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「Second Life」の開発者Cory Ondrejka氏インタビュー,日本展開はどうなる?
9月27/28日の両日,都内で開催された「The New Contentext Conference 2006」の講演のために来日していたLinden Lab.のCTOであるCory Ondrejka(コーリー・オンドレイカ)氏に,Second Lifeについてのインタビューを行った。気になる日本展開や,どのようにSecond Lifeが生まれたのか,そしてなにを目指しているのかを聞いてみよう。
まず,Ondrejka氏の経歴をお伺いしたいのですが。現在のSecond Lifeに携わる前にはどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
Cory Ondrejka氏:(以下Ondrejka氏)
この6年間はSecond Lifeを作っています。それまではTHQでRoad Rushなどを作っていました。その前は陸軍にいましたね。
4Gamer:
THQをやめてSecond Lifeを作ろうと思ったきっかけはなんなのでしょうか?
Ondrejka氏:
Road Rushを作ってしばらくした頃,Lindenの創設者であるPhilip Rosedale氏に出会いました。ゲームではなく,もっとでっかいことをやろうじゃないかということでSecond Lifeに参加しました。
4Gamer:
6年前というと現在のようなブログなどもありませんでしたし,現在とはインターネットの状況が全然違っていたと思うのですが,そういう時期にSecond Lifeのような作品を作ろうと思ったのは,なにか影響を受けるようなものがあったのでしょうか?
6年前というと,ちょうどGoogleが始まった頃でしたね。インスピレーションを受けたのは,ニール・スティーブンスンの「Snow Crash」という本と,ヴァーナー・ヴィンジの「True Names」の2冊です。自分達のテクノロジーでどこまでできるのかというのを試してみたかったというのも大きいですね。フィリップと一緒に,どういうものを取り入れていけばいいかというのを検討していました。それが最初の段階です。2002年3月にアバターシステムを会社の外の人に使ってみたところ,みんなすごく気合を入れてユーザーに似せたり,素晴らしいものを作ってきました。それを見たときに,これはいけるなと確信が持てました。
Snow Crash(邦題:「スノウ・クラッシュ」,ハヤカワ文庫など)は,巨大な仮想世界メタヴァースを舞台にした宅配ピザ屋と仮想世界内の麻薬Snow Crashの話。True Names(邦題:「マイクロチップの魔術師」,新潮文庫)は,脳と密結合したコンピュータネットワーク内に構築されたサイバースペースを舞台にした物語。いずれもコンピュータネットワークに構成された,もう一つの世界での生活を色濃く描いている。面白いのは,片や,サイバーパンクの後継ともいうべきSFであり,片やサイバーパンクの先駆けともいうべきSF作品であることだ。真ん中はごっそり抜けている。
Second Lifeは,このような小説で描かれた別世界を作り出そうとしたものであり,それはある程度成功しているといえるだろう。
■Second Lifeの目指す世界
Second Lifeの特徴として,ものを作るときにかなり詳細な設定ができるので,それを見て,かなりコアユーザー向けだなと思っていたのですが,元々Second Lifeはどのようなユーザーを想定していたのでしょうか? 当時はMMORPGがようやく流行り始めた時期ですけど,そういうゲームをやっていたユーザーに新しいものを見せたかったのでしょうか? 初期段階ではどのようなユーザーをターゲットにしていたのでしょうか?
Ondrejka氏:
実際にどういったユーザーがいるかというところから説明しましょう。まず,Second Lifeは基本的にゲームではありません。男女比はほぼ半々で,そういったところがゲームとは違ったところでしょう。年齢層は13歳から80代まで非常に広い範囲に及びます。どのようなユーザーをターゲットにしているかというと,これはもうすべての人というほかありません。
いわゆる「ゲームプレイヤー」ではなくて,一般の人にもやっていただけるようにするには,柔軟性を持ったプラットフォームを作成する必要があります。Second Lifeに住む人達が,どのような世界に住みたいかというのを尊重するためにも,プラットフォームは柔軟である必要があります。ですので,ほかのゲームで遊んでいる人もSecond Lifeに集まってきていたり,ゲームロビーのように話をする場としても使われています。
4Gamer:
幅広い人達に遊んでほしいということでしたが,例えば,かつてGDCでのWill Wright氏の講演では,コンテンツを作る人が1人だとすると,それを広める人が10人いて,100人の消費者がいるといった感じで,ユーザーがコンテンツを作れるようにしても大多数はただの消費者になってしまうとしています。これまでのゲームの状況を見ると,これはうなずける部分もあるのですが,Second Lifeでは,ユーザーの6割がなんらかのコンテンツを作っていると聞きます。どうしてそんなに高い割合になっているのでしょうか?
Ondrejka氏:
確かにSIMSなどは,コンテンツを作る人は非常に少ないようです。先ほど述べたように,Second Lifeの場合,ユーザーは老若男女を問わず非常に幅広い層にわたっていますが,これらすべてのうち66%の人がなんらかのコンテンツを作っています。これは誰かが作ったものをカスタマイズしているというのではなく,最初からスクラッチで作っている人の割合が66%です。なんらかのカスタマイズを行うというレベルの人まで入れると,ほぼ100%近くの人がコンテンツを作っているといえます。
これはなぜかというと,なにか作ろうとして分からないことがあると,ほかの人の助けを借りられるようなスペースができあがっているからです。ほかのゲームでは,作成中に誰の助けも借りられませんので,コンテンツ制作の敷居が高くなってしまっています。
4Gamer:
それは,ほかのゲームだと,なんらかのツールを立ち上げてスタンドアロンで開発をしなければならないのに対し,Second Lifeでは,ゲーム内で共同作業ができる環境ができているからということでしょうか?
Ondrejka氏:
そうです。
■気になる日本展開はどうなる?
なるほど。話は変わりますが,今年の3月に1100万ドルの追加出資を受けてアジア展開を行うというリリースを出されていましたね。日本での展開はいつ頃になりそうでしょうか?
Ondrejka氏:
すでに英語版で日本人ユーザーの方にも遊んでいただいていますが,日本語版はある程度のところまで形になっています。
4Gamer:
具体的にいつ頃になりそうでしょうか?
Ondrejka氏:
今年の年末までにはβテストを行う予定です。
4Gamer:
アジア展開で日本が最初になったのにはなにか理由があるのでしょうか?
Ondrejka氏:
まず,すでに日本人ユーザーの方が,少数ですが,非常に活発な活動を行っていらっしゃるという状況があります(編注:
Tougenkyoなどが有名)。やはりユーザーがいるところに力を注いでいきたいと考えています。そうして展開を考えたときにヨーロッパと日本という選択肢が出てくるのですが,サポート時にローカライズが必要だということで,まず日本語版の開発を行っています。
4Gamer:
現在,日本人プレイヤーは何人くらいいるのでしょうか?
Ondrejka氏:
1万人には満たないと思います。数千人といったところでしょう。
■著作権問題にはどう対処するのか?
日本展開だけの問題ではないのですが,あまりに自由度が高くいろいろなオブジェクトが作れてしまうので,著作権的に問題があるオブジェクトを作成してしまう人も出てくると思うのですが,そのあたりはどのような対応を考えているのでしょうか?
Ondrejka氏:
これはWeb上の一般のファンサイトなどでも同じ状況になっています。ある程度自由に作成していただくのはよいのですが,中には知財権に抵触するものも出てくると思います。そういったものが問題になった場合には,該当者のIPアドレスを著作権者に渡したりといった対応をすることになるでしょう。コンテンツ量が非常に多くなっているので,こちら側で常に監視するとか探していくというのはちょっと不可能になっています。報告があれば対応ということになります。
4Gamer:
著作権者からクレームが入った場合のことを確認したのですが,Second Lifeでは,ユーザーが作成したアイテムを売買できますよね。著作権的に問題があるアイテムなどを買った人がいた場合,それらを含めて停止なりの処理ができるようになっているのでしょうか?
Ondrejka氏:
運営側では,そういった問題には関わりません。基本的にはWebでのファンサイトなどと同じです。著作権者とユーザーの当事者間の問題となります。Lindenは要請があれば該当ユーザーに取り次ぎます。著作権的に問題が発生した場合は,アメリカの著作権法で対応することになっていますので,DMCA(デジタルミレニアム著作権法)が適用されることになると思います。
DMCAでは,著作権的な問題が発生した場合,プロバイダなどが該当ファイルを削除すれば,プロバイダ自体の責任は追及されない。現在のYou Tubeなどの状況を思い浮かべればよいだろう。
4Gamer:
日本語版が展開されるときは,現在のサーバーとは別のものになるのですか? サーバーはアメリカに設置されるのでしょうか? サーバーの設置場所で法律的な問題の対応が変わることがあるかと思うのですが。
Ondrejka氏:
いえ,現在のアメリカにあるサーバーを拡張しますので,日本語版でも同じワールドで同じサーバーを使うことになります。
4Gamer:
なるほど。分かりました。それに同じサーバーなら現在のサーバーの人達とも問題なく交流できますね。ところで,Second Lifeは今年に入って爆発的にユーザー数が伸びているようですが,それはなにが原因なのでしょうか?
Ondrejka氏:
今年に入って,登録時にクレジットカード情報などを入れなくてもゲームができるようになりました(土地や物品の購入をしなければ無料で遊べる)。そこから登録者数が伸び始めたようです。それまでは,海外からの登録では時間がかかっていたりしたのですが,それも解消されました。現在,Second Lifeでは,アメリカのユーザーは全体の50%以下になっています。これを見ても海外から登録しやすくなったというのが利いているのではないでしょうか。
4Gamer:
アメリカの次に登録者数が多い国というのはどこなのでしょうか?
Ondrejka氏:
イギリスですね。
4Gamer:
ちなみに,Second Lifeでお金を稼いでいる人というのはどれくらい稼いでいるのでしょうか?
Ondrejka氏:
全体で月に200万ドルのユーザー間の売り上げがあります。売り上げのある人は全体で1万人くらいです。こういったものではありがちですが,実は非常に儲かっている人というのはほんの少数です。多い人で年間数千ドルといったところで,あとは数ドル以下といった人が大半となっています。
4Gamer:
今後のSecond Lifeで予定されているサービスを聞かせていただけますか?
Ondrejka氏:
Second Lifeではオーディオ,ビデオ,3Dと,すでに多くのメディアを組み込んできており,次はゲーム内でWebページをブラウズできるようにと作業しているところです。
4Gamer:
今後もどんどん幅広いことができるようになるようですね。頑張ってください。本日はありがとうございました。
ゲームのような形でスタートしたものの,ゲーム性自体は内部に用意されておらず,3D物理シミュレーション付きバーチャルワールドとして提供されていたSecond Life。ユーザー自身がさまざまなものを作り,スクリプトを書いて新しい楽しみ方を見つけていくという独自の発展を遂げてきた。現在,Web 2.0がもてはやされる中で,もっとも先進的なユーザークリエイトコンテンツを持ち,またその市場が完成しているメディアとして非常に注目を集めている。
ただ,Ondrejka氏の語っていたように,発端はSF小説で描かれるような現実空間の代わりになるサイバー空間を実現するというものだった。かなり趣味的な世界なのだが,これがビジネス的にも成功しつつあるというのは,驚くべきことだといってよいだろう。
Second Lifeは,3D MMORPGに似ているが,これまでのゲームとはまったく異なった体験をもたらしてくれるネットワークメディアである。先日のTGS ForumでもSCE久夛良木氏をはじめ,多くの講演者がSecond Lifeの試みに言及をしていたことを見ても,これからのゲーム業界に与える影響は計り知れないといってよいだろう。
日本展開はクライアントソフトだけの対応となりそうだが,日本人のコミュニティが広がるというのは歓迎すべきことだろう。年内にはβテストが始まるということなので,ぜひ皆さんも新しいメディアを体験してみていただきたい。(Interview:TAITAI,aueki,Text:aueki)
2006年9月28日収録
- 関連タイトル:
Second Life
- 関連タイトル:
Second Life(Macintosh)
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