レビュー
ひっそりとリリースされたGeForce 8800の最下位モデルを検証する
XFX PV-T88S-FDD
» GeForce 8800の最下位モデル,「GeForce 8800 GS」を取り上げたい。いわゆる「Silent Launch」で,世界でも特定のカードベンダーからしか搭載カードが供給されない“レアなエントリーハイエンド”だが,2008年2月の新製品としては,ゲーマーにとってどのような価値があるだろうか?
型番から想像がつくように,GeForce 8800 GSは「GeForce 8800 GT」の下に置かれる,GeForce 8800最下位モデル。今回4Gamerでは,そんなエントリーハイエンドGPUを搭載したグラフィックスカード「PV-T88S-FDD」を販売代理店であるシネックスから借用できた。2008年2月6日の発売予定日直前となるこのタイミングにおいて,製品の位置付けを明確化してみたい。
カード裏面。XFX製品らしく,歪みを防ぐガイド板が標準装備 |
GPUクーラーを取り外すと,GPUと6枚のメモリチップが姿を見せる |
クロックアップモデルとなるPV-T88S-FDD
価格帯の近い4製品と比較
なお,PV-T88S-FDDはメーカーレベルでのクロックアップモデルとなっており,GeForce 8800 GSのリファレンスコアクロックが550MHzなのに対し,約24%増しの680MHzとなっている。削られたスペックを,高いコアクロックでどこまでカバーできるのかが注目点となるだろう。
なお,そういった事情により,今回リンクスインターナショナルの協力で入手したGIGABYTE UNITED製品「GV-NX88T512HP」「GV-NX88T256H」,そしてLeadtek Research製品「WinFast PX8600GTS TDH Extreme」は,本来のクロックで動作すると,今回のテスト結果よりもスコアは高くなる。あくまでテストのための措置なので,この点はくれぐれもご注意を。
このほかテスト環境は表2のとおり。8600 GTS以外のカードはすべてPCI Express 2.0対応ということもあり,Intel X38 Expressチップセットベースとなっている。
2008年2月1日の記事でお伝えしているように,NVIDIAはGeForce 8800 GS専用の公式最新版グラフィックスドライバ「ForceWare 169.32 Beta」をリリース済みだが,今回はスケジュールの都合で,製品ボックス付属の「ForceWare 169.23 Beta」を用いる。ただし,同ドライバを使用すると,PV-T88S-FDD以外のGeForce製品で画面表示がおかしくなる問題が発生したため,PV-T88S-FDD以外ではWindows XP用の公式最新版となる「ForceWare 169.21」を利用した。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.1準拠。ただし,直近のレビュー記事でも何度か述べているとおり,「RACE 07: Official WTCC Game」は最近になって挙動がおかしくなっているため,テスト対象から外した。この件については原因を調査のうえ,レギュレーションのバージョンアップで対応したいと思う。
地力は8800 GT 256に一歩及ばずも
8800シリーズの矜持を見せる8800 GS
定番の3Dベンチマークソフト「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)から見ていこう。総合スコア「3DMarks」で,PV-T88S-FDD(※グラフ中は「8800 GS」と表記。以下同)は総じて8800 GT 256にあと一歩のスコアを示している(グラフ1,2)。「高負荷設定」時の高解像度では,さすがにグラフィックスメモリ容量256MBが足を引っ張って逆転が起こっているが,GPUの地力では8800 GTに軍配が上がるという,至極当たり前の結果を確認できよう。2008年2月2日現在の実勢価格が2万3000〜2万8000円のHD 3850とはスコアにそう大きな違いがあるわけではないが,同1万7000〜2万4000円程度の8600 GTSに対しては明確なアドバンテージがある。
「標準設定」の1280×1024ドットでピクセルシェーダと頂点シェーダのスコアをチェックした結果がグラフ3,4だ。負荷の低いVertex ShaderテストのSimpleでは,テクスチャユニットやROPユニットの少なさをコア&シェーダクロックの高さで補っているPV-T88S-FDDだが,残る項目ではそうもいかなくなっている。とくに(テクスチャアクセス性能がスコアに影響しやすい)Pixel Shaderテストでは,グラフ1,2と同じ傾向に落ち着いた。
実際のゲームタイトルから,まずはFPS「Crysis」の「Benchmark_GPU」テスト結果をグラフ5,6にまとめたが,ここではCrysisが“とてつもなく重い”ことが幸いしてか,グラフィックスメモリ容量384MBの効果で8800 GT 256のスコアを凌駕している。レギュレーション5.1の設定ではゲームにならない8600 GTSと対照的だ。
なお,一部スコアがN/Aとなっているのは,8600 GTSは解像度が上がっていくとベンチマークが異常終了したため,HD 3850は高負荷設定でそもそも1920×1200ドットを選択できなかったためである。
比較的描画負荷の低いFPS「Unreal Tournament 3」では,負荷が低い状態ではPV-T88S-FDDのクロックの高さがモノをいっている(グラフ7)。高解像度ではさすがに差を広げられてしまうが,そこそこの解像度設定でプレイする限り,8800 GT 512/256と体感パフォーマンスに差は出ないだろう。
続いても,比較的描画負荷は低めの「Half-Life 2: Episode Two」だが,結果をまとめたグラフ8,9のとおりで,標準設定では上位GPUとスコアの差はまったくない。むしろ動作クロックの高さで(体感できるものではないが)8800 GTを上回っている。
高負荷設定の高解像度になると,さすがに地力の差が出てくるものの,“普通に”プレイする分には,8800 GT並みの性能を叩き出すといってよさそうだ。
グラフ10,11は,TPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)から,より実際のゲームに近いベンチマーク項目「Snow」の結果をまとめたものだ。ロスト プラネットはフィルレート勝負になりやすいタイトルで,いきおいテクスチャユニットやROPユニットの数に依存したスコアが出やすいのだが,果たして両ユニット数で上位モデルのGPUから明確な差が付けられている8800 GSは,8800 GT 256に歯が立たない。高負荷設定時の1920×1200ドットでは,グラフィックスメモリ容量の差でかろうじて8800 GT 256を上回るが,ゲームをプレイできるグラフィックス設定において,8800 GSのパフォーマンスは8800 GTと比べて明らかに一段落ちる。
RTS「Company of Heroes」の結果がグラフ12,13となる。標準設定でPV-T88S-FDDのスコアは8800 GT 256を上回り,さらに高負荷設定でもほとんど変わらず,ここではロスト プラネットとは逆に,8800 GSというGPUのポテンシャルが見て取れる。もっというと,こういったバランスの悪さは,非常にミドルクラスGPU的ともいえよう。
PV-T88S-FDDの消費電力は8800 GT並み
クーラーはうるさく,換装必須か?
ワットチェッカーを使った,PCシステム全体の消費電力を見てみよう。OSの起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し続け,消費電力が最も高かった時点を「高負荷時」として,各時点のスコアをまとめたのがグラフ14だ。
PV-T88S-FDDはクロックアップモデルなので,消費電力はやや高めに出ることを留意する必要があるが,ただ,ざっくりと8800 GT並みといって問題はなさそうである。消費電力の観点では,55nmプロセスを採用し,さらに省電力機能「ATI PowerPlay」を搭載するHD 3850の優秀さが光る。
グラフ14時点のGPU温度を,GPUモニタリングツール「ATI Tool」(Version 0.27β3)で測定した結果がグラフ15だ。テスト用システムは,PCケースに組み込まないバラックの状態で,室温16℃の部屋に置いてある。
さて,PV-T88S-FDDのGPUクーラーは常時同一の回転数で動作しており,ファンコントロールされていない。そのため動作音は非常にうるさいのだが,同時に小型クーラーということもあり,高負荷時のGPU温度はやや高めだ。GIGABYTE UNITED製の8800 GT 512/256カードは冷却能力に定評のあるZalman Tech製クーラーを搭載しているのでスコアは良好だが,両製品並みのGPU温度にして,さらに静音化も図ろうと考えるなら,GPUクーラーの交換は必須だろう。
GeForce 8600 GTSを過去のものにする性能だが
GPUクーラーの品質は実に残念
それを踏まえて8600 GTSと比べると,PV-T88S-FDDのコストパフォーマンスは圧倒的に高い。確かに8600 GTSなら,安価なものを探せば1万7000〜1万8000円程度で購入できるが,性能と価格の違いを勘案するに,どちらを選ぶべきかは明白である。
しかし,もう少し視野を広げて8800 GT 256と比較した場合は,「負荷の低いゲームでは互角のスコアを叩き出し,メモリ容量が効く高解像度では有利にもなるが,ゲームをプレイする現実的な解像度&グラフィックス設定では,やはり明らかに一段落ちる」という,別の結論も導き出せる。序盤で述べたとおり,今回テストに用いている8800 GT 256のクロック設定は最も低くなっているので,PV-T88S-FDDが予想売価どおりの価格で市場に投入されるなら,先ほどの評価からは一転し,やや高価と言わざるを得ないのだ。
店頭売価が2万円近辺まで落ちてくれば,8600 GTSキラーとしての価値がぐっと高まり,3Dゲームをプレイする多くの人にとって多大なメリットをもたらすはず。他社の8800 GT 256カードとPV-T88S-FDD(やPV-T88S-FDF)の間で価格競争が始まって,エントリーハイエンドGPUがより入手しやすくなることに,ユーザーの立場としては大いに期待したいところである。
それにしても残念なのは動作音だ。今回入手したのは製品同等のサンプルとされているので,このクーラーが製品にも搭載されるという前提で述べるが,せめてファンコントロール機能くらいは付けてほしかった。おそらくコストダウンのためなのだろうが,GPUクーラーを別途購入すると,せっかくの高いコストパフォーマンスがスポイルされてしまうわけで,この点は本当に惜しい。
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GeForce 8800
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