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「マブラヴ」バカが秋葉原に集結。都育成条例についてのディスカッションまで繰り広げられた,アージュファンイベント「第2回 国際オルタバカ会議」レポート
年の瀬も迫った2010年12月29日,東京・秋葉原の秋葉原UDXギャラリーにて,PCゲームメーカー・アージュが主催する同社のファンイベント「第2回 国際オルタバカ会議」が開催された。このイベントは同ブランドから発売されているPC用ノベルゲーム「マブラヴ」および「マブラヴ オルタネイティヴ」シリーズのファンに向けたトークイベントである。同シリーズの開発スタッフから,出演声優陣,また同作に深い縁をもつゲストスピーカーが数多く登壇し,作品内外のさまざまな話題について,濃いトークを繰り広げた。
都度休憩を挟みながらも,7時間という長丁場におよんだ本イベントだが,本稿ではその中から,筆者がとくに興味深いと感じた,第2部のトークセッション「東京国際オルタフェア2010」を中心に,(半ば個人的な趣味全開で)イベントの模様をお伝えしていこう。
なお,このイベントが「マブラヴ オルタネイティヴ」ファンの集いという性格上,本文中はネタバレ全開(というか同作をプレイしている事が前提)である。もし読み進めるなら,その点については十分理解したうえでお願いしたい。
全年齢版「マブラヴ」公式サイト
まずは「マブラヴ」と「マブラヴ オルタネイティヴ」について,軽くおさらいしておこう。
当初は王道学園ラブコメという触れ込みで発売されたマブラヴだったが,その事前情報は壮大な“釣り”であったことが発売後に判明する。確かに同作の序盤は王道的なラブコメとして展開するものの,ギャルゲーのお約束として各ヒロインを攻略していくうちに,プレイヤーは突如,廃墟と化した世界と対面することになる。
瓦礫に埋もれた自宅には大破したロボットが擱座しており,ヒロインとデートしたはずの町並みは,煤けた荒野へと変わり果てる。そこは元の地球と似た背景を持ちながらも,BETAと呼称される宇宙生物の侵略により,人類が絶滅の危機に瀕した異世界であったのだ。
状況に流されながらも,唯一BETAに対抗できるロボット兵器“戦術機”のパイロットとなった主人公・白銀武は,元の世界に帰る方法を模索しながらも,こちらの世界のヒロイン達と共に人類の存亡をかけた,悲壮な戦いに臨むこととなる。
2006年2月に発売された続編「マブラヴ オルタネイティヴ」は,主人公・白銀武が前作の世界で時間を遡り,人類を勝利に導こうとする物語である。人類vs.宇宙生物という,ハインラインの“宇宙の戦士”を彷彿とさせるミリタリー色の強いSF設定と“戦術機”デザイン,同社の人気タイトル「君が望む永遠」「君がいた季節」などともリンクした世界観と魅力的な美少女キャラクター達,悲壮な物語を盛り上げるスクリプト演出,JAM Projectによる楽曲提供などで,今なお多くのファンを楽しませている。
その後はファンディスク「マブラヴ オルタードフェイブル」やゲーム化が決定している「トータル・イクリプス」,前日譚である「シュヴァルツェスマーケン」の他,模型誌などを中心に,スピンオフストーリーがいくつも発表されており,アダルトゲームに手を出しにくい人や未成年でも楽しめるよう,全年齢版も発売されている。
キャラクターゲーム考現学 第25回:王道と代案とギャル「マブラヴ」「マブラヴ オルタネイティヴ」
「オッサンになると,自分は主役機に乗れないという現実を知るから,どうしても量産機に肩入れしてしまう」という賀東招二氏。「ガンダムUC」でスタークジェガンがクシャトリヤにやられたときは,悔しくて眠れなかったという |
では一番好きなロボットは? 全員が示し合わせたかのように本作の主役メカ“武御雷”を挙げる中,「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス」コミック版を担当するイシガキタカシ氏の答えは“マルチ”。その気持ち,分かります |
好きなヒロインから都育成条例まで
濃いトークが炸裂した「東京国際オルタフェア2010」
それではイベントの内容に移っていこう。ロボットトークで盛り上がった第1部から30分ほどの休憩を挟み,開始された第2部「東京国際オルタフェア2010」では,まずイベントを通して司会を務めたアージュ代表の吉宗鋼紀氏(以下,吉宗氏)と,シナリオライターの維如星氏,作家の内田弘樹氏(以下,内田氏),そしてエンターブレインの比企利至氏(以下,比企氏)の4名が登壇,現在開発中の新作「マブラヴ オルタネイティヴ クロニクルズ 02」と,テックジャイアン誌上で展開中の「マブラヴ オルタネイティヴ シュヴァルツェスマーケン」の開発状況・新情報などが語られた。こちらも個人的にはかなり興味深い話・スライドが続出だったのだが,こちらはアダルト/他誌掲載作品ということで,涙を飲んで割愛させていただく。
「マブラヴ オルタネイティヴ クロニクルズ 02」の新PVも公開に |
「マブラヴ オルタネイティヴ シュヴァルツェスマーケン」は,東西ドイツが舞台の物語だ |
会場がどよめきに包まれた新情報に続いて,ここでさらなる追加ゲストのお二方が登壇となった。吉宗氏の紹介ともに舞台に登場したのは,批評家の東 浩紀氏(以下,東氏)と,民主党議員の高橋昭一氏(以下,高橋氏)。
東氏は,この手のジャンルに造詣の深い作家・批評家として知られており,現在は早稲田大学の文化構想学部で教鞭を執っている人物だ。マブラヴシリーズは以前よりプレイしていたものの,本格的なコンタクトは,Twitterがきっかけとなった2010年8月のラジオ出演からとのこと。
対する高橋氏は,一昨年冬のコミックマーケット77のドワンゴブースで行われた,ニコニコ生放送収録にてゲストとして登場して以来,マブラヴシリーズに “造詣の深い”政治家として話題になった人物である。その“造詣の深さ”はちょっと尋常ではないほどで,自身のWebサイトには,マブラヴシリーズへの思い入れを綴った,こんなページが用意されているほど。
ファンからの質問「一番好きなシーンは?」
それを受けた東氏は,本作が世に出た時期に,PKOやPKFによる海外派兵が話題となっていたことに触れ,そのあたりの議論が現在はうやむやになってしまっていることを指摘。また吉宗氏からは,ゲーム制作当時,盛り上がりつつあった愛国思想ブームに対する複雑な想いや,アジア圏における反日運動の高まり,新潟県中越地震などに配慮し,数度にわたって大規模なシナリオや設定の変更をせざるを得なかった,という制作裏話が披露された。
さらに阪神・淡路大震災で瓦礫と化した街を見て,それから政治の道を志したという高橋氏は,JAM Projectが歌う本作の主題歌「未来への咆哮」の歌詞冒頭を聞いて,その光景がありありと思い出されたという。イベントの初っぱなから,「ひょっとしてマブラヴは国策でつくられたんじゃないかと疑った」と発言するなど,ちょっと暴走気味な気もするが,まぁいいたいことは分からんでもない。
ファンからの質問「好きなヒロインは?」
純夏派の意見としては,お三方ともに彼女が背負っている運命,メインヒロインたる純夏の物語そのものに,抗うことのできない魅力を感じているようだった。
東氏は純夏の置かれた状況を,プレイヤーが罪悪感を感じずにはいられない“良い”設定だという。ギャルゲーにはよくあることなのだが,各ヒロインのルートに入った後,ほかの選ばれなかったヒロイン達が,主人公達の応援にまわったり,都合良く出てこなくなったりする。吉宗氏は,こういった展開にどうにも納得できず,出てこなくなったキャラたちが何をどう思っているのかが,常々気になっていたと言う。裏を返せば,アージュの代表作である「君が望む永遠」も「マブラヴ」も,いわば“選ばれなかったヒロイン”にこそ光を当て,描いた作品といえるかもしれない。
いつまでも主人公を待ち続ける純夏を,維如星氏は「一途」だといい,東氏は「最初からちょっと危ないと思ってた(笑)」という。でも結局は「逃げられなかった」のだそうだ。高橋氏は「初恋の人が幼馴染みだったので」と前置きしつつも,「マブラヴ」エクストラの冥夜ルートをプレイした時は純夏に対して心の中で謝りっぱなしだったのだとか。
ファンからの質問「都育成条例と著作権侵害について」
最後の質問は,最近何かと話題の“青少年健全育成条例”(以下,都育成条例)についての質問だ。これは“青少年の健全な育成”を目的とし,マンガやアニメの過激な性表現などを東京都が規制しようとするもので,(現時点で条文を素直に解釈すれば)もちろんPCゲームやコンシューマゲームなどもその対象となりえる(関連:東京都青少年の健全な育成に関する条例および規則について)。
規制の対象となる表現の“基準”が曖昧すぎることから多くの議論を呼び,またこれに反対する大手出版社や関連企業が,都が主導する「東京国際アニメフェア」への参加を取りやめるなどの動きで注目を集めている。
質問内容は,今回登壇したスピーカーに,都育成条例や違法ダウンロードやファン活動という名の著作権侵害が日本のオタクコンテンツを消滅させるのではないかという危惧についての見解を求めるもので,これに対して議論の焦点は都の育成条例に。
東氏は,規制反対派である自身の立場を明らかにした上で,感情的な声を荒らげるのではなく,規制賛成派を対話のテーブルに着かせるための冷静な信頼関係の構築,パイプ作りが重要であるとコメントした。
東氏は雑誌などの既存メディアや,ニコニコ生放送などでの議論の場などにおいて,規制賛成派が取り合ってくれない(テーブルについてくれない)という現状を指摘し,都知事である石原慎太郎氏や,副都知事の猪瀬直樹氏への個人攻撃に終始しているばかりでは,こちらの声が相手に届くことはないだろうと語った。
また現実問題として,条例はすでに公布済みであることから,問題はどう運用するか,という段階へ入っているとし,規制反対派が賛成派を説得しなければならない状況であると強調。規制反対派主導の場であっても,賛成派が足を向けやすい(少なくとも議論ができる相手だと思わせる)環境作りを目指すべきだと熱弁を振った。
また東氏は,上記とは別のレイヤーの話として,規制反対派は全世界に対しても説明責任を負うことを自覚すべきだと展開。今でこそ“ロリコン文化”という形で,国内である程度市民権を得ているイラスト表現であっても,(実情はどうあれ)海外から見るとグロテスクに取られてしまうことが多々ある。海外における“チャイルドポルノ的なもの”への嫌悪感は,日本人が考える以上のもので,オタク文化を守るのであれば,それに対する自衛策=本物のチャイルドポルノの摘発,ゾーニングの徹底,理論武装などを,これまで以上に推し進める必要があると語った。
全年齢版「マブラヴ」公式サイト
- 関連タイトル:
マブラヴ オルタネイティヴ
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マブラヴ
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