2004/07/20 18:36 |
「Medal of Honor:Pacific Assault」(以下Pacific Assault)は,太平洋戦争の前半を描いたシリーズ最新作。去年コンシューマゲーム機用に同じ太平洋戦争を扱った「Medal of Honor: Rising Sun」(邦題:メダル オブ オナー ライジングサン)がリリースされているが,本作はPC専用のFPSとして開発されており,いくつかのミッション設定が似ている以外は,全く別モノの作品といえるだろう。
ゲームの主人公となるのは,海兵隊のブートキャンプ(訓練所)を出たばかりの若い兵士トミー・コンラッドで,ヨーロッパ戦線以上に過酷だったといわれる,南海の島々での戦闘を体験することになる。今回のデモでは,最終章となるタラワ島における決戦の導入部分が紹介された。タラワ島といえば,アメリカ軍が太平洋戦争で初めて敵前上陸を敢行した戦場である。上陸前の徹底した爆撃にもかかわらず,日本軍は海岸線にバリケードを築き,浅瀬のサンゴに座礁していく米軍のLVT(水陸両用型輸送車)に向けて,難破した艦艇を遮蔽物にしながら果敢に奇襲を試みるという展開になった。守備にあたった日本兵4000人に対し,攻撃側は部隊の3分の1にあたる5000人が戦死したという激戦地である。
今回のデモでも,記録写真をコラージュした導入ムービーから始まって,巨大な空母から発艦していく爆撃機を横目に,不安げにLVTに乗り込む主人公の姿が映される。なんとなく,2003年に大ヒットした「CALL OF DUTY」にも似ているが,Pacific Assaultでは主人公の顔のアップが多用されており,ボイスオーバーとあいまって回顧シーンのような表現がなされている。 ゲームデザイナーのケビン・マック(Kevin Mack)はこのアップについて,「ゲームも,ようやくここまで来たと思います。ここまで顔の筋肉にこだわったFPSはほとんどないはずですが,このことで本当に主人公に対する感情移入が可能になったのではないでしょうか」と語る。筆者の目にも,キャラクターの顔がアップになった瞬間に,既存のゲームとは違った何かが感じられた。大げさにいえば,これまではスクリプト化されたイベントや,グラフィックスのリアリティの向上に固執してきたFPSも,今後はゲームを遊ぶことで得られる直接的な達成感以外の方向,いわば感情移入できる「物語」を目指せるのでは,という期待を持てた。「Half-Life 2」でもそうだが,最近のキャラクター表現技術の発展には,目を見張るものがある。
Pacific Assaultのゲームエンジンは,前作と同じく「Quake III Arena」のものをベースにしているが,改良に改良を重ねてDirectX 9ベースのコードを数百ラインも書き加えており,もはや別モノと思っていい。いかにも南国らしい水面の反射や,水しぶき,遠くが熱帯性の水蒸気で霞んで見えるような雰囲気作りが素晴らしく,浜辺や木製の桟橋,さらにはジャングルの地勢も有機的に表現されている。
Medel of Honorシリーズの伝統を受け継ぎつつも,銃弾や砲撃による爆破音,敵味方も判別できないほどの叫び声などがもたらす臨場感は,より強化されている。デモでは,プレイヤーともう一人の海兵隊員は,まず桟橋の先端に下ろされて,途中に待ち受ける日本軍の狙撃兵や決死隊を始末していく。空気ボンベに発砲して倉庫を爆発させたり,ルイス機銃という携帯可能な多用途重機関銃を使ったりする様子が見られる。視界外から敵が突然飛び出してくる「バンザイアタック」が繰り返されるが,「トツゲキ」や「ヘイカバンザイ」と声を振り絞りながら迫ってくる様子は,日本人にはちょっとツラい表現かもしれない。 桟橋を進んでいくと,舷側に大きな穴が空いたまま横たわる艦艇の中で,発砲を続ける狙撃兵が見えてくる。どうやら,これがミッションの目標だったようだ。これを仕留めれば別のLVTに乗り込めるのだが,海岸を見渡すと何百人という海兵隊員が腰くらいまでしかない浅瀬を突き進んでいるのが見える。まもなく,LVTがサンゴ礁に引っ掛かってプレイヤーは海に落とされ,そこからは徒歩で浜辺に上陸することになる……。
Pacific Assaultで特筆すべきは,プレイヤーが6人から成るチームのメンバーとして進軍していくようになっており,それに合わせてキャラクターAIが大幅に向上していることだ。それぞれが,ほかのメンバーの位置や行動を常時観察して,反応するように作り込まれており,連携した行動がとれるようになっている。この6人のメンバーは,ゲーム開始から最後までチームメイトとして行動する,いわば同じ釜の飯を食う仲間達。激しい戦火を潜り抜けて,やがては立派な兵士へと成長していくというわけだ。 ほかの5人のメンバーには,軍曹,スナイパー(狙撃兵),メディック(衛生兵)などの職業があり,それぞれの役割に従って行動する。また,彼らとのコミュニケーションを通じて新しい目標が示されたり,ドラマが展開したりするので,ストーリーの進行を考えたときにも理にかなった仕様といえるだろう。 ほかのキャラクターは,プレイヤーがふいに突撃に移っても反応するようになっており,援護射撃してくれたり,後方から迅速について来てくれたりと機転を利かせるのである。もちろん,敵も同じようなチームベースのAIを備えており,これまでのFPSと違ったゲーム感覚である。 日本兵はアメリカ兵とは異なるグループAIになっているとのことだが,このあたり,単純なスクリプティングに頼ってきたこれまでの作品と比べて,大きな改良点であることは間違いない。
Pacific Assaultは今年の9月にリリースされる予定で,マルチプレイヤーモードにはデスマッチやチームデスマッチに加えて,「Invaderモード」なるものが用意される。これは,基地を拠点に防御側と攻撃側に分かれて戦うもので,「Unreal Tournament 2004」のようなゲームモードとなる模様だ。デモは,発売前と発売後に1本ずつアップロードされるはず。この夏には「DOOM 3」や「Half-Life 2」などの大作が続々とリリースされるわけだが,Pacific Assaultもミリタリー系FPSファンには見逃せない作品になるだろう。(文/写真・奥谷海人)
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