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AI翻訳エンジン「ELLA」はゲームのローカライズ環境を大きく変える! TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2024で行われたセッションをレポート
ゲームのデバッグやローカライゼーションに関するサービスを提供するデジタルハーツと,AI自動翻訳の開発運営を行うロゼッタ。昨年9月には,両社による共同開発契約の締結が発表されているが,本ステージではそれにより生まれた多言語対応AI翻訳エンジン「ELLA」(Expressive Localization and Linguistic AI)の特徴や性能が紹介された。
ステージには,デジタルハーツの日英翻訳チームを率いるVogt Melissa氏(左)と,ロゼッタのCEOである渡辺麻呂氏(右)が登壇 |
従来の機械翻訳は文章の内容をより正確に,取りこぼさないよう訳すことを重視しているため,ゲームやアニメといったエンタメ作品のセリフの翻訳にはあまり適していない。
海外で制作されたゲームの文章に違和感を覚えたり,意味が分かりにくいと感じたことは誰しもあるはずだ。それらに対して,「機械翻訳丸出し」などという言い回しもよく使われる。ELLAはそうした違和感の解消に役立つ,開発者向けのツールというわけだ。
ELLAの特徴は3つ。「キャラクターを演じているかのような翻訳」「キャラクターの関係性による口調の変化」,そして「圧倒的なスピード」だ。
キャラクターごとの考え方や特徴的な口調に加えて,相手との関係性による言葉選びを反映した翻訳を行うため,従来の機械翻訳より自然で,細かいニュアンスを残した訳が可能となる。また100万文字のローカライズを,わずか50時間ほどで処理できるという。これは人間が行った場合,約2600時間(3人で分担して111日)かかるほどの作業量だ。
続いて,ELLAを使った翻訳のデモンストレーションが始まった。まずは,同じ文章をさまざまなキャラクター性を反映しつつ,訳し分けるというものだ。
英語での初対面の挨拶を“大阪のおっちゃん”風に訳した場合は,「いやぁ,皆さん,こんにちは。俺,エラって言うねん」「わしの名はエラやで。覚えといてな!」など,いくつかの候補が並んだ。業務などで使う場合は,その中から,人によってふさわしい物を選択していくという仕組みになっている。
一方,東方Projectのキャラクターである霧雨魔理沙っぽく訳した場合は,語尾が「だぜ」という形に。こちらは,主に二次創作で登場する言葉遣いなのだが,魔理沙の特徴としては間違いではないだろう。ELLAでは,このように,特定のキャラクターの話し方を学習させて翻訳時に反映させることも可能だそうだ。
もちろん,日本語から英語への翻訳も行える。ギャル風にすると,綴りを崩した単語や顔文字が並んでいた。インスタグラムのポストのようなニュアンスだろうか。
次に,複数の登場人物が会話する場面を翻訳するデモンストレーションが行われた。題材は,日本語文化で育った人であればほとんどの人がご存知であろう,昔話の「桃太郎」だ。
ただ単に翻訳するのではなく,桃太郎は霧雨魔理沙,犬はギャル,キジは侍,サルはゾンビ,そして鬼は大阪のおっちゃんのように話させるという。ここでは,繰り返されるやり取りがキャラクターによってどう変化するのか,そして複雑な構文がどう翻訳されるかがポイントとなる。
簡単な事前設定と操作により,約1000文字ほどのシナリオが20秒ほどで翻訳されていった。
桃太郎(魔理沙)のセリフは,下のような候補が表示された。「さあ,鬼を退治しにいくぜ」など,特徴的な語尾でキャラクターの雰囲気を出している。
一方,きびだんごをほしがる犬(ギャル)はこんな感じに。「#おねだり」が笑いを誘う。
サルはゾンビなのでまともに喋れない。きびだんごより生肉にかじりつきそうな雰囲気だ。
そして場面は飛んで鬼ヶ島へ。鬼の行動の意味を疑問視する桃太郎と,いきなり鬼ヶ島まで乗り込んでくる桃太郎の倫理観こそが「悪」だと喝破する鬼のセリフ。コメディ色の強い作品ではよく見かける,ちぐはぐなやり取りだが,こういったニュアンスや意味合いが残ったまま訳せているのはなかなか驚くべきことである。
従来の機械翻訳には出せない「味わい」のあるやりとりを生成できる,ELLAの高い能力をアピールしていた本ステージ。3月中には英日の翻訳が完成する予定で,春中にはフランス語,イタリア語,ドイツ語,スペイン語,簡体字,繁体字,韓国語へも対応するとのことだ。
ゲームのローカライズは語学力だけでなく,ゲームに関する知識,題材への深い理解,そして文章のセンスなど,さまざまな能力を求められる。正確に訳すだけでは不十分で,ときには原文にないセリフを足して「作品が伝えようとしているニュアンス」を補うことも必要になる。
現状,人間による加筆・修正もそこそこ必要に思えたが,とはいえELLAを使えば(語学力の怪しい)筆者にもゲームのローカライズを手伝えそうに思えたことも確かだ。便利な道具として使えることは間違いなさそうである。
「TOKYO INDIE GAMES SUMMIT」公式サイト
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