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独立系開発者の気持ちを知っている。Hypergryphのゲームスタジオ支援事業「Coreblazer」インタビュー[CJ2024]
そんな同社には現在,ゲームの開発・運営とはまた違う,ゲーム開発者支援事業「Coreblazer(コアブレイザー)」が存在する。
本事業はHypergryph内のイチ部署で,“過去の自分たちのようにゲーム業界で挑戦している人たちを手助けしたい”という理念のもと,個人開発者やゲームスタジオへの長期的支援を提供している。
2019年5月配信の「アークナイツ」で評価をうなぎ上りにさせた同社だが,2017年1月の会社設立時には数人ぽっちの小規模チームだった。それが今では数千人ものスタッフを抱える大手メーカー。そんな背景があってのコレなのだから,内部の人たちほど感慨深いかもしれない。
今回は,同部署でインベストメントマネージャーを務めている郭 晋炎(カク シンエン)氏に,現地で話を聞かせてもらった。
「アークナイツ」のHypergryphによるインディー開発支援の形。ゲームブランド「Coreblazer」ブースレポート
かつての自分達のような小規模スタジオや開発者が,長期的かつ安定したゲーム開発を進められるようにサポートしたい。そんな「アークナイツ」のHypergryphによるインディー開発支援の形であるゲームブランド「Coreblazer」が,開催中の「BitSummit Drift」にブースを出展している。
必ず成功させるとは言えない。でも
4Gamer:
本日はお時間をいただき,ありがとうございます。
最初にですが,Coreblazerとはどんな部署なのでしょう。
郭 晋炎氏(以下,郭氏):
Coreblazerは2022年4月にHypergryph内で立ち上げられた,ゲーム開発者たちの支援を目的とする投資事業部です。子会社などではなく,あくまで社内のイチ部署として事業を展開しています。
4Gamer:
Hypergryphというと,開発の毛色が強い印象ですが。
郭氏:
そうですね。弊社の役員たちもゲーム開発者ですし,今でも現場の最前線に立ち,スタッフと一緒にゲームを作っているくらいです。
彼らはゲームの芸術性やプレイのおもしろさを重視していて,「アークナイツ」や現在開発中の「アークナイツ:エンドフィールド」(PC / PS5 / iOS / Android)でも,それらを常に追求してきました。
彼らこそ,Hypergryphが創出すべきタイトルがどういう作品であるべきかを一番知っている人たちです。
4Gamer:
それがまたなぜ,投資事業を?
郭氏:
Coreblazerは“開発者は開発者同士で互いに協力するほうがいい”という発想のもと,スタートさせた事業となります。
例えば,世の中では非常にクリエイティブでおもしろそうなゲームを見かけますが,それらはさまざまな理由で完成に至らないことがあります。ときにはポテンシャルを備えた若い開発者とも出会いますが,彼らもまたさまざまな理由で継続的な創作が難しい場合があります。
僕らはまずゲームプレイヤーとして,そのことをとても残念に感じていました。ですから,そうした人たちの魅力的な作品の制作を手伝い,より多くの人に遊んでもらえるようにと支援策を立ち上げたのです。
4Gamer:
開発断念は,インディ界隈でよく聞く話です。
郭氏:
Hypergryphも現在に至るまで,内外のたくさんの開発者と協力し合い,ともに発展し,成長してきました。僕らはそうした経験に基づき,ゲーム開発においては“長期的な積み重ねと発展が必要不可欠”であり,その部分を磨くことこそが最も価値があると信じています。
そのため,投資や経験・リソースの共有を通じて,潜在力のある開発者が継続的におもしろいゲームを生み出せる仕組みを模索しました。
4Gamer:
投資というのは,短期的な話ではないんですよね?
郭氏:
そのとおりで,長期的なリターンを見越した事業となります。投資対象も,持続的におもしろいゲームを作れそうかどうかを見ます。
4Gamer:
となると,証券アナリストが「この会社の株はこういうデータだから買いだ!」などと分析するように,ゲームの専門家だからこそ「このゲームはいける!」って思うみたいな?
郭氏:
確かに,そうですね。モバイルゲームはマーケティングとトレンド,あとはデータによって判断を揺らされることが多々ありますが,インディーゲームはそうした予測材料があまり通用しません。
今までどんなタイトルがあったのか。ユーザー層はどうで,ユーザー数はどれくらいいるのか。そうした情報は調査しますが,いずれも決定的な根拠にはならないので,最終的に自分なりの重点で判断することになります。ですから,データに振り回されることはあまりないですね。
4Gamer:
支援先はどのように探しているのですか。
郭氏:
僕は前職でインディーゲームのパブリッシング会社にいて,そこで多くの開発者やパブリッシャと接点を持ち,さまざまなチーム状況や会社状況と直面してきました。投資事業の開始後も,それらで培った人脈を頼り,開発者さんやパブリッシャさんとの付き合いのなかで,いろいろと支援対象の情報を教えてもらうことが多いです。
それとCJのようなイベントでも積極的に新しいゲームを探したり,実際にゲームをプレイしてみたりして,ポテンシャルのある支援先を見つけるようにしています。Coreblazerは近年,GameJamやインディゲーム関係のイベントを積極的に開催しているので,今では中国の開発者さんによく知られているブランドになってきている実感もあります。
4Gamer:
どんな支援先がお目当てなのでしょう。
郭氏:
ゲームがおもしろいことはもちろん,持続的なゲーム作りをするための明確な事業計画があるかどうかも重要視しています。
まずゲームそのものがおもしろい場合は,開発者さんにアプローチして詳しい話を聞かせてもらいます。おもしろいかどうかには主観が混じっているかもしれませんが,具体的には「ゲームプレイのデザインが特別」であったり,「ビジュアルが印象的」であったり,「感情を沸き立たせる物語」であったりをポイントとしています。
さらに現在制作中の作品だけでなく,個人や集団としての長期的な目標や将来の事業計画についても十分な考えがあったなら,こちらからの出資の判断はよりスムーズに進行できるといった具合です。
4Gamer:
現在,事業部のスタッフはどういった人がいるのでしょう。
郭氏:
今は7人のスタッフがいて,みなゲーム開発やパブリッシングに従事したことのあるゲーム業界経験者となっています。
4Gamer:
先ほど「投資」と言われたように,その人数での投資で利益を求めるなら有価証券なども視野に入るのでは? もちろん発足時の理由とそぐわないのは分かりますが,ゲームってほら,博打の面が強いですし。
郭氏:
おっしゃるとおり,プロジェクト1つ1つに利益だけを追求するなら,それもありだと思います。もちろん,僕らはすべてのプロジェクトが成功してほしいと思っていますが,投資事業ではそれら短期的な成果ではなく,「長期的な利益」と「事業全体の結果」を求めています。
4Gamer:
なら,長期的にはどのようなビジョンを。
郭氏:
期待できるタイトル1作の成功ではなく,投資先の開発者あるいは開発チームに2作目,3作目と持続的におもしろいゲームを作れるようになってもらい,企業としての価値を高めていってもらう。利益は,そうやってゲーム業界を活性化できたと言えたあとの話です。
加えて,日本などの海外の開発チームとも投資関係で連携し,各地域で新たなビジネスチャンスを見つけられることにも期待しています。
4Gamer:
投資以外でも,パブリッシングに乗り出すのもまた手だったのでは?
郭氏:
ないですね。パブリッシングの場合は「1つ1つの成功」を追い求める傾向が強くなってしまい,投資の回収を優先してしまうので。
4Gamer:
なるほど。具体的にはどんな支援をするのでしょう。
郭氏:
まずは開発資金のサポートです。基本は次回作か次々回作をカバーします。投入資金には決まりがなく,相手の規模感や要望された案が成立させられるかどうかなどを総合的に踏まえて,「最低限」や「最大限」をケースバイケースで考えていきます。
それ以外にも新興のゲームスタジオなら,独立して持続的な事業展開が可能になるよう,上海でのオフィス提供や起業に関する財務および法務のコンサルティングなどを包括的に提供しています。あとは海外パブリッシャを呼んでの交流会や,Bitsummitのような国内外のゲーム展示会への出展,GameJamやプレイテストなどもたくさん開催しています。
それと,中国には大学卒業後にすぐゲーム業界に飛び込む人もけっこういますので,そうした人たちに業界の知見を教えることも多いです。姿勢としては「ゲーム開発に向けて一緒に考えよう」といった感じです。
4Gamer:
支援先には「こういうふうにしたほうがいいんじゃない?」みたいな指示を出すことはあるんでしょうか。
郭氏:
ないですね。というのも,僕らが投資したいゲームは,もとからなんらかの魅力を感じる作品ですので。
その人なりの力を発揮してもらうためにも,こちらから制限をかけるようなことを言うのはちょっと変ですし。なので相手から「こういうのはどうでしょう?」と尋ねられたときに判断を返すだけです。
ただし一点。持続的な発展を実現するためには,投資関係である私たちCoreblazer以外にも,自らさまざまなパートナーさんと積極的にコミュニケーションを取っていただくことをおすすめします。そうした関係性を構築していくことこそが,なにより大事だと思っています。
4Gamer:
これまで,もくろみ通りの成功例はありましたか。
郭氏:
私たちが追求しているのは,開発チームの長期的な成長と長期的な価値であり,事業発足から約2年という現状の成果だけで成功か失敗かを判断することはありません。ただ,なかには起業して初めてのゲームで,私たちの期待を超えてきたプロジェクトも確かにあります。
例えば,この「鸡械绿洲」(メカニマル・オアシス)が一例です。
同作はタワーディフェンスとローグライトをかけ合わせたうえに,さらにシューティング要素も取り入れたゲームです。そこが醍醐味となりまして,小規模チームのインディーゲームとしてはかなり大きな成果になりました。僕らの当初の予想は軽く超え,理想値も飛び越えて,最終的にはるかに予想を超えた大好評を見せてくれたんですよね。
4Gamer:
今のところ,支援先は中国だけなんですかね。
郭氏:
僕らは上海を拠点としているので,対象地域もやはり中国がメインですが,活動範囲は中国国内に限られておらず,事業部にも中国・日本・欧米などの各地域に応じた担当者がいます。
海外でも積極的に投資をしていて,今はアメリカのゲーム計2作に投資しています。その1つは「Eternights」というタイトルです。
4Gamer:
日本も視野に入っているわけですね。
ちなみに,郭さんはなぜCoreblazerに参加したのでしょう。
郭氏:
僕の場合,前職で担当したプロジェクトで,資金不足のために理想を実現できなかったものや,チーム管理の経験不足により途中で解散してしまったものがあって,インディーゲーム開発がいかに困難かを身をもって理解していました。だからその経験を生かし,Coreblazerで他者のゲーム開発を成功させる手助けをしたいと考えたんです。
メンバーのなかには大手ゲーム企業でデザイナーとして働いていた者もいて,その人もある理由でCoreblazerに参加しています。
4Gamer:
その理由は,お聞きしても大丈夫な?
郭氏:
ええ。こういうことはクリエイターにはよくある話ですが,彼は大手メーカーにいながら,会社の都合によって「本当に作りたいゲームを作れなかった人」でした。だから,同じような問題に直面している開発者たちを手助けしてあげたいという気持ちで,この部署に参加したんです。
僕らのような手助けがなくても,成功している作品は世の中にたくさんあります。ですが失敗しているタイトルはその何十倍,何百倍もあって,場合によってはその失敗が原因でゲーム業界を去る人もいます。僕も経験上,そういう人たちを何人も見てきました。
そうした未来を1つでも多くなくせるよう,自分たちと同じ思いをさせないよう,開発者に協力したい。これが本音ですね。
4Gamer:
苦労する気持ちを知ってる支援者たち,みたいな?
郭氏:
そうですね。そうかもしれません(笑)。
4Gamer:
どういう部署なのか,よく分かりました。
最後に,今後の展望を聞かせてください。
郭氏:
一番言いたいのは,僕らはおもしろいゲームの創出のためなら,なにか力になれることを探して,がんばって支援していきます。リリースから1年後や2年後になっても遊んでみたくなる,そんなゲームの開発との出会いが,今の僕個人の目標です。
今後は日本でも,持続的な成長と連携を目指して積み重ねてきたこれまでの経験やノウハウを,日本の開発者さんと話し合ったり,開発中のゲームを紹介してもらったりと,投資関係ではなくても業界のことを話し合えればと思ってます。もちろん,中国市場の開発者状況や宣伝面のコツなどもいろいろお話しさせていただくつもりです。
Coreblazerの支援で,ゲームを必ず成功させるとは言えません。でも,持続的なゲーム開発を支援することで,新しいチャンスを生み出すことは必ずやり遂げてみせます。そのため,株式でもプロジェクトファンディングでも,長期的な発展のためにより投資的な協力が必要となりそうなら,相談だけでも大歓迎です!
企画や作品をお持ちの方々は,ぜひ公式サイトからご連絡ください!
「Coreblazer」公式サイト
4Gamer「ChinaJoy 2024」記事一覧
「ChinaJoy 2024」公式サイト
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