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「ブルアカ」のキム・ヨンハ氏が,AI時代の二次元ゲーム開発について語る。実務で使うには,まだまだ課題が多い[G-STAR 2024]
冒頭でキム氏は,miHoYoの創業者である蔡 浩宇氏が「AIの導入によって,ゲーム開発者は職を失う」と予想したことを報じた,最近のニュース記事について触れた。そして,今回の講演のトピックは「二次元ゲーム」「AI技術の現在」「開発でのAI活用」の3点だと語った。
まず,二次元とはACGN(アニメ,コミック,ゲーム,ノベル)を意味し,この市場が2010年代に急成長したことが示された。スマートフォンの普及や,ストリーミングサービスの大衆化が原因だという。
加えて,2020年代には現実世界に寄せたリアルなグラフィックスがこれ以上発展しにくいこと,キャラクター要素と相性のいいガチャというビジネスモデルの存在,コラボイベントや二次創作などによるIPの拡張性を理由として,二次元ゲームが現在の盛り上がりを見せていることが解説された。
二次元ゲーム開発で重要なのは,プレイヤーが没入できる体験を提供することだ。そのためには,共感できる世界観と魅力的なキャラクターが求められるという。
続いて,2022年11月にOpenAIが公開したChatGPTの話題になり,Richard Sutton氏が2019年に著した「The Bitter Lesson」を引用しつつ,莫大な計算リソースによって人間の知能に届こうとしていることが語られた。また,最近では画像だけでなく,さまざまなジャンルでAIが発展しており,映像や作曲,VTuberなどが例示された。
2025年にはAGI(汎用人工知能)がレベル3に達するという予想もあり,AGIの出現以降の世界では,ゲームだけでなくあらゆるエンターテインメントにおいてAIが脅威になるそうだ。
しかし,ゲームは最も多くの表現が使用されるエンターテインメントなので,AIにとっては比較的難度が高い。また,何でも簡単に作れる時代になれば,固有の価値を持つIPの重要性は高まると,二次元ゲームにとってポジティブな見方も示された。
AIについてさまざまなことが議論される一方で,現在のAIは実務に使える水準に達していない。キム氏は,新しいLLM(大規模言語モデル)が出るたびに,「倉庫番」パズルを解かせてみるが,まだAIが解くことはできないという。
パズルだけでなく,MHFormerのモーションキャプチャや,RigNetのリギングも試したが,現状では修正作業に多大な労力がかかってしまうそうだ。実際にAIを使用するには,学習や運用のコストが高すぎることも指摘された。
現実的なAIの使い方としては,組織における反復的な業務(休業申請や翻訳など)をサポートするBotが考えられるという。また,既存の開発工程におけるAIソリューションとしては,キャラクター紹介演出の自動作成が挙げられた。
AIを使った新機能としては,「ブルーアーカイブ」におけるリップシンク(口の同期)が披露された。アロナが先生(プレイヤー)の名前を呼ぶような使い方は,キャラクターとプレイヤーのインタラクションを強化するうえで価値があると考えているそうだ。一方,メモリアルロビーでの採用を試した際は,まだ手作業でやったほうが効率的という結論になったという。
キム氏は,AIが人間の創造性を代替することはなく,反復的な作業を減らし,人間の創造性をサポートする観点からAIを導入すべきだと語る。そして,AIの検討と導入を専任するスタッフを増やすことの重要性も指摘した。
最後にキム氏は,ゲーム開発者が絶滅するまでにはまだまだ時間がかかるので,それまではできることをやるしかないと思っていると述べ,講演を締めくくった。
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