テストレポート
5インチベイからオーバークロックできる「OC GEAR」を使ってみた
今回4Gamerでは,同製品の発売前評価用サンプルをASUSTeKから借用できたので,その使い勝手やオーバークロックの効果などを一足早くチェックしてみたいと思う。
■カード自体は既存のファン付きASUSTeK製品と同じ
■マザーボードを問わない,USB接続のOC GEAR
GeForce 8600 GTのパフォーマンスについては2007年4月18日の記事や5月31日の記事に詳しいので,ぜひ参考にしてほしい。同製品は手頃な価格に設定されたミドルレンジ下位向けのGPUで,搭載グラフィックスカードの価格は主に1万円台後半〜2万円台前半となっており,いわば売れ筋の一つ。ASUSTeKはすでに,2スロット仕様で冷却能力の高さを謳うGPUクーラーを採用したグラフィックスカード「EN8600GT/HTDP/256M」を市場に投入しているが,カード自体はこれと同じものだ。
動作クロックはリファレンスどおりのコア540MHz,メモリ1.4GHz相当(実クロック700MHz)で,グラフィックスメモリ容量は256MB(GDDR3)となっている。
続いて肝心要のOC GEAR。前面パネルには操作ダイヤルと,鏡面処理されたインジケータ(※詳細は後述)を持ち,背面に用意される端子と,マザーボード上のUSBピンヘッダとを,付属のケーブルで接続することで利用する。グラフィックスカードを変更できる程度のスキルがあれば大丈夫とは思うが,USBピンヘッダには逆差しを防止する仕組みが用意されていないことがほとんどなので,接続時にはマザーボードのマニュアルをチェックして,方向を間違えないようにする必要がある。
ちなみに,この内部接続ケーブルだが,コネクタ部を入れても全長約52cmと短めである。大型のケースでは5インチベイとUSBピンヘッダが離れることもあるため,場合によると短すぎて届かないかもしれない(※パーツショップで時折見かける,バラの延長ケーブルを利用すれば延長自体は行える)から,50cm程度のケーブルで届くかどうか,購入前に調べておいたほうがよさそうだ。
なお,OC GEARはUSBのバスパワーで動作するため,USB接続さえできれば機能する。ASUSTeK製マザーボード専用というわけでもないので,ハードウェアインストールのハードルはそう高くない。
■OCツール「SmartDoctor」と連動するOC GEAR
■SmartDoctorの基本機能もチェック
グラフィックスカードのコアクロックとメモリクロックの調整自体は,OC GEARがなくてもSmartDoctorから行える。OC GEARが接続されていて,OC GEARのドライバもインストールされていれば,OC GEARのダイヤルとSmartDoctorの「Engine」のスライドが連動して,どちらからでもGPUコアクロックの調整が可能になるという仕組みである。
EN8600GT OC GEARで可能なオーバークロックはコアクロックで最高700MHz。同製品は製品ボックスで「30%高速」とアピールしているが,おそらくこれはこの700MHzという値が根拠だろう。また,メモリクロックは最高2GHz相当まで引き上げられるが,こちらはOC GEARと連動しない。SmartDoctor側で行うしかないので,この点は要注意といえる。
また,SmartDoctorを終了させてしまうと,OC GEARはダイヤルを利用できなくなるだけでなく,インジケータ類もすべて消灯する。OC GEARを利用するためには,SmartDoctorを常駐状態にしおかなければならないので,この点も憶えておきたい。
フレームレート表示を挟んで左側にある3連のグラフバーは,左から音量,GPUコアクロック,GPU温度を示している。ダイヤルを回すとGPUコアクロックを調整可能というのは先述のとおりだが,OC GEAR上ではおおざっぱな雰囲気しか確認できない。グラフバーが赤色で表示されているときはオーバークロック状態になり,かつバーの目盛り一つ一つはおよそ20MHzくらいを示しているようだが,このインジケータだけで動作クロックを知るのは困難だ。
SmartDoctorには,そのほかにもユニークな機能がいくつか搭載されている。主な機能を簡単に紹介しておきたい。
●Overheat Protection(「設定」タブ−「モニター設定」)
GPUのオーバーヒートを未然に防ぐもの。具体的には,GPUの温度が危険域まで上昇するとGPUクロックを自動的に低下させる機能だ。ただ試した限り,この機能をオンにすると全体にパフォーマンスは低下するようで,リファレンスクロックで動作させていても,同機能を有効化するとベンチマークスコアがわずかに低下してしまう。安全を取るか,パフォーマンスを取るかの難しい選択になるが,少なくともアクティブクーリングの行われるEN8600GT OC GEARでは,無効化しておいたほうが快適に(より高いパフォーマンスで)利用できるだろう。
●SmartCooling(「ファンコントロール」タブ)
ここまであえて説明してこなかったが,OC GEARのダイヤルはプッシュボタンとなっており,押すごとにGPUオーバークロック→GPUクーラーのファン回転数→Windowsの音量設定と機能を切り替えられる。それに合わせてSmartDoctorでも初期状態だとファン回転数は手動設定できる「手動モード」になっているが,SmartCoolingを有効にすると,GPU温度域ごとにファンの回転を設定できるようになるのだ。静音性と性能を両立させるのに便利そうな機能だ。SmartCoolingをオンにすると,OC GEARによるファン回転数のマニュアル調節は機能しなくなる。
なお,「ファンコントロール」タブでは「オートファンコントロール」を選択することで,全自動でのファン開通制御も行える。
●HyperDrive(「HyperDrive」タブ)
HyperDriveはGPUのクロックを自動で制御する。いわば自動オーバークロック機能だ。3Dゲームを実行しているときだけGPUクロックを指定された値に引き上げる「3Dモード」,CPU負荷率に応じて(CPUがビジーのときに)GPUクロックを引き上げ,高性能と省電力を両立するという「CPU使用モード」,基本的には手動オーバークロックを許容しつつ,GPU温度が一定水準を超えて上昇するとクロックを落とす「温度モード」が用意されている。
手動設定を行わなくて済むので便利そうだが,せっかくのOC GEARが利用できなくなるので微妙かもしれない。
■オーバークロックによりコアクロック680MHzで動作(!)
■HyperDriveは利用せず,素直に手動設定が吉
さて,「OC GEARで簡単にオーバークロックできる」とはいえ,ハングアップしないギリギリの程度に設定するのはなかなか難しい。下手をするとテスト中に停止するし,かといって低めに設定してしまうと期待したパフォーマンスが得られないかもしれない。
先に述べたとおり,オーバークロックの最大値はコア700MHzだが,残念ながらここまで引き上げるとゲーム開始後10分程度でシステムが停止してしまい,とても常用には堪えない。試行錯誤の末,試用した個体ではGPUクロック680MHzで安定動作することが分かり,さらにSmartDoctorからメモリクロックを1.6GHz相当まで引き上げられることも分かったので,その2パターンでスコアを取得してみよう。また“安全圏”として,多くの他社製のクロックアップモデルより若干低めとなるGPUクロック600MHzでもテストを行ってみる。
テスト環境は表のとおり。テストには4Gamerのベンチマークレギュレーション4.0から「3DMark06 Build 1.1.0」「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」の3タイトルをピックアップし,「標準設定」でのみスコアを取得する。また,ゲーム解像度もミドルレンジGPUでの現実的なクロック1種類に固定した。
結果はグラフ1〜3のとおり。リファレンスクロックに対して,オーバークロック状態は順当にスコアを伸ばしている。とくにリファレンスクロック比で26%高速なコア680MHzでは,誤差というレベルを超えたスコアの向上を示している。メモリクロックを併せて引き上げると,さらに高いスコアを得られるのも分かる。これはOC GEARの効果というより,むしろEN8600GT/HTDP/256Mの“地力”で,カードが搭載するクーラーはかなり優秀と見てよさそうだ。
なお,同時にHyperDriveを「3Dモード」で実行した結果を上から2本めのバーに示しているが,ご覧のとおり,芳しい結果は得られなかった。リファレンスクロック動作時よりもむしろスコアは落ちており,メリットはあまりない。ほぼ半日程度,電源を入れたままの状態でゲームなどを走らせたので,ひょっとすると内部的にGPU温度などをチェックしてクロックの引き上げを抑えたのかもしれないが,半日程度ゲームをし続けるというのは,十分想定できる利用方法だ。この程度でスコアが伸びない以上,HyperDriveの意味はないと結論づけて構わないだろう。
■面白いギミックだが「あと一歩」が足りない
■課題は明白なので,今後の改善に期待
ただ,へたをするとハングアップに直結するうえ,それを回避する手段がまるでないのは残念。OC GEARにはGPU温度のグラフがあるので参考にできそうなのだが,実際には温度グラフが低くてもハングアップしてしまうことがあった。また,フレームレートに至っては,実使用においてまったく役に立たない。
むしろ7セグメントLEDには,GPUクロックを表示すべきだろう。ハングアップしたときのクロックが分かれば,次回以降のトライでその少し下を狙うといった使い方ができるというものだ。また,グラフィックスメモリクロックの設定機能も用意されていれば,より便利だったと思う。
総じてアイデアは悪くない。だが,OC GEARでに表示される情報と,盛り込むべき機能についての練り込みが,いま一歩足りない印象を受けた。ただ,これらが解決すれば,カジュアルなオーバークロックを手助けする,楽しめるギミックになるはず。「せっかくカードを買ったのだから,ちょっとオーバークロックで遊んでみたい」という人を満足させるためにも,次回以降の改善に期待したい。(ライター:米田 聡)
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