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PLAYISM水谷氏が,パブリッシャとの契約時に注意すべきことを解説。「インディーゲーム開発者が知っておくべき契約の落とし穴」聴講レポート
セッションを行ったのはIDC主催のひとりでもあるアクティブゲーミングメディアの水谷俊次氏。氏が運営を担当するPLAYISMは,2011年のサービス開始よりインディゲームに特化した販売サポートを展開してきたゲームブランドで,延べ300以上のタイトルを展開してきた実績がある。
水谷氏はPLAYISMの立ち上げ時からのメンバーで,BitSummitの立ち上げを協力したり,日本で初めてSteam Greenlight※を通過してパブリッシングしたりと,長くインディゲームに携わり続けてきた人物だ。
※Steamを使って配信を予定するデベロッパやパブリッシャが,デモ映像などを投稿,そのゲームが実際にリリースできるかユーザーの投票によって決めるというもの。2017年に廃止
そんな氏が,インディゲームのビジネスに関わる中で実際に見聞きした,契約に関するトラブルを例にしつつ(さすがに具体的なタイトル等は伏せられていたが),その対処方法や,そもそもトラブルに遭遇しないための注意点などを語った。
契約書を作り合意することがまず大事だが……
さて,インディゲームの契約や権利関係でトラブルが発生する原因は大きく3つあるという。
ひとつめは「契約書が,そもそもない」こと。ビジネスの相手が友人で,「なくても大丈夫」と思って進めた結果,経費の負担や利益の分配などで揉めることになるケースだ。「友情は一生ものと思いがちだが,お金がからむと案外崩壊する」と水谷氏。
一応,契約というものは口約束でも成立はする。ただしその場合は「言った言わない」の水掛け論になるので,メールやSNSのやり取りでもかまわないので,文面での「合意」は必ずとるべきだ。合意がない場合は契約は成立していないものとみなされる。
次に多いのが「契約書を読んでいない」こと。よくよく読んでみたら,あとから不利な条件が書いてあったことが判明するケースだ。
契約書について弁護士など専門家の助言を受けていたとしても,彼らはビジネス面の判断(利益配分や得られる権利が労力に見合うかどうかなど)まではしてくれない。自分で契約書をよく読んで,その契約を結んだときに不都合がないか考える必要がある。
……と,ここまでをしっかりしていればトラブルの7割ほどは防げるのだという。しかし,残りの3割は少々難しい。契約後の「リスクを把握しきれていない」ことが原因で発生するからだ。
分配率や開発費の支払いなど,リターンに関しては把握できている開発者でも,ここで「落とし穴」にはまる可能性があるという。
まず大きいのが権利関係。ゲームを制作していく中では,以下のようなものに権利が発生する。
- ゲームの著作権,販売権
- ローカライズテキストの著作権
- PR用アート,プロモーション映像の著作権
- ボイスの使用権
- BGM等音楽素材の原盤権
なお,著作権や販売権が開発者にない場合,開発者の一存でほかのプラットフォームにゲームを出したり,続編を作ったり,グッズなどを作って販売したりはできなくなる。
またローカライズテキストの権利は,多くの場合パブリッシャがもっていることが多い。たまに,プラットフォームの違いやパブリッシャが変わったことで翻訳テキストが変わったり,そもそも日本語がなかったりするのは,そうした事情が関係している。
ボイスや音楽についてはさらに複雑で,こちらは権利者たちが長年かけて獲得してきた背景もあり,作者が権利をしっかりと保持するケースが多い。そのため,海外版や別プラットフォームで音声を流用する場合でも,別途使用料が発生することがある。
サントラCDは,ゲームファンには喜ばれやすい特典だが,ここでの使用料で数百万円レベルの追加コストがかかり,ビジネスプラン全体が崩壊することすらあるという。とくに音楽に関しては,担当者は制作チームの一員でもあるはずなので,権利関係の話は事前にしっかりしておくことが大切だそうだ。
リスクに関する話はさらに続く。それぞれの業務とそのコストの問題だ。
- ローカライズは誰が行うのか,そのコストはどうなるか?
- プロモーションは何をするのか,そのコストはどうなるか?
- 提供される開発費は,完成後どのように回収されるのか?
- ゲームエンジンやツール,フォントのライセンス料は誰が支払う?
たとえば開発者側の負担が少ない代わりに,大ヒットしてもそれほど利益が分配されず,パブリッシャの利益が大きくなるような契約もあるそうだ。もちろんそうした契約が一概に悪いわけではなく,とりあえず作品を世に出して開発者としての知名度を上げ,儲けるのは次のゲームからといった判断もありうる。このあたりをよくよく考える必要があるわけだ。
また,「うまくいかなかった場合」をしっかり想定しておくことも重要となる。
たとえば開発の一部を外部にお願いしたが,思うようなクオリティに達しなかった場合は,これを見越してリテイクできる回数を決めたり,チェックの期間を決めて契約しておくことが大事だ。また“しっかりした成果物”を受け取るには,“しっかりした発注”をすることが必須でもある。
さらに,開発の遅れなどで相手に待機時間が発生した場合,当然相手はその間に別の予定を入れられないわけで,得られたはずの売上がなくなってしまう。この待機コストを意識していないとトラブルの元になる。
またパブリッシャとの契約でも,「うまくいかなかった場合」のことを取り決めておいたほうが無難。「スケジュールどおり発売できなかったらどうなるか?」「開発中,パブリッシャが事業を中断したら?」「契約を解約した場合は?」など,取り決めがあったほうが安心できる。
契約内容によっては,ボリューム不足かつバグだらけの状態で作品をリリースせざるをえない状況になることも。また,パブリッシャが事業を中断したことで作品を出せないままさらに権利も失い,別の開発者が残りの部分を完成させ,あまつさえ大ヒットしてしまう……などという悪夢のような出来事も起こるかもしれない。
もちろん,このあたりはパブリッシャ側もいろいろ考えて契約の条件に盛り込んではいる。多くのパブリッシャは優秀な開発者と良好な関係を持ちたいと願っており,かつ,みこめる販売本数や,自社側の採算も考慮して提案を行っている。
ただ開発者側にしか知りえない事情などもあるわけで,だからこそ契約書をしっかり読み,内容を把握し,数字を具体的に計算して,それから合意することが大切なわけだ。
水谷氏は最後に「契約は双方にリターンとリスクが同じ割合で存在するもの。リターンばかり目がいきがちだが,リスクの把握も大事。そして最終的には相手をどこまで信用できるかで決めたい」と話をまとめた。
そして開発者側には,よく分からないと感じることや,納得しにくい条件がある場合は,契約を結ばないという選択肢もある。また,複数のパブリッシャからの条件を比較し,条件のいいところと契約するというのも,古くから存在する契約のテクニックだ。
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