レビュー
45nmプロセスルール採用,Penryn世代CPUの可能性を探る
Core 2 Extreme QX9650/3GHz
» Intelから間もなく登場となるPenryn世代のCPU。45nmプロセスルールで製造される新モデルは,L2キャッシュ容量の増加など,ゲームパフォーマンスを左右する変更が少なくないが,果たして既存のCore 2ファミリーと比べて,どれだけの違いがあるだろう? 正式発表前となるこのタイミングで,可能性を探ってみたい。
Intelは,2007年第4四半期中に,開発コードネーム「Yorkfield」(ヨークフィールド)と呼ばれていたデスクトップPC向けクアッドコアCPUの最上位モデル「Yorkfield XE」を発表予定だ。今回4Gamerでは,「Core 2 Extreme QX9650」(以下,QX9650)と名付けられたYorkfield XEのサンプルを正式発表に先駆けて入手したので,ゲームにおいてどれぐらいのパフォーマンスアップが望めるのか,そのポテンシャルをベンチマークにより検証してみたい。
L2キャッシュは従来比1.5倍に増強
オーバークロックでは空冷で4GHz動作を実現
テスト環境は後述するが,グラフ1は,システムベンチマーク&情報表示ソフト「Sandra 2008」に用意される「Cache and Memory」テストを,CPU以外は同一の環境で実行した結果をまとめたものである。
L1キャッシュ容量を超える256KBでグラフが落ち込み,さらにL2キャッシュの容量を超える16MBでさらに落ち込むという全体的な傾向は同じ。しかし,16MBのスコアに注目すると,QX9650のほうが高い値を示している。ちなみにこのときのスコアはQX9650が16228MB/s,QX6850が7662MB/sだが,これは,QX9650のL2キャッシュ容量が効いていると見ていいだろう。
表1に戻ると,QX9650では新しい拡張命令セット「SSE4」への対応が果たされている。SSE4は,データフォーマットのコンバージョンに特化したもので,ムービーなどのエンコードソフトではその恩恵を受けられるものの,ゲーム用途ではあまり関係がないと思われる。そのほかのスペックはCore 2 Extreme QX6850に準じており,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)も130Wで変わっていない。なお,表には入れていないが,QX9650のTCaseは64.5℃となる。
テスト環境は表2に示したとおりで,マザーボードはいずれもASUSTeK Computer製の「Intel X38 Express」搭載製品になる。どちらもQX9650を利用するにはBIOSのアップデートが必要で,さらに省電力機能である「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(拡張版インテルSpeedStepテクノロジー,以下EIST)をBIOSレベルで無効化すると,パフォーマンスが向上しないという制限があった点は付記しておきたい。
QX9650が正式に発表されるころには対応BIOSも出揃っていると思われるが,場合によってはユーザー側でBIOSアップデートが必要になる可能性もある。
Maximus Formula Special Edition DDR2メモリに対応するゲーマー向けモデル メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万1000円前後(2007年10月29日現在) |
P5E3 Deluxe/WiFi-AP DDR3メモリ対応のハイエンドボード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:4万3000円前後(2007年10月29日現在) |
ちなみに今回のオーバークロックテストでは,Themalright製CPUクーラー「SI-128 SE」に,Xinruilian Electronics製120mm角ファン「RDL1225S」(回転数1700rpm)を取り付けた状態のものを利用した。
なお,これはお約束だが,オーバークロック設定はメーカーやショップの保証外となる行為であり,4GHzというクロックも「あくまで筆者が試したテスト環境での結果」に過ぎない。オーバークロックを試した結果,CPUやPCに深刻なダメージを負ったとしても,すべては実行した人の自己責任となる。今回の記事を参考にオーバークロックを試みた結果,何か問題が発生したとしても,Intelや販売店はもちろん,筆者や4Gamer編集部も一切の責任を負わないので,くれぐれもご注意を。
L2キャッシュ容量の増加は
確実な性能向上をもたらす
前置きが長くなったが,テスト結果の検証に入りたい。以下グラフ中,「with DDR3」表記のないものがDDR2 SDRAM環境,あるものがDDR3 SDRAM環境となる。
グラフ2,3は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)のテスト結果だ。前者は総合スコア,後者はCPU Testの結果だが,いずれにおいてもQX9650のほうがスコアは若干高い。これは明らかにCPUの違いが生んだスコアであり,まず間違いなくL2キャッシュの容量差による違いだ。
また,DDR2 SDRAM環境とDDR3 SDRAM環境を比較すると,後者のほうがわずかに高いスコアを示している。
続いて「3DMark05 Build 1.3.0」(以下,3DMark05)のテスト結果だが,3DMark06と同様の傾向ながら,QX9650とQX6850の差は縮まっている(グラフ4)。これは,3DMark05のほうが負荷が低く,処理するデータも少ないぶん,L2キャッシュ容量の違いが影響しにくくなっているというわけだ。
実際のゲームにおけるパフォーマンス検証に移ろう。まずはFPS「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」(以下,S.T.A.L.K.E.R.)における平均フレームレートをグラフ5にまとめた。
今回のテスト方法において最もCPU性能がスコアを左右しやすい(=最もGPU負荷の低い)1024×768ドットの値に注目すると,同一クロックで動作するQX9650とQX6850の間にやや大きめの差がついており,L2キャッシュ容量の影響が見て取れる。一方,DDR2メモリとDDR3メモリでは,ごくわずかながら後者のスコアが上だが,それほど変わらないともいえそうだ。
同じくFPS,「Half-Life 2: Episode One」(以下HL2 EP1)の結果をグラフ6に示す。HL2 EP1もS.T.A.L.K.E.R.とほぼ同じ傾向を示しており,1024×768ドットにおいてQX9650とQX6850の違いは明らかだ。メインメモリの違いによるスコアの変化はS.T.A.L.K.E.R.よりさらに小さくなっている。
TPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下ロスト プラネット)における「Cave」のスコアをまとめたのがグラフ7である。
ロスト プラネットでも,QX9650の優位性は目に見える形で確認可能だ。また,動作クロックの高いDDR3メモリ環境のスコアが,DDR2メモリ環境よりも明らかに高く,この点はこれまでと若干異なる傾向を見せている。
続いてはRTS「Company of Heroes」のテスト結果だが,ここでもQX9650はQX6850に対して安定して高いスコアを出している(グラフ8)。メインメモリの違いに関していうと,S.T.A.L.K.E.R.やHL2 EP1のテスト結果に近い。
最後にグラフ9はレースシム「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)の結果だ。ここでも,QX9650のほうがQX6850よりスコアが高く,DDR2とDDR3だと後者のほうがスコアは高いものの,違いはわずかという点で,ロスト プラネット以外に表れた結果を踏襲している。
45nmプロセスルールは伊達じゃない
秀逸なQX9650の低消費電力
一般に製造プロセスの微細化は(トランジスタの動作電圧が下がるので)消費電力の低減につながる。となれば,45nmプロセスルールを採用するQX9650の消費電力低減には期待できそうだが,表1で示したとおり,同製品のTDPはQX6850から変わらずの130W。この点が気になっている人もいると思う。
OS起動時30分間放置した直後を「アイドル時」,MP3エンコードソフトベースのCPUベンチマークソフト「午後べんち」を30分間実行し続けた直後を「高負荷時」として,システム全体の消費電力をワットチェッカーで測定した結果をまとめたものがグラフ10である。なお,アイドル時については,EISTの有効/無効それぞれでスコアを取得している。
結果は一目瞭然,QX9650の消費電力は明らかに低い。EIST有効時こそ大きくは変わらないが,EISTを無効化したアイドル時に30W,高負荷時には40Wの違いが生じている。CPUコア電圧を引き上げ,さらに4GHzまでオーバークロックした状態がQX6850の定格動作時とほぼ同じというのは,かなり衝撃的だ。
なお,DDR3 SDRAM環境では――マザーボードの違いがあるため一概にはいえないものの――総じて消費電力が低くなる傾向が見て取れる。
さらに,グラフ10の状態におけるCPUコア温度を,モニタリングツールである「CoreTemp」で測定し,高負荷時の温度が最も高いコアのスコアを抽出した結果がグラフ11である。室温20℃の環境において,PCケースに組み込まないバラックの状態で計測したスコアだが,Intelのリファレンスクーラーを用いたときQX6850は高負荷時に80℃を超えてしまうのに対し,QX9650は60℃台の中ほど。扱いやすさの向上は明らかだ。
なお,QX9650を4GHz動作させたときの温度が低いのは,前述のとおり,これのみクーラーが異なるからである。
QX9650が現時点の最速モデルなのは疑いない
Yorkfield/Wolfdale世代の低価格モデルにも期待
価格は明らかになっていないので何ともいえないが,最近のExtremeモデルは長らく999ドルなので,おそらくそこを大きく逸脱することはないのではなかろうか。絶対的なパフォーマンスのためならコストは無視できるという人には,間違いなくオススメである。
ただ,さすがにこのクラスが万人向けではないのも確か。“XE”の付かない下位モデルのYorkfieldや,Penryn世代のデュアルコアCPU「Wolfdale」(ウルフデール,開発コードネーム)といった,より安価なモデルの早期デビューにも期待したいところだ。
(C)2006 Intel Corporation