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Web3企業における知的財産の構造化で,煩雑な紙切れから脱却できる時代は来るのか[WebX]
印刷物を対象にした著作権システムを運用しているいま,煩雑な紙切れのやり取りは,スマートコントラクトがひっくり返す
Muttoni氏は,今日の著作権・知的財産システムは,基本的に中世の時代のものだと歴史的な文脈から始めた。「当時,印刷本は手作業でコピーされていたが,印刷機の登場により,一度に何千部もの本が印刷できるようになった。そのため,著者を保護する方法を見つける必要があったのだ。インターネットの登場以来,コンテンツの生産は雪だるまのように大きく増えている。1日に何百万テラバイトのコンテンツが生産されているか分からないが,著作権法や著作権システムはそれに追いついていないのが現状で,我々はいまそれに直面している」 誰もが指先でIPを生産できる時代に,私たちはまだ,非常に古いシステムを使用していると指摘した。
さらに,人間的で曖昧で複雑な法的文書を,クリーンで包括的な完璧なコードに仕上げるのは不可能だとも述べた。企業ごとに独自の契約を使用するのが一般的だが,契約の大枠は多くの場合似通っている。収益配分,条件,適用地域など,共通する要素は多いが,Storyは従来の契約主導のアプローチを反転させるものだ。
契約が物事の進め方を指示するのではなく,ユーザーが主体的に自身のコンテンツやIDの扱い方を決定し,それに応じてライセンスを設定できるようにする新しいアプローチを導入している。
「“TLDR”※のIPシステムをもっとプログラム可能にできるのかどうか。よりプログラム可能にするのであれば,それはブロックチェーンによって可能になるのでしょう」と述べ,ブロックチェーンの分散型かつ透明性の高い特性によって,IPの所有権や利用履歴を明確に記録し,スマートコントラクトを通じて自動的に執行できる仕組みを可能にするという展望を披露した。
※TLDR:"Too Long, Don't Read"の頭文字から取った略。複雑でだれもが処理に苦しんでいるいまの知的財産権システムを揶揄した表現だ。
コンテンツ自体をNFTとして扱い,権利管理は入れ子仕様に行う
例えば,あるキャラクターを作成し,コミュニティがそれに要素を追加した場合,最終的なIPの帰属はどうなるのか。これは新たな課題セットを生み出している。
さらに,AIの登場がこの状況をより複雑にしているとSethi氏は指摘する。これらの課題に対して,Unique Networkはコンテンツ自体をNFTとして扱い,その権利,IP変更の情報,著作権やライセンスの変更などの要素をそれぞれのモジュールとして扱うというアプローチを取っている。
具体的には,デジタル権利管理トークンを作成し,それをNFTにネスト※する方法を採用している。Unique Networkの特徴的な機能として,2つのNFTを1つにバンドルしてオンチェーンでネストすることができるのだが,その際一方がデジタル権利管理トークンとなり,進化する情報をすべて含み,もう一方が主要な資産としてのNFTまたは作成されたコンテンツとなる。
急速に変化するWeb3の環境において,IPの管理をより柔軟かつ効果的に行うことができ,またコンテンツとその権利管理を分離することで,複雑化するデジタル資産の管理に対応し,クリエイターの権利を保護しつつ,イノベーションを促進する環境を整えることができると氏は説明した。
※ネスト(Nest):一つのNFTの中に,別のNFTを埋め込むまたは包含することを指す。複数のデジタル資産を階層的に構造化し,より複雑な権利管理や資産の組み合わせを可能にする手段として利用されている。
ユーザーに,親しみやすいシステムを
最終的にPudgy PenguinsのOverpass IPシステムを利用すると,ユーザーは自分のIDを入力するだけで,通常の契約と同様に,IP規制やロイヤリティを含む一連の契約が表示され,ユーザーは内容を理解し,同意するかどうかを選択するだけでよいという仕様にした。
ユーザーが次のステップに進めるように,Pudgy Penguinsは可愛らしく,シンプルで,威圧的でないものにすることに注力した。結果として,彼女の両親でさえ試してみたいと思うような,親しみやすいシステムが実現したという。
北澤氏はそれらに対し,依然としてIP権利の保護方法に関する課題が残っていると指摘した。さらに,日本政府主催の会議に参加した経験から,IPに関する地域規制が非常に断片化されていることを挙げ,これがWeb3に限らずIP全般の問題であると述べたうえで,「現時点での真の難題は何だと思いますか。技術的な困難さでしょうか,それともUX/UIの問題でしょうか。あるいは,標準の欠如や,コミュニティエンゲージメントの問題でしょうか」とパネリストに問いかけた。
ライセンス取得に合法的で便利な選択肢を与える
Muttoni氏は「あなたが挙げたすべてが大きな課題ですね」と会場の笑いを誘いつつ,NFTはIPの唯一の形態ではないことを強調した。Pudgy PenguinのようなオンチェーンIPだけでなく,現実世界のIPへのポインターにもなり得る。つまり,NFTは単なる画像以上のもので,潜在的に現実世界の資産を表す可能性がある。
システム全体の変革の必要性について,Muttoni氏は興味深い例を挙げた。10年とか15年とかそれくらい前,観たい映画を観る最も簡単な方法は,多くの場合“違法ダウンロード”だった。これは,NetflixやYouTubeのような,合法的で便利な選択肢がなかった,または普及していなかったためだ。
現在のIP管理も,同様の段階にあると彼は指摘する。ライセンスについて考えずにIPを使用してしまう方が簡単な状況にあり,これは適切なライセンスを見つけること自体が非常に困難だからだ。権利者を知り,ブランドやIP所有者に連絡し,弁護士を交えて交渉する必要があり,これが大きな障壁となっている。
ライセンスを取得したい人が合法的な方法を探し回るのではなく,IP所有者が自分のIPを他者が利用しやすいように公開できるようにすべきだと提案した。合法的な方法が最も抵抗の少ない,やりやすい道であればそう進んでいくだろう。Overpassのような取り組みを例に挙げ,コンテンツのライセンス取得や発見を容易にすることの重要性を強調した。
さらにMuttoni氏は,現在のIPシステムがリミックス文化に対応していないことを指摘し,2年ほど前に公開された有名なDrakeの楽曲のAIリミックスの例を挙げた。
すでに数百万回のストリーム再生を記録したにもかかわらず,作者がDrakeの声を使用するライセンスを持っていなかったために削除された。ヒット曲だったにもかかわらず,Drakeも作者も何も得られなかった。両者が利益を得られたはずなのに,システムがそれに対応していなかったために阻まれてしまったのだ。
コミュニティの力で,IP管理の役割を果たす
Sethi氏によれば,Polkadotは現在世界最大のDAOであり,コミュニティが全ての財務支出決定に参加し,全ての支出が財務コミュニティを通じて行われている。この完全に分散化された環境下で,多様なコンテンツと資産が作成される中,いかにしてコミュニティを活用するかが重要な課題となっているとあげた。
Sethi氏らの解決策はコミュニティに権限を与え,コミュニティ内に小規模なIP裁判所のような仕組みを作り,違反を報告できるようにしていることだ。これにより,個々のプロジェクトが行動を起こすことができる。Polkadotのエコシステム内で,スタートアップや小規模なアプリケーションが直接対処することが難しい,著作権ポリシーの問題に対処するための手段となっていると説明した。
そして重要なのは,著作権ポリシーに関するガイダンスをコミュニティに適切に伝達し,コミュニティが平等にその過程に参加することだとSethi氏は強調した。これが,彼らが目指している方向性だという。
ここでいうコミュニティとは,Polkadotのエコシステム内で構築されている個々のプロジェクトのコミュニティを指す。例として,Polkadotのブロックチェーン上に構築されているWeb3音楽アプリを挙げた。このアプリには独自のコミュニティがあり,ミュージシャンが曲を作成しミントし,そのファンもコミュニティの一部となっている。
このケースでは,IP裁判所やIP監視者のような役割を果たす人々は,その音楽アプリのコミュニティから来ている。つまり,各プロジェクトに関連するコミュニティが,最も関心を持ち,投資しているため,このような取り組みを行うことができるのだとSethi氏は説明した。
標準化の課題と将来の展望
Muttoni氏は,「14の異なる標準があるから,新しい標準を作ろう」という発想が,結果的に15個目の競合する“標準”を生み出してしまうという皮肉な状況を指摘した。
Muttoni氏は「IPは複雑で,法律も複雑だ。人間は完璧な機械ではない。純粋にコード化されオンチェーンに載せられたものが人間性を完璧に反映すると期待するのは無理がある」と述べ,テクノロジーと人間の現実との間に常に存在するギャップを認識することの重要性を強調した。
「昔は,PALとNTSCがありましたよね。アメリカでプレイステーションを買ったのに,イタリアではゲームができなかった。ゲームには国ごとの著作権がついていたからだ。でも今は,そんなことは考えられないよね。どこでもテレビを買って,どこでも使える。心配する必要はない」と,Muttoni氏は,時間とともに標準化が進み,実際のニーズや市場の力によって推進されることを示唆している。
また,Muttoni氏は,Story Protocolでのアプローチに触れながら,IPの概念を根本から見直す必要性を指摘した。標準化へのアプローチの一つは,個人クリエイターに大きな力を与えることだと考えている。
「大手IP保有者,例えばマーベルのような企業は,急速な変化に対して消極的かもしれない。彼らは巨大な法務チームを持ち,自社のIPを守る城壁を築いています。しかし,小規模なIP,中規模のIPはどうだろう?彼らはIPが成長し,Telegramのスタッカーになり,Discordの絵文字になり,ゲームになり,ポスターやグッズになることを切望している。きっと中小のクリエイターも,ライセンスを障壁にしたいわけでははず。ライセンスを守る限り,誰もがIPを自由に使えるようにしたいはず」と説明を加えた。
Fong氏は,Pudgy Penguinsの取り組みについて補足した。彼らは「ブランドバイブルブック」を作成し,使用する青の色合いやフォントの種類まで細かく規定していると説明した。Fong氏は「法的サポートチームに加えて,このベアバイブルブックが全員に力を与えています」と述べ,このアプローチがブランドの一貫性を保ちながら,コミュニティメンバーにクリエイティブな自由を与える方法を示した。
続いて,Sethi氏がユースケースの重要性に焦点を当て,Polkadotエコシステムにおける相互運用性の課題について詳細な見解を示した。Sethi氏によれば,Polkadotエコシステム内には異なるパラチェーンとブロックチェーンが存在し,相互運用性は業界全体の課題となっている。エコシステム内では代替可能なトークンの転送は比較的容易だが,NFTや現実世界の資産のトークン化となると,ブロックチェーン間の通信はまったく異なる課題となる。
Sethi氏は技術的な観点から,NFTの取引手数料の見積もりの難しさを例に挙げ,この分野での標準化の困難さを説明した。しかし,Unique Networkでは実際にPolkadotエコシステム内でNFTの相互運用性を実現したと述べた。この取り組みの目的は,あるブロックチェーン上のNFTやデジタル資産が,DeFiブロックチェーンや予測市場ブロックチェーンと相互作用できるようにすることだった。
例えば,DeFiアプリでの担保化や,予測市場環境での賭けや意見交換などを通じて,資産の価値を高められるようになる。Sethi氏は「エコシステム全体を標準化することではなく,クリエイターにとって重要なユースケースを実現し,これらの資産を収益化するために必要なコミュニケーションを可能にすることが目的です」と強調した。
最後にモデレーターの北澤氏は,トップダウンの全世界的な標準化ではなく,クリエイターの課題を理解し,ユーザーフレンドリーなソリューションを提供することの重要性を指摘した。そのような取り組みによって,Web3エコシステムの発展と知的財産管理の向上が期待される。
今後も革新と協力が求められるが,それにより分散型技術の可能性を最大限に活用し,すべてのステークホルダーにとって公平で持続可能な未来を築くことができるだろうと締めくくった。
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