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[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
ZUNTATAと聞いただけで心ときめくオールドゲーマーは4Gamer読者の中にも少なくないだろうが,セッションは「ZUNTATAがこれまでに取り組んできたゲーム(など)各種サウンド作りの歴史を振り返りつつ紹介するというもの。なんと,あの「スペースインベーダー」まで遡り,懐かしいサウンドデモを交えながら,ZUNTATAの歴史が語られたのである。テキストレポートゆえ,セッション中に演奏されたサウンドを聴いてもらえないのが残念でならないが,とにかくその内容をリポートしていきたい。
ZUNTATAによるゲームサウンド発達史入門
実際,ZUNTATAの責任者である内田 哉氏がまず説明したのは「ZUNTATAとは何か」だった。氏は「ZUNTATAはバンド名ではありません。タイトーサウンドチームの名前です」と説明する。
ZUNTATAという名前が最初に使われたのは,歴史的名作「ダライアス」(DARIUS,1986年)である。3連結ディスプレイを用いた横スクロールシューティングで,プレイヤーを取り囲む臨場感あふれるグラフィックスと,ボディソニックまで使った豪華なサウンドで,当時のゲーマーに強烈なインパクトを与えた作品だ。
このダライアスなどを皮切りにゲームミュージックブームが起き,各ゲームメーカーのサウンドチームによるライブ活動が積極的に行われたりしたのだが,そのときにもタイトーサウンドチームはZUNTATAという名称でライブ活動を展開したのだった。2000年頃を境にライブ活動はほとんど行われなくなっているようだが,かつての“伝説”もあって,ZUNTATA=バンド的な認識をしている人が存在するであろうことを踏まえての,内田氏の発言というわけである。
さて,セッションは歴史あるZUNTATAが取り組んできたゲームサウンドを振り返る形になったのだが,まず採り上げられたのが,“あの”アーケードゲーム「スペースインベーダー」(1978年)だ。
話は前後するが,セッションの最後に設けられた質疑応答で,参加者から「スペースインベーダーの音を作ったのは誰か?」という質問が寄せられた。内田氏は「誰が作ったかはすでに分からなくなっている」と前置きしたうえで「当時は,チーム開発という概念そのものがなかった。なので,ハードの設計者がプログラムも作り,音も作っていたと思う」と答えていた。筆者もおそらくそんなところだろうと思うが,そんな状況を変えたのが,「PSG」(Programmable Sound Generator)の登場である。
一般にPSGの音としてイメージしやすいのは初代ファミリーコンピューター(以下ファミコン)だろう。ファミコンが搭載していたのは,三角波が選べるなど機能が若干強化されたものなので,正確にはPSGではないが,PSGとほぼ同じ音源といっていい。ファミコンの爆発的普及により「ゲーム=PSGのピコピコサウンド」というイメージが定着したというわけだ。当然タイトーでも,スライドに挙げられているようなアーケードゲームで,PSGを利用したサウンド出力を行っていたと内田氏は説明する。
搭載されたゲームはスライドに示すとおりだが,「フェアリーランドストーリー」(1985年)あたりは,「タイトーメモリーズ」という,往年の名作を複数収録するパッケージでゲーム機に移植されたりしているので,若い読者でも知っている人がいるのではなかろうか。
FM音源については説明するまでもないかもしれないが,正弦波をベースに複数の音を周波数変調合成してさまざまな音を出せる,一種のシンセサイザーである。このFM音源は,楽器(キーボード)で一世を風靡したヤマハDX-7にも搭載され,「シンセサイザー=FM音源」というほど広まることになる。もちろんゲームの世界でも広く……どころか,一時はすべてのゲームサウンドがFM音源というほど利用され,「ゲームサウンドに革命を起こした」(内田氏)のだった。
さて,FM音源はシンセサイザーと説明したが,音声合成に周波数変調を用いる関係で,いわゆるアナログシンセサイザーとはまた違った,一種独特の味わいがある音が出る。FM音源の音を聞くと無条件・反射的に感動してしまうというくらいFM音源サウンドが刷り込まれていたりするというゲーマーは少なくないだろう。
ADPCMは主としてFM音源を補う音に利用されていた。FM音源は柔らかめの音を得意とする半面,爆発音やアタック音は出しづらいという特性があったため,ゲームの効果音や音楽のリズムセクションにADPCMが利用されたのである。
量子化4bitなので,サンプリング音といっても若干ノイズっぽい音になるが,ノイズっぽいリズムセクション+FM音源というスタイルが当時のゲームサウンドの特徴を作ることになる。冒頭で紹介したゲームミュージックのブームが起きたのは,こういった音が主流になっていた頃のことだ。
ちなみに,当時のアーケードゲーム基板は,ゲームプログラムやデータをボード上のROMに格納していた関係で,ゲーム業界ではデータサイズをbit換算で表すのが一般的だった。そのため「当時を知っている人はbit換算で話し,最近の人はbyte換算で話すので,ときどきトンデモない容量の勘違いが起こったりもする」という笑い話を石川氏は披露していた。
PCとの違いがなくなったことにより,「アーケードゲームらしい音」というのも失われたかに思える。だが内田氏は現在においても「ゲームらしさを演出するために,たとえばFM音源の音をサンプリングして使うことがある」と述べる。ZUNTATAが長年にわたって蓄積してきた「ゲームサウンド」が今も生かされ続けているわけだ。
一方,もちろんゲームサウンドの進化が止まったわけでもない。例えばパートナー企業と協力しつつ実装している独自のサラウンドシステム「TXSURROUND」など,次の世代への開発は続いているという。
サウンドなら何でも手がけるZUNTATA
以上が,ZUNTATAによるゲームサウンド発達の歴史解説。ここからは,ゲームサウンドとは少し離れた話になるが,なかなか興味深かったので,併せて紹介しておきたい。
ご存じの読者もいると思うが,タイトーは通信カラオケでも大きなシェアを持つメーカーだ。先のスライドにもちらっと出ていたが,日本初の通信カラオケシステム「X2000」を皮切りに,通信カラオケのシステム開発にも取り組んでいるという。
そこで紹介されたのが,通信カラオケ用に開発されたという“CSound音源”だ。
PCMの場合,サンプリングしたデータを保存し,再生することになるので,「再生する側のシステムが出力できるサンプリングレートのデータ」が必要になる。この場合,再生側システムが変更され,対応できるサンプリングレートが変わってしまうと,再度データを作り直さなければならなくなって,かなりの負担になるそうだ。
そこで,音を数式として保存し,DSPで演算,合成して出力しようというのがCSound音源である。この方式なら,再生システムが変更されてもデータを変更する必要がない。システムが新世代にリプレースされる可能性が常にあるカラオケには最適な音源だろう。データ形式が再生システムの制限を受けないという点では,カラオケ以外にも用途はあるはずで,若干こじつけ気味ではあるものの,将来的にゲームへ応用される可能性もゼロではないだろう。
さらに,高い周波数の音は年齢とともにきこえなくなるという性質を利用して,大人にきこえない着信音「モスキート着信メロディ」のサービスも始めたそうだ。実は,モスキート着信メロディはデモの実演があったのだが,自慢じゃないが筆者にはしっかり聞こえた。筆者の耳も,まだ捨てたモノではないらしい(そんなことはどうでもいい?)。
昔のゲームミュージックはよかった?
セッションの最後に,ZUNTATAの今後の展開として「コラボレーションCDタイトルのリリース」がアナウンスされた。これは,ゲームミュージックファンなら注目だろう。以下のスライドをぜひチェックしてほしい。
ところで,上で軽く触れたように,セッションの最後には質疑応答の時間が設けられたのだが,そこではある意味誰もが予想できた質問が寄せられた。それは,「FM音源が使われていた頃のゲームミュージックは,それぞれに特徴があって素晴らしいものが多かった。ハードの進化に伴って音質は素晴らしくよくなったが,逆に音楽はつまらなくなったように思えるが?」というものだ。
FM音源+ADPCMという,制限はあるが一種独特のゲームサウンドが全盛だった頃が最高だったのではないか,というわけである。それは単なる郷愁かもしれないが,それに内田氏は真っ正面から回答していたので,それを本稿の締めくくりとしたい。おそらく,この答えがすべてだろう。
「FM音源やADPCMの音が,ゲームミュージック特有の魅力を作っていたのは確かだと思う。だが,今はハードの制限がなくなり,クリエーターがやりたいと思うことが,すべてできるようになった。それは素晴らしいことだ。これからは,音源の特徴で勝負するのではなく,音楽やサウンドそのもので勝負していかなければならない」
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