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La MirageのAmie氏とROBINのまんがコーナーのROBIN氏を招いた座談会「MMO今昔物語」。「UO」「EQ」「WoW」……MMOの黄金時代を駆け抜けたプレイヤーたち
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印刷2017/12/28 00:15

企画記事

La MirageのAmie氏とROBINのまんがコーナーのROBIN氏を招いた座談会「MMO今昔物語」。「UO」「EQ」「WoW」……MMOの黄金時代を駆け抜けたプレイヤーたち

MMOの未来と理想のカタチ


ROBIN氏:
 MMOというか,ゲームの未来については言いたいことがあるんですよ。
 WoWがMMORPGの1つの完成形っていう話があったけど,確かにあの時点では完成形だったと思う。でもMMOがより進化するという意味では,まだ2つの方向性があると思ってて。
 1つは,デバイスやインタフェースの進化という形。最近で言えばVRとかがそうなんだけど,もっと技術が進歩すると映画「マトリックス」みたいにジャックを身体に差したりとかがあるかもしれない。途方もない技術の進歩が必要なんだけどね。
 もう1つは技術ではなくクリエイティブな方向。どんな着眼点で,どんな世界で,何ができて何が新しいか,まだその鉱脈は掘りつくされていないと思うんですよ。

徳岡氏:
 世界シミュレーターモノなんかはUOから止まっちゃってる部分が無きにしもあらずという印象はありますね。

画像集 No.036のサムネイル画像 / La MirageのAmie氏とROBINのまんがコーナーのROBIN氏を招いた座談会「MMO今昔物語」。「UO」「EQ」「WoW」……MMOの黄金時代を駆け抜けたプレイヤーたち

原田氏:
 未来の話で僕が期待してるのはAIなんです。

ROBIN氏:
 そう。例えばAIもね。

原田氏:
 AIはデジタルエンターテイメントを大きく変えると思ってます。ゲームのAIっていうと囲碁や将棋みたいに「強くなる」って方向にまず行くんですけど,エンターテイメントレベルの向上という方向にも行けるはずなんですよ。
 例えばマイクロソフトの女子高生AI「りんな」ってありましたけど,ああいう「文字だけ」の世界であれば話す内容は,現時点でもそこそこ人間に近く感じる。あれがもっと進化したとき,MMOで不特定多数の人間と遊ぶよりもAIと遊んだほうが面白いっていうMMOモドキが出てくるんじゃないかなと。IBMの方々と別件でディスカッションしたときも,ふとそれを思いましたね。

ROBIN氏:
 AIではないけどNPCと遊ぶという意味では部分的に実現してるよね。ペットを連れて歩けて,着飾って愛でたりすることができるっていう。AIが究極的になってくると,会話もできてもっと楽しくなるっていうのは現実的になってきている。

原田氏:
 そうなんですよね。

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ROBIN氏:
 何を言いたかったのかというと,例えばファンタジー世界で勇者とか魔法使いになって遊びに行くっていう,王道の鉱脈が尽きたなら,目線を変えてみたらいいってこと。何かないかな?
 例えばだけど,AIがそれほど進化しなくても,単純なAIを持ったキャラクターがたくさんいる世界で,そいつらに気に入られるゲームとかさ。似た感じで「シムピープル」っていうゲームがあったんだけど。

徳岡氏:
 ありましたね。

ROBIN氏:
 あのゲームのキャラクターって,単純な行動しかしないけど見ていて面白いんだよね。
 モティマーさんってキャラがいて,俺の奥さんの女の子キャラを口説いてくるの。それを見ていたモティマーさんの奥さんのマイナス感情が増えて,モティマーさんを掴んでビンタし始めたんだけど。面白いのよそれが。

原田氏:
 野生動物みたいですね(笑)。

ROBIN氏:
 それを見たとき,NPCって究極的なAIを持たなくても,世界の仕組み次第でちゃんと面白いものになるんじゃないかなと思ったんだよね。
 これも方向性の1つで,要は目の付けどころが,常識に捕らわれすぎてるんじゃないかなって思ってた。

原田氏:
 それはありますね。

ROBIN氏:
 最初にも話したけど,UOは人間かそれに類する“意識”が存在するから世界が広大に感じて楽しかった。それを疑似体験できたら,リアルな仮想世界を作ることにちょっと近づけると思ったんだよね。
 ご存じなかったらすみません。「エースコンバット04 シャッタードスカイ」ってゲームがありまして。僕がディレクターだったんですけど。

原田氏:
 僕が大好きな04。

ROBIN氏:
 エースコンバット04で取り入れたのが,自分のことを話してる第三者の会話を聞くともなしに聞いてしまうというもの。無線通信音声って基本的には味方の通信しか聞こえないんだけど,ゲーム中は通信を混線させていろんな戦場の音声が敵も含めて聞こえてくるという状況にしたんですよ。

原田氏:
 その発想が本当に良かったですよね。

ROBIN氏:
 狙いが当たって嬉しかったんだけど。これってそうすることで,会話の真実味が増すんですよ。例えば「原田君すごいカッコイイね」って直接聞くのと,通りかかって「原田君ってカッコイイと思いません」っていうのを聞いちゃったっていうのは――

原田氏:
 違うんですよね。

ROBIN氏:
 そう。僕が原田くんに直接言うときは100%真実じゃないんですよ。なぜなら原田くんに良い人に思われたいっていう邪念がほんの少しでも入ってるから。例え自分が100%で言ったとしても,受け取る側にはどうしても疑念が残る。
 歩いてて自然に聞こえてくる「原田君カッコイイ」っていうのはそこに原田くんがいることを知らないで言ってるから,本音に聞こえる。
 エースコンバット04ではそれを利用したんですよ。最初は無名だったパイロットが――。

原田氏:
 だんだん噂になっていくんですよね。まあリアルの僕はカッコよくないですけど(笑)。

ROBIN氏:
 そう。初めは「敵の爆撃機を落としたのは誰だ? 礼を言っといてくれ」くらいで,個人としては認識されてないんですけど,徐々にエースパイロットとして認識されていく。敵に「尾翼にリボンのマークが付いてるヤツがいる!」とか噂されるようになって,後半になると「リボンのヤツがきた!」って恐れられる。
 プレイヤーはそれが嬉しくて,そこに人の意識があるって錯覚しちゃう。

原田氏:
 地上のラジオの声が聞こえて「今上空にメビウスが現れました」っていう歓声が聞こえたりね。

ROBIN氏:
 そうそう。

原田氏:
 あのパリっぽい街では,群衆が大ピンチに陥っているんだけど,プレイヤーが来たことで「やった! ヒーローが来た」って喜んでいる,敵はとにかく「リボンさえ倒せば敵の士気は下がるはずだ」って追っかけてくる。ゲームの内容は全く変わってないんですけど,セリフだけでドラマが作られて面白さが変わるっていう。

ROBIN氏:
 ゲームを能動的に楽しもうとしてる人に,「俺のことを話してる誰かがいる」っていう状況を作ることで,仮想の人間の意識がそこに存在していると錯覚させることができる。
 だからそういう新しいものを思いついたら,VRとか究極のAIを待たなくても,やってみた方がいいと思うんです。

徳岡氏:
 たしかに。農場を作ってそれを互いに見せ合うMMOとか,一昔前にFacebookで流行った「Farmville」とかで完成しているわけですから,あり得る鉱脈ではあるんですよね。

自分だけの農場を作る。ソーシャル要素満載のFarmville
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原田氏:
 僕が言ってるAIによるMMORPGの進化は未来にしかできないことなんですよ。見てみたい未来は,キャラクターが人間かAIなのかの見分けがつかないほど進化したものなんです。
 プレイヤーが一緒に遊んでいるキャラクターは実はAIで,それと気づかずに知らず知らずのうちに「ロード・オブ・ザ・リング」とか「ゲーム・オブ・スローンズ」みたいな壮大な物語の登場人物として誘導されたら,かなり面白いだろうなと思ってます。

ROBIN氏:
 それは技術的な方向性だね。僕は原田くんが言ってることとは違う方向性に期待してるというか。
 僕は定番と言われてるモノには限界が来てると思ってるから。誰も感じたことのない快感とか喜びを考えようよって。クリエイターには頭を絞れば今の技術でできる「何か」を思いつかないわけがないって後押ししてあげたい。まだ掘りつくされてない鉱脈は少なくともゲームに関してはあると思う。

原田氏:
 あるはずですね。しかし現実問題なかなかそこを掘るのは難しいですね……。ビジネスモデルができちゃったんで……。

徳岡氏:
 ビジネスモデルが結構なところまで決めてきますからね。

ROBIN氏:
 それはまた別の話で問題だと思ってるけどね。

原田氏:
 ここ5年〜10年でゲームの作り方が変わった側面はあるんですよね。昔みたいにアイデアだけじゃ売れなくなってるんで,「売れ方」とか「どうやって売れていくのか」っていうビジネス的なビジョンをベースにしてゲーム作りに入って,その後にどういう枠組みのゲームにするかっていうのを考えるって成功モデルが,実は北米からどんどん広がってますね。僕やROBINさんが20代の頃に開発者してた頃とは何だが様相が違うというか……。

ROBIN氏:
 それを言われちゃうと,僕が話してるのは心がけとか夢の話になっちゃう。

原田氏:
 ROBINさんが言うような作り方をすれば,新しいものは生まれるかもしれない。単純に僕が言いたいのは,「大手メーカー」ほどその制作方法をとるのが難しいだろうなと。

ROBIN氏:
 オンラインゲームともなると開発も大規模で,輪をかけてやりにくいっていうのはわかるけど。僕は今の作り方をしてたら,文化が死ぬと思ってるよ。

原田氏:
 そう。ダメなんですよね。
 でも尖ったゲームを作ろうと思ったら,インディーズの土壌でやったほうが良いかもしれない。

徳岡氏:
 私が見ている範囲で言えば,インディーズはROBINさんが言った方向ですごく走ってます。

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ROBIN氏:
 ゲームは大勢でしか作れないっていうのが自分には合わなかったみたいで。大勢でしか作れないってことは企業でしか作れない,企業で作るってことは利益を考えなきゃいけない。組織やプロジェクトのマネジメントを任されるようになった段階で,純粋に面白いゲームを作るって業務からどんどん遠ざかっていって,「これは少なくとも自分がやるべきクリエイターの仕事じゃないな」って思った。
 で今ね。誰も描いたことのないような舞台で,こんな主人公が活躍するって漫画を奥さんと話しながら2人で描いてるんですけど,そっちの方が自分には合ってるんですよね。
 僕はビジネスじゃなくて,クリエイティブな作り方をしないと文化は死ぬと思ってる。いわゆるガチャ課金のゲームは,ビジネスモデルありきで作られてて,一部のユーザーがとんでもない金額を使ってしまうこともある。それだとユーザーが疲弊しちゃうんだよね。そういうものが増えてくると結果的に市場全体が疲弊しちゃって焼け野原になる。
 それとは違う新しいビジネスモデルを作って,ユーザーを疲弊させないってことをする会社がいたら,すごくかっこいいと思う。

徳岡氏:
 なるほど,焼き畑じゃなくて焼け野原ですか。

ROBIN氏:
 そう。全て伐採し尽くして,何も生えなくなりました,食べつくしましたって,そういう世の中を我々が作るのかって。
 いまってインターネットが普及して,大手出版社から出てるマンガ雑誌だけじゃなく,いろいろな漫画家の作品が世の中に出てきた。数人で作り上げたものを読者が自分で探して読めるようになっている。そういうのがゲームでも可能じゃないかと思うんですけどね。

徳岡氏:
 それはもう起こってると私は思っています。
 Steamとかインディーズ界隈でいうと。ゲームエンジンなんかは昔はライセンス料が高くて,大手しか使えないような状況だったのが,無料になったりして個人レベルまで降りてきてるんですよね。

原田氏:
 少人数での開発環境は昔より遥かに良くなってますよね。

ROBIN氏:
 小さな規模のスマホ向けゲームアプリや,クラウドファンディングを活用してSteamなどで頑張ってる人はいますよね。
 僕の個人的な考えだけど,ゲームクリエイターはゲーム文化への貢献も考えて作らなきゃいけないんじゃないかと思ってる。そうしないと新しい何かを見つけられないんじゃないかな。

ひとりぼっち惑星。メッセージを見知らぬ誰かと送受信するという,海で瓶に入った手紙を待つ,あるいは流すようなゲーム性だった
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徳岡氏:
 新しい何かという面では,個人レベルだと動いてるんですよね。モバイルですけど「ひとりぼっち惑星」iOS / Android)っていうのがありまして。

ROBIN氏:
 あー! ありましたね。

徳岡氏:
 あれはMMOの1つの切り口だと思うんです。
 他にも東ヨーロッパがすごく熱くて,さっき言ったゲームエンジンの普及の恩恵で,6〜10人くらいの小規模なチームで作りたいゲームを作ってる。

原田氏:
 大手はもうIP戦争に突入してるところはありますね。

ROBIN氏:
 だから,MMOの未来を語るべき話が金儲けの未来を語るって話になっちゃうのかなぁ。

原田氏:
 そこはバランスなんですけどね。ただ,MMOに限った話じゃないですが,尖ったものは個人やインディーズメーカーがクラウドファンディングなんかを利用して世に出していくって流れが「今の環境」なのかもしれません。昔はアイデアを思い付いたところで,広げるための手段がなかったんですけど,そういう意味でも今はかなり環境は良くなってます。

4Gamer:
 一方の大手メーカーも技術研究を進めてますよね。その技術がインディーズに還元されている面もありますし,相互が作用しながら少しずつ新しい方向に向かっていってると思います。新しいエンターテイメントのカタチになりそうなVRの分野なんかは特にその傾向が顕著ですよね。

徳岡氏:
 むしろすごく広がってる感じですね。

ROBIN氏:
 だとすると,いろんな手法を使ったMMOの未来はまだあると。

原田氏:
 MMOっていう定義自体が変わっていっても良いんじゃないかと思ってるんですよ。僕自身は散々MMOを遊んで,いったん遊ぶことにキリがついた感じなんですけど。
 これまでを振り返ると,僕の周りで起きてたドラマってせいぜい60人くらいでの話なんです。
 そこに気づいたときに,1000人とか3000人とか,そんな規模でやらなくてもいいんじゃないか,って思えたんです。社会構造としての3000人は意味はありますが,ゲームシステムとして別の方法があるんじゃないかと。あとMMOとMOの中間的なタイトルがもっと出てきてもいいんじゃないかなと。さっき言ったAIが進化すれば,色んな面白いモノを作れるはずです。

ROBIN氏:
 それもひとつの方向性だよね。定番から脱却するために自由な考え方をしていいと思う。

原田氏:
 海外のゲーム会社では世界を自動生成するっていう日本以上に技術が発展してきていて,それだけじゃなくて冒険の中身も自動生成しようっていう試みも行われてるんですよ。

徳岡氏:
 やってますね。

原田氏:
 その技術が発展してくればもうちょっとインスタントにMMO体験ができるものも出てくるんじゃないかと。
 僕らがMMORPGをやめたのはWoWで燃え尽きたからだけじゃないですよね。MMORPGをきちんと遊べるのって20代くらいなんですよ。僕らもそうで,当時は,インターネットが出てきてテレホーダイもあり,MMORPGが登場するっていう,いろんなことがクロスした。いわゆる僕らはMMO第一世代なんです。
 30代に入って仕事が忙しくなったり,家庭を築いたり,思ったのは30代半ばとかで忙しくなって,MMOをやめた人はけっこう多いんだろうなってこと。それで今の我々みたいに思い出ばかり語るジジイになるんですよね(笑)。

ジジイたち:
 うんうん。

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原田氏:
 背負うものが増えていった結果,ゲームに割ける時間が少なくなった。だからもうちょっと気軽に楽しめるものが欲しくなるんですよ。
 今「すごく面白いMMORPG」が出てきたとしても,正直,始めるのが億劫なんです。長い時間をかけて遊んでられない。ってなると1〜2時間くらいで満足できて,たまに遊びたいと思えるゲームができたらいいなと。自動生成で世界が構築されて,いつも新鮮に楽しめる感じで。少なくとも導入はそれぐらいの感じで遊びたい。

ROBIN氏:
 疲弊っていうのもあると思う。ソーシャルゲームとかは特にそうだけど,スタミナとかイベントとか「やらないともったいない」って気持ちにして,毎日遊ばせるようにしてるよね。それされるとホントに疲れちゃって,もうちょっとイージーに遊ばせてくれよって。

原田氏:
 僕や一部の人間はインスタントエクスタシーって勝手に呼んでるんですけど。面白い要素をギュッと凝縮して,本当に遊びたくなったらサラッと楽しめるものができたら,定期的に遊ぶんですけど。

ROBIN氏:
 「簡単」にじゃなくて,「気軽」にゲームに接したいよね。
 思い出した。UOに飽きて引退したあとに一度だけ復帰したことがあって,「Lupus in Tabula」っていうカードゲームをもっとたくさん遊んでみたくて,UO内でできないかと人を集めて,セッションしたんですよ。
 日本だと「人狼」の方が伝わりやすいかな。

原田氏:
 人狼は当時流行り始めてましたね。

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ROBIN氏:
 当時,自分のサイトにやり方を紹介する記事(外部サイト)とか載せてたんですけど,あれをUOの中でやったらすごい面白かった。Coveっていう街のはずれにあるロッジを使って遊ぶんですけど。
 ああいう遊びというか,「かまいたちの夜」とか「弟切草」みたいなミステリーで,犯人役がいて,みんなで解決するって感じの1回で完結しながらも,楽しめるというか。これはアイデアの話なんだけど,そういうイージーさが欲しいなって思うんだよね。

原田氏:
 気軽に遊べるMMOとMOの中間なゲームがもっと出て欲しいと思う一方で,数千人,数万人とかが同時に遊ぶことに意味があるゲームも出てきてほしいという気持ちもどこかにあるんですよね。映画の「300」みたいなMMOとか。

ROBIN氏:
 みんなペルシア軍とか?

原田氏:
 いやいや! 300人のスパルタ側と20万のペルシア側に分かれて戦う(笑)。

ROBIN氏:
 面白いね。僕はPlanetSideで「スターシップ・トゥルーパーズ」がやりたかった。

原田氏:
 それと似たような発想かもしれない(笑)。スパルタ側は1人1人が凄く強くて,ペルシアはその逆みたいな。歴史を変えようっていうコンセプトで,戦いを3日以内に終わらせるとペルシア側の勝ちって感じで。MMOって呼んでいいのか分からないですけど,1000人とか2000人のプレイヤーが300人のスパルタに突撃していく。

ROBIN氏:
 人数に意味があるよね。人間以外でも良いかもしれない。例えばアフリカの動物になって食物連鎖を生き残るとか。ライオンならライオン,シマウマならシマウマとしてって感じで。MMOであることに意味があるジャンルがまだありそうなんだよね。

原田氏:
 ありそうですよね。あとゾンビが凄くもてはやされた時期に考えていたのがあって。

ROBIN氏:
 お! いいね! ゾンビモノ。ゾンビ役やりたい(笑)。

原田氏:
 ゾンビ役も考えたんですけどね(笑)。
 僕が考えたのは,1回死ぬと数か月ログインできなくなるような死のリスクがあって,リアルなアメリカ大陸ぐらい広い世界に,1000人が散りばめられて,生き抜かなきゃいけないっていうゲーム。なにせリアルにアメリカ大陸くらいの広さで1000人だと,下手したら数日,移動手段によっては数か月,人に出会わない可能性もあると。もうこれ,オンラインゲームなのかも疑わしいぐらい人に遭遇しないわけです。で,ある日バイクで荒野を走ってて,地平線に焚火の煙とか見えたときのテンションがやばいと思うんですよ。

徳岡氏:
 人が食事をした後を見つけたりとか。

原田氏:
 そうそう。人を見つけたら2日間くらい双眼鏡で遠くから観察しちゃうと思うんですよね。「げ! 1人だと思ったら3人グループだ! あいつら絶対……俺を殺すよね」って。

(一同笑)

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原田氏:
 自分は槍しか作れてないのに,ある日,火薬の音が聞こえて双眼鏡で見てみると,狙撃銃を持ってるやつが電波塔の上を陣取ってたりとか。動いたら見つかって撃たれるから何日も動けなくなったりしたら,面白いだろうなと。近しい体験ができるゲームは既にあるんですが,時間経過や広さにもう少し絶望的な現実性を与えたい(笑)。
 これが5〜6人で成り立つかと言われると,それはない。広大な大陸に1000人とかいて初めて意味があるなと。

徳岡氏:
 そのタイプで死のリスクが高いゲームって現代のマネタイズが上手くサポートできると思うんですよ。いまってマイクロペイメントで小さく販売できるじゃないですか。ソフトのシリアルを1本500円とかで売って,死んだらシリアルが無効になるから,もう一回買うっていう。

原田氏:
 あー! なるほど! 500円っていうリスクなんだ。それはいいかもしれない!

徳岡氏:
 昔は500円を払わせるってことが難しかったんですけど,今だとそういうシステムやビジネスモデルが普及してるんで,死のリスクに500円の保険をかけることは可能になったとは思うんです。ゲーセンのワンクレジット感覚で。

ROBIN氏:
 うまくいけば500円で3年生きられたり。

徳岡氏:
 そういうことです。今だからこそできるMMOっていうのはあると思いますね。 もっともチート対策とか考えると頭痛いですが。

原田氏:
 なるほど。僕の考えたMMOの話はそういう形で作れるかもしれないですね。この話を外国の記者にすると「おーっ!」って言われた後に,私というキャラにしては妙に地味なアイデアなんですね,みたいな雰囲気になって,気まずくなるんですけど(笑)。

徳岡氏:
 絶句されると(笑)。

原田氏:
 それでも,僕が考えたのはそういうゲームなんですよ。1000人いるからって1000人が同じ場所にいる必要もなくて,「300」のやつとは全く逆のアイデアなんですけどね。広い世界に分散させたときに出てくる緊張感という面白さもあるんじゃないかなって。まあ作りとしてはリソースが無駄すぎますが。

ROBIN氏:
 全然ありだと思う。僕はひとつの答えがUOだと思ってて。何をやってもいい自由度の高さとか,人殺しだったり,鍛冶屋だったり,戦士だったり,プレイヤーが取れる選択肢が多いと,それなりの人数が必要になってくる。
 全員が戦士じゃないっていうのは1つのMMOである必要性があるゲームだと思うんだよね。

原田氏:
 そうですね。やる人の素養が問われるゲームだけど。

ROBIN氏:
 そうだよね。

原田氏:
 素養と言えば,いまパッと思い出した。UOの初期の頃なんですけど,勝手に市長に立候補するアメリカ人が現れたんですよ。さらにそれに対抗する市長候補が現れて,勝手に選挙活動して「いついつ選挙です。来てください」って。

(一同笑)

原田氏:
 その2人は知り合いでもなんでもなくて,片方がテキサス出身のプレイヤーなんですけど,街頭演説してると対立候補の支持者に煽られたり,逆に自分の支持者がかばってくれたり。投票日に見に行ってみたら,みんなが名前を書いた本を机の上に置いていくっていう投票システムでした。

4Gamer:
 お約束ですね。

原田氏:
 最終的にテキサスのプレイヤーが負けて,新市長になった人は「私が市長です!」って偉そうに青いローブを着て凄い群衆を集めてるんですよね。

ROBIN氏:
 面白い遊び方するねぇ。

原田氏:
 勝手にやって勝手に市長になる。すごく面白かったんですけど,あれも素養がある人がやってたからなんですよね。勝手に市長になってるだけで,ゲーム側のサポートは全くないし,無意味なんですけどね。

※原田氏の話の頃にはなかったが,後に「市政」システムが登場し,ホントに市長になれるようになった

ROBIN氏:
 そうだね。役割を自分で作り出すというか。

原田氏:
 やっぱりUOはひとつの答えだったんです。人狼ができるくらいの自由度の高さがあるからこそできたことだと思うんですが,プレイヤーの中にはエンターテイナーがいたんですよね。
 それって要はゲームマスターじゃないですか。その市長だって勝手に自分たちのクエストを作っちゃってるわけで。

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ROBIN氏:
 でも,そういうことをやる人は少なかったよね。何やっていいのかわからないって人の方が多かった。

原田氏:
 言い方が悪いかもしれないけど,UOでそういう遊びができたのは,そういう意識を持てる人が集まってたからなんですよね。というのは,インターネットもまだ黎明期で,洋ゲーだとかPCだとかのリテラシーを含めて,ハードルが高くて。当時はネットのクレジットカード決済自体が意外にハードルが高い時代でしたから,必然的に社会人の一定層だけが集まっていた。事実そういうデータもありましたね。

ROBIN氏:
 なるほど。あの時代にオンラインゲームができる環境にいる人は確かに限られてたね。

原田氏:
 あの時代だったからこそUOっていうゲームが成立したという側面はあったんですよね。仕方ないことなんですけど,当然客層が広がって一般化してくると,あらゆる年齢層とあらゆる価値観に広がるわけですから,「どう楽しませてくれるの?」っていう,受け身の気持ちで挑む人も必然的に増えるわけです。だけどそういう受け身な層にUOは「で?」というものに映るかもしれない。

ROBIN氏:
 娯楽に対してそういう風になってきてるよね。プレイヤーの堪え性もなくなってきてるというか。でもそれはしょうがないよ。娯楽なんだから。その流れは必然なんだよね。
 昔のゲームだって,今の基準だと「あり得ないだろ」ってゲームも多いじゃん。

4Gamer:
 たしかに。

原田氏:
 やる側の気持ちもあるかもしれないけど,環境の問題なんですよね。昔はゲームで「無料」なんてなかったわけで,1クレジットいくら,1本いくらが主流。その1本もまだまだ高くて,月額課金というゲームにおいては世界初のビジネスモデルに対して,時代は「やるぞ! 楽しむぞ!」「金払った分は元取るぞ!」って,モチベーションは何でもいいんですけど,遊ぶことに対して貪欲でポジティブだった。そうなってしまう環境にあったというか。

ROBIN氏:
 最近は「お金払ったのに何でこれだけ楽しませてくれないの」って人がすごく多い。

原田氏:
 PKもそうじゃないんですかね。「なんでお金払って辛い思いをしないといけないんだ」って。そういう声がUOの初期に限ってどれぐらいあったかと言われれば,あまりなかったと思うんですよ。PKがあったから面白いとまでは言いませんけど,緊張感が織りなす面白さを肌で感じるものがあった。だからフェルッカとトランメルに分かれたときに,冷めた人が多かったんですよ。同時に一般化された瞬間ではありましたが。

ROBIN氏:
 僕も冷めた方だね。

原田氏:
 「PKが嫌だ」って人は喜んだのだろうけど,凄くコアな部分でゲームを支えていた人たちが,その決断にがっかりしたと思うんですよ。僕はあんな安全な世界で成り立っちゃう鍛冶屋に価値があるのかと思ってしまった。あくまで個人の感想ですけどね。

ROBIN氏:
 PKが好きな人もいれば嫌いな人もいる。いろんな人がいて,危険を冒して外に出れば危険な目にあうこともある。それがまた,スリルがあって楽しい。……はずなのにトランメルとフェルッカができて,喜んだ人が多かったのは何だったんだろう。

原田氏:
 後半はやはり多かったんですかね。

ROBIN氏:
 PKがショックでやめたっていう人の声が大きかったのかなぁ。

原田氏:
 当然,僕もPKされてショックを感じたり,PKどころかICQハッキングからUOアカウントハッキングでゲームの全財産どころか,当時セキュリティの甘かったクレジットカードの不正利用までされたこともあります。あらゆるショックは当然ありました。
 家を建てるのもすごく苦労して建てたじゃないですか。建てる時に殺されることも多くて,やたらリスクがあるんですけど,みんなに守ってもらって。だから建てたときの嬉しさも大きいんですよね。建てたあとは新築祝いだーって言って騒ぐ。
 トランメルだと苦労せずに建てられちゃうんですよね。安全に建てられない状況でしか得られない,この緊張感と達成感を多くのプレイヤーに体験してほしかったなあ,ってところは昔からすごく言いたいことだった。体験の押し売りという話じゃなくて,あの面白さはあの仕組みからしか得られないところがあったので,それを知る人と共感者が多くいてほしかったというか。

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ROBIN氏:
 そうだよね。
 素養のある人も含めて,お客さんって育てるものだと思う。僕が描いてるようなマンガでも,読者の要望を聞いてその通りに描いてたら,どんどん自分の作品じゃなくなっていっちゃう。だからそんなことしちゃいけない。
 自分の作品だからこそ読んでくれてた人達はどんどん離れていく。だからそんなことしちゃいけない。
 娯楽はお客さんの言うことを全部は聞いちゃいけないんです。あっちもこっちも立てることはできないんだから,好きな人だけが集まってくださいって風に娯楽は提供しなきゃいけないんだよね。

原田氏:
 僕らがゲーム業界に入ったころは業界自体が若かったんですけど,成熟していく過程でそういうのは起きちゃうことなのかもしれないですね。

ROBIN氏:
 新しい娯楽を生み出して商売するのは,博打に近いのかも知れない。トライした結果,少ない被害で新しいものを生み出せることもあるけど。成熟していく過程で焼け野原ができることも覚悟しなきゃいけないのかも。

原田氏:
 UOも「あのまま変化しなかったらずっとやってたのか?」と聞かれたら,たぶんそうじゃないと思うし,新しい刺激を何か与えなきゃいけなくなるっていうのはあるんですよね。
 一方で,新しいMMOを作るってなるととてつもない投資がいる。さらにサービスを継続していこうとすると,マネタイズとかビジネスモデルとか,お金で解決しなければならない部分も大きくなる。

ROBIN氏:
 でも,ビジネスの部分がクリエイターの発想やユーザーを楽しませたいという思いを阻害しちゃだめだよね。やっぱりビジネスモデルありきで娯楽を発想するのは良くない。「今儲かってる仕組みを取り入れろ」だけでは,新しいゲームが生まれるわけがない。

徳岡氏:
 一方で,インディーズ界隈なんかだと,クラウドファンディングなどでお金を集める仕組みができつつあるんですよね。ただ,テストの工程がちょっと非現実的すぎて,インディーズではMMOまでなかなか行けない。MOならたくさん作られているんですけど。これからに期待するところですね。

ROBIN氏:
 娯楽においては自分が楽しいと思ったものにお金を払うっていう,クラウドファンディングみたいな仕組みが一番合うと思うんだよね。中間がいなくて,開発者とユーザーが直接つながってるというか。

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徳岡氏:
 MMOに関していうと,もう遊び疲れちゃってる部分があると思ってるんです。その一方で新しい層として今の20代のMMO経験がない人っていうのが出てきてる。その層に「リネージュ2 レボリューション」とか,スマートフォン向けMMORPGが突き刺さってるんじゃないでしょうか。
 常に世の中にはそのジャンルに触れていないゲーマーがいるってことは,けっこう重要なことなんじゃないかなと思ってます。

原田氏:
 今はインターネットも当たり前にあって,みんながスマホをもっててオンラインで遊ぶゲームがすぐ近くにある。昔はインターネット自体にありがたみを感じてたんですけど。当然,今は存在自体のありがたみなんて次元には誰もいませんからね。

徳岡氏:
 ソーシャルゲームがMMOに疲れた人間に最適化するように作られてきたんですけど,そういうデザインが発達してきた中で,逆を突く形で,「リネージュ2 レボリューション」みたいな,PKありリアルタイムチャットあり,パーティありっていうガチなMMOを投げかけると,いまの若い人たちはこれまでのゲームとは違うモノと認識するみたいなんですよ。

4Gamer:
 リネレボはやる価値ありますよ。びっくりするくらいなんでも自動で,MMORPGを今の時代に合わせるとこうなるのか,っていうのが分かります。

徳岡氏:
 リネレボやってると,我々がMMOを楽しんでいた時のような「なんでPKするんですか!」「何となく通りかかったから」っていう,20年前によく見たやり取りを見られてほっこりします。

(一同笑)

ROBIN氏:
 僕らはさ,時代でそれを楽しめたっていうのがあって,あの時代にUOに出会えたからこそ,感動を得られたっていう気持ちがある。だけど,未体験の人はやっぱり何もかも未体験なんだよね。
 だから,今,生まれて初めてMMORPGに触る人は,僕らと同じUOの感動は味わえないと思うけど,何かしら別の新しい感動は味わってる。

徳岡氏:
 常に若い人にとっての「初体験」は起こってるんだなって思いますね。

ROBIN氏:
 僕らはFF11が出たときに,「すごい!」って驚く人を見てビックリしたもんね。

原田氏:
 はじめてするチャットも違うんでしょうね。UOが始まったときに銀行前で世界中の人たちとした会話が凄い印象に残ってます。あれはネットとMMOの黎明期だったからこそ起きたわけで,たぶんもう二度と起こらないんでしょうけど。
 「どこの国出身?」って自己紹介をみんなでしてて,仲の悪い国同士の人が「俺たちの国いまやばいよね」って話してる。オンラインで初めて日本人と出会ったというアメリカ人が僕に「すごいよな,俺のおじいちゃんとお前のおじいちゃんの時代は戦争してたのにさ,俺たちは今ここで一緒に遊んでるぜ」って言ったんですが,妙に感慨深くてうれしかった。
 今は当たり前のように世界中の人とつながることができるんですけど,あの当時は世界中の人にとってつながることが衝撃的で,そんな会話を真剣にやってたんですよね。

ROBIN氏:
 一番最初に出たMMOがUOっていうのも凄い運が良いことなのかな。ゲーム開始直後から急き立てられるようなゲームだと,そんな話をする暇さえ生み出せなかったかもしれない。

原田氏:
 これって若い人にとってみれば,僕らがじいさんに「ワシがスペイン旅行したときは飛行機なんかなかった。船で一か月くらいかけていって,ようやく見れる景色,あれがすばらしかったんじゃ」って言われて,「何言ってんだこのじいさんは」と思うのと一緒なんだろうなって。

画像集 No.047のサムネイル画像 / La MirageのAmie氏とROBINのまんがコーナーのROBIN氏を招いた座談会「MMO今昔物語」。「UO」「EQ」「WoW」……MMOの黄金時代を駆け抜けたプレイヤーたち

4Gamer:
 なるほど。

原田氏:
 「スペインなんて飛行機で15時間飛べばいけるよ」っていうと「それじゃありがたみがねえんだよ」「ありがたみなんて一緒だコノヤロウ! パリのエッフェル塔の写真がなんだ! 今はライブカメラでリアルタイムに見れるぜ。」みたいな感じ。

徳岡氏:
 そうやって世代交代しながら,やっぱり新しい世代が次のものを作っていくのかなって,リネレボをやってるとすごい感じますけどね。

ROBIN氏:
 そうですね。個人的にはやっぱり定番ではないものが出てきてほしいですけど。そしたら僕らも楽しめるから。

原田氏:
 定番じゃないものって難しいなぁ……。

ROBIN氏:
 だからブルーオーシャン狙ってよ! ぜひ。それを原田くんに託してるわけだから(笑)。

(一同笑)

4Gamer:
 原田さんに託されたところでお開きにしましょうか(笑)。みなさん,ありがとうございました。

(2017年10月20日収録)

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