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運転したり電柱を撮影したりして社会貢献。「DePINで解消する社会課題: インセンティブ設計と経済モデルを考える」セッションレポート[WebX]
昨今,Web3で注目を集めているDePINとは「Decentralized Physical Infrastructure Network」(分散型物理インフラネットワーク)の略称である。ブロックチェーン技術を活用して,現実世界のインフラネットワークを改善していくプロジェクトを指す。
と言われても,つまりはどういうこと? と思う人も多いだろう。今回のセッションでは具体的な事例が紹介されたので,その内容をお伝えする。
DMM Cryptoは,8月19日にDePINプロジェクト「Hivemapper」とパートナーアライアンスの締結を発表した。
Hivemapperとは,車両に専用のマッピングデバイスを搭載し,撮影された画像から最新の地図を作成していくというプロジェクト。ドライバーは運転することで得られた画像データを提供することで,独自トークンが得られる(Drive to Earn)という仕組みだ。日常的に運転するドライバーは,大きな手間をかけず,インセンティブの報酬が得られる。
収集された画像はAIによって地図化され,20か月で1500万Km以上の地図作成が行われたという。従来の地図サービスと比べても格段に早い作成スピードとのことだ。
また,地図データは常に更新されていくため,陳腐化することがない。そのため,世界の十大地図メーカーのうち2社もHivemapperのデータを活用しているという。また,ナビゲーションサービス,不動産業界,自動運転車の安全運転などにも利用されているそうだ。
DMM Cryptoは,撮影するためのデバイスHivemappaer Dash Camシリーズの日本および国外での販売代理店契約を結んだほか,日本および国外でのHivemapper Fleet事業の運営を行っていくが,現在はそのための実証実験が行っている段階だという。
この実証実験は「タクシーや物流の分野におけるドライバー数減少問題の解決を目的とした「web3技術×インセンティブ付与の実証」として,JETROの「対内直接投資促進事業費補助金事業」にも採択されている。
DMMでの社内実証実験も実施しており,今回はそのアンケートも公開されたが,興味深いのは実験に参加したことによって運転頻度や距離が増加したと回答した人への質問で,「運転ついでに稼げることが嬉しい」に次いで,「社会インフラに貢献しているのが嬉しい」という回答が約半数あったことだ。
佐藤氏は,インセンティブに加えて,役に立っているという感覚で,人の行動は変わるのかもしれないと説明。さらに佐藤氏自身も,夜は撮影できないので,ちょっと無理して昼に運転するようになるなど,行動の変化があったと報告した。
シンプレクスはDEAと共に,「PicTree ぼくとわたしの電柱合戦」というWeb3ゲームをリリースしている。東京電力パワーグリッドと協力した,DePINプロジェクトである。
ゲームとしては「V(ボルト)」「A(アンペア)」「W(ワット)」の3チームに分かれて,電線をつないだ長さを競うというもの。電柱などの送電インフラ設備を撮影し,送信することで,電線をつなげ,報酬が得られるという仕組みだ。
送電インフラは,当然,電柱の保守管理が必要になってくるわけだが,膨大な数がある電柱を目視で確認しないといけないわけで,そこにかかる労力とコストが課題となっていたという。
PicTreeではゲームとしての導線を作りつつ,写真を撮って送信することで報酬(インセンティブ)が得られる。その写真を電力会社が電柱の保守管理に利用するという形だ。
シンプレクスとDEAは「Web3課題解決ソリューション」として,こういったDePINプロジェクトを展開している。
シンプレクスの三浦氏は,Hivemapperプロジェクトと同様に,PicTreeでも人の行動に変化が生まれていると語る。ゲームを通じて,電柱に詳しくなったり,写真の撮り方に気をつけるようになったりした人もいるようで,単に報酬が得られるから,というだけでない動機に注目しているとのことだ。
鉄道会社や道路会社との関わりがある杉村氏だが,電力会社と同様に保守管理という課題を抱えているという。そこには多くの保守要員を動員する必要があるわけだが,労働人口の減少もあり,人材確保という面で見ても難しくなっているのが現状だ。
杉村氏はDePINプロジェクトを利用することで,課題を解決できる可能性に注目しているという。また,報酬を得られるというだけではなく,「社会インフラに貢献しているのが嬉しい」という点から社会が大きく変わるのではないかと述べた。
インセンティブを用意することで,ユーザーに動機を与え,社会インフラの管理/運用をしていくDePINプロジェクト。ゲームとして遊ぶことで報酬が得られ,それが社会インフラを支える活動になるのは面白い部分だと筆者も感じた。
DePINではないが,同様の試みは生態系調査などにも使われている。「Biome」というアプリでは,ユーザーが近所に住む生物を撮影することで,AIが判別し,どういった生き物なのかを知ることができるもので,クエストなどもありゲーム感覚で楽しめる。撮影されたデータをもとに生物分布のビッグデータを構築しており,それを解析し,環境問題などの課題解決に利用されているという。DePINも含めたこれらのプロジェクトが社会を変えていく可能性は大いにあるだろう。
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