レビュー
エネミー・テリトリー クエイク・ウォーズ 英語版日本語マニュアル付
» 2007年後半のFPS大作の一つとして注目されている「Enemy Territory: Quake Wars」。9月末に欧州で,また10月2日からは米国でパッケージ版が発売され,さらに10月10日にはValveのデジタル配信システム”Steam”での販売も開始された。また,既報の通り「エネミー・テリトリー クエイク・ウォーズ 英語版日本語マニュアル付」も11月には発売される。ついに……というかやっとというか日本のゲーマーもETQWがプレイできるようになったわけで「どんなゲームなんだろうか」と興味を抱いている読者も多いだろう。そこで,ETQWのゲームシステムとしての特徴や,その魅力なんかをざっくりと紹介していくことにしたい。
ゲームシステムはET&RtCW,世界観はQuakeシリーズ
ついにリリースされた「エネミー・テリトリー クエイク・ウォーズ」は,Quakeシリーズの世界観で繰り広げられるマルチプレイメインのFPSだ。ハイレベルのグラフィックスと,スピーディなゲーム展開が身上の,2007年全世界期待の一作である |
といっても,ETQWがまったく斬新なゲームシステムを採用しているというわけではない。2001年に発売された「Return to Castle Wolfenstein」(以下,RtCW)のマルチプレイと,その続編「Return to Castle Wolfenstein: Enemy Territory」(以下,ET)のゲームシステムを,ほぼそのまま(だが,やや進化させた形で)継承したのがETQWなのだ。
RtCW,ETともにチームベースの多人数対戦型FPSだが,マップごとに設けられた拠点の破壊,あるいは書類や物資の運搬などの任務(ゲーム中ではObjectiveと呼ばれる)を遂行したチームが勝利する,というルールに特徴がある。チームの目標はObjectiveを達成/阻止することにあり,相手を倒すことではないのだ。
ETQWもまったく同じで,攻撃側のチームはマップに設けられたObjectiveの達成を目指し,防御側はObjectiveを阻止しなければならない。Objectiveに絡まない限り勝利できないというのがバトルフィールドなどとの大きな違いで,例えば,プレーヤーが頑張って敵を倒すことに専念しても,Objectiveの達成/阻止に失敗すれば「チームは負けてしまう」のである。また,個人に与えられる得点(MVPポイント)もObjectiveの達成/阻止に絡めば絡むほど大きくなる。「敵を倒すより,任務遂行に関わったほうが大きな得点が与えられる」わけだ。
こういったあたりはETQWと旧作RtCW,ETともほぼ同じだが,もちろん異なる点もある。まず,マップの広大さである。RtCW,ETともにマップは広いとはいえなかったが,ETQWのマップは実に広大なのだ。
この広大なマップが実現できたのは,本作の監修にあたったid Softwareのカリスマ,John Carmack(ジョン・カーマック)氏が開発した「Mega Textureテクノロジー」によるところが大きいと思われる。
従来,グラフィックスカードは大きなテクスチャを扱えないため,遠景が遙かに見通せる広大なマップを表示する際には,小さなテクスチャを繰り返し使い回すような処理が行われていた。そのため広大なようでいて,よく見ると同じ風景が繰り返されているだけだったり,近づいていくと遠方から見た風景と違う地形だったりすることも珍しくなかった。
DOOM3/Quake4エンジンを改良して実装された「Mega Textureテクノロジー」は,そうした従来の制限を取り払おうという試みだ。実際,1枚1GB近い巨大なテクスチャも使用されている。もちろん,1GB近い巨大なテクスチャではグラフィックスカード上のメモリに収まりきらないので,必要に応じて読み込まれストリーミング処理されている……らしい(詳細はあまり明らかにされていないので不明なところもある)。
このMega TextureテクノロジーのおかげでETQWでは,広大ながら遠方まで違和感のない風景が描画され,また近づいても遠方から見たのと同様の地形や建物が再現されている。従来のゲームに感じられたような「なんとなく騙されている」という印象をまったく受けないのだ。
突如来襲したStroggと地球防衛軍の激烈な戦い
ルールはちょっと複雑で,慣れるまで時間がかかるかもしれない |
だからといって,広大なマップが何の役にも立たないかというとそうでもない。例えば,異なる方向から戦闘地域に回り込み,背後から不意を突くといった攻撃も可能で,RtCWやETでは不可能だった「広大なマップを利用した作戦行動」が可能になったあたりはETQWならではの特徴といっていい。
もうひとつ,RtCWやETと異なるのは,これが「人類vs.サイボーグ異星人の戦い」という点だ。これは本作がQuakeシリーズに属するためだが,そもそもQuakeのストーリーなんか知らないという読者もいるだろうから,ここでQuakeワールドを簡単に紹介しておこう。
西暦2065年,突如として謎の異星人Strogg(ストログ)が太陽系に来襲する。Stroggは転送装置(「Quake 2」ではBlackhole GeneratorだがETQWではSlip Gateと呼ばれているようだ)を使って地球への侵攻を開始。人類に容赦ない攻撃を加えてくるが,Global Defence Force(GDF)の活躍により辛くもStroggを撃退する。
それでも地球への侵略を諦めないStroggに対して,GDFはStroggの母星Stroggos(ストロゴス)の攻撃を決意。Stroggが地球に残したテクノロジーを使ってStroggosに侵入し,敵の首領(大ボス)Makron(マクロン)を倒すことに成功したのだった(……というのがQuake 2のストーリー)。
だが,Stroggは滅びてはいなかった。Stroggは新たなMakronを作り上げて人類への攻撃を再開したのだ。そんな中,GDFの小隊が敵母星Stroggos上空で攻撃を受け不時着する。生き残った小隊のメンバーはStroggosの奥深くへと侵入,再び首領Makronと対決する(……というのが「Quake 4」のストーリー)。
やや余談だが,初代QuakeにStroggは登場しない。「DOOM」を作ったカリスマゲームデザイナーJohn Romero(ジョン・ロメロ)氏が手がけたQuakeはホラー色が強く,ストーリー的にはQuake 2以降とあまりつながりがないのだ(John RomeroはQuake完成後にid Softwareを去る)。また,「Quake III Arena」はマルチプレイに特化したゲームで,ストーリーらしいストーリーはなく,番外的な作品だ。
いずれにしても,ETQWは以上のようなQuakeワールドに属するタイトルで,具体的にはStroggの最初の侵攻,つまり初めて地球に来襲したStroggと,対するGDFの活躍を描いている。いわばQuake前史といったところである。
設定上,Stroggは人類より進んだテクノロジーを持つ。したがって,武器や能力も人類側(GDF)とは異ならざるを得ない。第二次世界大戦を舞台に米軍(連合国軍)とドイツ軍の戦いを描く旧作(RtCW,ET)は,当然ながらお互い同じ人間だし,持てる武器もほぼ同じだったが,ETQWではお互いの特性が著しく異なるだけに,マルチプレイFPSとして作り上げるためのゲームバランス調整が非常に困難だったことは想像に難くない。
実際,ETQWの開発で最も苦労したのがゲームバランスと伝えられているが,フタを開けてみると「まあまあのバランス」といっていいのではないだろうか。GDF,Strogg双方の戦闘力が極端に違うということはなく,常にほぼ拮抗した戦いが行える。確かにStroggにはGDFにはない能力があったりもするのだが(また,そうでないとStroggらしくない),それが大きくゲームバランスを崩さないよう調節されているのだ。
プレーヤーが持てる武器は(デザインは違うが)同じカテゴリーに属するのであれば両軍に大きな差はない。あれだけテクノロジーが進んだStroggなら,もう少し違う武器があってもいいのでは? と思わなくもないが,このあたりはバランスを取るため大きな差は付けられなかったのだろう。
その代わり,搭乗兵器類(ビーグル類)には若干の違いがある。たとえば,Strogg側は(Quake 4にも出てきた)2足歩行の「Cyclops」というGDFにはない兵器が利用できたりする。武器に付けられた差が小さいぶん,搭乗兵器のほうでStroggらしさを演出しているのだ。
ゲームシステムとしてRtCW&ETを受け継ぐだけに,FFA(Free for All。つまりデスマッチ)を主軸にするバリバリのスポーツ系を貫いてきたQuakeシリーズのファンには若干の違和感があるかもしれない。だが,もともとRtCW&ETのゲームシステムはQuake 2のMODの一つだったCTF(Capture the Flag。つまり旗取り合戦)から進化してきたゲームタイプといえ,その意味でQuakeシリーズからの派生といっても過言ではない(リアル戦闘系のバトルフィールドなどとは,そのへんのカラーが違っているのだろうと思う)。
また,細かい部分の描写にはQuakeシリーズらしさも十分に感じられる。たとえば,Quake 2以降,一貫して敵Stroggには,どこかしら「妙なギャグっぽさ」が漂っていたものだが,このETQWでもStroggには妙に笑ってしまうようなところがあったりする(どことはいえないが動きとか姿とか武器とか)。また,随所に出てくるStroggの構築物のデザインは,まさにQuakeシリーズそのもの。従来作のファンも十分に楽しめる出来である。
ETQWはこのようにして戦うのだ
では,具体的にどういうゲームなのか? 代表的なマップを例に戦闘の流れを紹介していくことにしよう。紹介するマップはアフリカ“Refinery”で,攻撃側がGDF,守備側がStroggという,ETQWのマップの中では代表的なパターン。
■クラス
RtCWおよびETと同じように,ETQWにも「クラス」がある。プレイヤーはいずれかのクラスを選んでゲームに参加し,そのクラスに実行できる技能を駆使することでObjectiveの達成/阻止に全力を挙げることになる。主なクラスは以下の通りだ。
(以降GDF側のクラス名/Strogg側のクラス名)
- Soldier/Aggressor
- Medic/Technician
さらに,StroggのTechnicianは敵瀕死体にスポーンホスト(復活ポイント)を設置でき,逆にGDFのTechnicianは敵スポーンホストを無効化できる。
- Engineer/Constructor
- Field Ops/Oppressor
- Covert Ops/Infiltrator
■マップ「Refinery」のバックストーリー
Stroggはアフリカ北部にある製油施設を占拠し,Stroyent(Stroggのエネルギー)生産設備に改造して自軍の拡張を図っている。GDFはStroyentの生産を阻止すべく,Stroggの戦線を突破して製油施設に設けられた2か所の石油転換フィルタの破壊を目指す。
- Objective 1〜MCPをCentral Outpostに移動せよ
GDF側キャンプに上空からMCPが下ろされる |
これがMCP(移動指揮所)。大型ミサイルSSMを発射できる |
Central OutpostまでMCPを移動させる。GDFの他のメンバーは抵抗するStroggの排除に全力をあげる |
Central OutpostにMCPを移動させることに成功。SSM発射!……しかし、Stroggのシールドに阻まれてしまう |
- Objective 2〜シールドジェネレータをハッキングせよ
シールドを無効化するため,GDF側のCovert Opsは敵シールドジェネレータをハッキングしなければならない。シールドジェネレータに近づき,ハッキングを成功させようとするGDFに対して,Stroggはハッキングを阻止するという攻防戦である。
Stroggのシールドジェネレータ付近に移動。Stroggも移動して守備を固めている |
左手奥に光っているのがシールドジェネレータ。建物を超えてハッキングを試みる |
Stroggの激しい攻撃をかいくぐってハッキング中 |
シールドジェネレータのハッキングに成功! 再度、SSMが製油施設に打ち込まれ、突破口が開く |
- Objective 3〜石油転換フィルタを破壊せよ
これが製油施設。内部の南北2カ所にある転換フィルタを爆破しなければならない |
内部の守りを固めるStroggとGDFの激しい攻防 |
北側Stroyentフィルタ。爆弾を仕掛けなければならない |
南北の転換フィルタ爆破に成功! ついにGDF側が勝利した |
ハードルはやや高いかもしれないが
ハマれば最高のゲーム
以上,典型的なマップのゲーム展開を紹介した。ETQWには世界の4地域に3マップずつ,合計12のマップが収録されている。GDFが攻撃側,Stroggが守備側というパターンが多いが,もちろん逆のパターンもある。また,Objectiveも紹介したようなものだけでなく,例えば「データディスクを送信設備に運べ」「橋を建設せよ」など数多くあり,マップによる変化が楽しめる。
各マップごとにストーリーがあり,Objectiveを達成/阻止しない限り勝てないというシステムだけに,ルールが理解できているかどうかがETQWを楽む重要な鍵だ。実際,ルールを理解していないプレーヤーが多く集まると,理解している数人だけが奮闘してほかはObjectiveを無視して遊んでしまい,どちらかがあっさり短時間で負けるという,実にしまりのない,つまらないゲームになりがちだ。
また,やみくもに敵を倒し続けているだけではチームは勝てないし,自分のスコアも上がらないので「なんだつまらん」となってしまいかねない。そういう意味では,ややハードルが高いゲームといえるかもしれない。
だが,両軍がObjectiveに集中する迫力ある局地戦,Objectiveから次のObjectiveへと移り変わるスピード感はETQWならではのもの。そして,固い防御を突破してObjectiveを達成したとき,あるいは逆に激しい攻撃からObjectiveを守りきったときには,ほかのゲームにはな満足感や感動を味わえる。一度でも両軍が拮抗した緊張感のあるゲーム展開を体験してしまえば,ハマってしまうこと請け合いだ。
紙幅の関係で,今回はごく簡単にしか紹介できなかったが,各クラスの役割を覚えることもETQWの楽しみの一つ。ルールやクラスの役割を覚えるために,まずは対コンピュータ戦やデモ版を遊んでみることをお勧めしたい。今年最高……といえるかどうかは,まだなんともいえないが,最高に近いところにあるFPSであることは間違いないので,ぜひ試してほしい。
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