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“消費者庁コラボ”を起こさないためには。「過去の処分例から見る,ゲーム開発・運営における景品表示法のポイント」レポート[CEDEC 2024]
前野氏は「逆転裁判」をプレイして弁護士を志したというゲーム好き。景品表示法で問題となった実例を挙げるものの,これは消費者庁のHPで既に公開されているものであり,特定の企業を貶めることが趣旨ではないと前置きしてから講演をスタートした。
景品表示法の正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」で,景品類規制と表示規制という2つの法律が一つにまとめられたもの。景品表示法を理解し,問題を検討するためには景品類規制と表示規制のどちらなのか区別するのが重要であると前野氏は語った。
表示規制とは読んで字の如く嘘の表示を禁止するもの。実際よりとても良いものと表示する「優良誤認表示」(例:ガチャで出るキャラクターに5回連続攻撃というコピーが付いていたが,実際には2回連続攻撃だった),実際よりとてもお得と表示する「有利誤認表示」(例:期間限定で1500円にて販売という表示があったが,実際には常に1500円で販売されていた)などが,この表示規制に抵触する。
ゲーム用語としての「表示」は画面上に現れる文字や図を示すが,表示規制における表示とは「宣伝のために事業者から消費者に向けられるものすべて」であり,つまりは形態を問わない。ゲーム内のお知らせはもちろんのこと,バナーやメール,そして生配信番組の出演者が話す内容まで,そのすべてが表示に当たる。
つまり「文字や図として表示されているものではないので,規制の対象にはならない」とする逃げ方は基本的に不可能であるという。違反の疑いがあると消費者庁によって調査が行われ,「措置命令」が出ると事業者は課徴金を支払わなければならない。そして,消費者庁のHPに企業名などが掲載されてしまうのだ。
もう一つの景品類規制は,消費者の自主的かつ合理的な商品選択を妨げるような景品を付けてはならないというもの。例えば,菓子Aにクルージング旅行,菓子Bには世界一周旅行,菓子Cにはハワイ旅行の景品が付けられており,消費者が世界一周旅行を目当てに菓子Bを選ぶ……なんてことがあれば景品類規制における問題となる。消費者は菓子ではなくオマケの旅行を選んでおり,これは賢い商品選択とは言えないわけだ。
これを聞いて筆者は「景品を全員に配ったらどうなるのだろう?」と思ったが,前野氏によれば例え全員に配っても,景品類規制の例外とはならないという。先の「表示」と合わせ,“抜け道”はふさがれているという印象を受けた。
ゲーム業界においてこうした表示や景品を取り扱った際,問題となった実例を挙げられた。こうした例では「企画フェイズ」「広告・実装フェイズ」のいずれかに問題があり,切り分けて考えることが重要であるという。
企画フェイズ
●コンプガチャ問題
2012年5月18日に消費者庁が「コンプリートガチャ(コンプガチャ)」は景品表示法で規制される「カードあわせ」(絵あわせ)に相当する,との正式見解を発表して大きな話題となったのを覚えている人は多いだろう。
これ以前から「コンプガチャは景品表示法に抵触するのではないか」という指摘はされており,消費者庁の見解発表前に各社がコンプガチャの廃止を発表するなど,ソーシャルゲーム業界では大きな動きがあった。
コンプガチャは,ガチャから出る特定のアイテムを揃えると,さらなる特別なアイテムがもらえるというもので,景品(特別なアイテム)の最高額や総額に関わらず禁止されている。
「アイテムをもらえるのでなければいいだろう」と,「ガチャから出たキャラクターやアイテムを組み合わせると強力なスキルや必殺技が使える」という仕組みを実装しても,前述したカードあわせに相当してアウトとなる。
複数キャラクターが協力しての合体技や,アイテムの合成といったシステムは既にさまざまなゲームが採用しているが,これがガチャから出るものであれば問題であるということだ。
事実,2015年には「ガチャから出たレアアイテムを集めるとゲーム進行が有利になるアイテムと交換できる」,2021年には「アイテムと,アイテムの能力をアップさせるためのアイテムを両方獲得すると,これを装備するキャラクターの能力などを強化できる(アイテム同士を組み合わせると強力なアイテムが手に入る)」といった仕組みが考案されるも,どちらも行政指導(措置命令と違って企業名は公開されない)が行われている。
こうした実例を受け,前野氏は「ガチャから出る別種のアイテムを入手すると,より有利なアイテムや効果を入手できるような仕組みは基本的に避けるべきであり,実装するのであれば,法務部門や外部専門家に相談すべき」とアドバイスしている。
また,懸賞企画にも注意が必要だ。2022年からGoogleやAppleがアプリ外課金を緩和し始めており(外部リンク),実施しやすい環境にはなっているだけに,なおさらだという。
2016年には「オンラインゲームで使える課金ポイントを一定額以上購入した者に,抽選でさらにポイントなどを提供する」企画が行政指導の対象となった。これは懸賞で提供できる景品類の最高額を超えたことが問題である。
広告・実装フェイズ
企画そのものだけでなく,これを消費者に伝える表示についても注意しなければならない。ここでは行政指導よりも重い措置命令がでたケースに関しての実例が語られた。
●ガチャの確率に関する表示
あるキャラクターの出現確率について,ゲーム内ではガチャ1回当たり3%であるように表示していたものの,実際には0.333%であった。この例では中国の企業が609万円の課徴金を支払うこととなった。当然ながら,海外企業が日本でサービスを展開する場合も例外にならない。
また,別のタイトルの1周年イベントでは,1回ごとに提供割合に基づいて抽選されるかのような表示が行われていたが,実際はそうではなかった。テーブルに近い限られた組み合わせで,表示通りであれば提供されるはずの組み合わせのほとんどが「絶対に」提供されない状況だった。
そもそもガチャは「表示された確率通りに当たりが入っている」とプレイヤーが信頼することで成り立つものであり,不当表示は信頼を大きく損ないかねない。ガチャは実装された瞬間から利用が始まるため,あとから表示を訂正しても被害を防ぐことはできない。
前野氏は,もし不当表示が行われた場合,一刻も早くガチャを停止すべきだと話した。被害防止に加え,課徴金は売上を基準として算定されるからだという。また,訴訟を起こされる可能性もあり,対応コストも必要となる。もちろん,最初から不当表示が行われないことが望ましく,より慎重なチェックや情報共有体制を構築することが重要であるとまとめた。
●提供アイテムの表示
インターネット配信番組の内容が問題となったタイトルもある。ラインナップされたモンスター13体の全てが特別な進化をするような表示(配信)がされたが,実際にその対象となったのは2体のみであった。課徴金は5020万円だったが,自主報告により2分の1に減額されている。
こちらはインターネット配信の内容が問題となった珍しいケースだが,ステータスが表示より低い,アイテムの効果が違うなど提供アイテムに関する行政指導は多い。
これには,告知画面や広告スペースの関係から強い表現が行われやすいことが関係している。確認する人にゲームの仕様に関する知識が必要で,その重要性はローカライズが入る場合はさらに高くなる。
また,あるタイトルではキャラクターとゲーム内通貨がセットになったパック商品が別々に購入するより安いかのように表示されていたが,実際にはそうではなかった。
こちらは前野氏曰く「かなり特殊な事例」であり,単なる値付けミスだと推測しているとのこと。ゲームにおける二重価格表示の事例はあまりなく,配信プラットフォームの制約から簡単に値段を変えられないことが原因ではないかと氏は語った。前述したアプリ外課金では価格の調整がやりやすくなるため,こちらも注意が必要だろう。
●「限定」について
ソーシャルゲームで良く見られるのが期間限定ガチャなどの限定販売。期間限定と謳っておきながら,これを過ぎてもキャラクターや品物が入手できるという例が存在する。
もちろん「限定」と書かれていれば,その期間にのみ入手できるという印象を与えるため,有利誤認表示となる。
これを避けるには「※ガチャの終了後に再登場する可能性があります」などの注記(打消し表示)が必ず必要になるが,これも注記さえしておけばOKというわけではない。文字の大きさや配置場所など,消費者が理解できるように書かなければならず,見やすさについては別部署など第三者的なチェックも有効であるという。
●表示方法について
ソーシャルゲームではインターネット配信が行われることも多い。広報的な配慮に慣れていない開発者が前面に出ることもあり,事前にすり合わせや避けるべき発言を確認することが重要だという。もし誤解を招いたとしても,配信は実装される前に行われるものであるため,リカバリーの期間はある。配信後にチェックを行うのも有効だ。
YouTuberなどに依頼して自社製品を取り上げてもらう「案件配信」は一般的なものとなりつつあるが,こちらにも広告である旨の表記が必要になり,長時間配信なら冒頭以外に出すことが望ましいとされる。
YouTubeでは「有料プロモーション動画」として設定しておけば,動画に「プロモーションを含みます」という表示がされるものの,これで足りるかを消費者庁は明言していない。表示をどうするかは依頼の際に取り決め,事務所や代理店などに任せきりにすることなく,表記や方法を指定するのも大事だという。
ソーシャルゲームではガチャのたびに新たな表示をするため,どうしても誤認が起こりやすくなってしまう。開発とプレイヤーのどちらにもメリットはないため,誤認は起こらないのが一番。ソーシャルゲームのスピード感の中で,開発と関係部署が連携して誤認を防ぐのは大変だが,どうしても必要な取り組みであると感じられた。
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