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[ゲーム開発者セミナー]MMORPGへのユーザークリエイトコンテンツ導入の必要性と実装のアイデア
今回の講演では,MMORPGなどのゲーム世界を広げていく方向として,広く期待されているユーザークリエイトコンテンツなどをどう取り込んでいくかについて,氏の考えが示された。Oh氏は,現在はNexonのテクニカルアドバイザーも務めており,氏の構想が今後のNexonからリリースされるタイトルに反映されることもあるかもしれない。なかなか注目の講演である。
最初に「コンテンツレース問題」が取り上げられた。Raph Koster氏の提唱した,
コンテンツ作成速度×開発者数≧コンテンツ消費速度
という,コンテンツ作成速度と開発人数を掛けたもの,すなわち投入されるコンテンツ追加速度は,コンテンツ消費速度を上回っていなければならないという式を挙げた。しかし,コンテンツ消費速度はプレイヤー数に比例して上昇していくのだそうだ。MMORPGでこれを維持していくことは難しいという。プレイヤー側の視点からは,いま一つ理屈の分かりにくい部分ではあるが,プレイヤーの誰か一人がクエストなどを達成した時点をもって,そのコンテンツが消費されたとするならば,確かに人数が多いほどコンテンツ消費は速くなるだろう。
そこで必要となるのは,より効率的にコンテンツを作り出すこととなる。開発者側にメリットがあるのは当然として,プレイヤー側にも面白いコンテンツが次々と投入されることはメリットのあることである。
では,どうすれば,より効率的にコンテンツを作れるかということで,最初にコンテンツの種類を静的コンテンツと動的コンテンツに分けて考えるとことから始めている。
静的コンテンツとは,プレイヤーがいなくてもその場所にあるコンテンツで,ゲームの大半の部分を占めるものだ。更新するには,大量のデータが必要となる。
動的コンテンツとは,プレイヤーとのインタラクションで変化するコンテンツで,PvPやギルド戦争などの対人戦など,予測不可能なものを代表例として挙げていた。それ以外のものもあるものの,天候や昼夜の違いなどもっぱらビジュアル表現に限定されているという。
どれくらい動的コンテンツを導入すればよいのかという問題については,Rich Vogel氏の研究では,静的なコンテンツと動的なコンテンツは7:3の割合で混合するのがMMORPGでの適切な比率であるとする説が紹介された。
・静的コンテンツ
・動的コンテンツ
・ユーザークリエイトコンテンツ
による世界である。この3種の要素を備えた新しいゲームワールドについて考察が進められていく。
そもそも,なぜ人はゲームをプレイするのだろうか? Richard A. Bartle氏(MMORPGの元祖ともいうべき「MUD」の開発者)によると,MMORPGプレイヤーは2種類の方向軸(作為指向か対話指向か,プレイヤー指向か世界指向か)によって,大きく次のような4種類に分類されるという。
・成就型
・社交型
・冒険型
関心がゲーム内の世界よりもプレイヤー個人に集中していて,ゲーム内での対話などよりゲームプレイに集中するタイプは「殺人型」である。ゲーム内の会話は「こんな弱いやつは見たことがない」といった罵り合いなどが中心となる。
関心がプレイヤー個人よりもゲーム内の世界に集中していて,ゲーム内での対話などよりゲームプレイに集中するタイプは「成就型」である。ゲーム内の会話は「来週にはレベルアップするぞ」といったゲームプレイに関するものが中心となる。
関心がゲーム内の世界よりもプレイヤー個人に集中していて,ゲームプレイなどよりゲーム内での対話に集中するタイプは「社交型」である。ゲーム内の会話は「今の彼氏とケンカしちゃって」といった個人的話題などが中心となる。
関心がプレイヤー個人よりもゲーム内の世界に集中していて,ゲームプレイなどよりゲーム内での対話に集中するタイプは「冒険型」である。ゲーム内の会話は「そこはまだ行ったことがないよ」といったゲーム世界に関するものが中心となる。
Bartle氏の調査によると,MMORPGでは成就型と冒険型プレイヤーが半数以上を占めており,ゲーム世界に興味を持つ人が多いのが分かるという。「ゲーム世界と対話する」それがMMORPGの特徴でもある。
キャラクターのレベルアップとそれにかかった経験値(?)の調査も示された。「World of Warcraft」では,緩いカーブで,だんだんと次のレベルアップまでの所要経験値が延びる傾向にある。「リネージュII」では,50前までは平坦なものの60を超えると異常な急角度で跳ね上がっている(途中までは平坦だが,ほかのゲームと比べると「0」の数が格段に多いことに注意)。
グラフは挙げられていないが,「EVE Online」ですべてのトレーニングを完了しようとすると,1万794日(27年以上)かかるという試算と,「EverQuest II」で1日5時間のプレイでレベル70に到達するまでにかかった日数は約2か月であったなどというレポートが示された。
レベルアップすると,次のレベルアップまでにはさらに時間がかかるものの,コンテンツの供給量は多くなっているわけではない。結果として,レベルアップのためだけのゲームプレイの割合が多くなる。これを解決するにはコンテンツ供給を増やすしかないのだが,開発期間やコストを考えると,とても現実的ではない。加えて,ゲームバランスを維持することが次第に困難になってくる。
こういった問題から,MMORPGに要求されるコンテンツ総量は莫大なものとなっており,プレイヤーの期待も高まっている。現状では開発に数億ウォンをかけても成功はおぼつかないという。
そこで注目されるのが,2種類の方法である。つまり,プレイヤーによるコンテンツ作成を可能にする方向と,ダイナミックなゲーム世界を構築することである。
プレイヤーの行動によりコンテンツに変化が現れる例として挙げられたのが,ファクションである。これは集団間の関係を意味するもので,MMORPGで社会的体験を可能にしている要素でもある。Oh氏は,ファクションを,
・プレイヤーとプレイヤーのファクション
・プレイヤーとNPCのファクション
・NPCとNPCのファクション
の3種類に分け,とくにNPC同士のファクションはあまり使われていないと指摘していた。
NPC同士のファクションの例に挙げられたのは,MMORPGではなくシングルRPGの「The Elder Scrolls IV: Oblivion」だった。Oblivionでは,盗賊ギルドに入っていた人の話を聞いたことがある。街でちょっと強い通行人を殺し,いい装備が手に入ったとほくほく顔でいたのだが,実はそれは盗賊ギルドのボスだったので,盗賊ギルドから命を狙われるようになったとのこと。そこで騎士団のギルドに入り直したところ,襲ってくる盗賊達を騎士団が迎え撃ち,双方全滅の惨事になったそうだ。当人はおびただしい死体の山から金目のものを漁り回るという,なかなかの非人道ぶりだったようだが,ゲーム内のNPC同士がファクション次第で大規模に争うというのは,オンラインゲームではまだほとんど出てきていない。これをMMORPGに応用すると面白いコンテンツが作れるのではないかとOh氏は語っていた。
ファクションのほか,政治,経済システムなどで,「スター・ウォーズ ギャラクシーズ」や「君主 online」「リネージュII」「EVE Online」などの例も挙げられた。
ユーザーが作成するコンテンツですでによく行われている例が,ハウジングだ。「ウルティマ オンライン」「Dark Age of Camelot」「EverQuest II」のハウジングが比較され,アクセス性や機能性では,EQ2のものが一番優れているとしている。
プレイヤーによるクエスト追加の例では,「Anarchy Online」,「EVE Online」などが紹介された。Anarchy Onlineでは,ユーザークリエイトクエストが実行できるのはインスタンスゾーンのみであることや,ミッション数の制限(暗殺,捜査,アイテムの取り戻し,救助/,修理,運搬の5種類)があり,ストーリーは大きく変わらないなどの問題点があるという。EVE Onlineではクエストの種類は3種類(密使,エスクロー,報奨)とさらに少ない。
では,どうすれば簡単にコンテンツが生成できるかという問題に対しては,優れたコンテンツ生成システムが必要だという。例で挙げられた「Second Life」では,LSLというスクリプト言語でコンテンツが制御される。多彩なコンテンツがすでに制作されている。ただ,これは一般人には難解であること,さらにSecond Lifeはゲームではないのでバランスを考える必要はないものの,普通のゲームではそうはいかないなどの問題点を提示した。
ダイナミックな世界を構築する際に気をつけるべき点として,挙げられたのが「バタフライ効果」である。これは,中国で蝶が羽ばたいたら,その影響が巡り巡ってアメリカで大嵐となるという例えを示したものである。「風が吹いたら桶屋が儲かる」のスケールがデカいものだと思っておけばいいだろう。
ゲームを動的にすることで,プレイヤーの行動は環境に影響を与え続け,ゲーム世界を変えていくことになる。しかし,バタフライ効果のようなカオス的な展開は,ゲームには望ましいものではなく,コントロール不能になるほどの変化があってはならないとOh氏は語っている。
基本コンセプトとしては,プレイヤーの行動により,ゲーム世界の状態が変化するものの,プレイヤーは自分の行動の結果を予測可能であり,ゲームシステムは,その影響の範囲をカオスにならないように一定のルールの下で制御するようにしていく。
そのためのルールとして2種類のアイデアが示された。まず,不変の原則である。ある種類のモンスターをどこかで狩って,その地域でのモンスター数は減少しても,ほかの地域では逆に増やして,総数を一定に保つというアイデアである。総数は同じで,分布は変化しうるというルールだ。
もう一つが対称性のルールで,例えば,火の属性を持ったモンスターと水の属性を持ったモンスターはそれぞれ数は増減するものの,両者の合計数は一定であるとするものだ。水の属性を持つモンスターを大量に殺せば,火の属性のモンスターが増えるといったシステムである。比率は変わるが,総量は不変というルールだ。
こういったルールから,さらにゲーム世界への影響を考え,モンスター密度が高くなると,そこにはボスモンスターが出現する確率が高くなったり,強い勢力を持ったモンスター群のいる地域では,近隣都市の外観が変改したりといった応用例も示された。
今後,多くのゲームでユーザークリエイトコンテンツやダイナミックコンテンツが取り入れられていくと思われる。多くの人がそのような指摘をするものの,具体的な話となると,なかなか出てこないのが現状である。今回の講演は,その実装のためのアイデアという意味では,貴重なものといえるだろう。
そうしたゲームが出てきたときに,どのような自由度で,どのようなルールに基づいたゲームワールドが実現されているかで,ゲーム内の状態はかなり変わってくる可能性もある。今後,ユーザークリエイトコンテンツを本格導入したゲームが登場したときには,本講演で語られた内容を思い出してみるとよいかもしれない。
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