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[GDC06#2]「Half-Life 2」は,こうして作られた!
確かに,同社の顔役として,経営者であるGabe Newell(ゲイブ・ニューウェル)氏が登場することが多く,開発現場がどのようになっているのかはあまり知られていなかった。リードデザイナーがいないのは驚きだが,Half-Life 2の制作では開発チームを三つに完全分離し,それぞれにエピソードを担当させるcabalシステムが採用されていたという。例えば,最初の駅,運河,そしてCity17の中心部という三つの異なるプロジェクトが,同時進行していたというわけだ。
同じようなプロセスを踏んだゲームで思い出すのが,ION Stormの「Daikatana」である。当初はJohn Romero(ジョン・ロメロ)氏を頂点として四つのチームがそれぞれの時代に分かれてゲーム制作を進行していたものの,チームごとに技量面での格差が生じ,結局はロメロ氏がすべてに手を加え直すことになったのだ。こうしたことから,このような方式では統率が難しいという懸念が生じてしかるべきである。
しかし,スペイダー氏は,レクチャーの中でまずこの部分に触れ,「ゲーム開発に関しては,(全員に対して)ポジティブな態度で構え,よく洗練された目的と,その目的の十分な理解を浸透させておく」ことが前提であると強調していた。スペイダー氏やジェイコブソン氏らは,いわば各チームのリーダー的な存在であったらしいが,通常のリードデザイナーやシニアレベルの開発者のように,特定の問題を一人で解決するのではなく,あくまでグループで話し合って開発を進めていたという。つまり,彼らは,ただのまとめ役だったのである。
「アメリカには自我の強い開発者が多い」という話をよく耳にするが,Valveにそんな問題はまったくないのだろうか。同社には前作「Half-Life」から在籍しているメンバーや各種のMOD制作の実績で採用された生え抜きが多いのは事実だが,各個人がメンタルな部分で相当トレーニングされていなければ,強力なリーダーシップの不在は開発現場を崩壊させる危険性をはらんでいたはずだ。
また,Valveはテストプレイでもユニークな方式を採用していた。α版以前の段階から積極的に外部のテスターを受け入れ,逐一彼らの反応をうかがっていたという。「テスト中は話しかけない」などのルールを作り,まだテクスチャや主要オブジェクトが設置されていなくても,とにかく1週間に1度の割合でテストプレイを行ったのだ。
その目的は,良い部分と悪い部分を徹底的に洗い出すことだった,とジェイコブソン氏は話す。良い部分を優先して開発することでゲームプレイを洗練させ,悪い部分も後々変更したり完全に切り取ったりすることで,次のテストへとつなげていったという。このように早い段階から修正を加えていくことで,α版(ゲームの主要部分がまとめられた段階)からβ版(ファイナル版に向けて,すべての仕様が整っている段階)までは,たった4か月しかかからなかった。
Valveのcabalシステムがほかの開発チームでうまく機能するのかについては,筆者には分からない。人気ソフトの開発元であり,精神的にも経済的にも余裕があったから可能だったような気もするし,テスティングの方法はともかく,プロジェクトがリーダー不在のまま効率良く開発が進んでいくというのは奇跡でしかあり得ないのではないだろうか。
しかし,ともかくValveはこの方式でHalf-Life 2を成功させた。あの作品にして,この開発者達あり,といったところか……。(奥谷海人)
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