戦術モード/キャンペーンモード共に覚えることが多く,未経験者にとってハードルが高い。なので手強いタイトルであることは否定しないが,最近だと例えば,NHKドラマ「坂の上の雲」をきっかけに原作小説を読み,そこで戦術や戦略に興味を持ったような人なら,本作にハマる可能性は大いにある。
本シリーズは,戦場の采配を満喫できるという意味では海外でも定評があり,2010年2月には次回作「Napoleon: Total War」のリリースも予定されている。このタイトルをきっかけに,RTSファンが少しでも増えてくれれば個人的にも嬉しい。
最後に注意点として,本作は登録/起動時にSteamを利用している。DVDを入れずともプレイできるのは重宝するが,最初のインストール直後に巨大なパッチが当てられるのと,中古売買が実質的に不可能という点は気をつけてほしい。
- 関連タイトル:
エンパイア: トータル ウォー 日本語版
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キーワード
- エンパイア: トータル ウォー 日本語版
- Software
- 発売日:2009/12/25
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