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ValveデザイナーBuren氏に聞くハーフライフ2キャラクターの秘密
すでにハーフライフ2そのものについてはお馴染みの人も多いだろうが,最初にハーフライフ2制作に関する講演の内容をまとめておこう。
■ハーフライフ2のコンセプト
ハーフライフ2を開発するうえでのデザインコンセプトの一つ目は,プレイヤーに自由に動き回ってもらって,どこでもなんでもできるようにというものだった。そして二つ目として前作で成功した部分,すなわち,執拗なまでにのめり込める一人称体験を実現することと,一人称体験のみならず,NPCによるストーリーのふくらみなどを盛り込むこと,この2点をさらに改良していこうという方針だ。この目標をより高いレベルで実現することが求められた。その要になるのはキャラクターである。
最初のハーフライフでは1ステージあたりで約5000ポリゴンが使われていたという。ハーフライフ2では,1キャラクターあたりで,すでに5000を超えるポリゴンが使われるようになってきている。
リアルなキャラクターを作るためには,当然ながらポリゴン数を増やす必要がある。さらにキャラクターをより自然に振る舞わせるシステムが不可欠になるという。単にポリゴン数を増やしただけでは,単なるゲーム内での普通の物体表示でしかなく,リアルなキャラクターとは感じられない。
また,プレイヤー側の自由度がとても高いので,どんなカメラアングルでも絵になるようなシーンがデザインされている。さらにシーン内での行動の幅を広げるスクリプトシーケンスを充実させ,プレイヤーの自由度をより高めている。こういった技術がハーフライフ2の自由度と完成度を上げているわけだ。
ハーフライフ2のキャラクターの挙動は,短いアニメーションの断片をAIなどで合成して表現されている。大きなアニメーションを作るよりも柔軟性が高く,使い回しでメモリ効率もよい。不自然な動きにならないようにアニメーションやポジションのブレンドで自然につないでいく。
そういった作業を助けるのが,今回のカンファレンスの主題であるSoftimage|XSIだ。実は,ハーフライフ2の制作を開始した頃には別のツールが使われていたという。しかし,デザインの過程でキャラクターのちょっとした変更をアニメーションなどに反映させていく場合,1か所の変更のためにデータを作り直したり,応用が利かなかったりと,データ管理でプロジェクトが進まなくなっていたという。そこできわめて異例のことだが,プロジェクト途中で使用ツールの変更に踏み切っている。結果として,これが大成功に終わったわけだ。
また,ゲーム開発の最終段階で,XSIの4.2βが発表され,4.2で実現される機能と照らし合わせて,β版への移行を決行したという。そういう段階で基本ツールを入れ替えるようなことはしないのが普通だろうが,ここで最新機能を使用した結果,ゲーム自体のクオリティを一段を上げることが可能になったという。移行でトラブルが発生しなかっただけでも驚きなのだが。バージョンアップでデータやツールの移行がまったく問題なく行えることについても,Valve社のXSIに対する信頼度は高いようだ。
■Valve社デザイナーインタビュー
4Gamer:XSI以前は別のツールを使っていたとのことですが,では,それ以前は何を使っていたわけですか? 差し支えなければ教えてください。
Bill Van Burren(以下,Bill):いや,ディスクリートだなんてとてもいえないよ(笑
注:3ds MAXを使用していたとのこと
4Gamer:ゲーム開発で3ds MaxやMayaについてはよく聞くのですが,Softimageというのはかなり珍しいのでは? やはりデータ管理などが決め手なのでしょうか?
Bill:うちのシニアアニメーターはディズニーやILMなどの出身なんだけど,いろいろ比べてみて,アニメーション機能についてはXSIが最高のツールだといっていたね。
Maxがプラグインで持っているキャラクターシステムはバグを多く抱えていて,それが問題になっていた。Mayaが作り直されてから2年後にXSIは新しく作り直されたんだけど,3ds Maxも遠からず全体的に作り直されることになるだろうね。
XSIのどこがMayaよりいいかというと,まずアニメーションツールがMayaより優れている。次にうちがSoftimageと非常にいい協力関係になれたということだね。たとえば,ValveにはXSIのツールを作るプログラマは一人もいない。全員がゲームを作ることだけに集中できたんだ。
4Gamer:Softimageと非常に密接な開発関係を持っていたということなんですが,では,ハーフライフ2の開発からXSIにフィードバックされた機能などもあるんでしょうか?
Bill:ポリゴンのリダクションツールなどがそうだね。ほかにも,ジオメトリとシェイプアニメーションのデータを分離して管理するようになったのもそうだ。ヘルパーボーン機能,ウエイトやエンベロープのインポート/エクスポートなど。Sourceエンジン限定ですが,レベル情報をそのまま読み込むツールなどもあるよ。
4Gamer:Sourceエンジンを使う場合にはXSIがベストツールなのでしょうが,それ以外のツールと組み合わせて使う際には支障はないのでしょうか?
Bill:Valveとしては,モデリングに特定のツールを押しつけるようなことはしたくないと考えている。最近になってMaxやMaya用のエクスポータも発表しているよ。ただ,アニメーション部分についてはXSIを使ってほしい。とにかく,どんなツールを使っていてもエンジンにモデルを読み込むことは可能だよ。
4Gamer:プロシージャルアニメーションということで,細かい単位のアニメーションを組み合わせてモーションを作っているということなのですが,その基本になるアニメーションは何種類くらい使っているのでしょうか?
Bill:数百といったところだね。男性用と女性用で基本パターンがあって,それをもとに各キャラによって微妙に変化をつけているので,アニメーションパターン自体は無数にあるんだ。
4Gamer:それは男性用の基本クラスから各キャラのデータを派生させてという感じで,オブジェクト指向的な考え方に思えるのですが,内部的にはそういった管理をしているわけでしょうか?
Bill:そうだね。オブジェクト指向こそがこれからの方向性だろう。現在は,たとえば20秒間のアニメーションを作ってしまうよりも,細かいアニメーションで周りとのインタラクティブ性を持たせることで,よりよいモーションを作れるのではないかということでやっているところだよ。
4Gamer:そういった方向性を押し進めると,やがてはAIなどによる自律的な動きをするキャラクターを目指しているのでしょうか?
Bill:AIによる制御は非常にいいんだけど,それはたとえば「ここに行け」とかいったハイレベルな部分で止めておいたほうがいいと思っている。物理指向が行きすぎるのもよくない。実際のモーションはアニメーターが手をかけたものにすることで,キャラクターの個性「かわいらしさ」とか,そういった部分がよりよいものにできるんだ。
4Gamer:ハーフライフ2のグラフィック全体についてですが,非常に写実的になっていますね。また,ハイエンド以外のシステムでもスケーラブルに遊べるようにもなっています。そういった部分をサポートするエンジンを開発するうえでの苦労などがあれば聞かせてください。
Bill:2に限らずハーフライフでは,ハイエンドだけでなく,広い間口のプレイヤーに対してゲームを提供することは非常に重要だと考えている。たとえばDX7以上をサポートしたビデオカードなら,ハイエンド機種のようなエフェクトは再現されないにしても,十分なフレームレートでゲームができるように調整されている。ハーフライフ2では,ハードウェアレンダラとソフトウェアレンダラを持っていて,ハードウェアの機能がサポートされていないときにはソフトウェアレンダラが描画を行うようになっているので,古い機種でもゲームプレイは問題なくできるようにしているんだ。
4Gamer:では,古い機種までサポートすることで,表現的になにか妥協しなくてはならなかった部分というのはないのでしょうか?
Bill:我々はゲームを作る際に,まず全部の機種をサポートすることを考えて作るのではなくて,ハイエンド機種をターゲットにしてゲームを設計するんだ。そして,それを低機能の機種に対応させていく。そういうプロセスで作業しているので,ディテールやエフェクトが同じように表示されないとかいうことはあっても,ゲームの内容的にはまったく妥協した部分はないといえるね。古い機種だと,エフェクトの一部,ポリゴン数,背景オブジェクトの数などで違いがある以外は最新機種とゲーム内容は変わらないよ。
4Gamer:Sourceエンジンについてですが,他社からのゲームが供給される予定はありますでしょうか?
Bill:すでに数社からコンタクトはあるよ。すでに発表されたタイトルもある。Vampire:The Masquerade - Bloodlinesだね。それといま(カンファレンスで)プレゼンテーションしているタイトー。そのほかにも数社と交渉しているところだ。
4Gamer:最後に,ハーフライフ2が出たばかりで恐縮なんですが,ハーフライフ3などは予定されているのでしょうか?
Bill:現在,Valve社内でも忙しくプロジェクトが動き回っているよ。ハーフライフ3になのか新しいタイトルなのかはいえないけど,少なくともいくつかのプロジェクトはすでに動き出しているよ。
4Gamer:今日はどうもありがとうございました。
今回のカンファレンスでもSoftimage社と非常に強い協力関係で開発されたことがわかる。かたやゲーム制作で必要とされる要素をハーフライフ2で吸収しつつ,かたやXSIのアニメーション機能でゲームエンジンを構成しつつ,XSIとハーフライフ2が相互に共同開発されていたのではないかという感じだ。
それにしても,SoftimageというとCGツールのなかでも高価なソフトというイメージしかなかったのだが,最近の価格を見ると昔の1/20くらいになっているので非常に驚いた(ワークステーション版しかなかった頃の話だが)。Buren氏もツールメーカーと協業によって,とくにキャラクター部分を非常に高い完成度にできたと語っていた。まあハイエンド3Dツールメーカーが専用サポートツールを供給してくれたようなものだから,かなり贅沢な話ではある。ハーフライフ2は,最新鋭ゲームと最新鋭ツールのコラボレーションの成功例だといえるだろう。 (aueki)
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