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[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
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印刷2007/09/27 23:17

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[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門

画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 CEDEC 2007の2日め。この日には「タイトーサウンドチーム(ZUNTATA)によるサウンドエンターテイメントの可能性」と題されたセッションが開催された。
 ZUNTATAと聞いただけで心ときめくオールドゲーマーは4Gamer読者の中にも少なくないだろうが,セッションは「ZUNTATAがこれまでに取り組んできたゲーム(など)各種サウンド作りの歴史を振り返りつつ紹介するというもの。なんと,あの「スペースインベーダー」まで遡り,懐かしいサウンドデモを交えながら,ZUNTATAの歴史が語られたのである。テキストレポートゆえ,セッション中に演奏されたサウンドを聴いてもらえないのが残念でならないが,とにかくその内容をリポートしていきたい。


ZUNTATAによるゲームサウンド発達史入門


内田 哉氏(タイトー ON!AIR事業本部 サウンドビジュアル企画部 クリエイティブ課 課長)。20年以上ものキャリアを持つ大ベテランだ
画像集#003のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 「熱くなっているところ悪いけど,ZUNTATAって何よ?」という読者もいるだろう。ZUNTATAと聞いてピンと来るのはゲームサウンドマニアやオールドゲーマーくらいで,最近のPCゲームを中心にプレイしている若い読者が知らないのも無理はない。
 実際,ZUNTATAの責任者である内田 哉氏がまず説明したのは「ZUNTATAとは何か」だった。氏は「ZUNTATAはバンド名ではありません。タイトーサウンドチームの名前です」と説明する。

 ZUNTATAという名前が最初に使われたのは,歴史的名作「ダライアス」(DARIUS,1986年)である。3連結ディスプレイを用いた横スクロールシューティングで,プレイヤーを取り囲む臨場感あふれるグラフィックスと,ボディソニックまで使った豪華なサウンドで,当時のゲーマーに強烈なインパクトを与えた作品だ。

 このダライアスなどを皮切りにゲームミュージックブームが起き,各ゲームメーカーのサウンドチームによるライブ活動が積極的に行われたりしたのだが,そのときにもタイトーサウンドチームはZUNTATAという名称でライブ活動を展開したのだった。2000年頃を境にライブ活動はほとんど行われなくなっているようだが,かつての“伝説”もあって,ZUNTATA=バンド的な認識をしている人が存在するであろうことを踏まえての,内田氏の発言というわけである。

 さて,セッションは歴史あるZUNTATAが取り組んできたゲームサウンドを振り返る形になったのだが,まず採り上げられたのが,“あの”アーケードゲーム「スペースインベーダー」(1978年)だ。

スペースインベーダーが開発された当時は,必要なサウンドが得られる回路を,TTL(ロジックIC)やトランジスタ,オペアンプなどを使って作り込んでいた
画像集#004のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 スペースインベーダーが開発された当時,音源チップなどというものはなかった。開発者が必要に応じて音を出す回路を作って基板に実装する,という形が取られていたそうだ。
 話は前後するが,セッションの最後に設けられた質疑応答で,参加者から「スペースインベーダーの音を作ったのは誰か?」という質問が寄せられた。内田氏は「誰が作ったかはすでに分からなくなっている」と前置きしたうえで「当時は,チーム開発という概念そのものがなかった。なので,ハードの設計者がプログラムも作り,音も作っていたと思う」と答えていた。筆者もおそらくそんなところだろうと思うが,そんな状況を変えたのが,「PSG」(Programmable Sound Generator)の登場である。

PSGという最初期の音源チップが登場することにより,CPUから容易にサウンドをコントロールできるようになった。初期のビデオゲームにおける,いわゆる「ピコピコサウンド」を作ったのはPSGといっていい
画像集#005のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 PSGというのは,矩形波発生回路やノイズジェネレーター,エンベローブ(※音の立ち上がり,立ち下がりを制御する機構)を内蔵した音源チップで,CPUからこれらをコントロールして音を出せた。後述するシンセサイザー(≒FM音源)と異なるのは,波形の加工ができない点で,矩形波を出すかノイズを出すか(あるいは同時に出すか)しかできない。同時発声数はPSGの種類によっても異なるのだが,スライドに挙げられている代表的なPSG,Texas Instruments製の「AY-3-8910」で3音だった(と思う)。

 一般にPSGの音としてイメージしやすいのは初代ファミリーコンピューター(以下ファミコン)だろう。ファミコンが搭載していたのは,三角波が選べるなど機能が若干強化されたものなので,正確にはPSGではないが,PSGとほぼ同じ音源といっていい。ファミコンの爆発的普及により「ゲーム=PSGのピコピコサウンド」というイメージが定着したというわけだ。当然タイトーでも,スライドに挙げられているようなアーケードゲームで,PSGを利用したサウンド出力を行っていたと内田氏は説明する。

PSGに続いてタイトーは「矩形波倍音加算音源」という音源チップを使っていたそうだ。PSGよりもクリアな,オルガンのような音がするチップである
画像集#006のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 通常,PSGに続くのはFM音源と相場が決まっているのだが,タイトーでは「矩形波倍音加算音源」という音源チップも利用したとのことだ。筆者もこれは知らなかったのだが,「オルガンのような音がする」と説明した内田氏によるサウンドデモを聴く限り,PSGのノイズっぽい音と比べると,クリアな印象を受けた。
 搭載されたゲームはスライドに示すとおりだが,「フェアリーランドストーリー」(1985年)あたりは,「タイトーメモリーズ」という,往年の名作を複数収録するパッケージでゲーム機に移植されたりしているので,若い読者でも知っている人がいるのではなかろうか。

ゲームサウンドの認知度を一気に高めたFM音源
画像集#007のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 そして,いよいよFM音源(FM:Frequency Modulation)の登場となる。
 FM音源については説明するまでもないかもしれないが,正弦波をベースに複数の音を周波数変調合成してさまざまな音を出せる,一種のシンセサイザーである。このFM音源は,楽器(キーボード)で一世を風靡したヤマハDX-7にも搭載され,「シンセサイザー=FM音源」というほど広まることになる。もちろんゲームの世界でも広く……どころか,一時はすべてのゲームサウンドがFM音源というほど利用され,「ゲームサウンドに革命を起こした」(内田氏)のだった。
 さて,FM音源はシンセサイザーと説明したが,音声合成に周波数変調を用いる関係で,いわゆるアナログシンセサイザーとはまた違った,一種独特の味わいがある音が出る。FM音源の音を聞くと無条件・反射的に感動してしまうというくらいFM音源サウンドが刷り込まれていたりするというゲーマーは少なくないだろう。

FM音源+ADPCMという形態もゲームでは広く利用された。リズムセクション+効果音をADPCMが担当,それ以外をFM音源が担当するのが一般的だった
画像集#008のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 FM音源とともにADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation,適応型差分PCM)を利用する形態も広く利用された。ADPCMは,現在でもPCで簡易的な音声圧縮に利用されたりするが,要するにサンプリング音源たるPCM(Pulse Code Modulation,パルス符号変調)の一種である。簡単な圧縮メソッドを利用し,しかも量子化4bitだったのでデータサイズはさほど大きくならず,当時の貧弱なROM/RAM容量でも何とか扱うことが扱うことができた。

 ADPCMは主としてFM音源を補う音に利用されていた。FM音源は柔らかめの音を得意とする半面,爆発音やアタック音は出しづらいという特性があったため,ゲームの効果音や音楽のリズムセクションにADPCMが利用されたのである。
 量子化4bitなので,サンプリング音といっても若干ノイズっぽい音になるが,ノイズっぽいリズムセクション+FM音源というスタイルが当時のゲームサウンドの特徴を作ることになる。冒頭で紹介したゲームミュージックのブームが起きたのは,こういった音が主流になっていた頃のことだ。

石川勝久氏(タイトー ON!AIR事業本部 サウンドビジュアル企画部 クリエイティブ課)。主にゲームの効果音などを担当しているという
画像集#009のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 というわけで,一世を風靡したFM音源から,時代はPCM音源へと移り変わっていくわけだが,ここで「PCM音源への切り替わりと同時に入社した」という,ZUNTATAの石川勝久氏が登場。タイトーがPCM音源として初期に採用したのはEnsoniq(現Creative Technology)ES5505+ES5510だったそうだ。ES5510は当時,まだ珍しかったエフェクト用のDSP(シグナル専用プロセッサ)で,これを利用してさまざまなエフェクトを駆使できたという。

そしてPCM音源へ。音的にもシステム的にも現在のPCゲームサウンドへと進化していくわけだ。タイトーは早い時期からアーケードゲームにPCM音源を採用していたとのこと
画像集#010のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 なお,スライドではES5505に「8bitリニアPCM」とキャプションが付けられているが,ES5505自体は16bit PCMに対応する音源チップである。8bitと書かれているのは,「当時のROM容量の制限からデータサイズを抑える必要があったため」(石川氏)だそうだ。
 ちなみに,当時のアーケードゲーム基板は,ゲームプログラムやデータをボード上のROMに格納していた関係で,ゲーム業界ではデータサイズをbit換算で表すのが一般的だった。そのため「当時を知っている人はbit換算で話し,最近の人はbyte換算で話すので,ときどきトンデモない容量の勘違いが起こったりもする」という笑い話を石川氏は披露していた。

そして5.1chサウンド(AC’97コーデック),サラウンドシステムへとゲームサウンドは進化する。このあたりになると読者もお馴染みのゲームサウンドだろう
画像集#011のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 以後,アーケードゲーム機のサウンドはリニアPCMへと移り変わっていく。リニアPCM(Linear PCM)は音楽CD(CD-DA)にも採用されている非圧縮の方式で,もちろん現在のPCゲームでも主流のサウンド方式。タイトーのアーケードゲームシステム基板「TAITO Type X」が,PCそのものをベースとしていることは4Gamerでも何度か触れているが,ここに至って,アーケードとPCの間に境目がなくなったわけだ。「Half-Life 2」をベースとしたタイトーのアーケードゲーム「HALF-LIFE 2 SURVIVOR」などはその典型的な例だろう。

 PCとの違いがなくなったことにより,「アーケードゲームらしい音」というのも失われたかに思える。だが内田氏は現在においても「ゲームらしさを演出するために,たとえばFM音源の音をサンプリングして使うことがある」と述べる。ZUNTATAが長年にわたって蓄積してきた「ゲームサウンド」が今も生かされ続けているわけだ。
 一方,もちろんゲームサウンドの進化が止まったわけでもない。例えばパートナー企業と協力しつつ実装している独自のサラウンドシステム「TXSURROUND」など,次の世代への開発は続いているという。


サウンドなら何でも手がけるZUNTATA


 以上が,ZUNTATAによるゲームサウンド発達の歴史解説。ここからは,ゲームサウンドとは少し離れた話になるが,なかなか興味深かったので,併せて紹介しておきたい。

タイトーの通信カラオケ向けに開発,利用されているというCSound音源。音をデータとしてではなく数式として保存するので,厳密には音源ではない
画像集#012のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 まずは「カラオケの音もすべてZUNTATAがやっている」(内田氏)という話。
 ご存じの読者もいると思うが,タイトーは通信カラオケでも大きなシェアを持つメーカーだ。先のスライドにもちらっと出ていたが,日本初の通信カラオケシステム「X2000」を皮切りに,通信カラオケのシステム開発にも取り組んでいるという。

 そこで紹介されたのが,通信カラオケ用に開発されたという“CSound音源”だ。
 PCMの場合,サンプリングしたデータを保存し,再生することになるので,「再生する側のシステムが出力できるサンプリングレートのデータ」が必要になる。この場合,再生側システムが変更され,対応できるサンプリングレートが変わってしまうと,再度データを作り直さなければならなくなって,かなりの負担になるそうだ。

 そこで,音を数式として保存し,DSPで演算,合成して出力しようというのがCSound音源である。この方式なら,再生システムが変更されてもデータを変更する必要がない。システムが新世代にリプレースされる可能性が常にあるカラオケには最適な音源だろう。データ形式が再生システムの制限を受けないという点では,カラオケ以外にも用途はあるはずで,若干こじつけ気味ではあるものの,将来的にゲームへ応用される可能性もゼロではないだろう。

当然といえば当然だが。携帯の着メロもZUNTATAの仕事。FM音源当時のノウハウが役に立っているという。ちなみにゲームとカラオケ,ケータイと,扱うデータが膨大になるため,ツールもチームで内製しているとのことだった
画像集#013のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門
 また,今のご時世では当然といえば当然だが,着メロもZUNTATAが手がけているという。現在の携帯はFM音源を搭載する機種が多いため,「FM音源当時のノウハウが役に立っている」(内田氏)そうだ。最新のFM音源「MA-7」(au/Softbank系)のデモが披露されたが,まさにFM音源サウンドで筆者もちょっと感動してしまった。

 さらに,高い周波数の音は年齢とともにきこえなくなるという性質を利用して,大人にきこえない着信音「モスキート着信メロディ」のサービスも始めたそうだ。実は,モスキート着信メロディはデモの実演があったのだが,自慢じゃないが筆者にはしっかり聞こえた。筆者の耳も,まだ捨てたモノではないらしい(そんなことはどうでもいい?)。


昔のゲームミュージックはよかった?


 セッションの最後に,ZUNTATAの今後の展開として「コラボレーションCDタイトルのリリース」がアナウンスされた。これは,ゲームミュージックファンなら注目だろう。以下のスライドをぜひチェックしてほしい。

ZUNTATAから新しいCDがリリースされるそうだ。古参のゲームファンなら「ナイトストライカー&サイバリオンパーフェクトBOX」「ダライアスリミックス」あたり,ぜひとも手に入れたいCDじゃないだろうか。筆者は多分……いや確実に買うと思う
画像集#014のサムネイル/[CEDEC 2007]タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」によるゲームサウンド発達史入門

 ところで,上で軽く触れたように,セッションの最後には質疑応答の時間が設けられたのだが,そこではある意味誰もが予想できた質問が寄せられた。それは,「FM音源が使われていた頃のゲームミュージックは,それぞれに特徴があって素晴らしいものが多かった。ハードの進化に伴って音質は素晴らしくよくなったが,逆に音楽はつまらなくなったように思えるが?」というものだ。

 FM音源+ADPCMという,制限はあるが一種独特のゲームサウンドが全盛だった頃が最高だったのではないか,というわけである。それは単なる郷愁かもしれないが,それに内田氏は真っ正面から回答していたので,それを本稿の締めくくりとしたい。おそらく,この答えがすべてだろう。

「FM音源やADPCMの音が,ゲームミュージック特有の魅力を作っていたのは確かだと思う。だが,今はハードの制限がなくなり,クリエーターがやりたいと思うことが,すべてできるようになった。それは素晴らしいことだ。これからは,音源の特徴で勝負するのではなく,音楽やサウンドそのもので勝負していかなければならない」
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