インタビュー
「AR performers」が実現する新たな2.5次元エンターテイメント。その魅力と可能性を“チーム・シンジ”の皆さんに聞く
ゴールの見えないコンテンツだからこそ感じ取れるスタッフの熱意
4Gamer:
基本的にはライブが決まったら,そのライブに向けて皆さんが動くという流れかと思うんですが,一つの公演を作り上げるのに,どれくらいの準備期間が必要になるのでしょうか?
内田氏:
β LIVEのときは,そもそもベースの開発と同時進行で準備していたので,現段階ではあまり参考にはならないかもしれませんね。
まだトライ&エラーが多い時期でした。
内田氏:
ゴールがないコンテンツじゃないですか。その決まった期間までの間に目標値を定めて,達成するために徹底的に突き詰めていくスタイルでした。
塚本氏:
ユークスの特徴なんですけど,海外の会社と進めてきた仕事が多いので,期日を最初に立てて後ろから詰めてスケジュールを組んでいるんです。たまに用意した分量とスケジュールが合っていないこともありますが,それをクリアできるメンバーを集めています。
VCastさん:
新しいことに挑戦してグレードが上がるからこそ,やることも増える感覚なんですかね。
塚本氏:
担当チームがやりたいことを試して,それが良かったら採用する……ぐらいのやり方なんですよ。
内田氏:
それがユークスの怖いところで,うっかり「できるといいね〜」と言ったことに対して,「もうやっています」と返ってきて驚かされることが多々ありました。だから,そういったことをうかつに言わないように気を付けています(笑)。
VCastさん:
こだわろうと思えば,衣装の生地の複雑に絡み合う糸の細かいところまでもきっちり作っていただけそうですね(笑)。
塚本氏:
服に関しては内田のこだわりが強く,現実に再現できる構造でないと認められませんね。
内田氏:
謎の繊維で,謎のパーティングラインの服はイヤなんです。布は基本的に,円柱は有り得ないじゃないですか。絶対にパーティングラインがあって,パーツごとに分解できるはずなんですけど,そこをちゃんとできていないとイヤなんです(笑)。
4Gamer:
リアリティへのこだわりですね。
VCastさん:
では,後に販売もしていく方向ですかね?
内田氏:
ぜひ販売したいですね(笑)。
4Gamer:
普段使いできる服で,ファッションブランドを立ち上げてもいいかもしれません。
それにしても,先ほどの映像を見た上で塚本さんの仕事の大変さを聞くと,またなんとも……。
塚本氏:
いえいえ,とにかく楽しいですよ。私も経験したことがないものが多いですし。今までゲームの開発を通じて培ってきたあらゆるものを注ぎ込んでいるので,「すべてはここにたどり着くためだったのでは?」というぐらいの集大成になっていると思います。そういった意味でも,シンジ達は何人分もの人生でできているんですよね。
4Gamer:
確かにスタッフ全員の人生経験が詰め込まれていると考えると,アイドルとしては理想的な存在になりますよね。あの照明にしても,きっとこれまで見てきたものを再現しようとした結果でしょうし。
塚本氏:
あの照明は,さらにその先もいろいろなことができるだろうという,あくまで通過点ですよ(笑)。
4Gamer:
おお……まだまだアイデアは尽きないと。
さて,アイドルである以上,コンスタントに楽曲を生み出していく必要があると思うのですが,今後,どれくらいのスパンで楽曲をリリースしていくのでしょう?
内田氏:
想定はしているんですけど,発注ができていなくて……(笑)。ただ,1st A'LIVEのあとは具体的に計画化してあるので,楽曲も増やしていきたいですね。少し前に平田さんと話をしていて,シンジにもまた違ったタイプの楽曲を歌わせてみたいという考えも生まれてきました。楽曲的なチャレンジも,アーティストごとにやっていきたいと思います。
ちなみに,1st A'LIVEの目玉になるのは,シンジ達が一緒に歌うステージです。
4Gamer:
えっ。それは裏で同時に複数チームが動くということですか?
内田氏:
とりあえず4人を動かすので,もう大混乱すること必至ですね(笑)。
4Gamer:
無事に終わることを祈っております。
ライブでは,毎回同じスタッフの方がそろうんですか?
内田氏:
必ずしも毎回同じメンバーではないですが,キーマンは同じです。
塚本氏:
そうですね。おおよそのメインメンバーは確保してあります。
4Gamer:
練度を高めていくものだと思いますが,ライブを目標にすると1回や2回のリハーサルじゃ済まなさそうですよね。
内田氏:
いわゆる普通のコンサートにおけるテクニカルリハーサルの,“テクニカル”な部分が非常に膨大ではありますね。
4Gamer:
その中でVCastさんが稼働する部分はライブ当日のみなのでしょうか?
VCastさん:
当日のリハーサルだけでライブに臨むのは,さすがに無理ですね(笑)。
4Gamer:
基本的には準備段階からリハーサルをしていくと?
VCastさん:
リハーサルもそうですし,ユークスさんにお邪魔して打ち合わせしたりと,準備段階から作り込んでやらせていただいています。
内田氏:
ライブ会場に行く前のリハーサルも,何回かセッティングさせていただきました。
VCastさん:
皆さんが「お忙しいから」と気を遣ってくださるんですけど,なるべく進行状況を確認したりコミュニケーションをとったりと,世間話でもいいから足を運びたいんです。
4Gamer:
それだけこのプロジェクトに理解を示しつつ,気持ちの部分でも深く関わられているんですね。
VCastさん:
僕もゲームが好きですし,こういう二次元の良さ,三次元では味わえないパフォーマンス,エンターテイメント性もいちユーザーとして好きなので。
自分がゲームをプレイしているときに「このシーンがムービーになったら全然整合性がないな」と気が付いたりすると,興冷めしちゃうじゃないですか。そういうことを起こさないためには,どうすればいいか。現実ではできないけど,CGならできること。デフォルメとリアリティの境界線が難しいとは思いますが,そういった部分にこだわっていければ,お客さんに喜んでもらえるのかなと考えているときが楽しいんです。
4Gamer:
仕事をいただくうえで「○○を演じている○○さんだからお願いしたい」というケースもあると思いますが,このプロジェクトでは何も明かせないじゃないですか。
なかにはそれらを敬遠しがちになる方もいると思いますが,それを承知した上でAR performersに面白さを感じて,演じることに徹することは素晴らしいと思います。
VCastさん:
例えば,5分の曲を作るのに何十時間も費やすわけじゃないですか。でもお客さんが聴くのは,その完成された5分のみ。僕はそこに面白味を感じるタイプなんですよ。
4Gamer:
根が職人タイプなんですね。
VCastさん:
そうかもしれませんね。もちろんパフォーマンスも好きですが,作り込むことが好きだからこそ,たとえ自分が積み上げてきたものが,お客さんに見られなくてもいいやと思うんです。
4Gamer:
だから今回,VCastさんがピッタリだったんですね。
内田氏:
この際だから言っておきますと,Vcastさんのお名前を出してはいけないとは思っていません。ただ,昨今の声優さんのお仕事で言えば,役者=キャラクター,キャラクター=役者,という部分がフィーチャーされ過ぎていると思うんです。
それが高じてしまい,酷い例だと新作発表時にキャラクターの名前より,キャストさんの名前と顔写真の方が大きく紹介されることがありますよね。気にし過ぎかもしれませんが,コンテンツを作る側としては深刻な問題だと思っています。キャスティングさえ良ければ,作品自体はどうでもいいのか? となると,真面目に作る必要性が感じられなくなって……と,そういう風潮に危惧を抱いているんです。
心当たりはありますね……。
内田氏:
作っている人達は,お客さんをどのように楽しませるか,素晴らしいキャラクターを作り出そうかを考えているのに,人気声優さんの名前がないと埋もれる,紹介すらしてもらえない……。そんな時代になっていくと,作り手にとっても,ファンの皆さんにとっても良くない結果にしかならないと思います。その点をずっと考えていましたね。
4Gamer:
そこに危機感を覚える気持ちはよく分かります。
内田氏:
そういう考えを持ちつつ,自分の仕事はキャラクターコンテンツを作ることだと思うので,声優さんのネームバリューに頼らないでキャラクターを発表して好きになってもらいたいと思いながら展開してきました。
ですがβ LIVEを見ていて,VCastさんとACastさんが,真摯にシンジ自身になっていただけている様子を見て,正直,そろそろバラしてもいいやと思ったりしているんです(笑)。お二人がシンジについて好きに語っていただいても,まったく腹が立たないですし(笑)。
一同:
(笑)。
4Gamer:
それがまさしく,AR performersのコンセプトですよね。
VCastさん:
でも僕だけではなく,皆さんがシンジですからね。
内田氏:
そうですね,“チーム・シンジ”です。
4Gamer:
シンジの友達という体で語っていただいても良い気がしますよね(笑)。
VCastさん:
業界の人にはよく,どうなっているかを聞かれますね。とくにβ LIVEの直後はすごくて,乙女ゲーの現場に行くたびに言われました。そのときは「よく知っている友達だけど,僕じゃないっす」と答えています(笑)。
4Gamer:
ここまで来ると,外野の視点から見てキャストを明かさなくてもいい気がしますね。きっと予想できる人なら分かると思いますし,明言するよりは友達や仕事仲間として接してもらったほうがいいと思います。
ともあれ,なるべくしてVCastさんが選ばれた気がしますね。
VCastさん:
こんなに面白いのに,どうして皆やらないんだろうと思いますけどね。
4Gamer:
新しいものに対する理解は,どの時代も時間のかかるものですからね。それなのに,面白いとおっしゃるVCastさんとマネージャーさんはすごいと思いますよ。
VCastさん:
例えばここ10年くらいで,スマートフォンは急成長したじゃないですか。コンテンツやエンターテイメントだって,これから進化していくと思いますし,AR performersがスタンダードになるかもしれないですよね。
内田氏:
僕は二次元のコンテンツが,生でエンターテイメントを提供するというのは,一種のジャンルになると踏んでいます。
VCastさん:
もしかすると,この先「アイドルになりたい」「声優になりたい」に続いて「AR performersになりたい」と言われる日が来るかもしれないですし。
4Gamer:
その可能性は絶対にありますよね。
内田氏:
二次元だからこそできる完成度の高いパフォーマンスや,超人的なクオリティのパフォーマンスが,生で見られるのは面白いと思いますから。
VCastさん:
日本の伝統芸能の人形浄瑠璃が,こういう形で現代の人形浄瑠璃としてよみがえるのは感動しますよね。
内田氏:
人形浄瑠璃だって,誰が見ても素敵な美男美女の人形を,理想の仕草,芝居を職人が表現することなので,やっていることは同じなんですよね。
4Gamer:
技術的には完璧なパイオニアですけど。
塚本さんは先ほど,ご自身の培ってきたものをすべて注ぎ込んでいるとおっしゃっていましたが,やはり経験を詰んだ人でないとできない仕事だと思いますか?
塚本氏:
本当に特殊な技術ですし,ただアニメーションをやってきただけだと,追いつかないと思います。僕はダンスを学んだり,フィギュアスケートを好きで見ていたので,その経験や知識からシンジの立ち居振る舞いを作り上げています。
また笑い顔で言えば,目に続いて口が笑うと本物のようで,逆になると作り笑いになると言われているんです。その細かな表情を出すところは,ただ人から言われてアニメーションを作っているだけでは得られない技術だと思います。
内田氏:
ダンスのモーションを,プログラム的に鋭くするよう作り上げてくれたのも彼なんです。そうしないと,2Dのキャラクターなのでカッコ良く見えないんですよ。
塚本氏:
僕も鏡を見ながらやっていて,腕の動きなどを試したところ,最終的に「ダイエットのためにダンスを習っていて良かったな」と思いました(笑)。
VCastさん:
そこもまた,人生経験が活かされているんですね。
塚本氏:
今はスタッフにアニメーターが在籍していて,自分の技術を後輩に伝授するのが楽しいんですよね。
4Gamer:
未来を見据えるなら,後進も育てないといけないですからね。今は第一世代ですけど,その世代限りのコンテンツにはしたくないわけですし。
ただ,これだけの人数でシンジを作り上げていくと,意見が食い違ったりすることはありませんか?
VCastさん:
今のところ,大きな食い違いはありません。それこそ普段から内田さんとディスカッションしているので。お忙しいはずなのに,毎回現場に来てくださっていることは個人的にありがたいですし,話しやすい環境を作ってくださるので,そのタイミングで修正を加えていきます。
シンジは皆で作っているものですし,僕だけのシンジ像を作り上げると,それは正解ではないと思うんですよ。なので話せる時に皆さんとディスカッションして,共通認識を高めたいなと常に思っています。
そういった前提があるからこそ,ライブ当日にふとした言葉がポロッと生まれたときに,それに責任を持てるのかを考えながら,さじ加減を調整しつつトークのパートでしゃべれるんです。
4Gamer:
いずれシンジとVCastさんが,ライブで共演する日が来るのかなと想像してしまいますね(笑)。
VCastさん:
どうなんでしょうね……そもそもシンジがしゃべらなくなりません?(笑)
4Gamer:
その場合はVCastさんもAR化しないと。
内田氏:
VCastさんのAR performersのキャラクターがいて,彼には別の方が声をあてるんですよ(笑)。
一同:
(笑)。
VCastさん:
そんな豪華なことしていただいていいんですか!? パラレルな感じになりますね(笑)。
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