レビュー
世界中でヒットしたエキゾチック暗殺アクション
アサシン クリード
日本語マニュアル付英語版
» ユニークな試みが数多く施された「アサシン クリード」は,世界中で大ヒット中。だが,メディアやプレイヤーの評価も高い反面,さまざまな不満点なども取りざたされている。そんな本作を,週刊連載「アルタイルのアラビア半島一人旅」を担当した虫も殺さぬ生粋のアサシン,UHAUHA氏がレビューしたのである。
あの「アサシン クリード」がPC版で登場
それゆえ,2007年11月29日の発売日と同時にXbox 360版アサシン クリードを入手してひたすらプレイし続けたのである。Xbox 360版に続いて,PLAYSTATION 3版が2008年1月31日に発売され,続く2008年5月16日,イーフロンティアから「アサシン クリード 日本語マニュアル付英語版」が無事に発売された。ここまでは順調な展開といえるだろう。
しかし,コンシューマ機版が音声まですべて日本語化された完全日本語版だったのに対し,PC版は“日本語マニュアル付英語版”というタイトルからも分かるとおり,ゲーム中のテキスト/音声がすべて英語のまま。これは,ちょっと微妙だ。というのも,本作の背後には比較的ややこしいストーリーがあり,そのすべてを堪能しようと思うと,かなりの英語力が必要になるからである。12世紀の中近東という,日本人にとってなじみの薄い時代背景のため,出てくる名前などもやや難しい。
だが安心してほしい。日本語ラブな暗殺者でも存分に任務遂行できるようにサポートする週刊連載「アルタイルのアラビア半島一人旅」があるのだ。ちなみに書いているのは私とはいえ,あちらのほうは攻略ということもあり,いさかかネタバレチックな内容。ネタバレを嫌う人は注意されたし。えーと,ちょっと手前味噌ですか?
ともあれ,(続編でない)新しいタイトルとしてはなかなかのヒットを飛ばしているアサシン クリード。英語版だからってプレイしないのはもったいない,というレベルの作品なのである。
大きめに描写されたキャラクターがなめらかなアニメーションで本物そっくりに動く。スタイリッシュで迫力のあるアクションシーンは必見だ |
都市の中を自由に移動可能であり,各都市の建物,文化,宗教などの違いも細かく再現されている。たまにはブラブラしてみよう |
都市ごとに建造物や市民の服装が異なる。一番目立つのが,マシャフはグレー,アッカはブルーといったイメージカラーによる雰囲気の違いだ |
アサシン教団の最高指導者である大導師アル・ムアリム。彼の言葉は絶対であり,彼の許可なくして勝手な行動は許されない |
随所にムービーシーンが挿入されるが,音声はすべて英語で,字幕も表示されない(できない)のでヒアリングに頼るしかない。とほほ |
断崖絶壁に砦を構えるアサシン教団本拠地「マシャフ」。手前には小さな村があり,アサシン教団メンバーがひっそりと生活をしている |
聖地エルサレムを守るため,ターゲットを始末せよ
アサシン クリードは,第三次十字軍の遠征が行われた1191年頃の大シリア(現在のイスラエル,パレスチナ,レバノン,ヨルダンなどが含まれる地域)が舞台だ。北には東ローマ帝国(ビザンチン帝国)がヨーロッパとアジアの緩衝地帯として存在し,西は地中海,そして南にはアラビア半島が続いている。
聖地エルサレムをイスラム教徒から奪還しようと進軍するリチャード王麾下の十字軍。そして,それを阻止すべく立ち上がった英雄サラディン率いるイスラム軍の両者が激しく争っており,それを秘密裡に収束すべく動き出したのが謎めいたアサシン教団だ。
アサシン教団の最高権威者である大導師アル・ムアリムは,平和を乱す者をかなり暴力的に排除することを決定し,その目的のため,刺客としてマスターアサシンの称号を持つアルタイルを任命するのだ。
「高さ」の表現が恐ろしいほど素晴らしい。高所恐怖症の筆者はヘンな汗が出まくりだ。降りるときは下の藁束に向かってイーグル・ダイブするだけだが,その際の背中がゾクゾクする浮遊感はなんともいえない |
しかしアルタイルは,エルサレムに眠る秘宝の奪還という任務で,己の力を過信するあまり失敗し,しかもアサシン教団の兄弟を失ってしまうという失態を犯す。その罰として彼はマスターアサシンの地位を剥奪され,見習いアサシンから出直すことになってしまう。アル・ムアリムの命令で9人のターゲットの暗殺を命じられる彼だったが,命令に従って任務を遂行していくうち,背後に隠された巨大な秘密に気づいていく……。
とまぁ,こんな感じでストーリーが展開するわけだ。
ミッションの流れは,まずアサシン教団の拠点であるマシャフでアル・ムアリムから命令を受け,暗殺目標がいる都市(アッカ,ダマスカス,エルサレム)へ移動。アサシン教団支部へ顔を出してから情報収集(スリ,尋問,盗聴,情報提供者ミッションなど)を行い,ある程度の情報が揃ったらアサシン教団支部で暗殺許可をもらって暗殺を遂行する。暗殺後は教団支部で任務遂行の報告をし,マシャフに戻ってアル・ムアリムから新たな命令を受けるという感じ。
各都市はそれぞれ貧困地区,中流地区,富裕地区に分かれており,シナリオが進むごとに行動範囲が広がっていく。マップは最初,カスミがかかって見えない状態だが,ビューポイントと呼ばれる塔などに登ることで次第にハッキリしてくる。マップには情報収集ポイントや市民救出ポイントも表示されるため,ゲームが進むにつれてだんだん行動しやすくなる。
ときどき,目標の人物を暗殺する順番などを好きなように選べるようになったりするが,どんな順番でミッションをクリアしてもメインシナリオに影響はない。ストーリーはほぼ一本道で展開されていき,暗殺方法はかなり自由であるものの,それ以外の流れはあらかじめ決まっているのである。物語は「ああ,やっぱり」と思うところがなきにしもあらずだが,入り組んでいて面白く,エンディングに向かってどんどん盛り上がっていく。
秘宝である「聖櫃」(アーク)を奪還すべくエルサレムに出向くアルタイル達。しかし,アルタイルの身勝手な行動で仲間を失ってしまう結果に |
都市の中は貧困地区,中流地区,富裕地区に分かれており,階級による衣服の違いや人々の様子,兵士の多さなどで違いが再現されている |
無事に暗殺が終わったら,追っ手を振り切って逃走し,アサシン教団支部で報告しなくてはならない。だたし,警戒レベルを下げてからでないと建物へは入れない |
ビューポイントに登ると徐々にマップの可視範囲が広がる。ここで行き先を指定しておけば,ミニマップに目的地が表示されるので便利。マップはいつでも参照可能 |
思うままにアルタイルを動かせる
優れたインタフェースが見事
筆者がアサシン クリードをプレイして最初に感じたのが,キャラクターを手軽に操れることの面白さ。これが自慢の「フルボディコントロール」である。キーやボタンにはアルタイルの頭に関する動作(タカの眼,シンクロ,盗聴など),手に関する動作(人を押す,つかむ,スリなど),足に関する動作(祈る,ジャンプ,スプリントなど),そして攻撃に関する動作(攻撃,カウンター攻撃など)がそれぞれにアサインされており,こっそり行動する「スニーク行動」と派手に暴れまくれる「アクション行動」を使い分けて操作する……と文章で書くと複雑そうだが,じきに慣れるし,慣れれば非常に使いやすい。
ややこしい操作は一切なし,誰もが手軽に思うままにアルタイルを操れることがすばらしい。アクションゲームが苦手という人でも,アルタイルを操る楽しさを思う存分に味わえるだろう |
狭い路地をこっそり移動したり,多くの人々が行き交う通りを走り回ったり,突起物に手をかけて壁や塔に登ったりと,フルボディコントロールによる行動は自由自在だ。プログラム的にコースが決まっているわけではなく,物理的に行けるところにはことごとく行けるように作られている。
特徴的なのはジャンプだ。屋根の上を忍者のように走りつつ,建物と建物の間を大ジャンプしたり,屋根を支える梁(はり)のむき出しの部分をテンポ良く跳び移りながら移動したりと,とにかく陸上競技の選手のように跳びまくるシーンが多いが,これが簡単に行えるのである。アクションゲームのジャンプというと,タイミングがシビアだったり,キーやボタンを押している時間/長さで跳び幅が変わったりなど,アクションゲームが苦手な人にとっては思い通りに操作できずにストレスを感じることも多い。しかし,本作ではウソのように気持ちよく跳べるため,自分の腕が上がったんじゃないかと勘違いしてしまうほどである。
というのも,何かに跳び移るときにはジャンプボタンを押しっぱなしにしておくだけで,適切なポイントで自動的に踏み切って跳んでくれるからだ。しかも,跳び移る先への飛距離を自動的に合わせてくれるため,いちいち神経を集中してタイミングよくボタンを押す必要がない。連続ジャンプが必要な場合は,一歩ずつ方向を確認して慎重に移動するより,ピョンピョンとテンポ良く一気に抜けてしまったほうが失敗が少なかったりする。
タイミング良くジャンプボタンを押す必要はなく,ジャンプボタン/キーを押しっぱなしにしておくだけで自動的に跳んでくれる |
落下しても突起物があればそれにつかまる。建物から大ジャンプして別の建物に跳び移ったりと,ド派手で格好いいシーンのつるべ落としだ |
当然,跳べないところに跳ぼうとすれば落下するが,その場合も,手のとどく位置につかめるものがあれば,それをつかんでぶら下がってくれる。そのため,おそらくほとんどのプレイヤーが,障害物の多い地上より屋上をメインにして走ったり跳んだりしているはず。もし,これが何度もジャンプボタンを押すような操作系だったら,きっと面白くなかったんだろうなと思う。
ほかの動作についても操作しやすいよう十分に練り込まれている。壁を乗り越えるのも壁に向かって突進するだけだし,塔を登る場合もデコボコを勝手に見つけてぐんぐん登っていく。敵に警戒されたときにはとっさに「祈りのポーズ」を取るのだが,それもワンボタン。徒歩,走る,全速力(スプリント)を簡単に使い分けられたりなど,インターフェース周りは非常に良く出来ており,アクションゲームが苦手な人でも格好良く,そして気持ちよくアルタイルを操れるはずだ。テストを重ねた結果得られたインタフェースによる,操作の気持ちのよさがアサシン クリードの大きな魅力だ。
どんな高いところからでも下に藁束さえあればイーグルダイブが発動し,ノーダメージで着地可能。幼い頃から鍛えられた熟練の技であろう |
各都市をつなぐ地域,“キングダム”には市民が暮らしているほか,敵兵なども多く存在する。かなり広いため馬で移動したほうが楽ちんだ |
兵士にアサシンだと見破られそうになったら祈りのポーズ。神学者の近くで祈れば仲間に入れてもらえる。彼らの協力を得る場面は多いはずだ |
アサシン教団信者である情報提供者。制限時間内に旗を集めるなどのミニゲームをクリアすると情報を教えてくれる。PC版だけのミッションもある |
武器を使いこなして
スタイリッシュなチャンバラアクションを楽しもう
さて,戦闘だ。なにしろアルタイルは履歴書には書けないような仕事をしているので,敵の兵士と立ち回りを演じるシーンは数え切れず,こればかりは避けて通れないだろう。そんな戦闘時のアクションもバラエティ豊かに揃っている。
アルタイルの武器には,アサシンの必需品である「アサシンブレード」のほか「長剣」「短剣」「素手」がある。長剣と短剣についてはボタン/キーを短く押すことでタメの少ない高速攻撃が,また長く押すことでタメは大きいが与えるダメージも多い強攻撃が繰り出せる。戦闘中はいつでも武器を切り替えられるので,状況によって使い分けられる。
背後からコッソリ忍び寄り,相手の首筋にアサシンブレードを突き立てる。背後から跳びかかってもよし,すれ違いざまに突き立ててもよし,誰にも見付からないように暗殺するには非常に有益な武器である |
戦闘の基本アクションは,通常時と防御時で変化する。例えば通常時の「踏み込み」「つかむ」「武器攻撃」が,防御時に「かわし」「つかみ崩し」「カウンター攻撃」に変わるという具合。さらに,例えば踏み込みで一気に間合いを詰め,敵をつかんで投げるといった感じで技を組み合わせたり,コンボキルやカウンター攻撃のように,タイミングによって繰り出せる技を使い分けられるところも面白い。
ちなみに,これらの戦闘アクションはゲームの序盤でアルタイルが見習いに格下げされたときに利用できなくなっており,ミッションを進めることによって次第にロックが解除されていく仕組み。そのため,コンボキルやカウンター攻撃が使えるようになるまで,戦闘では少々苦労するだろう。半面,アルタイルが順を追って強くなるという楽しみを味わえると同時に,アクションビギナーにとってはチュートリアルとしての役目も果たしている。最初からなんでもできてしまうと,かえって分かりづらいものだ。
このように,本作の戦闘アクションは豊富で,上記の行動アクションと同様,誰でも簡単に派手な大立ち回りを演じられるデザインになっている。敵の攻撃はガードボタン/キーを押しているだけで,ほとんどの場合防げるし,敵が攻撃を繰り出してくる瞬間に攻撃ボタンを押すことで簡単にカウンター攻撃ができる。カウンター攻撃で相手を気絶させるだけの場合もあるが,倒れているところを斬りつければ簡単に倒せてしまう。
何人もの敵に囲まれて戦うシーンも多いが,あるタイミングで攻撃を繰り出してくるのは必ず一人。つまり,多人数を相手にしても一対一での戦いとほとんど変わらず,戦闘テクニックを駆使して戦っているという印象は薄い。たくさんの敵に同時に攻撃されても困ってしまうが,リアリティという点でやや不自然に感じる。
もう一ついえば,多人数の敵を相手にしていても簡単に逃走できてしまうシステムは改善してほしいところ。戦闘中でもとにかく全速力で逃げ出し,警戒レベルが下がったところで市民に紛れてベンチに腰掛けたり,神学者達と一緒にお祈りするだけで目の前を多くの敵兵が気付かずに走り抜けてくれる。本作では,このような群衆に紛れて姿を隠すシステムを「ソーシャルステルス」と呼んでいるのだが,ちょっとその効果が高すぎるような気がする。
アルタイルの運動能力は高く,戦うもよし,逃げるもよしといささか万能すぎる印象。「ビギナーに易しい」というのは最近のヒット作の通例ではあるが,アクションゲームに慣れている人やゲームにシビアさを求めるプレイヤーには簡単すぎ,戦闘の単調さが強調されてしまう可能性がある。確かにアルタイルはかなう相手がいないほど強く,それが彼の魅力なのかもしれないが,もう少し緊迫した戦闘が楽しめるくらいの味付けにしても良かったと思う。
基本的に全速力で走って逃げれば逃げ切れる。敵兵が多くて全然ダメ,というときは,露店をジャンプで跳び抜ければ(なぜか)逃走しやすくなる |
追われたら,このようにベンチに座って市民のふりをし,敵の兵士をやりすごすそう。くくく,気がつかないであさっての方向に走っていく |
アクションゲーム好きならば,プレイして損はない作品
アサシン クリードは完全にスニーク行動に徹して暗殺ターゲットをこっそり倒すゲームではなく,スニークによる暗殺も可能だが,大胆に真っ向勝負で目標に挑んでもかまわないというデザインになっている。そのため,緻密に作戦計画を練ったり,トライ&エラーを繰り返す必要はなく,敵にこちらの存在がバレたらバレたで,戦うなり逃げるなり,どうにでもなる。スニークを使わないことによるペナルティもなく,面倒になるとつい殴り込み系に走りやすいのも事実だ。情報収集の手順も最初から最後まであまり変化がなく,「またスリかい」という気分になってくる。
目標の人物を無事にアレすると,会話シーンへと移る。この話によって,聖地を揺るがす陰謀や,背後で糸を引く怪しげな組織の存在など,さまざまな裏事情が分かってくる。真実を追うのだ,アルタイル! |
どういう方法で暗殺するかはプレイヤーの自由だし,移動に制限がないのはいいが,正直,筆者が最初に思い描いていた暗殺者ゲームとは若干異なっている。個人の好みで言えば,もう少しソーシャルステルスをシビアに生かし,コソコソと任務を遂行したかった。とはいえ,アクションゲームとして見た場合,非常に完成度の高い内容なのは間違いない。
繰り返すが,誰でも簡単にアルタイルを操れるインタフェースはすばらしく,単純にキャラクターを操作するだけで楽しいのはアサシン クリードの大きな魅力だ。
また,気合いの入りまくった3Dグラフィックスの描き込みも見どころで,ただブラブラと街中を歩き回っているだけで異国情緒を満喫できる。中世の中近東という時代/ロケーションもなかなかに新鮮だし,(先はいささか読めてしまうものの)時代を反映した二転三転するストーリーも興味深い。
馬を走らせてダマスカスの街に至る。まるで本物の都市が目の前にあるような美しさで,最初に見たときは心から感動した。いやー,手間暇かかってますよ,ホント |
いろんなところで一般市民が兵士にいじめられて困っているので,立派な暗殺者なら必ず助けるべし。彼らを助ければ,神学者や自警団の協力が得られるのでお得なのだ |
というわけで,アサシン クリードはアクションゲーム初心者という人にも勧められるし,それなりに経験を積んだゲーマーにもアピールする内容に仕上がっていると思う。迫力ある剣戟シーンでバッサバッサと敵を倒していくのは爽快だ。気になる部分はいくつかあるものの,それらを十分にカバーするだけの面白さがあるので,あなたもぜひ,アサシンとして埃っぽい異国の地で活躍してほしい。
三部作の第一部として作られたという本作だけに,筆者は今,ジェイド氏に続編の早いリリースをお願いしているところだ(もっぱらテレパシーで)。
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