企画記事
子育て中のゲーマーは,いつゲームをすればいいのか? 1歳11か月の子を持つライターが考える,「家庭における社会性と趣味」
今回は1歳11か月のお子さんを育てているライターのしげるさんに,子育て家庭のゲーム事情について寄稿してもらった。今現在,時間とリソースの壁にぶち当たっているしげるさんは,ゲームとの付き合い方をどう考えているのだろうか。読者諸氏の参考になれば幸いである。
全国至る所にいるであろう子育て中のゲーマーの皆様,最近ゲームで遊べているだろうか。遊べていないという皆様,お疲れ様です。そして遊べているという皆様,本当にすごいと思う。もっと誇るべきである。
かくいう自分は現在1歳11ヶ月の子供を日々育てており,ゲームをやって遊ぶような余裕は皆無になった。もう,ちっとも遊べていない。「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」も途中までプレイしただけでクリアできてないし,「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」もやってみたいけど,あんなに時間とリソースを食いそうなゲームのことを考えるだけで「無理だな……」となるし,かつては毎年買って面白いの面白くないのとクダを巻いていた「Call of Duty」シリーズも,ここ数年はとうとうプレイする事自体を諦めた。それほどまでに,子育ては余暇にあてこむはずだった生活上のリソースを食い尽くす。これほどまでに余暇が吸われるのか……と驚愕するほど,それはそれは見事に時間と体力が削られるのである。
自分は現在フリーランスのライターとして自宅で働いており,仕事のためにどこかに出勤する必要がない。よって子供と接する時間も長く,基本的にウィークデーの午前中は自分が子供の面倒を見て,午後からは妻に子守をバトンタッチ,昼から夜にかけて仕事をしたのち,夕食&余暇……というタイムテーブルで生活している。このタイムテーブルが,なんというか「言うは易し」という感じなのである。
まず,「午前中は子供の面倒を見る」というのがなかなかハードだ。朝は子供が起きると同時に自分も起床し,服を着替えさせて朝食を用意して食べさせ,ついでに自分の朝食も用意して食べ……というプロセスを踏むのだが,子供というのは案外起床時間がまちまちである。ムチャクチャ早く起きても起床は起床であり,ひとまずそれに付き合って無理やり起きて服を着替えさせることになる。かと思ったら寝る時は寝るので,気がついたら自分も午前9時近くまでグースカ寝ていることもある。「毎朝決まった時間に規則正しく起きる」ということが,現状できていないのだ。
朝食を食べさせて(これも食べたり食べなかったり途中で遊び出したりで,一筋縄ではいかない),しばらくすると子供がヒマを持て余し始めるので,家の外に連れ出すことになる。父親と遊んでくれるのなんかせいぜい10歳以下まで……と思えばこれも貴重な時間なのだが,いかんせん毎日だと家の近所で遊ぶのにもネタが尽きる。幸い自宅の近所に児童館があるので,大抵はそこに連れて行って遊ばせることになる。当然ながら児童館にはほかの子供もいるので,オモチャの取り合いになったりぶつかったりしないか(子供というのは本当に周囲を見ずに歩く),けっこう気を張って監視することになる。
児童館では,周りが全員お母さんばかりで男親が自分一人だけということも多く,そういうところも多少気を使う。午前中の児童館でプラプラしている父親は,なんだかんだ言って珍しい。不審に思われないよう,通い始めたころには「自分はフリーライターで,自宅で仕事をしているし,比較的時間が自由になる」という点を,頑張ってまわりのお母さんたちに説明したりした。「よく児童館で一緒になる父親」という微妙な距離感のおっさんにペラペラ話しかけられてもイヤかもしれないので、基本的に周囲のお母さんたちとは話しかけられた時だけ喋るようにしつつ,しかし嫌われないよう話をするときには程よく愛想のよいコミュニケーションを心がけ……と,地味な気配りが必要だと,自分は考える。
といった諸々が午前中にあり,児童館で遊び終わっても状況によっては昼食まで食べさせ,そして帰宅してから仕事である。時刻はすでに14時。早朝から動いていたせいで強烈な眠気が忍び寄ってきて,くたびれて頭が働かない。その状態からなんとか気持ちを立て直して仕事をするも,当然捗るはずもなく,終業するのは22時近く。それから夕食を食べてあれこれやって,その後にゲーム!? ゲームを!? やるんですか!? 今から!?
不可能である。独身の頃は適当な時間に仕事を終わらせて酒を飲みながら延々「フォールアウト4」をやったりしていたけれど,こうなっては無理だ。とっとと風呂に入って夕食を済ませて,気がついたら12時。翌日もよくわからない時間に子供が起きるだろうから,もう寝たほうが無難。これが毎日続く。しばらく前に買ったPS5も,ずいぶん触っていない。
「PowerWash Simulator」専用機になってしまった我が家のPS5。おいたわしや…… |
妻もゲームが好きであり,独身時代は「ウィッチャー3」を散々やりこんだり「真・三國無双」シリーズを擦り切れるほどプレイしたり,「バイオショック」シリーズや「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズをやりこんだりしていた。が,今となっては状況は一変,落ち着いてゲームで遊ぶような時間はほぼ吹き飛んでしまった。たまに子供が寝たタイミングでゲームをしているが,子供と家事に追い立てられつつの細切れ時間でプレイできるのは「PowerWash Simulator」くらい。ストーリー性がなく,ひたすら高圧洗浄機で汚れを落としまくるだけという内容が,疲れた脳と体にはちょうどいいらしい。ということで,我が家のPlayStation 5はほとんど「PowerWash Simulator」専用機になってしまっている。なんということでしょう……。
という感じで,確かに子供がいるとゲームで遊びづらい。時間的・精神的なゆとりをがっつり食われるので,仕事と組み合わさると余暇で張り切る余裕がなくなる。もちろん子供はかわいいし,親である以上は面倒を見るのが当たり前だ。しかし,リソースが食いまくられるのも,また確かである。
だがしかし,これって本当に子供のせいだけなんだろうか。というのも,もうちょっと頑張って絞り出せば,1日あたり1〜2時間くらいの時間は捻り出せなくもない気もするのだ。ネットを見ながらダラダラ仕事をしちゃっているところもあるし,夕食だって酒を呑まずにパッと切り上げてしまえば,それで終わりである。しかし,これがなかなかそうもいかない。そこには「家庭における社会性と趣味」に関する問題とでも言えばいいのか,独身時代には考えもしなかったような課題が持ち上がってくるのである。
現在,妻は育休をとっている。元々は妻も外に働きに出ていたので,夕食の用意はずっと自宅にいる自分の役目だったのだが,現在は育休中であることから毎日の夕食は妻が用意してくれている。ただでさえくたびれる,子供の面倒を見るという作業をやりつつ,子供の夕食も用意して,さらに大人用の食事も毎回2人分作るというのは骨である。なんとかしたいが,自分にも仕事があるので,結局こういった家事分担になってしまっているのが現状だ。
また,家の中の掃除や洗濯に関しても,妻に任せきりである。これはひとえに自分に掃除や洗濯のような「マイナスをゼロに戻す」タイプの家事の才能がまったくなく,妻が納得するクオリティの掃除や洗濯が提供できないからなのだが,実際問題任せきりになってしまっているのは事実。こう書くと,午前中に子供の面倒を見る以外のことを何にもやってないですね,おれ。言い訳すると,専属で午前中の子供の面倒を見る人間がいるからこそ,なんとか他の家事が回っているところもあるので,決して役に立っていないわけではないはずなのだが……。
こういった時間もリソースも限られた状況で生活していると,「自分だけよければそれでいいや」「一刻も早く全てを切り上げてゲームに没頭したいなあ」という態度では家庭内の人間関係が破綻する可能性が高い。育児と家事と仕事に追い立てられて雑談や報告をするタイミングは夕食の時くらいしかないのに,出てきたメシを爆速で平らげ,ろくに家族と会話もせず「じゃあ,ゲームしてくるわ」と自室に引きこもる夫,果たしてそれはどうなんだろうか。自分が逆の立場だったら,相当イラッとくるのではないだろうか。
家庭は社会の最小単位であり,そうである以上快適に過ごすためにはそれなりに社会性が必要である。プラモデルにオモチャにゲームと,引きこもって一人で遊ぶ趣味ばかり持っている自分には, 家族の機嫌を損ねないためにも社会性は特に不可欠だ。子供が生まれる前ならもっと適当でもよかったが,夫婦揃って子育てでほとほと疲れ果てているタイミングではなおさら。ちょっとゲームで遊ぶにも社会性が必要になるのが,家庭を持って子供を育てるということなのである。いやあ,やってみるまで分からないものですねえ……。しかし文句を言っても始まらない。そのルートを選んだのは,自分自身なのだ。
こんな状況に追い込まれるなら,子育てなんか御免だという人もいるかもしれない。が,困ったことに,子育て自体は相当楽しくエキサイティングな営みなのだ(ここはどれだけ強調してもし足りないくらいである)。それと趣味を両立しようとすれば無理が生じるのは当然であり,多少の社会性を発揮すればなんとかなるのであれば,自分はそうしたいと思う。
ということで,それなりに家庭内の社会性が必要な子育て中のタイミングでは,一人でみっちり楽しむゲームのような娯楽はちょっと難しい。でもゲームはしたい。しかもできれば快適にプレイしたい。ということで,ここで登場するのがNintendo SwitchとProコントローラー,そして3Dプリンターである。
自分はLCD方式とFDM方式の二種類の3Dプリンターを持っているのだが,ここで使うのは日用品などを作るのに向いているFDM方式の方。海外のサイトには「Proコントローラーの上にNintendo Switchをマウントする道具」の出力用ファイルがタダで転がっており,これをダウンロードして出力する。すると,わざわざ自室のディスプレイを使わなくても,ProコントローラーでSwitchのゲームを遊べるようになるのである!
これが出力して組み立てたSwitch用マウント |
こうやって使います |
これでリビングでもどこでもゲームし放題だ。「そんなことしなくても,Switchなんだから普通に持ち運んで遊べるじゃん」と思われるかもしれないが,やっぱり自宅なんだから本格的なコントローラーで遊びたい。しかしひたすら部屋に引きこもって家族から顰蹙(ひんしゅく)を買うのもよくない。それを両立するための,いわば社会性発生装置とでも名付けたいのが,この3Dプリンター製マウントなのである。
これを使って試しに「SANABI」をリビングでプレイしたところ,妻からも「そのゲーム,音楽がかっこいいね」と褒められた。ゲームを通じて,ちゃんとコミュニケーションが成立している! それでいてちゃんとゲームでも遊べている! 一人で部屋に引きこもってプレイするのではなく,同居している人のいる場所に踏み出して遊ぶ。それが,社会性を持って趣味を楽しむための第一歩なのではないか……。些細なことながら,そんなことに今更気づいた次第である。ありがとう,「SANABI」……。
と,偉そうに書いたものの,正直なところ趣味と家庭内での社会性の両立については,現在も多々模索している。どちらも自分にとって大事なものだからこそ,なるべく取りこぼしたくない。そしてなにより,子育てもおろそかにしたくない。全部を完璧にこなすのは不可能でも,なるべく無理のない範囲でなんとかするべく,今後も試行錯誤は続くのだろう。考えるだけで大変だ。
だが,それは辛いことだけでもない。「SANABI」を通じて会話が成立したように,自分が楽しんでいる趣味を通じて家族とコミュニケーションが成立することもある。家族に限らず, 自分が楽しんでいるものをその場にいるほかの人も楽しんでくれるのは,案外うれしいものだと思う。これは,一人で部屋に引きこもってゲームで遊んでいても気が付かなかったことだろう。もちろん、ここに書いたような方法が全家庭で通用する絶対的な回答ではないだろうし、家庭の状況やメンバーの性格によって取るべき手段は違ってくるはずである。うちにしたって子供が大きくなったりしたら違う悩みが出てくるかもしれないけれど、それでも社会性を持ってコミュニケーションをとりつつ,今後もダラダラとゲームやプラモデルで遊んでいきたい……。そんなことをしみじみ考える今日この頃である。
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