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NDC2016「ギネスにも認定された、世界初のグラフィックMMORPG『風の王国』はまだサービスしていますか?」をレポート。20年を支えたのはプレイヤーとのコミュニケーション
「風の王国」といえば,日本でもサービスが行われていたタイトルなので,プレイしたことがある読者もいるだろう。残念ながら2005年に日本でのサービスは終了しているのだが,韓国ではいまも健在のタイトルだ。ちなみに,2011年には“最も長くサービスされているオンラインゲーム”としてギネスブックにも登録されている(関連記事)。セッション題目のネタバレになってしまったが,1996年4月に韓国でサービスが始まった本作は,その記録を更新し続け,今年でついに20年めに突入した。
今回のセッションは,風の王国プロジェクトディレクターのパク・ウンソク氏が本作をどのように運営してきたのか,これまでの歩みを振り返りながら行われた。ちなみに,パク氏は「アスガルド」「テイルズウィーバー」などの開発やグローバルサービスを担当し,「闇の伝説」「エランシア」「エバープラネット」など数多くのMMORPGに関わってきた人物だ。
まずは,「記憶の中の王国」ということで,サービス開始当初からのタイトル画面がいくつか紹介された。
韓国でのサービス開始当初のタイトル画面 |
もっとも長く続いたというタイトル画面 |
こうしたタイトル画面は2〜3年ごとに変更していたとのことだが,その際にはプレイヤーとコミュニケーションを取って制作しているという |
“初期段階”という言い方をしていたので,現在は違うのかもしれないが――プレイヤーキャラクターがローカルサーバー間を移動しなければならない場面(つまりマップの移動)で,キャラクターを一旦,そのサーバーの外に出す必要がある。そのときキャラクター(のデータ)は,仮の世界にいることになり,移動先のローカルサーバーに移動が終わるまでのあいだにローディングマップの画面を見ることになっていたとパク氏は述べた。
普通に考えればマップの移動時には,マップ情報のローディング時間が必要だからと,当たり前のような話に思えるのだが,当時はそれ以上に通信速度の影響もあったのではないだろうか。なにせ1996年と言えば,まだ28.8Kbps(もしくはそれ以下)のアナログモデムによる通信が主流だった時代だからだ。相応に,画面の遷移に要する時間も長かったのだろう。
さて,20年も続いている風の王国だが,ただ惰性で運営だけが行われてきたわけではない。現在もアップデートは続けられており,内容を変化させるさまざまな試みを行っているという。パク氏によれば,いまも年に4〜5回のメインアップデートを実施し,サブコンテンツ追加やリニューアルなどは約50回,さらにイベントを100回ほどと,いまだ現役といって差し支えないレベルで運営されているわけだ。
ここで,20周年(2017年4月)を迎えるにあたり,記念イラストが公開された。
続けて風の王国のBGMを会場で流したあとに,そのBGMをプレイヤー達が歌い上げるという動画が紹介された。歌詞ではなく,曲そのものを「たらら〜」と歌っている様に,会場は大きな笑いに包まれた。ともあれ,こうしたプレイヤーの愛で20周年を迎えることになり,感無量だとパク氏は述べた。
さて,この20年間だが,当然,ずっと順風満帆だったわけではない。風の王国が定額課金制からアイテム課金制に切り替えるときや,サーバー統合を行うときはいろいろ悩んだという。とりわけ3Dアニメーションのキャラクターを作って披露したときは,もともと2Dドット絵が特徴のゲームだけに「これは風の王国なのか?」とプレイヤーから反発が大きかったそうだ。さらに,タイトル画面をアニメ調のグラフィックスに差し替えたときには,画面が恥ずかしくて(※おそらく家族の目が気になって)ゲームを起動できないという苦情があり,結局削除することになったのだとか。これは手痛い経験になったという。
ただ,それからもゲーム中にエフェクトを追加したり,また3Dにチャレンジしたりと,たゆまぬ努力を続けているとパク氏は話す。15周年のときには,天人という新規キャラクターを開発したのだが,実は完成度の高いキャラクターに仕上げるために,実装までに4年もかかったという裏話を披露した。
ちなみに,韓国済州島にあるネクソンコンピュータミュージアムには,1996年のバージョンを復元した風の王国が展示されている。パク氏によると,復元のためにバックアップデータなどを探したものの,当時の状態で100%は保存されておらず,1996年に発売されたゲーム雑誌の付録CD内に入っていたゲームデータと比較して作業したそうだ。
サービス20年を支えたプレイヤーとの攻撃的なコミュニケーションとは
ここからが今回のセッションの本題となるのだが,オンラインゲームの開発/運営において,パク氏はプレイヤーとの攻撃的なコミュニケーションに目を向ける必要があると話す。それが失敗につながったとしてもだ。
ここでの攻撃的という言葉の解釈は,プレイヤーの意見を聞きながらタイトル画面を変えたり,グラフィックスを2Dから3Dに変更したりといったアクティブな変化だけではなく,逆に同じ方向性や戦略を維持してアップデートし続けるということもそうなのだという。
ここまでのパク氏の紹介から,風の王国は前者になると思うが,後者はやや保守的ではあるものの,それも間違いでないと氏は述べていた。ブレないという意味では,ある意味,攻めているということなのかもしれない。
少なくとも風の王国の開発チームは,MMORPGはプレイヤーと共に成長し,それに足並みを揃えて開発していくのが重要じゃないかと絶えず考えているとのことだ。
続いてパク氏は,実際にプレイヤーとのコミュニケーションをどうやって取り,距離感を縮めるためにどういう努力をするのか,というテーマを挙げた。プレイヤーの意見を知ろうと思えば,誰もがファンサイトやバグレポート,掲示板などをモニタリングしているものだ。しかし,パク氏はこれだけではやや受動的だと考えており,むしろプレイヤーと直接会って,話して,感じていることを知ろうとすることが重要だと話す。
ここで一旦休憩を挟もうと切り出したパク氏。続けて,隣にいる聴講者と握手をして,挨拶する時間にしようと話したことで,会場はやや戸惑った雰囲気に。「恥ずかしいですよね?」と聴講者に聞いたパク氏は,「これを恥ずかしいと思っている人が,果たしてユーザーに手を差し伸べられるのか。そういう心の準備はしていますか」と,プレイヤーとコミュニケーションを取ることの覚悟のようなものを問うていた。さすがに,これは不意打ちすぎるのではと思ったが,確かに開発/運営側として,初対面のプレイヤーと会話を交わす勇気は,いつか必要になることもあるだろう。
さて,開発/運営を続けていれば,多かれ少なかれプレイヤーがゲームから離れていく姿を見ることになる。その原因はさまざまだが,それにどう対応するのかを,プレイヤーと一緒に考えなければならないとパク氏は話す。
そんな対応として,風の王国で行ったチュートリアルの実装を例に挙げた。初期のMMORPGでは良くあることだが,ゲームを始めるといきなり世界に放り込まれて,ただただ途方にくれてしまう新規プレイヤーが少なくない。そしてそのまま離脱していく流れになる。そこでチュートリアルを実装することで,初心者の成長導線を作るわけだ。
しかし,チュートリアルで導くといっても,MMORPGのシステムを理解させるには,さまざまな説明が必要になるのは想像に難くない。では,これを一番しっかりと制作できるのは誰だろうか。
もちろん,実際に制作するのは開発チームだが,一方で彼らは,ほとんどのゲームシステムやコンテンツを知り尽くしており,そもそも何が分からないのか,どういうことが知りたいのか,何が難しいのか,それらを挙げられる数は少ない。そのため,例えばビッグデータなどを使って分析したり,プレイヤーの声に耳を傾けたりすることが重要だと話す。
まとめとしてパク氏は,長く開発という業務に携わっていると,ゲームの中心を失い,考えることが限界にぶつかることがあると話し始めた。そんな行き詰まった段階でコンテンツを制作していると,どう拡張していくべきかに悩むものだ。そんなとき,プレイヤーの意見に耳を傾けて努力して改善する。この過程で悩み,試みの中でプレイヤーと話し合って共に成長し,より大きな絵を描いていけば,よりよいサービスが提供できるだろうとパク氏は話しセッションを締めた。
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