インタビュー
「AR performers」が実現する新たな2.5次元エンターテイメント。その魅力と可能性を“チーム・シンジ”の皆さんに聞く
シンジの楽曲は華麗かつ美しいメロディであれ
4Gamer:
では,平田さんにもお伺いしますが,キャラクター設定ありきで楽曲を作ったのでしょうか? それとも楽曲を作ってから設定に落とし込んだのでしょうか?
楽曲は「こういうキャラクターがいるので,○○な性格に合う楽曲をお願いします」という形でオーダーをいただきました。
4Gamer:
最初から確立されていたわけではなくて,徐々にできあがってきたキャラクターじゃないですか。そのキャラクターに合う楽曲を作るというのは,現実のアーティストに提供するものとは別の趣向が必要になるのではと思うのですが。
平田氏:
振り返って見るとそうなんですけど,個人的には,実在するアーティストと同じ提供方法と考え方でシンジにも曲を書いたので,すみ分けはとくにありませんでした。
4Gamer:
では,シンジに曲を作るにあたって,どういったことを意識されましたか?
平田氏:
まず,華麗であること。メロディが美しいものを作ろうと思っていました。現在発表している二曲はアップテンポのダンスビートですが,どこか切なさや美しさを兼ね備えています。そのうえで,お客さんを惹きつける強いメロディを意識して作りましたね。
4Gamer:
VCastさんがシンジとして最初に歌った曲は何になるのでしょうか?
VCastさん:
最初に歌った楽曲は「The World Is Mine」です。平田さんがおっしゃったとおり,切ない雰囲気も激しい部分もありますし,耳に残るキャッチーなメロディで個人的に好きな曲です。
シンジらしさを提示していただいた気がして,「僕はここを目指していけばいいんだ」と明確に感じることもできました。
4Gamer:
ちなみに,シンジを演じるにあたり,先行していたのは歌でしたか? それともセリフ?
VCastさん:
セリフのほうが先でしたよね。
内田氏:
そうですね。それはVCastさんから「歌う前にしゃべっているシーンをやってみたい」というリクエストをいただいて,僕も「そりゃそうだ」と思ったんです。どんなキャラクターが歌うのかを共有しておきたいと言われて。
で,インタビューを受けたときに,彼がどう答えているかというシーンを作って,その声をあてていただいたんですよね。現状,そのインタビューは10分ぐらい話してもらったうち,1分程度しか公開していないと思いますが(笑)。
一同:
(笑)。
内田氏:
でもそれは,すごくいい経験になったんですよ。今だから言えますが,当初はキャラクターの外枠となる生い立ちと,考え方のベースが5〜10行くらいしか書いていなくて,「あとは僕の頭の中にある」と言って,VCastさんと平田さんにお願いしましたが,実は全然考えていなくて(笑)。
VCastさん:
えぇっ!?
内田氏:
平田さんに楽曲を作っていただいたときは,キャラクターについて問われれば語る……といったスタンスでお願いしていました。そこで平田さんからデモをいただいたところ,逆にインスパイアされて,繊細な雰囲気のほうがいいなと方向修正を加えていたんです。だから平田さんの楽曲も,シンジの人格形成に大きく影響を与えてくれているんです。
……でもそれをカミングアウトすると「ちゃんと考えてから来てください」と言われることを分かっていたので(笑)。
4Gamer:
ですよね(笑)。
内田氏:
でも最初の楽曲ですし,シンジ本人の曲にしたいという思いがあって,裏でそのようにしてみたら面白い経験になりました。
キャラクターが生きているさまざまなシナリオがあるなかで楽曲をお願いすると,どうしてもキャラクターソングになるじゃないですか。それを避けたかったという狙いもあります。
VCastさん:
僕としてはシンジの印象にバッチリ合っていましたよ。「シンジってこういう感じなんだ」というイメージが浮かびました。
平田氏:
今,思い返すと細かい設定がなかったことが,良かったのかなと思いますね。設定=制約になるときがありますし,八方塞がりになって飛躍できないケースもありますので。
ちなみにThe World Is Mineは,サビを最初に思いつきました。自由度は非常に高かったと思います。もちろん責任を感じてはいましたが,自由にやっていいんだろうなと思いながら作曲していて,結果的に良いメロディになったのではないかな,と。
4Gamer:
例えば平田さんは,今後シンジに提供したい楽曲や,作品全体に打ち出していきたいアイデアなどありますか?
平田氏:
今のところ,どのキャラクターもラブバラードだったり,レベルクロスはワルっぽい楽曲だったりするので,真逆になるようなものも今後は制作していきたいですね。
また,かなり先の話になるでしょうが,シャッフルユニットもやっていきたいなと考えています。
4Gamer:
それも楽しみですねぇ。
では楽曲に関して,VCastさんからアイデアを出すようなことは考えていますか?
VCastさん:
普段の僕はなるべく作曲家さんや作詞家さんの意図を汲み取りたいタイプなんですが,このプロジェクトに限っては,平田さんからアイデアを提案してほしいと言っていただいているんですよ。なので,いろいろと考えているところです。
4Gamer:
アイドルである以上,シンジ自身が作詞をするといった機会もあるかもしれないですよね。
VCastさん:
その場合はどうなるんですかね?(笑)
内田氏:
VCastさんがシンジとシンクロしていくわけですから,VCastさんに作詞していただいても良いかもしれません。あるいは,ACastさんに詞を作っていただくことがあるかもしれませんね(笑)。
一同:
(笑)
VCastさん:
それぞれの感性が作用しあいそうで面白そうですね。
現代の人形浄瑠璃ことAR performers
4Gamer:
やはりプロジェクト全体としても,キャラクター主体というよりも生っぽさを重視している点が伺えました。
VCastさん:
β LIVEで試した技術的な部分もそうですし,今後のライブに向けてもいろいろな試みをしているんです。たまに映像を見せていただくんですけど,「こんなところにこだわっているのか!?」という部分が多くありました。
それがもう,自然にマッチしすぎて,逆に意識しないとなかなか気付かないレベルなんです。前列に近い人は足音が聞こえたり,照明の当たり具合がすごくリアルだったりとか。
内田氏:
実は照明もリアルタイムで反映させているんですよ。
塚本氏:
照明担当と映像担当が一緒に試してみたんですけど,試した本人たちが驚くくらいリアルでした(笑)。新キャラクターのリハーサル風景の映像を用意しているので,ぜひご覧になってください。
4Gamer:
照明も影も凄いですね……。しかも画面から全然浮いていないですし。
塚本氏:
この映像でご覧になるよりも,実際に見たときのほうがクオリティはかなり高いと思いますよ。β LIVEを経て,今ではこちらの想像を超えるほどの成果となりました。
4Gamer:
そんなライブを行うにあたり,何か会場設備等の制約や条件はありますか?
内田氏:
会場はそこまで限られていませんが,制約はいろいろとありますね。
4Gamer:
これから先,大きく発展するとして,もし日本武道館でライブをするとしたら,これと同じパフォーマンスで動かせるのでしょうか?
動き自体は問題ないです。ただ,ホログラフィックスのスクリーンを貼れる環境であるかが重要ですね。
VCastさん:
あとはラグが生じるかですよね。僕とACastさんがシンクロして表現したものが少し遅れて伝わって,それを見たお客さんの反応も僕らに遅れて伝わるので,そのリアクションを待つと変な間が生まれるかもしれません。もちろん,遅延がそこまで大きいというわけではなく,ほんの一瞬のことなんですけど。
4Gamer:
会場の規模によって音の返りも変わってきますし……。
内田氏:
β LIVEでは,どうしても音が少しだけ遅れてしまったので,そこは音と映像のズレをプログラムで制御しました。ほんの60分の数秒のズレなんですが,わざと遅いほうに合わせてシンクロさせています。
VCastさん:
僕らとしても,お客さんの反応をある程度予想して,早めにリアクションをとっていましたが,正解でしたか?
内田氏:
ちょうど良かったと思います。
4Gamer:
今ここでそういう質問が出ることからも,やはりβ LIVEのときは,かなり手探りの部分が多かったことがうかがえますね。
VCastさん:
ええ,手探りでしたね。シンジは人前に出るときは王子様然として振る舞っていて,自信に満ち溢れていますが,普通の人が言ったら鼻につくようなことも,さらっと笑顔で言えてしまうキャラクターでもあります。お客さんの前では,大体の答えをシンジは考えてくると思うので,人前に出ていないときや,慣れてきてからのテンションを考えながらライブでは演じていました。
4Gamer:
テンションまで考えているんですね。
VCastさん:
ええ。一方,ラジオのときは最初のイメージからがらりと変わって,同級生達と楽しんでいるような雰囲気を表現させていただきました。だから普通のアニメーションのキャラクターよりも,性格付けやキャラクター性の振り幅が広いかもしれません。
そのため,時期によってはほかのアーティストの方にも影響されると思いますし,ライバルに負けたくない意識から,普段は余裕を持った歌い方だけど,ときに荒々しく歌ってみたりもするだろうし。そういう人間臭いところを,ファンの方々が,どう受け取ってくださるのかが興味深いところではあります。
内田氏:
単純に「キャラクターがブレてるじゃん」という見方をする方もいるかもしれませんが,人間って普通はブレているんですよね(笑)。
4Gamer:
現実のアーティストでも,徹頭徹尾キャラクターを守っている人なんてそうそういませんからね。
VCastさん:
例えば,普段は斜に構えているアーティストが,ラジオではハートフルな話をすることもありますよね。そんなギャップが逆に良いのかなと思います。
内田氏:
例えば17,8歳の子が,最初のインタビューやデビュー直後にインタビューすると言われると,シンジくらいナルシストな子なら,いかにカッコいいことを言ってやろうか考えてくると思うんですよね。それを一生懸命やっている感じを出したかったんです。
そうそう,レベルクロスの二人もやり過ぎていて,おかしなことになっています(笑)。でもみんなで集まってラジオになると,同い年の男の子同士の雰囲気が出て,等身大のやり取りになるのは非常に面白いですね。
VCastさん:
レイジも意外とデレるし,ダイヤからも優しさや人懐っこい感じが見えましたからね(笑)。
内田氏:
実は寡黙じゃなかったし(笑)。
4Gamer:
今まで当たり前のようにアイドルがやってきたことが,AR performersで当たり前じゃなくなる,生まれ変わるところが面白いと思いました。
VCastさん:
クリエイトだけではなく,パフォーマンスも皆さんが担っている部分があると思うので,そこが非常に楽しいですね。
4Gamer:
まさにVCastさん,ACastさんはクリエイターの一員として参加されているわけですからね。
平田氏:
VCastさんはダンスを見たイメージを,ご自分でチェックしてアイデアをくださるので,デジタルだけど有機的と言いますか。クリエイターというスタンスで,お二人はご活躍されていますよ。
4Gamer:
もちろん人間ですから,パフォーマンスの動きにはクセがあると思うんです。そういったものが生の現場で演じていると混じり込んだりします?
ACastさん:
自分では気がついていないですが,出ているかもしれないです。クセが出ないように心がけてはいますけど。
4Gamer:
キャラクターにアクセントを付けるために,手の動きなども考えたんでしょうか?
ACastさん:
そうですね。容姿や設定に注目して遊べるものを探したりはしていました。とくにレイジは「キレイ好きなのかな?」と思って,服のホコリを手でパタパタ払う動きなんかでアクセントを付けたりしましたね。
VCastさん:
あぁ,ライブでやっていましたね!
内田氏:
キャラクターとしてのお芝居を入れてくださるのが,すごく見ていて嬉しかったです。
4Gamer:
デジタルのキャラクターが服の汚れを気にするって,なかなか見ない光景ですもんね(笑)。
VCastさん:
しかもシンジを演じているときは,めっちゃニコニコしていて……(笑)。
ACastさん:
それVCastさんもですよ?(笑)
VCastさん:
あれっ,僕もでした!? お互いにシンクロしてたんですね(笑)。
4Gamer:
お互いに裏ではいい表情をされていたんですね(笑)。
では現時点でシンジ定番の動きはありますか?
ACastさん:
お辞儀ですね。手を挙げるときも回したり,バレエの動きを取り入れたりしつつ,あまり細かく動かないように緩やかにしています。
ちょっと高貴なイメージでやってみようと思って(笑)。
4Gamer:
ご本人がライブをやる場合は,振り付けも自分自身でやるわけじゃないですか。でもシンジに関しては,そこをACastさんが担当されているんですか?
内田氏:
ACastさんと振り付けの先生ですね。
VCastさん:
このインタビューが始まる前に内田さんがAR performersを人形浄瑠璃と例えてくださって,まさにそのとおりだと自分の中で納得したんです。一つの人形を完璧に動かすために,裏で何人も動いているのがAR performersなので。
あらためて各分野のプロが,全力で一人のキャラクターを演じ,作り上げていることに感動を覚えました。
4Gamer:
一方で,踊っているときの息遣いから,歌い終わったコンディションで話さないといけない部分で,演技に関しては気持ちの入れようが普段よりも難しい気がします。
VCastさん:
それらは,ある程度頭の片隅に置いているくらいですかね。生で歌うと息遣いも自然に出てきますし,お客さんの反応と僕らのレスポンスになるので,そこは伸び伸びやらせていただいていますよ。
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