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  • 発表日:2003/10/23
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印刷2012/05/01 15:10

インタビュー

NVIDIAの飯田慶太氏とCem Cebenoyan氏に聞く「GeForce Experience」の詳細と「GPU PhysX」の現状

NGF 2012会場となるSuper Brand Mall(写真正面左)。それに隣接する格好でPudong Shangri-La Shanghaiは位置している
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 「NVIDIA Gaming Festival 2012/GeForce LAN」(以下,NGF 2012)の2日め(最終日)となる2012年4月30日,会場近くのホテル「Pudong Shangri-La Shanghai」で,NVIDIA本社の飯田慶太氏Cem Cebenoyan(ジェム・ジェベノヤン)氏に対して,日本の報道関係者でグループインタビューする機会が得られた。

 両氏はいずれも,NVIDIAで「プロセッサとドライバ以外」(飯田氏)を担当する部門「Content and Technology」のディレクターだ。29日に発表されたGeForce Experience」(以下,GFE)や,4Gamer読者に馴染み深いであろうところでは「PhysX」や「3D Vision」,あるいは開発系の「CUDA Toolkit」や「Parallel Nsight」といったツールや各種技術デモの開発,ゲームデベロッパとの協力体制構築などが,Content and Technology部の役割となる。

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飯田慶太氏(Director of Global Content Management, NVIDIA)
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Cem Cebenoyan氏(Director of Developer Technology, NVIDIA)

 今回,飯田氏とCebenoyan氏からは,発表されたばかりのGFEを中心として,いくつか興味深い話を聞くことができたので,本稿ではそのあたりをまとめてみたいと思う。

飯田氏とCebenoyan氏の所属するContent and Technology部門で手掛けるツール群。ちなみに本部門のトップはTony Tamasi(トニー・タマシ)氏だ。古くからのGeForceファンならその名を憶えている人も多いだろう
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GFEの検証はテストラボ「GTL」で実施

最終の実装方法は未公開


 さて,GFEの概要は29日の記事でお伝えしたとおりなので,未読という人はまずそちらをチェックしてもらえればと思うが,GFEのテストファームを構成する数千台のPCは,世界各地にNVIDIAが用意しているテストラボ「GTL」(Game Testing Lab.)に置かれていると,飯田氏は述べる。「GTLでは,さまざまなグラフィックス設定を自動でテストするためのシステムが,2003年から稼働していた」(同氏)そうだ。

 GTLが置かれているのは,米国のサンタクララとセントルイス,ロシアのモスクワ,韓国のソウルと中国の上海。いずれもリモートで管理されており,GFEにおける「WindowsやDirectX,ドライバのバージョンを変えながら,ゲームの設定を次から次へと変えて自動的にテストを行って結果を出し,フレームレートと画質の最良なバランスを求める」というシステムの骨子も,8年前には確立されていたという。

GTLのテストファームは,「OSとDirectX,ドライバはこれこれで,こんなハードウェア構成のPCでテストした結果を返せ」とWebインタフェースから命令を出せば,システムが自動で,最も近い構成のマシンを選び,ソフトウェアをセットアップし,テスト結果を示すようになっているとのこと。ちなみにソウルと上海では,MMORPG開発のメッカということもあり,2バイト文字のテストなどのための人員も置いているそうだ
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 当時のシステムを以下,便宜的に「旧システム」と呼ぶが,旧システムは800台超のPCで運用され,「特定のシステム構成でGPUを変えたときの推奨グラフィックス設定」が,実際にスクウェア・エニックスやカプコン,Epic Gamesなどをはじめとする主要PCゲームデベロッパにフィードバックされていたという。ゲームタイトルを入手してインストールしたら,自動的にGPUを認識して,「推奨設定」が適用されたという経験がある人は少なくないと思うが,あれは,旧システムのテスト結果を,ゲームデベロッパが適用したためだったわけである。

 ちなみに,旧システムの拡張版となるGFEだと,GPU以外に,CPUやOSやDirectX,ドライババージョンもテスト結果取得対象となるため,運用されるPCの数が数千台規模に達しているというのは,29日の記事でお伝えしたとおりとなる。

NVIDIAは,とくに大手デベロッパに対しては,開発の初期から関わっていく。旧システムのテスト結果をフィードバックするというのは,主に,広報活動が始まるフェーズの前,デバッグやテストのステージで発生する作業だ
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基調講演より。GFEでは,(GTLの)テストファームにおける結果を基に,ユーザーが使っているPCと,プレイしようとしているゲームタイトルに合わせて推奨設定が提示されるとされた
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 ここで気になるのは,「推奨設定」,とくにGFEにおける推奨設定がどんなものなのかという話だ。FPSとMMORPGでは求められるフレームレートがそもそも異なってたりもするわけだが,この点はどうなっているのだろうか。

 「たとえば『Counter-Strike』なら60fps以下に落ちないのというのがプレイヤーの希望だろうが,MMORPGなら20〜30fpsでいいという場合もある。影や,どこまで遠くが表示されるかなど,描画に対する要求も異なるので,そのゲームでは何の優先度が高いのか,ゲームデベロッパの意見をもらいながら,『OPS』(Optimal Playable Settings,最適プレイアブル設定)を決定していく。全自動で(GFEのシステムが)決めているわけではない」(Cebenoyan氏)

 もう1つ,そもそも「自動的に数千台のPCに対してテストをすると言っても,ゲーム側にベンチマークモードがなかったらどうなるのか」という疑問もあるだろう。この点を,飯田氏は次のように回答している。

 「ベンチマークモードがない場合でも(NVIDIAにはゲームタイトルの開発バージョンが届いているので,それを利用すれば)操作を自動化するスクリプトを用意できるケースがよくある。MMOタイトルの場合,エンドユーザー向けのクライアントには含まれていない,デバッグ目的などのベンチマークモードというか,典型的なユーザーの操作をシミュレートできるモードが,用意されていることが多いので,それを使うことになる」

 つまり,NVIDIA製スクリプトや,隠し動作モードを利用できるタイトルであればGFEに向けたテストが可能で,しかもそういったタイトルは多いというのが飯田氏の見解だ。ただ,そうでなければテストの自動化は難しくなるとも,氏は述べていた。
 また,「ベンチマークモードがある場合は基本的にそれを使うが,『Call of Duty』フランチャイズのようなAAA(トリプルエー,世界規模)タイトルの場合,仮にベンチマークモードがあっても,(ゲーム側のアップデートが頻繁で,ベンチマークモードとの乖離が大きくなるため)NVIDIA独自のスクリプトを使うことも多い」(飯田氏)とのことだった。

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 ちなみに,シングルプレイヤー向けタイトルで,ベンチマークモードが用意されているものであれば,2日間程度でデータは出揃うが,MMORPGなど,複雑になっていけばいくほど,テストにかかる時間は多くなるという。

 なお,β版で何タイトルをサポートするのかや,GFEツールが単体のアプリケーションで登場するのか,はたまたGeForce Driverに統合されるのかは,聞いてみたが,残念ながら「回答できない」とのことだった。
 プレミアムサービスが用意されたりするのか,そもそもの話としてGFE自体が無料なのか有料なのかといったところも「話せない」(飯田氏)とのことなので,どういう形でサービスが行われるのかは,β版が登場するという6月6日を待つ必要があるだろう。

GFEを使うことで,デフォルト状態と比べてより高度なグラフィックス設定をよりハイパフォーマンスに実行できる
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PhysXのGPUアクセラレーションはこれからが本番?

実装しやすくなり,中国では2012年に一挙8タイトルが登場へ


 グループインタビューでは,PhysXに関するアップデートも話題となった。
 飯田氏によれば,これまでに物理シミュレーションエンジンとしてのPhysXを採用したタイトルは,PCとPlayStation 3,Xbox 360向けに250本,AndroidやiOSベースのモバイル端末向けに100タイトル以上がリリースされているという。「『Angry Birds』がいい例だが,グラフィックスがリアルであるかというより,動きがリアルなほうが,モバイルゲームではプレイしていて面白いことが多い」(飯田氏)ため,PhysXの採用例が増えているのだそうだ(※ただし,Angry BirdsがPhysXを採用しているかどうかは明らかにされなかった)。

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PhysXを採用したAndroid向けゲームタイトルの例として示された「Demolition Inc. THD」。パズルゲームだが,破壊表現にPhysXが用いられている
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クルマでゾンビを轢いていくタイトル「Zombie Driver」。その「HD版」が,PhysXを採用して,PCやゲーム機,Tegra 2以降搭載端末向けに間もなくリリース予定とのこと

 物理エンジンとしては,伝統ある「Havok Physics」や,フリーのライブラリとして広く支持を集めている「Bullet Physics」などがすぐに思いつくが,そのなかにあってPhysXのメリットは何か。飯田氏とCebenoyan氏からは,「APEX」(Applied Physx EXtension)の存在こそがPhysXの優位性であるとの説明があった。

 APEXの概要は2009年3月26日の記事をチェックしてもらえればと思うが,飯田氏の言を借りるなら,「ClothingやParticles,Destruction――これから『Turbulence』も登場するが――などといった機能を,プログラマーではなくアーティストが,モジュールとして使えるような開発フレームワーク」である。そんなAPEXの用意,それ自体が,ほかの物理演算ライブラリにはない,PhysXの優位性というわけである。
 また,APEXがPhysX Solverとして機能することで,Android&iOSベースのモバイル端末からゲーム機,GeForceによるGPUアクセラレーション「GPU PhysX」まで,PhysXがマルチプラットフォーム対応となっている点も,ほかにはないポイントだという。

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PhysXとAPEXの概要

 「すでにUnreal Engine」や「Unity」に実装されているため,これらを使えば実装の手間すらかからない点や,そもそもNVIDIAがGPUメーカーで,ソフトウェア部門が単体で黒字化する必要もないため,ライセンス料が極めて低額となっている点も重要と,飯田氏は付け加える。「デベロッパのなかには,無料だと,『いつサポートが終わるのか不安』というところがあるので,むしろ有料であることが安心材料になっている」(飯田氏)。

 いま名前が出てきたGPU PhysXはどうなっているだろうか。
 PhysXの場合,ゲーム側の実装次第では,GeForceによるGPUアクセラレーションを利用できるのがウリだ。しかし実際のところ,対応タイトルは「Alice: Madness Returns」など数えるほどしか存在しておらず,しかも,1年に1タイトル程度のペースでしか出てきていない。正直,GPU PhysXはもう死に体だと考えている人もいるのではないかと思う。

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PhysXのソフトウェアスタック
 この点について飯田氏は,現状でGPU PhysX対応タイトルが少ないことを認めたうえで,それが,GeForceによるGPU PhysXよりも,PhysXやAPEXの開発を優先した結果であり,ある程度は織り込み済みであるという見解を示していた。
 氏によれば,「かなりの数のエンジニアを,SDK(ソフトウェア開発キット)シミュレーションアルゴリズムの最適化,ツールの使いやすさ向上に振り分けてきた」とのこと。「それまでは,PhysXやAPEXに精通した人間でなければ,PhysXをゲームエンジンに実装するのは難しかった。(ゲームデベロッパがPhysXの)実装を数日間で終え,アーティストがシミュレーションの見栄えをチェックしながら利用できるようになったのは1年くらい前からだ」(飯田氏)。

 導入コストが大きく下がったことで,今後,GPU PhysX対応タイトルが全世界的に増えていくという予測をNVIDIAではしているそうで,実際,中国では,2012年だけで8タイトルがGPU PhysX対応で登場見込みになっているという。


PLAは,1930年代の上海を舞台とした,いわゆる抗日戦線がテーマのオンライン専用FPS。2012年後半には中国で正式サービスが予定され,2013年には世界展開予定とのことだが,テーマがテーマだけに,日本には来ない予感がする。なお,ベンチマークソフトは5月中に公開予定とのこと。NGF 2012の会場ではデモ版がプレイアブルだった
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H3Dの「QQ Dance 2」とSnail Gameの「九陰真経」
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中国では2012年だけで8つものGPU PhysX対応タイトルが登場予定とされる
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 中国の場合,GeForceのシェアがデスクトップPC市場で約80%あり,ノートPC市場でも全体の65%が単体GPU搭載モデルで,そのさらに65%がGeForce搭載モデルという状況があるそうだ。非常にGeForceが強い市場のデータなので,それだけを持ち出して「ついにGPU PhysXが来る!」と断ずるのは,さすがに早計だろう。
 ただ,モバイル端末向けアプリケーションの100タイトルに早くも採用されているという話からすると,物理シミュレーションエンジンとしてのPhysXが,新たなステージに立ちつつあることは確かなようだ。

 NGF 2012ではGFEの影に隠れており,またそもそも,GPU PhysXが採用されたりしない限り,大々的に謳われることもないので忘れがちだが,GeForceとTegra,そのほかのゲーム機やモバイル端末で利用できる汎用の物理シミュレーションエンジンとしてPhysXが根を下ろしつつあるとは,紹介しても誤りでないように思われる。

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