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世界で起きる軍事侵攻や虐殺は,ゲーム業界にどのような影響を与えるのか? 徳岡正肇氏・佐藤翔氏による,「『戦争状態』とゲーム開発」カンファレンスレポート
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印刷2024/08/09 08:30

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世界で起きる軍事侵攻や虐殺は,ゲーム業界にどのような影響を与えるのか? 徳岡正肇氏・佐藤翔氏による,「『戦争状態』とゲーム開発」カンファレンスレポート

(編集部注:本記事には,カンファレンス内の表現として「戦争」という語彙が使われている箇所がありますが,その中には政府報道において戦争と称されていない軍事行動が含まれています。)

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 ビデオゲーム開発はどこまで現実社会を無視できるのだろうか?

 映画や文学といったほかの表現と比べると,基本的にビデオゲームは現実社会の状況や問題を積極的に反映することは少ない。今でこそインディーゲームの方面で社会を意識したタイトルが登場しているものの,ゲーム全体で現状がまったく変わったとは言いがたい。

 しかし,ビデオゲームが進歩したことでリアルな世界が描かれるようになり,さまざまな国の開発者も関わるようになったいま,現実社会の出来事を直視しない開発は可能なのか。現実でどうしても無視しようがない大事態が発生した場合,そんなコンテンツ消費は通用するのだろうか。

 まさしく、いま起きている軍事侵攻や虐殺こそが,無視できない現実の最たるものだと言っていい。ロシアによるウクライナ侵攻,そしてイスラエルによるパレスチナ人の虐殺などは,世界を震撼させるとともに,その経済的な影響から文化的な影響に至るまで,ここ日本も無縁ではないことを露わにした。

 2024年6月20日,東京国際工科専門職大学で行われたIDGA日本が主催する「ゲーム産業と政府との関係」に関するセミナーにて,「『戦争状態』とゲーム開発〜インシデントに直面してから慌てないために」の講演が実施された。

 ゲームジャーナリストの徳岡正肇氏,ルーディムスの佐藤翔氏が登壇し,現実の「戦争」がゲーム業界にいかなる影響を与えるのかを語った講演の模様を紹介する。

ロシアによるウクライナ侵攻以降の影響??ウクライナの場合


左から,徳岡氏,佐藤氏
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 講演はロシアによるウクライナ侵攻が2022年に始まって以降のCIS諸国の問題について言及する。やはり気になるのは,ロシアの軍事侵攻により,各地で甚大な攻撃を受け続けるウクライナにおいて,ゲーム開発者がどのように開発を続けているかだろう。

以下,スライドは佐藤氏より公式にご提供いただいたものを使用している
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 ウクライナ発の大型IPと言えば,GSC Game Worldが開発するオープンワールドRPGの「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズと,Frogwaresによる世界的名探偵を主人公にした,「Sherlock Holmes」シリーズがある。

 両社からは兵士として戦線に加わった開発者も少なくない。侵攻開始と同じ年,GSC Game WorldFrogwaresにて開発経験を持つVolodymyr Yezhov氏が戦線に向かい,死亡したという報道が流れた。同じように戦線に参加し,亡くなった開発者は何人もいる。

 こうしたニュースは,日本のゲームプレイヤーからすると,戦火の苛烈さに胸を痛めるとともに,一時はウクライナのゲーム業界は存続可能なのかとさえ思わされるものだった。しかし実際には,多くのゲーム開発者が侵攻の中でもひたむきにゲーム開発を続けていく道を選択していたのである。

 侵攻開始以降,GSC Game WorldもFrogwaresも開発拠点の変更を迫られた。今年発売が予定されている「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」は,侵攻以来GSC Game Worldがウクライナからチェコのプラハへと開発拠点を移し,開発を続けている。Frogwaresでは開発者がウクライナ各地(特に戦火が及びにくい,ウクライナ西部の都市リヴィウなど)や国外に移動し,新作の開発に取り掛かっている。

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 戦前から人気シリーズを生み出した企業が開発拠点を移しながらゲームを作り続ける一方,戦火の中での市民の状況を描くゲームも登場している。

 例えばロシア軍の占領下で暮らす市民となり,実際に起きた出来事を追うビジュアルノベル「Ukraine War Stories」が無料で公開され,話題を呼んだ。来年のリリースを目指して開発中の「Hollow Home」は,現実のウクライナ侵攻を反映したストーリーやイベントを織り込んだRPGである。そうした作品が戦時下で開発されている。

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 一方,市民の置かれた状況の惨状を告発するゲームのほかに,ウクライナのプロパガンダとしてのゲームも開発された。ヨーロッパでのウクライナ支援を目的としたゲーム開発で,「Death From Above」というタイトルが生み出されたのである。

 これはウクライナ軍のドローン兵器を操ってロシアと戦うシミュレーションゲームだ。ゲームの収益の30%は,ウクライナ軍への非攻撃的支援を行う2つの団体,"Come Back Alive"と"Army of Drones"に送られるそうだ。この事実をひとつとっても,ユーザーが本作を購入することで間接的に軍事行動に加担する形になると言ってよく,無関係ではいられないのだ。

 ちなみに,ウクライナの軍人は「World of Tanks」を楽しんでいるという話も語られた。「現実で戦争しながら,ゲームでも戦争をしている」と指摘された。

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 どうあれ大小の規模を問わずウクライナの開発者はゲームを作り続けているし,その中では苛烈な現実を反映したゲームを生み出している。そんな開発者たちの技術や知見を共有するためのイベントも続いているという。

 その一つが「Games Gathering」というイベントだ。このイベントではさまざまな開発者がゲーム開発の知見を発表している。具体的なゲーム開発の方法について語る以外に,「砲弾を受けて,どれだけ開発能率が落ちてしまったか」や「戦時下でどれだけゲーム開発が大切なものなのか」という,戦時下の生々しい現実を反映した発表も多いという。

 このイベントは戦線が安定していれば国内で開催するが,危険な場合は国外で行うのだそうだ。この話からは現地の開発者たちも連帯し,ゲーム開発への知見を共有し続けながら業界の灯を消さないようにしたい,という矜持を感じた。

ロシアの場合


 一方,軍事侵攻を開始した側であるロシアのゲーム業界では何が起きたのだろうか。

 ロシアのゲーム業界ではウクライナへの侵攻が始まった直後,侵攻に反対する発言が多かったという。軍事侵攻に反対する署名運動なども行われたそうだ。やはり侵攻を選択したことには,業界として同意しているわけではない。

 ロシアの軍事侵攻が始まってから,国内の開発者は他国の産業に関わることが難しくなり,キャリアに大きな影響を受けることになった。

 ロシアのゲーム業界は決して大規模ではない。開発者にしてみれば,アメリカやヨーロッパへ行ったほうが条件がいい場合もあるし,ロシアで作った独自のタイトルも,ほかの地域のマーケットで同時に展開したほうがいいのだ。

 しかし,現在はほかの地域で展開することはできず,必然的にロシア国内のマーケットだけで仕事をすることになっている。さらに言えば,国内のマーケットはブラウザゲームくらいしか成立しないような凄惨な状況なのだそうだ。

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 そうなると開発者として最善のアクションは,ロシアを去って別の国で開発を続けることになる。事実,少なくない開発者がその選択を取った。

 例えば「inKONBINI: One Store. Many Stories」の開発者たちは,ロシアにいながらにして日本のコンビニをモチーフにしたゲームを作っていた。しかし侵攻開始以降は開発拠点を日本に移しているという。
 
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 だがウクライナと同じく,侵攻が始まって去る者もいれば,プロパガンダとしてのゲーム開発に関わる者もいる。ロシアはプロパガンダゲームに関して補助金を出しているそうで,そちらに注力している開発者もいるというわけだ。

 また,プロパガンダはゲーム開発だけではなく,すでにリリースされているゲームやプラットフォームでも行われているという。たとえばオンラインでのゲームプレイとゲーム開発を兼ねたプラットフォームであるRobloxでは,サービスの内部で軍事パレードが行われたという。

 ほかにも「マインクラフト」など,プレイヤーの多い場所で似たようなプロパガンダがあったそうだ。プロパガンダは人が多ければ多いほど効果的であるため,Robloxやマインクラフトで実行されたのだろう。

 この話を聞いていて「本当にそんなプロパガンダに引っ張られる人はいるのだろうか」と思ったが,近年のSNSにおいて,ほかの誰かの極端な政治的発言に共感してシェアするケースも散見される。こういった活動も決してバカにできないものがありそうだ。

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 さらに興味深いのは,ロシアが侵攻開始以降に独特のゲーム産業機構のロードマップを作っていることである。スタジオ投資向け基金の設立や,首都にビデオゲームのハブを作ることなどはまだいい。きな臭いのは「ロシア国産ゲームエンジンの制作」(4Gamerでの関係記事はこちら)から,果ては「ロシア産のゲーム機の開発」という計画である。

 カンファレンスでも「本当にゲーム機を作れるのかは謎」と指摘されており,筆者が話を聞く限りどこまで本気なのかは不明だ。すでにコンソールビジネスが任天堂・SIE・マイクロソフトの3社に収れんされて10数年は経過している今,新興のコンソールを出そうとする蛮勇のモチベーションがどこにあるのか。詳細は不明だが,どうやらそれもプロパガンダに絡んでいるそうだ。

左図:「Atomic Heart」 右図:Molfarが作成した,同作に関係した人物や企業などの相関図
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 世界各国の関係者が,いまロシア産のゲームをどう評価すべきか,という問題もある。ロシアの軍事侵攻以降,経済制裁などによってロシア国内のゲーム業界の関係者からプレイヤーに至るまで,多くの人が各国との関わりを断たれている。そのような状況にあるロシアのゲーム業界に関わるのは,「侵攻に加担した」という批判に晒されるリスクを抱えている。

 たとえば昨年リリースされたロシア産を代表するタイトルに,「Atomic Heart」がある。大型のタイトルであるがゆえに,開発には多くの人が関わっている。それゆえに,決してロシア国内で完結しておらず,国外の企業や関係者の関わりが取り沙汰されるのだ。

 ウクライナの情報調査サイトMolfarは,「Atomic Heart」をロシアのプロパガンダ要素を多数持つゲームとして指摘し,どのように資金を集めていたか関係各社の情報を探っている。まだ本作の開発ではポーランドやオーストリア,ジョージアなど10か国から開発者を雇用していたことを明らかにしている。

世界各地域における「戦争」とゲーム


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 ヨーロッパでのロシアによるウクライナ侵攻のように,紛争の火種を抱える世界各地域のゲーム業界もそれぞれに近しい問題を抱えている。

 イランの場合,プロパガンダとしてのゲーム制作の歴史は長く,先ほどのロシアのゲーム産業機構ロードマップでもかなり参考にされているようだ。またゲーム開発への補助金制度もあるのだが,とりわけイラン・イラク戦争を題材としたゲームが制度を通りやすかったそうだ。その結果,補助金制度を得てイラン・イラク戦争をテーマにした低品質なプロパガンダ戦争ゲームが乱造されてきた。

 いま中東地域最大の問題といえば,イスラエルによるパレスチナ人虐殺であろう。長らくイスラエルによるパレスチナ侵攻の問題が続くなか,2022年には「Fursan al-Aqsa: The Knights of the Al-Aqsa Mosque」というイスラエル軍のパレスチナ占領に対する抗議を目的としたTPSがリリースされている。

カフカス地域のようにゲーム産業としては存在感が薄い地域でも,昨今の紛争を舞台としたゲームが出ている。やはり戦時下にある国の下では,プロパガンダとしてのゲームが開発されるという
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南アジアでは,主にインド・パキスタン間の紛争が関係している。インドでは「PUBG」の人気があり「FAU-G」というフォロワーが登場したそうだが,中身はバトルロイヤルではなく,しかも銃を使わない格闘ゲームらしい
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アフリカでは紛争の平和解決を促すゲームとして,架空の国を舞台に問題解決を目指すタイトルが開発された
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 そのほかにも,紛争を抱える世界各地域のゲームが紹介された。興味深いのは,いずれも戦意高揚を促すプロパガンダとしての色彩を帯びる傾向があることである。アフリカでは,地域全体で起きる問題を平和的に解決すること目指すゲームが出ているが,今回のカンファレンスを聞く限りでは珍しいケースには違いない。

今後,ゲーム業界で起こりうる危機対応


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 戦争とゲームの関わりは,現代ではより深まっている。民間と軍事の両方の分野で利用可能な製品の開発を意味する「デュアルユース」という言葉があるが,その製品にビデオゲームが含まれるのだ。

 かつてアメリカでは,国防省がウォーゲーミング分析に予算を付けていたという。「ウォーゲーミングというものを,軍隊が真っ向から扱う時期になっている」と徳岡氏は解説する。
 
 徳岡氏は現在のゲームと戦争の関係について,「『無血戦争』の終わり」と指摘した。「無血戦争」とはピーター・P. パーラ氏の書籍で,「ゲームとは実際に戦争をすることなく戦争を行なうシミュレーション」だと述べており,ホビーとしても楽しめるウォーゲームをまとめた本である。同時にこの言葉自体が,すでにゲームが現実を無視できる状況ではないことも示している。

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 開発者にとって具体的なところでは,「軍事侵攻や虐殺を実行する当事国のゲーム会社と仕事で関わることになったらどうすればいいか」という問題がある。

 簡単に答えが出るものではない。かつては「なるべく関わらないようにする」付き合い方が大多数だったが,先の「Atomic Heart」の事例を見てもわかるように,開発の規模が大きくなるとそのような立ち回りが難しくなる。支社や提携先の企業がある国が,戦争や紛争に巻き込まれた場合,撤退しないのは国際的な非難を浴びる可能性を持つ。

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 ではまったく戦争当事国と無関係にゲームを完成させて販売すればリスクはないか,というとそれも危うい。自社IPがプロパガンダに利用されるケースもあるのだ。

 たとえば人気ミリタリーゲーム「ARMA 3」は,イスラエルのガザ攻撃のプロパガンダに利用された。X(旧Twitter)のフェイク動画として「ARMA 3」のゲーム画面が使われたのだ。スマートフォン上で一目見るだけではリアルかフェイクか判別できない。そのままシェアさせることで,低コストでイスラエル側のイメージを変える戦略である。

 また直接の戦争ゲームとは違うタイトルにもリスクがある。人気オープンワールドFPS「Far Cry 5」はカルト宗教「エデンズ・ゲート」の教祖ジョセフ・シードと戦うゲームなのだが,この教祖のキャラクターが問題だった。

 ジョセフはアメリカの極右思想を持ち,連邦政府と戦うというカリカチュアライズされたキャラクターなのだが,なんとオンライン上で,本当にジョゼフ・シードを崇めるカルトが誕生してしまったのである。

 徳岡氏はこれを「悪役をカッコよく描きすぎてしまうがために起こる問題」だという。現代社会の暗黒部分を描くことが多い「Far Cry」シリーズでは,最大のボスを魅力的に描くことを伝統としている。「そこで悪をカッコよく描くと,簡単にユーザーは一線を超えてしまう」と徳岡氏は語る。

 そうした問題に対応してか,最近の第二次世界大戦を扱ったゲームでは,プレイヤーがナチスドイツ側を操作できないようになっているという。こうした問題は日本も対岸の火事ではない。大日本帝国が関わった戦争を扱うゲームを開発するときには,同じように問われる問題である。

 講演のまとめとして「ゲームが政治から自由であることはできない時代になっている」と指摘する。もはや現代はゲーム開発者が現実の国際社会を気にせずゲームを作れる時代ではなくなってきているのだ。

 今後はゲーム開発の現場でも,国際情勢にどう対応するのかを定めたガイドラインを作る必要性があるなど,知見の収集が早急に要求されるという。ゲームはその進化を求めるうえで現実の要素をグラフィックスやゲームデザインに吸収してきたが,現実もまたゲームがもたらす効果を利用しようとする。そんな状況でどうすべきかが関係者すべてに問われている。

IDGA日本 公式サイト

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