企画記事
ゲーマーのための「PureVideo」発達史,2008年初頭版
今回筆者は,NVIDIAのPureVideo担当者と話をする機会を得た。そこで得られた興味深いその内容を踏まえつつ,PureVideoの歴史とこれからを一度整理してみたいと思う。
PureVideoの歴史を振り返る
2008年時点の最新GPUでHDビデオをフルサポート
GeForce 6世代,2004年後半に実装されたPureVideoは,インタレース解除やブロックノイズの軽減などを実現する動画の高画質再生機能としてスタートしている。もっとも,初代PureVideoは,ハードウェア的なビデオ再生支援機能よりも,ソフトウェアとピクセルシェーダユニットを使ったビデオ高画質化機能としての性格のほうが強かった。
もう少し細かく説明しよう。最初期のPureVideoは,DVD-Videoなど,画面を偶数ラインと奇数ラインの2回に分けて描画するインターレース映像をPC用ディスプレイに表示するとき,“二つの映像”を合成するときに生じる画面のズレを,独自のアルゴリズムで解消する高画質化エンジンとしての意味合いが強かったのだ。ちなみにPureVideoを有効化するには有償配布となるNVIDIA製のコーデックソフトウェアが必要で,ビデオ再生ソフトも「Windows Media Player」に限られるなど,制約が非常に多いのも特徴だった。
この動作条件が大幅に改善されたのが,GeForce 7シリーズの投入以降である。NVIDIAは,ドライバレベルでPureVideoの機能を実現できるように変更し,有償のコーデックソフトウェアは不要になった。また,CyberLinkやInterVideo(現Corel)といったサードパーティ製のビデオ再生ソフトもPureVideoをサポートするようになり,PureVideo環境導入のハードルはぐっと引き下げられた。
GeForce 7世代においては,PureVideoの主立った機能を統合した「VP1」というビデオエンジンが搭載され,Blu-rayやHD DVDなどといった高解像度ビデオ(※「High Definition」「ハイビジョン」ともいう。以下本稿では「HDビデオ」と表記)コンテンツの再生支援もサポートされるようになる。そして「HDビデオもサポートする本格的なハードウェアベースのビデオ再生機能」として,呼称も「PureVideo HD」に改められた。
この制約が外れ,HDビデオコンテンツのフル再生機能を実装したのは,「VP2」ビデオエンジンを搭載した「GeForce 8600」以降のGPUからだ。
GeForce 8600以降のGPUでは,VP2のほか,「BSP」(BitStream Processing)エンジンと呼ばれるH.264の復号演算ユニットや,(コンテンツ保護用の)AES128bitの暗号解除ユニットも併せて実装されており,HDビデオ再生時のCPU負荷を最小限に抑えることが可能になった。
ただし,GeForce 8600など(GeForce 8800 GTX/Ultra以外のGeForce 8000シリーズ)に搭載された第2世代PureVideo HDも,まだ十全ではない。というのも,第2世代PureVideo HDで採用されているビットストリーム復号演算回路(=BSPエンジン)は,H.264で採用されている「CABAC」「CAVLC」のみのサポートで,HD DVDで採用されるVC-1フォーマットの,ハフマン符号の復号には対応していないのだ。
惜しむらくは,GeForce 8シリーズだとHybrid Powerに対応できない点。いま述べたような使い方は,次世代グラフィックスカードの登場を待たねばならない。なお,次世代グラフィックスカードに搭載されるGPUには,遅かれ早かれGeForce 8200 mGPUと同等のPureVideo機能が盛り込まれてくる見込みだ。
ハイエンドGPUではリアルタイム色補正を実現
将来的にはミドルレンジ以下のGPUでも対応へ
同様の機能は初期PureVideoでも一部実現されていたが,今回のデジタルイメージ拡張では,コントラストの自動補正を行う「Dynamic Contrast Enhancement」(ダイナミックコントラスト拡張),そしてビデオデータの1フレーム1フレームを解析し,ユーザーがより好ましいと感じる肌の色や緑,青といった色彩補正を行う「Automatic Green, Blue & Skin Tone Enhancements」(緑,青および肌の色の自動拡張)が実現されるなど,大幅な進化を遂げることになる。
しかしながら,低価格な高解像度液晶ディスプレイと,一般的な液晶テレビでは,映像の見栄えや色再現性が大きく異なる。「家電メーカー各社は,液晶テレビにコントラストや色彩を拡張する映像エンジンを搭載するケースが多いだけに,一般的な液晶ディスプレイでBlu-rayやHD DVDといったHDビデオコンテンツを再生したときのギャップが大きい。そこで,新たにエンドユーザーが好ましい色に補正するアルゴリズムを開発し,PureVideoに実装した」と,Beaulleu氏は説明する。
ただ残念ながら,このイメージ拡張機能を現行GeForceファミリーのGPUすべてで実現できるわけではない。「すべての映像に対してフレームごとに解析,補正をかける処理は,ストリーミングプロセッサを使って行っている。そのため現状では,本機能を有効にできるのはGeForce 8800 GTなどといったハイエンド製品に限られる」とBeaulleu氏。
統合型シェーダ(Unified Shader)アーキテクチャを採用するDirectX 10世代のGPUでは,「シェーダユニットそのものの構造が,DirectX 9世代のピクセルシェーダユニットから簡素化されているため,複数のストリーミングプロセッサを組み合わせた処理を行なう必要が出てくる」とのことで,デジタルイメージ拡張は,ハイエンド製品のみの実装になるとのことだった(表)。
シェーダユニットやパイプラインを使った映像補正機能は,DirectX 9世代のGPUなら,下位モデルでも実現されていたが,これは,DirectX 9世代だとピクセルシェーダユニットやパイプラインが,より複雑な構造を取ることができたため。換言すれば,ビデオ処理をシェーダユニットやパイプラインに割り当てるときも,ハードウェアリソースをあまり消費する必要がなかったのである。
だが,DirectX 10世代のGPUであるGeForce 8シリーズでは,ストリーミングプロセッサ16基が1クラスタとして管理されている。「GeForce 8500 GS」などといった,ストリーミングプロセッサ数が16基となる下位モデルのGPUだと,管理上は一つのシェーダクラスタとして見なされるため,(デスクトップの表示にも3D処理を用いるWindows Vistaで)ビデオと3D処理の棲み分けが難しいというのが,下位モデルでデジタルイメージ拡張機能を利用できない大きな理由となる。ただBeaulleu氏は,「将来的には,下位機種でも同等の機能が使えるようになっていくだろう」と,画質面での進化が今後も続いていくという見通しを示していた。
というわけで,かつては動作デコード用ソフトウェアが必須だったPureVideoは,時を経て,十分に使えるものとなってきた。3Dゲームをプレイしているときは何の意味もない機能だが,ふとムービーを見ようと思ったときにメリットがあるのは疑いないので,2008年2月時点のリファレンスとして,記憶に留めておいてもらえれば幸いだ。
なおNVIDIAは,Hybrid SLI技術を,2008年第2四半期にはIntel製CPUに対応したデスクトップPC向けチップセットに,後半にはノートPC用GPUにも拡張する計画を持っている。今後しばらくは,GPUに関連して,消費電力やHDビデオ再生機能にスポットライトが当たるケースが増えるかもしれない。
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