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“説得力のある画作り”はここから生まれる。カメラから学ぶCGの表現手法「アーティストのためのカメラの仕組み講座」レポート[CEDEC 2024]
当セッションは,撮影を行うためのカメラの仕組みを実演とともに解説し,それがCG上での表現とどのような関係にあるかを伝えるという趣旨で行われたもの。CGは現実世界の仕組みを元に作られており,現実世界のカメラの仕組みを知ることは,CGにおけるカメラの仕組みを知ることにつながる……というのが講義の狙いだ。
登壇者は,バンダイナムコスタジオ 技術スタジオ 第1グループ コアテクノロジー部 TEC/TAユニットの山口翔平氏,鈴木雅幸氏,溝口優子氏の3名だ。
セッションでは,「作りたい画があるが,カメラの設定がわからない」「人物のポーズのリファレンス写真を撮ったが,CG上で同じような構図にならない」「レンズの設定をしてみたものの,実際の写真におけるリアルな“ボケ”ってどんな感じ?」といった疑問を解決しながら,カメラを意識したCG作りの基礎が解説された。
カメラをほぼ触ったことがない人に向けた話からスタートするので,知っている人にとっては「今さら?」と感じる内容も含まれるかもしれない。そうした初歩的な話からCG制作上の実践に向けた話題まで,ギュッと凝縮してチュートリアルを行う充実の1時間となった。
初めに知っておくべき「画角と焦点距離」
冒頭,セッションの参加者に対して「写真って,カメラで撮りますか?」と問いかける山口氏。これに対し,山口氏の想定していた以上に多くの手が挙がったようだが,現在は撮影に使われるデバイスのほとんどがスマホであるという実情を前提として,カメラの仕組みの説明が始まる。
スマホには,撮影用に複数のレンズが付くのが当たり前になっているが,これはレンズごとに撮影できる範囲,つまり「画角」が異なるためだ。このうち,広く写るレンズが「広角レンズ」,狭い範囲を写すレンズが「望遠レンズ」である。
当セッションでのチュートリアルは,大まかに3つのパートに分けられており,このうちまず最初に語られたのが「画角と焦点距離」という1つめのパートだ。ここからは鈴木氏が詳しい解説を行った。
焦点距離とは,遠くからまっすぐにやって来る光がレンズを通り,レンズの中心位置から焦点が合うまでの距離のこと。焦点距離の長いレンズは画角が狭く,焦点距離の短いレンズは画角が広い。カメラのレンズには,広角レンズ,標準レンズ,望遠レンズという種類が存在するが,各レンズごとに撮れる画角がどれくらい異なるのか,実際の作例を交えて紹介が行われた。
また,カメラのセンサーサイズが大きいと画角が広くなり,センサーサイズが小さいと画角が狭くなるという関係も説明された。これによりカメラ本体,撮影に使用するレンズの,撮りたい画角に応じた選び方が見えてくる。
写真の「明るさ」をコントロールする3大要素
2つめのチュートリアルは,「写真の明るさ」に関する内容だ。スマホで撮った写真で白飛び,黒つぶれが起きにくいのは,明るさの自動調整が行われているからだが,その際にいったい何を調整しているのかという点とともに,カメラの場合は手動によりどういった設定が行えるのかが解説された。
写真の明るさ調整に用いられる要素は,「シャッタースピード」「絞り」「ISO感度」の3点だ。説明が必要な項目が多岐に渡るため,セッション上ではここで50ページ近いスライドが使用されたが,各項目について山口氏,鈴木氏が解説した内容の要点を抜粋しながら紹介する。
●シャッタースピード
カメラのシャッターが開く時間の長短をコントロールすることにより,センサーに光が当たる時間を調整する仕組み。これを正しくコントロールできていないと,明るいシーンは真っ白に,暗いシーンは真っ暗になってしまう。
シャッタースピードの調整を応用した効果の例として挙げられたのが,「モーションブラー」だ。シャッタースピードを長く設定することでブラー(ぼかし・ぼやけ)の効果をあえて出し,被写体のスピード感を出すなど,動きの感じられる写真を撮影可能になる。
●絞り
「絞り」は,レンズに入ってくる光を通す穴を広げたり閉じたりして光の量を調節すること。この絞りの大きさを数値化したものが「F値」であり,絞りが小さくなるほどF値が大きくなるという仕組み。「写真をどのくらい暗くするか」を表す数値ともいえる。
また「絞り」とともに説明される要素が「被写界深度」だ。絞りの数値を調整すると写真でピントの合う範囲を変えることができるが,これによりピントが合っている範囲が狭い状態のことを「被写界深度が浅い」という。
被写界深度を浅くすることで,ピントが合っている部分はくっきりと,そうでない部分はボケて写るため,被写体を浮かび上がらせる効果がある。また,センサーサイズによっても被写界深度が変わることから,F値が同じ場合でも,スマホとフルサイズカメラでは「手前と奥のボケ具合」の表現に差が生じることもここで説明された。
●ISO感度
「光量を調整せずに写真の明るさを調整する方法」が「ISO感度」だ。これは光に対しての感度,つまりどれくらい敏感に光に反応するかを表す数値にあたるもの。このISO感度を基準値である「100」から高くしていくほど明るく撮影できるが,電気的な後処理によって写真の明るさを調節する仕組みなので,光量が少ない状態だとノイズが目立つようになる点には注意が必要となる。
実際にISO感度を調整することが多い例として挙げられるのが,明るさが足りない夜景の撮影だ。こうした暗い環境の場合はシャッタースピードを長くして,撮るという方法も考えられるが,手持ちの撮影の場合は数秒〜数十秒かかってしまうため,手ぶれを起こしやすい。
ISO感度を上げることで,短いシャッタースピードのままでも見栄えよく撮影できるというわけだ。ほかにも,スポーツカメラマンが高速でシャッターを切るためにISO感度を上げて撮影しているという例が紹介されている。
ここまで,写真の明るさを調節する仕組みとして解説が行われた「シャッタースピード」「絞り」「ISO感度」については,セッションの壇上でカメラを用いた実演も行われた。シャッタースピードの変更によるモーションブラー効果や,絞りのコントロールによる被写界深度の変更,ISO感度を高めた暗部の撮影方法を,カメラの撮影画面をそのまま参加者に見せることでわかりやすく伝えていた。
被写体をイメージ通りに見せていくための「画作り」のポイント
当セッションで最後のチュートリアルとして取り上げられたのが「画作りとカメラ」だ。ここでは,実際のカメラの設定だけではなく,それを元に設計されているCG制作ツール上でよく見られる調整項目などについて溝口氏が解説した。作り手が思い描く色味や構図を目指すための,より実践に近い講義となった。
解説が行われたのは,「焦点距離」「自動露出と露出補正」「ホワイトバランスと色温度」「レンズ効果」だ。
●焦点距離
セッションの冒頭からたびたび触れられているキーワード。鈴木氏による前半パートでの解説では遠くに見える風景の写真を例としていたが,こちらのパートでは,被写体の大きさを変えないように広角・望遠のレンズを付け替えて撮影した石膏像の作例が紹介された。
上記2枚の写真を見比べると,右のほうはレンズが広角すぎるため被写体の顔が歪んでおり,正面が巨大気味に写っている。この写真を引き合いに,溝口氏が「現場あるある」の出来事として話したのが,「カットシーンなどで背景を良く見せたいために広角を使った結果,キャラの顔が不細工に見えてしまい,後になってキャラ班に突っ込みを受けてしまう」というものだ。
このことは裏を返せば,効果を理解したうえで演出に利用すれば,あえてキャラを醜く表現するという手法につながると考えられる。
焦点距離をコントロールした作例としては,望遠による圧縮効果についても紹介された。夕日をバックにしたサバンナなどの写真で太陽を実際より大きく見せたり,坂道の写真で勾配(傾き)を強調して見せたり,道行く人たちを密集しているように見せたりと,この効果が被写体の印象を大きく変えるポイントであると溝口氏は話す。
●自動露出と露出補正
カメラにおける露出とは,前述の「シャッタースピード」と「絞り」から決定される光の量のこと。
スマホなどのカメラではこの露出の自動調節機能(自動露出:Auto Exposure)があり,センサー全体や中央付近に入ってくる光の平均が18%グレー(中間グレー / 露出反射率が18%のグレー色。標準的な露出を決めるときに用いられる)になるように調整してくれている。
この自動露出は多くの場合で便利な反面,カメラそのものが被写体本来の色を判断できるわけではないため,白いはずの被写体,黒いはずの被写体もグレーに写してしまうといった弱点がある。露出補正(Exposure Compensation)とはこれを補うために使う機能だ。
ここでは暗くなりがちな白い衣装の被写体と,反対に明るくなりがちな黒い衣装の被写体を例に,それぞれ露出補正をかけて現実に近い見え方にする方法が紹介された。一方で,写真をより楽しそうに見せたり,暗い雰囲気にしたりといったイメージの強調にもこの露出補正が便利であることも付け加えられた。
ゲームにおけるCG制作時に明るさが足りないというケースでも,ライトを増やすという選択肢だけではなく,この露出補正により場面全体のイメージを壊さずに調整が可能になっているとのことだ。
●色温度とホワイトバランス
色温度とは,光源の色合いを表す指標のことで,高い色温度は寒色系,低い色温度だと暖色系となる。ホワイトバランスは,本来の光源の色を打ち消して,本来の被写体の色を見せるための補正機能だ。人間の目とは異なり,カメラは「どんな環境でも白いものは白い」というような判断ができないため,こうした補正が必要とされている。
ホワイトバランスは,写真をどのような画として見せたいのかによって使いかたが変わる。暖色にすることで夕陽を強調するか,白い被写体を本来の色味で見せるかなど,ここでは同じ1枚の写真でも見え方をかなりコントロールできるという点が紹介された。
ゲーム制作上の実例としては,日中・屋外のシチュエーションで,プレイ画面が日陰になっている箇所をメインにした際,画面が全体的に真っ青に見えてしまったというケースが語られた。このときにはホワイトバランスという手段が取れなかったことから,青空をグレーに変えてしまうことで解決を図ったのだという。
●レンズ効果
CGでよく使われているフィルター効果は,もともとはカメラの構造上の特性を再現したものだ。ここでは,そのなかでも代表的なフィルターと効果が紹介されている。
・「周辺減光」(Vignette)
画像の中央に比べて,周辺部分の明るさが低下する現象のこと。フィルター効果としては,周囲の明るさを下げ,中央に目線を集中させることにより,フォトリアル感を上げる効果がある。
・「歪曲収差」(Distortion)
レンズの特性によって生じる歪みのこと。広角レンズで起きやすい樽型歪曲(中央部が膨らみ周辺部が引っ込むような歪み),望遠レンズで起きやすい糸巻き型歪曲(中央部がくびれたような歪み)の2種類がある。
・「グレア」(Glare)
光が一点に収束することなくぼやける現象のことで,ゲーム業界では「ブルーム」と呼ばれることもある。カメラのセンサーサイズが小さいと光が漏れ出しやすいため,影響が大きい。
・「フレア」(Frare)
レンズに強い光が入ってコントラストが低下し,画像全体が白っぽくなる現象。逆光を撮影したときに起こりやすい。フィルター効果としては,柔らかい雰囲気を演出したい場合に使われる。
・「アナモルフィックレンズフレア」(Anamorphic Lens Flare)
フレア表現の一種で,車のランプや懐中電灯の光などが横に伸びて見えるもの。
「ゴースト」(Ghost)
レンズやカメラ,フィルターなどで強い光の反射が起こったときに現れる,実際には存在しない光のこと。
なお,CGではこれらのフィルター効果を自在に使うことができるが,実際のカメラを使った撮影では起こりようがない組み合わせもある。このため,正しく理解してカメラと同じ処理の順番で設定するべきだと溝口氏はアドバイスをしている。
数多くの項目を解説してきた「画作りとカメラ」のパートでは最後に,溝口氏は人間の目に関する特徴と「錯視」について紹介した。
人間の目には,色順応(周りの色に鳴れ,その色に鈍感になり,補色に対して敏感になること)や,色の恒常性(「白いものは白」と認識するため,あまりライトの色を感じない特性)といった特徴があり,絶対的な色は認識できないのだという。
これを証明するものとして「実は同じ色の2羽のアヒルが,背景色に引っ張られて違う色に見える」という現象のほか,3つの例を用いた「錯視」の実験をしてみせた。
これらを踏まえ,「人の目で見た色は信用ならない」と常に気にかけること,作業環境の明るさなどにも気をつけるべきであることを促しつつ,リファレンス(参考)となる写真はできるだけ実際に撮りに行くことも薦め,解説を締めくくった。
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