連載
インディーズゲームの小部屋:Room#536「NOSTALGIC TRAIN」
最近はめっきりカタツムリを見かけなくなったことを少し寂しく思っている筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第536回は,ナラティブ&環境アーティスト 畳部屋氏が制作した「NOSTALGIC TRAIN」を紹介する。本作は,人気のない田舎町を舞台にしたウォーキングシミュレーターだ。子供の頃は,梅雨どきになるとよく見かけたんだけどなあ……。
ある夏の日,古い駅舎のベンチで目を覚ました主人公。自分が何者で,どうしてここにいるのか,一切思い出せないが,モノローグから主人公は女性であることが分かる。ホームに立っている駅名板には「夏霧」と書かれている。どうやらここは,夏霧町という場所のようだ。
駅舎を出て,周囲を見渡しても,人の姿はまるで見当たらない。無人の古本屋で見つけた1冊の雑誌によると,この町には神隠しの伝説があるという。自分がその神隠しにあってしまったのかもしれないと考えた主人公は,何か手がかりになるものを探して,誰もいない町を探索することに……。
舞台となる夏霧町はさほど広くないが,どこか懐かしさを感じさせる田舎の風景は細部まで作り込まれており,どこを見ても非常に絵になる美しさだ。マウスの右クリックで次に調べるべきポイントが表示され,これらを順番に訪れることで物語が進んでいく。夏霧町を探索することで見えてくるのは,かつてこの町で起きた悲劇的な出来事で,主人公はほんの少しそれに介入することで,その結末を変えていく。
本作をプレイしてとまどったのは,こうしたストーリーをかなりの分量のテキストで読まされること。ウォーキングシミュレーターの要件を明確に定義することは難しいが,本作は“町を歩き回って決められたストーリーを追っていくアドベンチャーゲーム”と言ったほうが,しっくりくるかもしれない。
また物語自体も,タイトルから連想されるような純粋にノスタルジックなものではなく,ファンタジー要素が強い点も好みが分かれるところだろう。個人的には変にひねったストーリーにせず,生まれ故郷の田舎町で子供の頃の思い出を1つ1つ集めていくようなものを期待していたのだが。
自由に町を散策したいという人には上述の「ストーリーモード」のほかに「フリーモード」も用意されている。フリーモードでは,電車に乗って運転席視点で町を1周したり,町のあちこちに落ちている「夏霧メモ」を拾って,この町の秘密やちょっとした昭和の風習について知ることができたりと,ストーリーモードとは別の楽しみ方ができる。
ストーリーモードは3時間ほどあればクリアできるボリュームだが,精巧に作られた箱庭のような夏霧の町の造形は見事としか言いようがなく,一見の価値がある。美しい日本の田舎町というシチュエーションに引かれた人は,ぜひ一度この町を訪れてみてほしい。そんな本作は,Steamにて2000円で発売中だ。
■畳部屋氏 Twitter
https://twitter.com/tatamibeya2017- 関連タイトル:
NOSTALGIC TRAIN
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