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近頃の同人ゲームを概観する,IGDA日本の第3回研究会,「シナリオ作成技法とメイキング」レポート
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印刷2009/10/15 12:00

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近頃の同人ゲームを概観する,IGDA日本の第3回研究会,「シナリオ作成技法とメイキング」レポート

 2009年9月12日,秋葉原のイベントスペース「UDXフードシアター5+1」にて,IGDA日本の同人・インディーゲーム部会の第3回研究会が開催された。今回のテーマは「シナリオ作成技法とメイキング」で,具体的にはノベルゲームを中心とした研究会となった。諸般の事情で,いささかお伝えするのが遅くなってしまったが,講演者の発言を中心にまとめてみよう。

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 ノベルゲームというテーマが影響したのかしないのか,会場には前2回よりも多くの聴講者が訪れた。これまでの研究会に比べ,明らかに年齢層が若くなっており,10代の参加者も見受けられたほか,学生が25%前後を占めるというフレッシュな研究会となった。
 同人ノベルゲームといえば,古くは「月姫」,今では「うみねこのなく頃に」と,商業作品にも進出を果たしている巨大ジャンルという印象があるが,研究会では,そこで実際にゲームを作っている制作者達が講演を行ったのだ。


異なる市場としての「同人」と「商業」


メディア開発綜研の玉川博章氏。いかに「好きでやっている」とはいっても,人は食わねば生きていけない。「本業を営みつつ,その余暇でゲームを作る」というのも,クリエイターのあり方の一つだ
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 第1部では,メディア開発綜研の玉川博章氏による,「ノベルゲーム作家のキャリアパス」と題された発表が行われた。これはタイトルどおり,ただ「ゲームを作る」のではなく「どのようにゲームを作り続けていくか」という点に着目したものだ。

 ノベルゲームの場合,同人と商業の世界が比較的近接していることは良く知られており,近年大ヒットを飛ばしたノベルゲームタイトルの多くが同人ゲームであることは,繰り返すまでもないだろう。
 しかしここで,実際に活動をしている同人ゲームサークルにアンケートを取ってみると,面白い結果が見られた。


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 右のスライドは,2003年の「コミケット66」で行われたアンケート調査の結果である。ノベルゲーム以外のサークルも含まれているので,このデータをもとに同人ノベルゲームサークルの傾向としてしまうのは乱暴だが,それでも一つの流れとして,


・すべてがプロ化や商業化を求めているわけではない

・キャリアパスとして,同人のまま活動を続けるという選択肢がある

ことが分かる。自明といえば自明だが,このことは数字に如実に表れてくる。
 例えば「作品を商業化したいか」という問いに対しては,「とても」「機会があれば」という肯定的反応が67.8%を占める半面,「いいえ」と否定するグループも全体の3分の1近く存在する。同様に,「プロになりたいか」という質問に対しても,「いいえ」が56.1%と,半数を上回っているのだ。

 とはいえ,「とても商業化したい」が16.0%,「とてもプロになりたい」が13.4%という数字は無視できるレベルではない。「できればプロになりたい」まで含めると,やはり半数弱は“プロになるため”のステップとして同人活動を捉えていると見ていいだろう。

 同人ノベルゲーム制作者からプロへの道を目指す場合,大きく分けて二つの選択肢がある。一つは商業ゲームへの道,もう一つはライトノベルへの道だ(なお,今回の議論は「シナリオ」と「イラスト」に限定されていることをここで補足しておく)。
 このうち商業ゲームに進む場合,コンシューマーでギャルゲーを作るか,あるいはPCで成人向けゲームを作るというのが一般的な選択になる。
 もっとも前者については現状,ノベルゲーム専門の部門を持つ企業は稀といっていい。これに対して後者は,同人からプロに進んだケースも多く,またベンチャー支援システムもあるため同人サークルをそのまま企業化してしまうケースもままある。
ライトノベルの費用構成。ちなみに平均発行部数1万5千部は,あくまで「平均」であることに注意が必要
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 ラノベ方面に進む場合は,簡単にいって小説家になるか,イラストレーターになるかということとイコールである。ラノベは,出版不況が吹き荒れるさなかにあって非常に活気あるジャンルであり,ちょっと古いデータではあるが,2006年には約344億円の市場規模を有しているという。
 これに伴い,出版社によるラノベ執筆者/イラストレーターのリクルートも活発だ。書き手の場合は,新人賞経由のデビューを中心として,アニメの脚本家やシナリオライター,他ジャンルの小説家からの転身など,さまざまなルートが見受けられる。
 イラストレーターの場合,新人賞の規模はあまり大きくはないが,漫画,ゲーム,アニメからの参入があるほか,同人からのリクルートも活発だし,持ち込みというクラシックな手法もまだまだ利用されている。
 もっとも,コンシューマーゲームの方面に進まない限りは,いずれの路線にしてもフリーランスで仕事をするのが一般的だ。

 一方,「同人のまま」という選択の場合,考えるべきことはあまり多くない。
 同人という方法論は,つまり自主制作であり,自己資本であるということだ。このため自由度は大きい(もっとも共同作業としての同人ゲーム制作は,本当に好き勝手ができるわけではないが)。
 また,同人ゲームをとりまく環境として,製造,流通に関するインフラの向上は目覚しいものがある。最近ではダウンロード販売も成長しており,同人という立場のままで可能なことはぐんと広がっている。
 ユーザーとの距離が近いという性質にも注目が必要だろう。同人サークルの中には,コミケに参加することそのものが目的であるというサークルも少なくないという結果がでているとのこと。

ご覧のとおり会場は大盛況で,関心の高さをうかがわせた
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 このように,自由度の高さと,ユーザーとのコミュニケーション密度の高さという要素は,すでにプロとして商業の世界で活躍している人達にとっても大きな魅力になっており,商業と並行して同人活動を行うとケースも多いようだ。
 また同人市場も拡大の一途をたどっており,コミケだけで約50万人の動員がある。ここに通販やダウンロード販売といったアクセス手段を加味すれば,「同人だけで食っていく」「無理してプロになる必要はない」という判断が,現実味を帯びてくる。

 このことは,「商業vs.同人」という構図が過去のものとなり,「商業という市場と同人という市場の二つに分化した」,という見方をすべきであると玉川氏は語る。そして当然ながら,同人というジャンルのあり方,言葉の意味もまた,変わってきていると考えると続ける。


商業化されていく「同人環境」


 第2部では,飯島多紀哉氏(七転び八転がり),七月隆文氏(TRiNE),ごぉ氏(ぶらんくのーと),櫻龍氏,七海真咲氏(Festival),樹原新氏(-atled-制作委員会),tO氏(PBP)による講演が行われた。
 講演の趣旨はそれぞれ大きく異なるが,非常に荒っぽく分類すると,「実際にゲームを作るためのノウハウ」論と「ゲームを作る環境(チーム)を構築するためのノウハウ」論とに分かれていた。

 実際にゲームを作るためのノウハウとしては,実作業をどう進めるか,スクリプトをいつ埋め込んでいくか(tO氏の講演は,そのスクリプトによる演出に特化したもので,ゲーム開発における機能分化の広がりを感じさせた),足りない絵素材をどうまかなっていくかといった具体的な議論も多かった。
 だが,やはり一つの大きな論点となっていたのは「ストーリーとキャラクター」というポイントだろう。

七月隆文氏(TRiNE)。ライトノベル作家でありながら,絵も描けば音楽も作るマルチな才能
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 七月氏(プロのライトノベル作家)は,「方法はいろいろある」と前置きしながらも,ストーリーは「キャラクターを先に作って,それが映えるように作る」と語る。ごぉ氏の場合は,「シナリオはしょせんシナリオと割り切り,最高のキャラクターのために最高のストーリーを作る」「ゲーム特有の世界観と現実の間には境界があり,キャラクターはその境界を越えられる。ストーリーとはキャラクターをユーザーに届ける手段」とする。
 一方で櫻龍氏は,「ユーザーの満足度はシナリオに依存する」とし,魅力あるシナリオを構築する素材として「物語の明確な目的」「読み手をひきこむ冒頭」「魅力的なキャラクター」「特異なシチュエーション」,そして「好奇心を刺激する謎」を提示した。
 七月氏が言うように,ストーリーを作っていく方法は書き手によって異なるものだし,同じ書き手であっても作品によって異なったりもする。このため一概に「これがベスト」という議論はできないのだが,個人的には「キャラクターを優先する」という姿勢が強まっているのを感じさせられた。

自分で撮った写真を2枚つなげて,背景画像に加工していく。手間ではあるが,自分で描くよりは楽だと七月氏
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 実はこのことは,今回のお題が同人ノベルゲームであることを考えると,非常に興味深い。話が商業であれば,キャラクターが中心になるのは必然だからだ――マウスパッドから抱き枕まで,キャラクターはビジネスの一部どころか中心的存在ですらある。

飯島多紀哉氏(七転び八転がり)。歯に衣着せぬトークで会場を大いに沸かせていた
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 キャラクターを使ったグッズ製作は,同人でも可能だ。けれどそれが展開の中心になるかといわれれば,考えにくいというのが真実だろう(その作品が大ブレイクすれば,話はおのずから変わるが)。にもかかわらずキャラクターを主として作品を考えるのは,「ゲームに登場したキャラクターの活躍を描く商品としてのライトノベル」の影響が大きいのだろうし,先行作品の影響もまた大なのだろう。ただし,ゲームとライトノベルが互いの尾っぽを飲み込みあっている現状においては,もう少し別の観点も必要になるのではないだろうか。

 ゲームを作る環境に関する議論もまた,これに劣らず刺激的なものだ。飯島氏の発表はその筆頭とも言えるもので,以下に抜粋すると,

・同人は,楽しんで作っている,好きなことをしている,だから金儲けなんて持ち込むなという人がいるが,実際には作り手の半数は儲けたいと思っている

・もし同人業界の活性化を目指すのであるならば,儲けるのが一番いい。金持ちが生まれれば注目され,それが人を集める

・同人で儲けたという話は滅多に聞かない。なぜなら,儲かったという言葉が広がると,売れなくなるかもしれないという恐怖があるからだ。でも,ユーザーとして業界を活性化させたいと思うなら,売れている物ほど金を出して買うべきだ。これによってピラミッドの頂点が上がり,全体が大きくなる

・だから,売れている人は,もっとそれを誇らなくてはならない

という言葉に会場は大いに沸いていた。またこれに伴い,

・多人数で作るなら利益配分を先に決めておく。決めておかないと,売れたとたんに組織は終焉を迎える。権利関係も同様

・発起人がリーダーを務めるべきであり,リーダーはすべてのカネと経費を出す。人間関係は,金でもめると,そこで終わる。リーダーが赤字を全部かぶる覚悟を持つのが,人間関係を円滑に進めるスタートライン

・コストと損益分岐点の計算を忘れない

・コミケに偏重しすぎない。通販委託はメインの財源たりうる規模。自分達が作ったものをどう売るかまで考えなくてはならない

・腕のいい人間よりも,気のあう仲間

といった指摘も共感を呼んでいるようだった。

樹原新氏(-atled-制作委員会)。「連続テレビドラマにできるノベルゲームを」という視点は,従来のノベルゲームにはなかったものかもしれない
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 この「気の合う仲間」が重要という点では,専門誌の記念付録として企画された「-atled-」を極めて短時間(具体的に言うと1か月)で作り上げた樹原氏もまた同様な指摘を行っている。
 グラフィックス,音楽,声優など,実に49名が参加したプロジェクトを運営しつつシナリオも書いた樹原氏は,そういった大人数が関与するゲーム開発の経験者というわけではなく,30歳になって初めてオタクの世界に足を踏み入れた,元焼肉店の店主であると自己紹介している。このプロジェクトにおいて氏は,

・49名のほぼ全員に直接会ったことがある。会っていない人とは,直接会ってみた。これが信頼を作る。この信頼こそが,最も大事

・飲み会には積極的に参加した。人と会ってつなぐことで,自分の無知や落ち込みについて,人から教わることができる

・Googleで集められるものが全体ではない。人から直接学び,人の経験から得ていく。人に頼らなくてはいけない

 と語った。ネットを介したコミュニケーションが発達している昨今,これはなにやら前時代的ドロ臭さを感じるかもしれないが,ネットで出会ったメンバーと一緒に制作に取り組んでいる七海氏は「相手が遠方にいるからこそ,言いたいことを言い合える関係が必要で,それによって信頼を作っていく。とりあえず『俺の嫁』(筆者注:当然ですが2次元以上3次元未満)について語り合うのが良いです」と語っており,デバイスがデジタル化してもなお,やはり重要なのは信頼関係の醸成であるという点については動かないようだ。
 ただし,言うまでもなくこれは「仲良しグループを作る」という議論とは異なる。これについては,

・「立場関係ははっきり。みんなで仲良く,なんてやっていると揉める原因」(飯島氏)

・「リーダーが二重に存在したり,開発より馴れ合いを重視したりすると,うまくいかない」(七海氏)

といった言葉が実態を伝えていると思う。

七海真咲氏(Festival)。大型プロジェクトとなったノベルゲーム作成のマネージメントを発表。工程表の末期が痛々しい(右の写真)
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 実務的側面でのノウハウ開発は非常に進んでいて,もう一段階,実作業に踏み込んだレベル,いわゆる工程,進行管理に関する議論は,ほとんどプロと変わらない領域に達している。
 とくにこの点について詳しい発表を行った七海氏は,

・作業に支障のない環境を作ることが大事であり,それには作業の迷いをなくすことが重要になる

・リーダー,サブリーダーを決め,ToDoリストを作り,スケジュール表を立て,資料の一元化を進め,情報共有をしっかりと行う。必要に応じてグループウェアなどの情報共有ソフトを使う。これによって,自分がどこを作っているのか,常に把握できるようにしなくてはいけない

・それでも遅れが出てデスマーチ化したならば――必ずするものだが――チーム全体で遅れを取り戻していく。どうしても無理なら外注の導入,一部機能のカット&パッチ対応などを考える

という指摘を行った。ToDoや進行管理などは社会人経験があれば自然に行われるものであるにしても,外注の導入や一部機能のカットというレベルは従来の「同人」感覚からはだいぶ変化しているように思う。

ごぉ氏(ぶらんくのーと)。独特の語り口で2次元の素晴らしさを説いた
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 さて,ここで鎌首をもたげてくるのは,モチベーション問題である。これはやはり「同人ならでは」といっていいだろう――商業作品だってモチベーションは大事だが,モチベーションがどうこういう以前にそれが仕事なのだから。
 モチベーション問題については,チームの規模によっても対応が変わってくる。すべてを一人で作った七月氏や,少数での制作を行ったごぉ氏の場合,それは主に個人の内面の問題になってくる。ごぉ氏はくじけそうになったときの対策として以下のような心構えを挙げている。

・キャラクターと世界を一番愛しているのはオレ,だからオレが作るしかない

・完成したら奇跡,なら奇跡を起こしてやるよ!

・お前はマゾだと自己暗示をかける。そうすると,開眼する

 これ以外にも会場爆笑の対策がいろいろ語られたのだが,その部分だけを抜き出して記述するとあらぬ誤解が発生しそうなのでこれぐらいにしておこう。

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ごぉ氏の作品である「ひまわり」のコンフィグ画面。ツールとしてのノベルゲームに対するこだわりがあふれている
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「ひまわり」制作の前に,テストショットとして作成したという魔法少女もの。「とりあえず動くものを作る」のは,ノベルゲームにも共通するようだ

 興味深いのは,「体験版」に関する考え方だ。
 買い手にとってみれば,体験版があるかないか,どちらがいいかといわれれば,当然だがあったほうがいい。しかし,ここに独特の罠があるようだ――というのも,商業ゲームの体験版と,同人ゲームの体験版は,似て非なる意味と制作過程を持つからだ。各発表者の意見を見てみよう。

・「体験版を作った段階で達成感を得られてしまう。それに,やっぱり自分が作っているものに対して反応がほしくて,体験版という形で部分的に発表もしたくなる。でもここで反響が少ないと,モチベーション的に非常に危険」(七月氏)

・「宣伝目的の体験版は,いい。でもそれにレスポンスを期待してはいけない。体験版と称して未完成版を出してしまうと,そこで試合終了だ」(ごぉ氏)

櫻龍氏(Festival)。読者をひきつけるストーリーを構築するための技術を論じた
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 同人ゲームの場合,途中まで完成したものを「体験版」として発表してしまうケースがままある。これが「永遠の体験版」となってプロジェクトが終了することがあるというのは,これから同人ゲーム制作を目指す人は意識したほうがいいのかもしれない。いや実際,たとえばMOD制作の世界でも,β版のまま永遠の時を刻むMODは少なくないので。

 第1部では「同人と商業はもはや対立概念ではなく,並存する二つの市場」という見解が述べられたが,第2部の発表は,ノベルゲームの開発環境に関して,同人の世界が商業の世界とオーバーラップしつつあることを浮き彫りにしたといえる(もちろん,個人レベルでのコツコツとした開発もまた可能であることも示されているのだが)。
 七月氏が,このことを象徴する発言をしている。
「まったく初めての同人経験でしたが,システムが整っていることに驚いた。ゲームを作るためのツールは充実しているし,パッケージの印刷,販売委託,流通まで,なんの不自由もない」
 同人ゲームは――同語反復になるが,「同人ゲーム」である。しかし同人ゲームをとりまく環境は,着実に商業化されている。


同人ゲームを作る人,楽しむ人。


 第3部はまたしても割と奔放なパネルディスカッションとなったが,今回はいくつか特筆すべき議論を中心にご紹介したい。

パネルディスカッションは,和気あいあいとした雰囲気で進められたが,内容的にはなかなか難しい問題ばかり
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 まず,物語を構築する手法。これは文字どおりのプロである七月氏の方針が参考になるであろうと思うので,七月氏の発表も含めて,概略を紹介したい。

・キャラクターを考えるときは,トリガーになるアイデアから妄想を膨らませ,それから口調を決めてしまう。これによってキャラクターが固まる

・物語上のその役割から性格や口調を設定する。狂言回しであれば,サクサクしゃべってくれる必要がある

・シナリオのバランスから逆算してキャラクターを作る場合もある。でも,そういう場合であっても,その根っこに妄想や欲望,萌えというものがなくてはキャラクターが立たない

・プロットを作ってしまうことが重要。最後まで決まっていれば,最後まで書ける

・プロットがあると話が窮屈になると思うかもしれないが,たとえ筆任せにする部分があるにしても,背骨があるとないとでは大違い。プロットに『適当』は危険

・書くことの壁は二つ。まずは,書く/書かないの壁。そして,書き終えるかの壁

 また,商業と,同人の違いについて,飯島氏が興味深い示唆を提示している。

・商業では,シューティングゲームは売れない。アドベンチャーゲームも売れない。最近発売されたとある作品は,みんなが良いゲームだと評価しているけれど,売れない。良いゲームというだけでは売れないのだ

・商業の世界においては,良いゲームをどう売るか,ではない。何もしなくても売れるゲームを,売るのだ

 作品を作ろうと思うきっかけについても,時代の変化を感じさせるトークがあった。

・何かを作りたいという気持ちはあるけれど,何かを伝えたいという気持ちで作ってはいない。推測だけれども,『これを言いたい!』という気持ちから,『これを作りたい』という気持ちに転化していくというのは,レアかもしれない

・大上段に構えたものって,たいていはうまくいかない

・無からは何も生まれない。規模の大小はあれど,何かの影響は必ず受けているものだ。作りたい,伝えたいの背後には,必ず先行作品の影響がある

画像集#016のサムネイル/近頃の同人ゲームを概観する,IGDA日本の第3回研究会,「シナリオ作成技法とメイキング」レポート
 一方,まだ模索段階なのだなということを感じさせたのが,動画サイトとの連携である。
 発表者が,動画サイトの影響力を認識しているのは間違いなくて,それは「ニコニコ動画やYouTubeは,脅威ではあるけれど,抱き込めば武器になる。でも,そう考えた人が増えて,そういった動画が増えれば,埋もれてしまう。だからこそ,今やるべきである。少数しかやっていないことをして,目立てば勝ちだ」という意見にも現れている。
 しかし,その一方で懸念も大きい。

・プレイ動画しか見ていない人は,売り手にとってはユーザーではない。けれどここで「ユーザーではない」といってしまうと,彼らは「ユーザーの切り捨てだ」と主張する

・実況動画ファンは実況動画のファンであって,ゲームのファンではないことがままある

・実況された=宣伝になるという図式は,必ずしも成立しているわけではない

・「良いゲームだから,広めたい」という善意が怖い。オートプレイ中心のゲームだと,そういった善意に基づいてエンディングまですべてがアップロードされた動画が,非常に痛い

 これは,実のところ今に始まった問題ではない。動画サイトが誕生するずっと以前にも,同じ問題は発生しているのだ。1993年,とある新聞のコラムが,そのコラムニストの大ファンの手によってメーリングリストに配布されていたということがあった。それについて,ニューヨークタイムズのインターネットサービス管理者が,こんなことを言っている
“When a 14 year old kid can blow up your business in his spare time, not because he hates you but because he loves you, then you got a problem.”(14歳の小僧が,ヒマな時間を使ってあんたのビジネスをぶっ飛ばしちまうってわけだ。それも,その小僧があんたを嫌いだからじゃなくて,あんたが好きでたまらないからだ。こいつはヤバイぜ)
 これは簡単に解決できる問題ではない。もちろん,同人ゲーム制作者にしろ新聞のコラムニストにしろ,言いたいことは同じで,それが,

・「ファンなら買ってほしい」

画像集#019のサムネイル/近頃の同人ゲームを概観する,IGDA日本の第3回研究会,「シナリオ作成技法とメイキング」レポート
画像集#018のサムネイル/近頃の同人ゲームを概観する,IGDA日本の第3回研究会,「シナリオ作成技法とメイキング」レポート
であることに疑いの余地はなく,筆者としても,それが最も理想的な解決策だと思う。「買って」「遊ぶ」という行為こそが,最大の評価の一つなのだから。そしてまた,ジャンルを支持するファン(あるいはオタク)として,何かについて語るのであれば,それを買って遊んでからにするというのは,特別なことでも不自然なことでもないだろう。これに対して「ダメなゲームを掴まされてしまった」「ダメなゲームが多すぎるのが悪い」という意見を耳にすることはままあるが,スタージョンの法則を引くまでもなく,それはそのようなものなのではないだろうか。
 飯島氏が指摘したように「ピラミッドの頂点が上がり,全体が大きくなる」という形で同人ゲーム市場がさらに拡大していけば(その可能性は高い),当然ながらピラミッドの裾野も広くなる。そして高いピラミッドとは,その頂点だけではなく,大きな裾野があってこそ健全に維持できるのだ。

 さて,非常に内容の濃い研究会だったが,最後に,IGDAやこの研究会についてやや誤解されている部分があるらしいので,研究会の資料に基づいて簡単な補足をしておきたい。

 IGDA日本は学術団体でも,公的な権威がある団体でもない。また,発表内容は「発表者の意見」であって,この会の正式見解ではない。研究会側で「模範解答」を用意することはないし,そもそもインディーズとは何かという定義についても会を重ねることで明らかにしていきたい,とのことである。
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