企画記事
ゲームのテーマやモチーフにも使われる「陰謀論」はどのように触れればいいのか。ウォッチャーの雨宮 純氏にその特性や注意すべきことを聞いた
「予言の書かそれとも予測プログラミング(映画やゲームなどをとおして,これから実行される計画をさりげなく予告するという陰謀論)か」と,“未来を予言したカード”として有名になったイルミナティカードこと「イルミナティ ニューワールドオーダー」の日本語版が発売されたことも,2024年の大きなトピックスだろう。
怪しくも魅力的な陰謀論だが,コロナ禍があった2020年前後から現在,国内外でさまざまな形で社会問題を引き起こしており,もともと取り扱い注意なものではあるものの,近年さらに触れにくくなった印象を受ける。小説に映画,漫画,アニメなど,ゲームに限らずさまざまな創作物やエンタメ作品の題材となるだけに興味を持って知りたくなるが,調べようにもそれが難しい。また「もともと好きだけど話題にしにくい」と感じる人も少なくないはずだ。
そんな状況のなか,オカルトや陰謀論,それに関連する団体などを調査し,批判性を持ちながら分かりやすく,そしてユーモアをもってそれらの情報を発信する「ウォッチャー」と呼ばれる人たちがいる。今回4Gamerは,そのウォッチャーとしても著名なオカルト/スピリチュアル/悪徳商法研究家でライターの雨宮 純氏に,オカルトや陰謀論に触れるうえで注意すべきその特性や危険性について聞いてきた。
4Gamer:
本日はお時間をいただきありがとうございます。
さっそくなのですが,まず最初に陰謀論界隈の現在みたいなところをうかがいたいと思います。
新型コロナウイルス感染症の流行時に陰謀論が広がりましたが,コロナ禍が過ぎ……といってもけっして落ち着いたわけではないですが,2023年から2024年でまたコロナ禍とは違った状況にあるのではないかと感じます。
雨宮 純氏(以下,雨宮氏):
4Gamer:
囲い込み,ですか。
雨宮氏:
コロナ禍では,たとえば「新型コロナワクチンにはマイクロチップが含まれていて,5Gと接続して操作される」といったような,かなり現実離れをしたものもSNSでバズっていました。
今でも同じくらい非現実的な投稿をしている人はいるのですが,以前のようにバズることはなくなりました。新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後に外出機会が増え,コロナ禍の際に実現していたような長時間にわたるネットへの没入が減ったために,闇の勢力や宇宙人の支配と戦うといったストーリーで人を集めるのが難しくなったのだと思います。
今は政治運動やビジネス寄りの実利的な方法として陰謀論が使われていて,これまで集まった顧客を固めるというフェーズに入っていると感じます。
4Gamer:
2024年は東京都知事選や衆議院選挙など大きな選挙がありましたが,たしかにそういった人たちの動きは目につきました。
雨宮氏:
池袋や日比谷,有明では大規模のデモがありましたが,今あれだけの人が集まる政治運動ってそうほかにはありません。
デモや集会には政治家を目指す人や現職の国会議員,組織や団体が集まるようになっています。右派が目立ちますがリベラル系の著名人も参加しており,一般参加者にはあまり左右は意識されていないようです。
4Gamer:
一定の層にはそれだけ影響力があるものになっているんですね。
雨宮氏:
影響力でいうと,2010年代後半に出てきた都市伝説YouTuberの存在もあります。
都市伝説とは言いながらその発信にはオカルトも入っていて,そのネタのひとつとして陰謀論を取り扱っているんですが,これが「集めた話をただ紹介しているだけだから」という感じで,批判性なくたれ流しになっているんです。
4Gamer:
陰謀論に関する発信をするうえで注意しなければならない,危険性が検討されていないんですね。
雨宮氏:
ええ。実際に動画のコメント欄を見てみると,支持するコメントが多くついています。このような層は陰謀論系の団体とも被っているので,それが結果的に陰謀論支持者を固める形にもなるんです。
また,これまで都市伝説YouTuberは基本的に政治運動とは距離を取って活動していたのですが,最近は界隈の人物と関わるケースもありました。陰謀論を使った政治運動がまた次の局面に向かっているようにも感じられます。
4Gamer:
続いてゲームと陰謀論について。著書の「危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング」では,ゲーマーゲート問題やHalo2のキャンペーンの事例をとおして陰謀論と代替現実ゲーム(ARG)の類似性などが取り上げられていますが,ゲームに関する動きやゲーマーが注意すべきことなどをお聞きしたいです。
雨宮氏:
ゲーマーの皆さんになじみのあるツールでいうと,Discordでの勧誘はよく知られているかと思います。一緒にゲームをプレイして,仲良くなったと思わせて引きずり込むというものです。
一緒に遊んで,同じ目的に向かって行動するというゲームには,ほかにはない一体感や特別な体験がありますよね。それで知り合った人同士の関係性も近くなりやすいという,ゲームのいい部分を悪用してくるわけです。
4Gamer:
ゲームやアニメがエンターテインメントとしての規模を拡大し,コミュニケーションのツールにもなっている今,その効果もまた大きくなっているのだろうなと感じます。
雨宮氏:
ネット上やSNSでも,ゲームやアニメの話が絡んだものは大きく広がりますね。僕自身もそれは実感としてあります。陰謀論を批判的に紹介する記事を書くとき,ゲームやアニメの話が入っていると格段にその反応が大きくなりますから。
最近でもポケモンに関するものがありました。先日アメリカで,米医療保険大手・ユナイテッドヘルスケアのCEOであるブライアン・トンプソン氏が射殺されるという痛ましい事件がありましたが,被告のSNSアカウントのバナーにあったキノガッサのずかん番号286に注目し,さまざまな情報と結び付けた陰謀論めいた話が生まれています(雨宮氏の該当のリンク)。
4Gamer:
こういったことはゲームに限らずですが……ゲームに関わる身としてはもちろんいちゲームファンとしても,こういう形で利用されるのは看過できないですね。
これも「カルトマーケティング」で取り上げられていましたが,とあるデモで「ピカチュウのしっぽの先の色は?」と問いかけるボードがかざされたことがありました。それで世界線が変わったかどうかを確かめるという,いわゆるマンデラエフェクト(事実と異なる記憶を多くの人が共有している現象)の話ですが,こういうものがネットのノリみたいなのでライトに広がったり,そう仕掛ける人が出たりしたら……と考えると危険だなと感じました。
雨宮氏:
ピカチュウのしっぽというと,なんだかかわいくて気軽に話題にしやすく感じますよね。それに「私も知っている」「あなたも知っている」というつながりによって生まれる,「同じ集団の一員なんだ」という内集団の効果も強いわけです。
ポケモンのように世界的に人気な日本のIPは,不本意な形で陰謀論のアイコンとして好まれる可能性があります。今後どのように広がるかは注視しますし,ゲームのファンの皆さんはこういった形でゲームが使われることに怒っていかなくてはならないかとは思います。
4Gamer:
今は個人でもゲームを開発できる環境ができていて,それを配信できるオープンなゲーム配信プラットフォームもあります。そういうものを使って教典を作るじゃないですけど,陰謀論者や団体がなにかしらのツールとしてゲームを用いるということはあるのでしょうか。
雨宮氏:
欧米では日本より以前から陰謀論を含む過激思想が問題になっていて,そういった思想を持つ人たちや団体によってゲームやModが作られたという例はすでにあります。ゲームを作るとなるとかなりのコストになるので,たくさんあるわけではありませんけどね。
とはいえ,危機感はあったほうがいいとは思います。集金がうまく,お金を持っている組織や団体はいるので,たとえば宗教団体が有名な声優やスタッフを集めてアニメを作るように,陰謀論の団体がゲームを制作するということも起きうるかもしれませんから。
4Gamer:
ちょっと話がそれてしまいますが,雨宮さんはゲームはされますか?
雨宮氏:
人並みに通ってきたといったくらいですね。初代ポケモンの世代ですが,コロコロコミックとコミックボンボンでボンボンにいったのもあって,ポケモン赤緑の後は金銀に行かず,メダロットをプレイしていました。
社会人になってSteamで「コールオブデューティ」や「シヴィライゼーション」をやったりもしましたが,Civなんかは時間が無限に溶けてしまいますから。今はたまに昔の知り合いと「フォートナイト」をするくらいでしょうか。
4Gamer:
なるほど。仕事と研究,そして発信もあると時間はないですよね。
今はオカルトを題材にしたゲームやカルト教団経営ゲームなどそのバリエーションが豊富なので,もし雨宮さんやウォッチャーの人たちがプレイしたらどう感じるのだろうかとかは気になったりします。
雨宮氏:
私の尊敬するカルト宗教ジャーナリストの方々やウォッチャー仲間と解説しながら遊ぶというのは面白いかもしれませんね。表に出せないような話が飛び交いそうですけど(笑)。
4Gamer:
(笑)。ここであらためてなのですが,雨宮さんはいつどのようにオカルトや陰謀論といったものに関心を持つようになり,このように発信されるようになったのでしょう。
雨宮氏:
子どものころから不思議なものに興味がありました。「特命リサーチ200X」や「奇跡体験!アンビリバボー」,あと「不思議どっとテレビ。これマジ!?」などもありましたね。世代的にテレビで当たり前にオカルトや陰謀論を取り扱う番組をやっていた時代でした。
ほかにも妖怪や,当時ブームだった学校の怪談なども好きでしたね。
4Gamer:
1990年半ばから2000年のアタマごろですね。大手のテレビ局がオカルト番組をやることが珍しくありませんでした。
雨宮氏:
ええ。なので周りでもそういう話をする友だちがいて,今のような特別な感じはなかったですね。当時カルト団体による事件が多かったことも,関心を持つきっかけになりました。
ノストラダムスの大予言を信じていたけど何も起こらず,スカイフィッシュを「これただの虫でしょ」と思ったこともあってオカルトに懐疑的にはなりつつ,インターネットで情報を探っていましたね。
4Gamer:
ライターとしてのデビューは,マルチ商法に関するものですね。
雨宮氏:
はい。自分自身が勧誘にあったことから情報をまとめて発信していたところ,ウェブメディアから執筆を依頼されました。そこからマルチ商法に関わりのあるオカルト的な話の批判や解説も書くようになったのですが,今の社会的な状況もあって現在はそちらの発信が多くなっているという感じです。
私も取材協力しました、魚豊さんの新作が公開されています!
— 雨宮純 (@caffelover) August 21, 2023
悪徳商法団体や陰謀論者が出てきますので、ウォッチャーなら色々と想像しながら楽しめます。 https://t.co/4hHVKCRP0C
アニメ化でも話題となった「チ。-地球の運動について-」の魚豊氏が“恋と陰謀”を描く「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」。雨宮氏は取材協力で本作に関わっている(リンクは雨宮氏のX(@caffelover)のポスト)
4Gamer:
私も世代的にテレビでオカルト的なネタで盛り上がったり,それらに関連する人物が出演したりすることが当たり前な時代を経験しました。こういう時代に育った世代って,そこから2000年代に入ってスピリチュアルや,都市伝説と称した陰謀論がカジュアルに取り上げられていたし,またカジュアルに触れていたと思います。
実際に問題のあった番組もありましたし,当時のオカルトの取り上げ方や出演していた人物って,あらためて「大丈夫じゃなかったよなコレ……」ということがあって。それだからこそ情報や認識のアップデートをしっかりやらないといけないというのは感じます。
ただそのときの感覚やノリのまま,今の陰謀論を発信したり受け取ったりしている人って少なくないんだなとも思います。
雨宮氏:
ゼロ年代のネットの時代を経験し,今もSNSなどで発信しているような人のなかには,それはもう通用しないと思うものはありますね。
たとえばマスコミや団体に対して「おかしい。何かを隠している」という陰謀論めいた話が出たとき,そこに実際おかしいところがあればその部分を粛々と批判したほうがいいですが,そのもの自体を攻撃したり誹謗中傷をしたりしてはダメですよね。陰謀論には差別や暴力的な行動につながる要素が含まれているものがあるので,それが元にある言説を当時のネットのノリをそのまま持ってくるのを見ると,もう認識をアップデートしたほうがいいよと思います。
4Gamer:
これは陰謀論に限らずですが,自分が信じたいものだからと,都合のいいものだけを集めてそれに凝り固まってはいけないですね。
雨宮氏:
そもそも,何らかの手段としてオカルトや陰謀論を使っている人と,オカルトや陰謀論が好きという人って違うんですよね。
前者は,たとえばワクチンに疑問があるから反ワクチン陰謀論にコミットするように,それしか知らない。そもそもオカルトや陰謀論が好きなわけではないんです。集会の取材などで,ごくたまにオカルトマニアのおじいさんとかがいてものすごく話が盛り上がるんですが,ほとんどオカルトや陰謀論に関心がないという人ばかりです。
僕らのようなオカルトのマニアは,好きだけど信じていないというか,今どのような陰謀論が出ているのかを調べたり,そのベースにあるものを探ったりすることに関心があるわけですね。なので今の陰謀論の使われ方を見ていると本当に雑だと感じます。
4Gamer:
ゲーマー的な言い方にはなりますが,SNSを見ていても「基本の設定すらなってないじゃん」みたいなポストを見かけることは多いですね……。
雨宮さんが発信されているように,オカルトや陰謀論は「面白いが,だからこそ危ない」という認識をもって“ハマらずに嗜む”ことで,それらを題材やモチーフとした作品をさらに楽しむための知識になる思います。
そういった嗜みかたや触れかたのヒントになるようなことがあればということで,最後に雨宮さんがオカルトや陰謀論に惹かれる部分について教えていただけますでしょうか。
雨宮氏:
そうですね……自分が生きている世界と違うものを見られる。常識から離れているところを見られるのが,一番惹かれる部分かなと思います。
世界は単なる平凡なものではなく,思わぬ変化を見せるときがあるんだという期待を持たせてくれる。世界の振れ幅ってこんなにあるんだっていうことを理解できて,そこで学んだことを生かして何か自分の好きなことをやってみようと思うモチベーションにもなります。
この,「自己を超越しようという欲求を満たすために何ができるかを考えること」に活用できるところがオカルトが持つ本来的ないい部分ではないかと。ただそれは,それらの特性や危険性を理解していないととても難しいとも思います。
4Gamer:
取り込まれてはいけないし,確かな知見をもっていなければならない。
雨宮氏:
オカルト的な知識をもって人生を変えるという話であれば,たとえばその知識で小説を書くみたいにいろいろな方法があるんです。私の場合それがライターや研究家としてのオカルトやスピリチュアル,それに関する悪徳商法などについての研究や批判的な発信をすることであり,同じことを話せるウォッチャーの仲間ができたことでした。
もちろんオカルト的な知識を使うというのは,陰謀論をそのまま垂れ流しにしていいということではありません。それこそ差別的な言説で有名になって,ネットの片隅やSNSなどの閉じこもった空間でBeliever(信者,信奉者)で固めて,そういう変化でいいのかという話で。
4Gamer:
それでいうとウォッチャーの皆さんの集まりって面白いですよね。
視点とかスタンスとか,面白がるポイントとかは近いものがあるけど,それぞれ追いかけているものや軸となる部分が違っていて。何度かトークライブや配信を拝見したことがあるんですが,各々の情報交換の場みたいな感じがあって,ニュートラルな関係性であることを感じます。
雨宮氏:
ああ,そうですね。同じ集団にいるっていう感覚はなくて,それぞれバラバラに動いていてたまに集まるといった距離感です。
好きなものが一緒でそこにどっぷり浸かっちゃうと,それはそれで楽しいかもしれないけど,やはりそれは大丈夫かなってなりますよね。こういう話題をちょうどいい感じで話ができる相手って,今は出会うのすら大変で。だからこそ大事だなと本当に思います。
4Gamer:
陰謀論に触れるには相当な知識や特性への理解などが必要だということが分かりましたが,自分自身で調べたり触れたりするのがやはり難しい。そういった意味でも,ユーモアがありながら批判的に情報を届けている雨宮さんやウォッチャーの皆さんの発信は,楽しくてそして重要なものだと思います。本日はありがとうございました。
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