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[GDC 2012]エアリスは冒険の途中で死んでしまったからこそ良いのだ――ゲームデザインのルールをあえて破る有効性
※以下,「Portal」「Portal 2」のネタバレが含まれます。ご注意ください
順を追って解説していこう。
講演がはじまると,Burnell氏は「まず最初に,今回の講演で使う言葉/要素の定義をさせてください」と切り出し,ゲームデザイン上の有効なテクニカル要素として,以下の三つの要素を上げた。
■Autonomy(自律性)
・選択肢がある
・自分のコントール下にあると思える
・自分の行動に責任が感じられる
■Relatedness(関係性)
・人(キャラクター)との繋がり
・帰属意識
・何かの巨大なものの一部であること
・同僚達
・他人の幸福に対する責任
■Competence(能力性)
・そのタスクに耐えられる
・自分の思うように動かせる
・熟練,勝利
そして,これらの要素がデータでも裏打ちされた,ある種の“ゲームデザイン上の黄金律”なのだと説明する。これらを“うまく”使っている作品こそが優れたゲームになるという,条件になっていると言うのだ。
要するに,「自分の思うようにできる自由度があり,信頼あるいは頼りにされる/できる関係性が存在し,自分でもできる(遊べる/勝てる)と思えるゲーム」が,理屈のうえでの最上のゲームである,とBurnell氏は言う。
実際,単純な面白さ(上記の要素を抜きにして,ここで言う面白さが何を指すのかはちょっと分からなかった)よりも,上記の3つの要素をきちん内包しているゲームのほうが,ゲームの持続率が格段に高くなるとのことで,とあるMMORPGの実証実験では,9か月後のプレイ継続率で実に倍近くの差が出たこともあったという。
Burnell氏は,ここで疑問を提示する。
「例えば,FarmVilleというゲームがあります。これに,さっきの黄金律を当てはめてみると……あれ,どれもちゃんと内包されていますね。じゃあ,FarmVilleのゲームデザインは理想/頂点なのでしょうか? いいえ,私は“違う”と思います」
自律性のルールを破れ!
そう言ってBurnell氏は,「Portal」における事例を紹介しはじめる。
ご存じの読者も多いかもしれないが,「Portal」では,エンディングで人工知能の破壊を強制されるシーンが盛り込まれている。これは,先ほど上げた“黄金律”からは外れる場面(自分の思うようにできない)でもあるのだが,しかし一方でPortalのエンディングは,ゲーム史上でも屈指と言われるほどの感動的なものに仕上がっている。どういうことだろうか?
要約すると,「Portal」では,巧妙なストーリーテリングによって,プレイヤーが主人公=自分という感覚を持ち得た。つまりPortalでは,ゲームデザインのルールを破ることで生まれる“負の感情”の矛先を,物語の中の悪役にすり替えることに成功し,一方「Portal 2」では,そこがうまくいかったというのだ。そして,だからこそ「Portal」は,より印象的な作品として評価されているのだと分析する。
「ゲームデザインのメカニクスの話をしているのに,なんで物語の話になっているのか。疑問に感じた人も多いかもしれません。でも,こういった物語の使い方ができることが,ほかのメディアでは持ち得ないゲームの特性なのです」
関係性のルールを破れ!
関係性というと,昨今ではオンラインゲームやソーシャルゲームのそれを連想してしまうかもしれないが,ここでは,シングルプレイゲームにおける活用も含んでいる。分かりやすい例でいえば,RPGなどで,キャラクターという形でプレイヤーとの関係性を築く構造がそれにあたる。
Burnell氏は,「ゲームデザインのメカニックとして,プレイヤーとゲーム(の中のキャラクターなど)とで関係性を築く方法論はいくつかあります。例えば,プレイヤーとの信頼/協調性を演出すること。アンチャーテッドにおける,2人で協力して高いところに登るシーンなどがそれです。あるいは,お互いに依存し合う関係なんかもそうですね。これには,自分は空を飛べないが,相棒は空を飛べる。お互いの能力を駆使してステージを進めるゲームなどが該当します」という。
また,一連の話のなかでとくに興味深かったのが,「ファイナルファンタジーVII」に登場する「エアリス」を参考例に,ゲーム中のキャラクターの死の扱いについて言及している部分だ。
「ファイナルファンタジーVIIのエアリスを参考にしてみましょう。彼女の死は,賛否両論あるとはいえ,ゲーム史上で最も印象に残っている場面の一つです」
「エアリスは,物語上の重要な役割を担っています。プレイヤーに物語を伝え,ゴールを示し,プレイヤーを助けます。そして戦闘においては,ヒーラーとして欠かせないポジションを占めているキャラクターでもあります」
「それなのにエアリスは,物語の半ばで死んでしまいます。これから先,プレイヤーが彼女の力を必要する,まさにその時に死んでしまうのです。これは普通に考えたらあり得ませんよね。反則ですよ。でも,だからこそプレイヤーに強い感情を喚起させたのです」
……いや,なんだか懐かしいと思ってしまうのは筆者だけだろうか。「ファイナルファンタジーVII」がではなく,こういった議論が昔は日本でもあったよなぁという意味で。
ともあれ,Burnell氏は,関係性の黄金律を打ち破る定番として,「キャラクター殺し」という手法があると言う。これは説明するまでもなく,確かにそのとおりである。
そして,「ファイナルファンタジーVII」でも同様に,物語をうまく使って,プレイヤーの怒りの矛先を敵にすり替える方法が取られていると指摘する。
ちなみに,「物語を使う以外にやりようはないのか」という疑問に対して,Burnell氏は,「物語がない場合でも,プレイヤーとの関係性で似たような演出が可能です。例えば,プレイヤーにずっと付き添っているような動物を殺してしまうとか」と答えていた。……なるほど,そういえば,「ワンダと巨像」でアグロ(相棒の馬)が怪我をしたときはハラハラしたっけか。
能力性のルールを破れ!
ちなみにこの“能力性に関するルール”を破るということは,プレイヤーに「もう無理だ」と思わせるという意味であり,言うまでもなく,これにはいろいろな弊害がある。最初に提示した黄金律の中でも,最も扱いが難しい部分かもしれない。
しかし,「もう無理だ」「やってられない」と思わせることで,何か良い効果を期待できるものなのだろうか。
Burnell氏は,「何かを印象づけたい時によく使われる」という。Burnell氏は,奴隷船のビジネスを再現したボードゲームの話を事例(ゲームを進めると,奴隷を何人か海に投げ捨てるかどうかという選択を迫られるらしい。結果,その歴史についての理解が深まったという話)として出していたが,我々日本人にとって分かりやすいのは,RPGで出てくる「絶対勝てないボスキャラ」などといった事例だろうか。
もちろん,これはこれで“古典的な手法”の一つになってしまっていて,ただそれだけでプレイヤーの感情を揺さぶることは難しくなっているわけだが,確かに「勝てない敵」という理不尽を逆手に取った演出だというのは理解できる。
「ここで重要なのは,プレイヤーにそれとなく勝てないことを悟らせることです」とBurnell氏は言う。分かりやすい例でいえば,画面がセピア色になるだとか,あからさまにダメージが通らない(攻撃しても効かないなど)などといったやり方が,よくある演出ということになるだろうか。
ともあれこのように,ゲームを快適に楽しむための“デザイン上の黄金律”が確かに存在する一方で,それを逆手にとった優れた作品が世の中にはたくさんある。
そして本当に素晴らしいと言われる作品は,むしろそういった部分を巧みに利用しているのではないか――というのが,Burnell氏の言わんとしていることのようだ。
この講演は,内容そのものの是非よりも,話の組み立てがとてもうまく,ゲーマーが共感しやすい話になっていたのがとても印象的であった。まさにゲーム好きによるゲーム好きのためのゲーム談義といった体であり,その意味で,「とてもGDCらしい講演」だったと言えるかもしれない。
……というか,エアリスの死がどうかなんて話を,まさか遠い異国の地で耳にするとは思わなかった。ゲームが国境を越えたエンターテインメントである良い証拠,ということにしておきたい。
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