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いろいろな“きっかけ”をくれた「トリックスター+」との出会い:上海さくらさんへのインタビュー
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印刷2006/05/01 23:38

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いろいろな“きっかけ”をくれた「トリックスター+」との出会い:上海さくらさんへのインタビュー

 4月某日,我々4Gamerのスタッフは,MMORPG「トリックスター+」のサービスを提供するジークレストを訪れ,インタビューを行った。しかし今回のインタビューの相手は,ジークレストの社長でもなければトリックスター+のプロデューサーでもない。一般プレイヤーだ。

 プレイヤーの名前は,上海さくらさん(仮名)。うつ病と自律神経失調症を患い,一時は命の危険もあったという彼女は今,体調も回復し,元気に生活している。
 彼女を現在のような状況に導いたのは,ほかならぬ「トリックスター+」。ゲームを通じてのたくさんの仲間達との出会いが彼女を変え,そんな仲間達への感謝の気持ちを込めて,「A-girlでイこう! トリックスター+ みみとしっぽの素敵な出会い」(まぐまぐ自費出版係)という本を自費出版する。
 本の出版に関する許可を取るために,また,ジークレストのスタッフ達にお礼を言うために東京を訪れた彼女に,少しだけ時間をもらった次第だ。

 トリックスター+との出会いによって人生が大きく転換したという彼女に,これまでの経緯や,MMOゲームの持つ魅力などについて語ったもらった。

■上海さんとトリックスター+との出会い

4Gamer:
 上海さんがトリックスター+をプレイし始めたきっかけは何だったのですか?

上海さん:
 友達に,面白いゲームがあるから一緒に遊ばないかと誘われたことです。その友達は私の病気のことを理解してくれており,物事になかなか集中できない私でも,MMOゲームなら楽しくプレイできるのではないかと考え,誘ってくれました。

4Gamer:
 最初からすんなりプレイに入っていけましたか?

上海さん:
 そうですね。絵がとても可愛らしいので,最初は自分のキャラクターに愛着を持つところから始まり,ゲーム自体もすぐに好きになりました。
 ある時,「スポンジ」というアイテムが必要になったのですが,なかなか見つけられず苦労していたところ,通りがかったベテランのプレイヤー達が親切に接してくれ,スポンジ以外にもいくつかのアイテムを譲ってくれたということがありました。そのような出会いに恵まれたことも,トリックスター+にさらにハマった理由の一つだと思います。

4Gamer:
 人との出会いがあったことが,上海さんにとって大きかったんですね。

上海さん:
 そうです。オフラインのゲームでしたら,こうはならなかったと思います。



4Gamer:
 ゲーム内のコミュニケーションというとチャットだと思いますが,上海さんはもともとPCには慣れていたんですか?

上海さん:
 仕事でPCを使っていましたが,タイピングが速いほうではなく,顔文字を出すのも得意ではありませんので,最初は気心の知れたリアルの友達とパーティを組んでプレイするというのがメインでした。
 でもその状況は,2005年8月にギルドが実装されたことで,大きく変わりました。同じギルドのメンバーとは,常にチャットで話ができるようになっていることもあり,トリックスター+上で知り合った友達とコミュニケーションをとる機会がずっと多くなったんです。ギルドのメンバー数も60人以上となり,たくさんの仲間ができました。

4Gamer:
 その頃は1日あたりどのくらいプレイしていました?

上海さん:
 週末は一日中プレイすることもありましたが,平日は4時間くらいでしょうか。

4Gamer:
 極端に長く遊んでいるというほどではなかったんですね。MMOゲームでのコミュニケーションは,リアルの世界での人付き合いと比べてどうでしたか。

上海さん:
 とても気楽でした。リアルの世界で人とコミュニケーションをとることに苦手意識を持っていましたから,直接会わずに話ができることは,精神的な負担をずっと少なくしてくれました。

4Gamer:
 リアルの世界を考えたとき,1日の間に数十人の人と会って話をすることは,そんなに多くありませんよね。上海さんをはじめ,MMOゲームのプレイヤー達は,相当多くのコミュニケーションをこなしているのかもしれませんね。

上海さん:
 そうですね(笑)。それに先ほども言いましたが,トリックスター+のキャラクターはとても可愛いですよね。そのおかげで,ある種の自信を持って人と話ができるのだと思います。
 やがて,自分のキャラクターに可愛い洋服などを着させてあげたいとという気持ちが高まり,課金アイテムを購入することが仕事の張り合いにもなりました。

4Gamer:
 張り合い? ……あぁ,なるほど。仕事でお金を稼いで自分のキャラクターをさらに可愛くしていきたい,ということですね。

上海さん:
 ええ,そうです。



 ここでジークレスト社長の長沢氏は,「リアル世界での人付き合いがうまく行えず,周囲の人との関わりが断絶してしまうケースが多いと思うのですが,上海さんの場合は,トリックスター+というゲームを通じて,コミュニケーションだけは欠かさずに続けたことが,結果として良かったのではないか」と述べ,“コミュニケーションツール”としてのMMOゲームの存在意義を指摘した。
 人と人とのつながりを意味する「コミュニケーション」の形態が,ネットワークを介するものであるかどうかは,きっと大きな問題ではないのだろう。むしろ上海さんのように,MMOだからこそコミュニケーションを重ねられ,その中から“手がかり”を得るケースが増えていくというのは,オンラインゲームの今後にとって大きなポイントなのではないだろうか。

■MMOゲームを通じて病気と向き合える

4Gamer:
 きっと上海さんをはじめとする多くのプレイヤー達が,MMOゲームの良さを感じていると思います。でも残念ながら,MMOゲームにまつわるニュースといえば,やれ詐欺だ,喧嘩だと,悪い話がもっぱらであるように思います。このような現状について,上海さんはどのように思いますか?

上海さん:
 MMOゲームの悪い側面にばかり光が当たりすぎていると思います。例えば私や,私と同じ病気と闘っている人で,ギルドメンバーとチャットをしたり,ゲームでの経験をもとにブログを書いたりすると,気持ちが落ち着くという人が結構いるんじゃないかと思います。
 それ以外にも,MMOゲームから良い影響を受けている人は多いと思いますので,悪い側面ばかり誇張して伝えるのではなく,良い面も見て欲しいといつも感じています。

4Gamer:
 良い影響をたくさん受けたことによって,上海さんは病気を克服できたのだと思いますが,具体的にはMMOゲームのどのような点がよかったのでしょうか?

上海さん:
 うつ病であると診断されてから,自分自身でそれを認められるようになるまで,すごく時間がかかりました。1年ほどでしょうか。自分で認めなければ回復に向けてのスタートを切れませんから,これは重要なポイントです。
 私の場合,自分が病気であることを認められるようになったのは,トリックスター+を通じて自分自身に向き合えたからだと思います。

4Gamer:
 “自分と向き合う”ですか?

上海さん:
 ええ。自分一人では,なかなか自分を客観的に見られませんよね。人とのコミュニケーションの中で,相手から自分の欠点を指摘されたり,長所をほめてもらったりすることで,自分がどのような人間であるかが分かりますし,これからどう生きていけばいいか,そのヒントも得られると思います。
 トリックスター+を始めてから自分という存在が少しずつ見え始め,病気のことも受け止められるようになりました。すると,不思議なことに気持ちがすごく楽になり,症状も改善し始めたんです。

4Gamer:
 病気である自分を認めるというのは,きっと勇気のいることなのでしょうね。

上海さん:
 ええ,簡単なことではないかもしれません。でも,それができるようになってから,いろいろなことが前に向かって進み始めた気がします。

■「もっと遊びましょう」と伝えたい

4Gamer:
 今回トリックスター+に関する書籍を自費出版しようと思ったきっかけを教えてください。

上海さん:
 そもそもは,ギルドで知り合った仲間がブログを運営していたので,私にもできるかもしれないと思って始めたのが最初のきっかけです。ブログを通じて自分の気持ちを文章にするとすっきりしますし,読んでくれた人ともコミュニケーションがとれるので,すごく楽しいですよね。

4Gamer:
 ブログの延長として,印刷物である書籍を出版しようと思い立ったわけですか?

上海さん:
 失礼な言い方かもしれませんが,ブログもMMOゲームも,その世界が終わったらそれですべてなくなってしまうものですよね。このトリックスター+という素敵なゲームを,本という形で世の中に残せたらすごく楽しいだろうと考えたのが発端です。

4Gamer:
 今まで公開してきたブログの内容をまとめたものなんですか?

上海さん:
 私は4か所でブログを運営しているのですが,そのうち3か所で掲載した記事をまとめたものになる予定です。内容としては,病気になったきっかけ,友達のこと,元気になるまでの経緯,そして今後の目標などです。

4Gamer:
 4か所もですか!

上海さん:
 私はこの本を通じて,「もっと遊びましょう」というメッセージを伝えたいと思います。私がうつ病になり,したいと思えることがなかったときにトリックスター+と出会ったことが,元気を取り戻すきっかけになったように,好きなことを思い切り楽しむことが大切だと思うからです。

4Gamer:
 オンラインゲームが上海さんの病気を治すきっかけになったんですね。

上海さん:
 ええ。もし,出版した本を直接買いに来てくれる人がいたら,その人には何か特典のようなものを差し上げられたらいいなと思っています。
 私の本を買うために,ずっと家の中で過ごしていた人が勇気を出して家の外に出たら,そのことがきっとその人にとって何かのきっかけになるのではないかと思うんです。

4Gamer:
 これから先のオンラインゲームのあり方について,上海さんはどんな思いを持っていますか?

上海さん:
 そうですね,ゲームが世間に持たれている「ニートの温床」のイメージを払拭していってくれたらいいなと思います。やはり自分のやっていることが,社会にとっての悪のように言われるのは悲しいですから。
 今回こうして,ジークレストの皆さんとお会いするチャンスをいただいたので,自分の中であたためていたMMOゲームに関するアイデアを伝えたんですよ。ゲームを提供する会社が,そのようなイメージを払拭するためのイベントなどのアイデアです。

 筆者も,上海さんのアイデアを具体的に聞かせてもらった。ジークレストにとってもぜひ実現させたいと思えるものが多数含まれているとのことなので,ここでは詳細は差し控えたい。
 大雑把にいえば,「ゲームのプレイを通じて,プレイヤーが社会に貢献できる仕組みを用意する」というものだ。

4Gamer:
 なるほど。オンラインゲームもここまで普及したのだから,そろそろメーカーが主体で社会貢献を考えてもよいタイミングですよね。

上海さん:
 ええ,そう思います。オンラインゲームはもっと素晴らしいものなんだということを,ぜひみなさんに分かってほしいです。

4Gamer:
 今日は無理矢理時間を作ってもらって色々とお話いただき,ありがとうございます。今後のプレイも頑張ってください(笑)。

 上海さんは,トリックスター+のプレイ中,ほかのプレイヤーに「ありがとう」と言われたことを,とても嬉しく感じたことがあるそうだ。それは,その言葉が“自分が誰かの役に立てた”ということを実感させてくれたからだという。
 上海さんが考えているのは,ゲームのプレイヤーが社会に貢献できるとともに,プレイヤー自身もそのことから喜びを感じられるような仕組みなのだ。

 ジークレスト社長の長沢氏によると,上海さんからのメールがジークレストに届いた直後に,その内容を社内のスタッフで共有したという。スタッフ達は大いに喜び,盛り上がり,自分達が運営している作品の新たな側面に気付かされたという。
 オンラインゲームだけの話ではなく,新しい形態のサービスが開始されてそのマーケットが成長段階にあるときには,得てして悪者扱いされがちであることを長沢氏自身も認識している。なかなか本質的なところまで議論が進まないうちから,悪い影響ばかりが取り沙汰されている現状には,危機感を抱いているという。
 だからこそ,上海さんのように,オンラインゲームをきっかけにして元気を取り戻したという人の話を実際に聞いたときには,とても嬉しく感じたそうだ。

 上海さんの話の中で繰り返し強調されていたことは,オンラインゲームが,「自分とはどんな人間か」「自分の好きなことは何か」を見つけるためのきっかけになったということだ。
 4Gamer読者ならよく知っているように,日本国内では数多くのオンラインゲームタイトルがサービスインされており,市場の需要を超える供給体制にある。もはや市場が飽和状態に達しつつあるのだ。そこへもってきて,やれ詐欺だのなんだの,まったくもってオンラインゲームを取り巻く環境は,負のニュースに事欠かない。おそらくは各メーカーも頭を抱えて悩んでいる部分ではないだろうか。
 しかし上海さんと話をしているうちに,一つ一つは非常に些細なことなのかもしれないが,オンラインゲームは人の役に立つ,ということに気付かされた。今回は,考え,行動し,実践した彼女のような人がいたので非常に分かりやすい事例ではあるが,表に出ないこういうことが,もっとたくさんあるのかもしれない。

 オンラインゲームは,もはやゲーム市場の一ジャンルとして認知されているといってもよい。ユーザー数も市場規模もさることながら,その「一発あてるとデカい」という収益性に期待し(期待しすぎな感もある),各方面からさまざまな人材やお金が入り込んできている。
 しかし市場が混沌期を過ぎて成熟期に入ろうかという今。今こそ違う部分に目を向け,収益のみを追い続ける構図からしばし離れてみてほしいと思う。オンラインゲームは,決して「悪」ではない。何かの社会貢献ができるはずだし,実際どこかでひっそりとしているのではないかと思う。
 それを,メーカーこそが声を大にして言うべきではないだろうか。メーカーこそが声を大にして言えるようなことをやるべきではないだろうか。改めてそう考えた取材となった。(Kazuhisa / 山)




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