[THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2006]開発者が語る「Second Life」の魅力,現状,そして未来
インターネットにまつわる技術,文化,ビジネスについての講演会「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2006」が,2006年9月27日から本日(9月28日)にかけて,東京都港区にある都ホテル東京にて開催された。主にWebサービス事業者向けの本イベントだが,今回は,昨今急激に会員数を伸ばしているMMOゲーム「Second Life」の開発元 Linden LabsのCory Ondrejka氏も登壇。新しいスタイルのオンラインサービスとしてSecond Lifeを紹介,その中(つまり,バーチャルな世界)で起きている,さまざまな現象について語ってくれた。 パネリストとしては,今回のイベントを主催したデジタルガレージの共同創業者顧問であり,ネット事業に精通する伊藤穣一氏が参加。伊藤氏といえば,さまざまなネットサービスの伝道師として知られる業界の重鎮だが,氏は過去にはテキストMUD(マルチユーザー・ダンジョン),現在は「World of Warcraft」のプレイヤーでもあるなど,ゲームに関してもかなり知識が深い様子。随所に鋭い突っ込みを入れていたのは,なかなかに印象的であった。
講演のレポートに入る前に,軽くSecond Lifeというタイトルについて紹介しておきたい。本作は,一言で言ってしまえば,飛び抜けて高い自由度を持つMMOゲーム。プレイヤーは,自身のキャラクターはもちろん,ゲーム内に存在するありとあらゆるオブジェクトを「作る」ことができ,またそれを売買して実際にお金儲けもできるというユニークなタイトルである。 スタートして一年ほどは伸び悩む時期が続いた同作だが,2006年に入ってから急激にプレイヤー数が増加。2006年初頭には10万人前後だった累計アカウント数が,7月には30万人になり,そしていまや80万人に届こうかという勢い。基幹コンセプトとしてゲーム性よりも徹底したコミュニティ性,クリエイティブ性を重視していた本作は,いまや「参加者という最も重要なコンテンツ」を十分に抱え,まさに「人が人を呼ぶ」という成功するオンラインサービスへと変貌しつつあるのだ。
講演の初めに,Ondrejka氏はSecond Lifeというサービスの概要を説明。氏はMMORPGという概念を軽く説明し,その市場が急成長していることなどを紹介したうえで,「Second Lifeはゲームとして紹介されがちだが,これはゲームではない」と解説。Second Lifeは,あくまでも創造性を喚起させるに足る空間,およびツールを提供しているのであって,“プラットフォーム”という位置づけであることを強調した。 氏はSecond Lifeの特徴として「ワールド内にある99%のオブジェクトは,ユーザーが作り出したものであり,そこが既存のゲームとは決定的に異なる部分」だと説明。サービス当初は16台のサーバーで始めた同プロジェクトが,いまや3500台のサーバーで運営されており,コンテンツデータの総容量は30TBにまで膨れあがっているのだと解説する。これは,驚くべき成長スピードだ。 続いて氏は,これだけのコンテンツ(30TB分)を企業ベースで用意するには,約7700人分の労力……金額に換算すると約8億ドル(約942億円)相当のコストが必要になるとして,ユーザーの創造性の重要さやそのパワーについて言及。「Second Lifeでは,ユーザーの想像性,革新性を喚起することがすべて」だとして,それをサポートするため,あるいは最大化するために必要な要素とは何か? と話を続ける。Ondrejka氏が言うには,同作の経済システムを作成するにあたって,「作った物の所有権をいかにしてユーザーに与えるか」といった部分は,相当腐心した箇所であるそうだ。 またThe Sims,Wikipedia,そしてFPSのMODなどなど,既存のサービス/現象(ユーザー参加型コンテンツの)と比較しながら,「Second Lifeは,これらのサービスと比較して,圧倒的にクリエイティブ活動に参加する割合が高い」と解説。「The Simsのようなゲームでも,クリエイティビティを発揮するユーザーは全体の1%前後。Wikipedia,FPSのMDOに至っては,0.1〜0.2%ほどでしかない」と説明しながら,「しかしSecond Lifeは,約66%のユーザーが何かしらのオブジェクトをゼロから作った経験がある」と,Second Lifeがいかに既存のゲームやサービスと異なっているかを強調していた。
大枠の概要や理念を説明したあとOndrejka氏は,Second Lifeで起きたさまざまな事象/事件を紹介した。コミュニティの場としての使われ方はもちろんだが,Second Life内で作られたパズルゲームが実際にリアル社会で売り出されたことや,心理セラピーを行う実験場として利用されたこと,あるいは教育の場として各大学の研究機関がSecond Life内にスペースを用意したこと,そして音楽コンサートや実際の会議と連動したカンファレンスが行われたことなどなど,Second Lifeの持つ可能性がさまざまなユーザーの創造性を喚起しているとして,これからの発展を示唆。氏は,「バーチャルな世界というと,遠い未来の話に聞こえるかもしれませんが,そうではありません。世界は今まさに変わりつつあり,Second Lifeとは,今起きている現象なのです。物理的な制約がないバーチャルワールドでは,地域や国に縛られることもありません。誰もがイノベータとして活躍できる世界が,すぐそこに来ているのです」として,講演を締めくくった。
さて,今回の講演で印象的だったのは,とにかくOndrejka氏が「Second Lifeはゲームではない」という点を強調していた点であろう。ゲーム然とした「コンテンツ」を作っているのではなく,あくまでもブラウザやOSといったコアアプリケーション(コアサービス)を作っているんだ,という意識が非常に強く感じられた内容であった。 Second Lifeがこれからどういう発展を遂げるかは分からない。しかし,それなりの数の参加者が集まり,アバター系コミュニティツールとして一定の立ち位置を確保した今,より加速度的な発展が見込まれるものと思われる。そこで起きるさまざまな事件(おそらく,負の事柄も増えてくるだろう)が,どう発生し,それがどう処理されていくのか。今後のMMORPGや,ひいてはオンラインサービス全体の行く末にとって,Second Lifeが重要な試金石になることは間違いないだろう。 現在,日本語版のクライアントも開発されており,今年の年末にはそれも公開される予定だという本作。日本で受け入れられるのか否かも含めて,今後の動向が非常に気になるサービスである。 ちなみに,後日Ondrejka氏自身へのインタビューも掲載する予定。本作に興味がある人は,そちらも合わせて読んでいただきたい。(TAITAI)
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Second Life |
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